キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第115話  崩身

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「此れが、初歩の初歩……」



 ディーノは地面に転がったコマを手に取り、訝しげに四方から眺めた。

 やはりフーマが言っていた通り金属で出来ているのか、見た目以上にずっしりとしていて軸もぐらつきが無い素晴らしい作りの玩具だ。

 しかしどうしてもこの玩具がゴンザレスを投げ飛ばしたあの技術に繋がるとは想像出来なかった。



 そんな様子のディーノを見たフーマは慌てて説明を追加してくれる。



「僕達が使う崩身という技術は重心の利用を核とするんだ。そうだな……ディーノ、この紙を二枚貰っても良いかな?」



 そう言ってフーマは机の上に置かれた紙を指差した。



「別に良いけど、何に使うんだ?」



「少し崩身の実演をしようと思って。一瞬だからよ~く見ててね……」



 そう言うとフーマは手に取った紙を宙に投げ、其れに対して半身を作る。

 何をしようとしているのか分からないディーノがぼけっと見ていると、ヒラヒラ回転しながら落下してくる紙に対して突然パンチを放った。

 余りに突飛すぎる行動にディーノの口からウオッという声が漏れる。



「ハハッ、ごめんね。ちょっと驚かせちゃったかな?」



「あ、ああ。大丈夫だけど……此れは、何?」



 確かに突然の奇行にディーノは驚いた、しかし其れだけである。

 フーマが突然放ったパンチ自体は大して特筆すべき点がない普通のパンチで、ゴンザレスの殺人パンチに慣れ親しんだ彼からすれば拍子抜けであった。



「此れは何かと言われると、僕の崩身を用いない身体能力がこの程度だって事を一端見せたくてね。

僕は君やゴンザレスの様なパワーは無いし、普通にやっても空中の紙を拳で貫く事は出来ない」



 そう言うと地面に落ちたクシャクシャになった紙を見せてくれた。

 フーマの拳を空中で受け、その拳を包み込む様に折れ曲がった跡が残っている。

 この柔らかく折れ曲がる性質こそが紙を貫く上での一番の障害で、拳が命中した瞬間クシャリと折れ曲がってエネルギーが分散してしまうのだ。

 恐らくディーノ自身がパンチを放っても、ゴンザレスが放っても結果は一緒だろう。



 ディーノがそんな事を考えながら見ている中、フーマの話は続いていく。



「じゃあ次は崩身を使用した場合を見せるよ。今度は本当に一瞬だから見逃さないでねッ」



 そう言うとフーマは手に持った紙を宙に投げ、其れに対して先程と同じ様に半身を作る。

 しかし其処からは大きく異なり、まるで身体から骨格が消えたかの様に全身がグニャリと後方に歪んだ。

 そして次の瞬間、突如電光石火の勢いで急加速しダンッという地面を蹴る音と共に上体を前方に倒しながら拳を紙目掛けて撃ち放つ

 其処から瞬く間もなく破裂音のような高音が響き、拳が紙を貫いたのだった。



「す、凄え……」



 ディーノはフーマの拳に貫かれて宙吊りとなっている紙を見てそう呟いた。

 紙が変形する事すら許さず拳が貫通した、人間離れした早業である。

 其れより何より恐ろしいのは、今回もゴンザレスを投げ飛ばした時と同様に一切則を利用した痕跡が見られない事。

 この技術に更に則によるブーストが加わったら如何成るのか、想像しただけでワクワクする。



 そんな様子のディーノを見てフーマは照れた様な笑顔を浮かべながら口を開いた。



「この崩身っていうのはどの生物にも、どの物体にも備わっている『重心』って力を利用した戦闘技術なんだ」



「重心?」



 先程も一度出てきたワードであるが、ディーノはその重心という言葉の意味が分からなかった。

 そんなディーノの内面をくみ取ったフーマは何とか言葉の意味を説明しようと頭を悩ませる。



「う~ん、難しい単語を使わないで説明するのは難しいんだけど……凄く単純に言うと、重さの中心。この重心が一方向に傾くと物体は自らの重さに従って勝手にそっちの方向へ動くんだ」



 恐らく限りなく簡単な単語で、かなり掻い摘まんで説明してくれたお陰でぼんやりとは理解出来てきた。

 体勢を崩すと地面に引っ張られる、その力を利用しているのだろう。

 しかし、その力を利用すれば此処まで人間離れした動きが出来るとは驚きだ。



「この力を使いこなすにはバランス感覚とか、重心が傾いた状態でも体勢をキープする為の特殊な筋肉とか色々と必要な物があるんだけど。一番大切なのが即座に物体の何処に重心があるのかを察知する能力だ」



「重心を察知する能力……其れをこのコマで養うのか」



「そう、その通り。このコマは上手くいけば1時間は回り続ける、だが先程見せた通り重心がズレれば自重でズレを増幅させ簡単に止まってしまう……其れを利用するんだ」



 フーマはそう言うと部屋の中にある窓まで歩いて行き、勢いよくその戸を開けると力強い風が吹き込んできた。



「君にはまずこの風が吹き込む状況でコマを回し、指の上にのせて1時間耐えて貰う。其れができたら具体的な崩身の修行を始めようッ」



 この建物が位置している場所は年中風が吹き、窓を開けると埃臭い空気を纏った風がいつも吹き込んでくる。

 その不規則な風の中でコマを落としたり止めない様にしながら1時間耐える。コマの重心を的確に理解していなければ実現不可能な難題だ。

 そして最高の時間潰しである。



「いいねッ、難しそうで最高だ!! このベッドから起き上がれない期間の間にマスターして、一週間後には本格的な修行を開始してやるよッ」



「うん、良い意気込みだ。じゃあ僕はこの辺で失礼するよ、明日も来るから何か質問があったらその時に教えてくれ」



「ああ、ありがとな!! 見様見真似でやってみるよ!!」



 ディーノがそう言うとフーマは笑顔で頷き、手を振りながら部屋を出て行った。

 そして一人になったディーノは早速コマと向き合い、長い長い重心を掴むための修行が開始したのである。



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