バンクエットオブレジェンズ~フルダイブ型eスポーツチームに拉致ッ、スカウトされた廃人ゲーマーのオレはプロリーグの頂点を目指す事に!!~

NEOki

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第四話 オンラインマッチ④

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『皆良いかな、この作戦では一人一人の演技が何よりも重要に成ってくる』

 バンディットの指示を受けたアーチャーは、その言葉に従って中立地帯内部での狩りのペースを落とした。そして弓のつるを引き絞る事も辞め、不用意にも敵陣側へと接近してゆく。
 これは本来であれば絶対に有り得ない動き。そしてこの作戦の核となる状況を生み出す為の下準備であった。

【次の前線位置が確定しました。中立地帯内の劣勢により前線が後退します】

 数分後、彼女の元にそう通知が届く。

 前線の位置を決める物、それは公式には各チームの劣勢優勢を判断して決定するとアナウンスされている。
 しかしそのボンヤリとした優勢劣勢という概念の判断要素が、実は最近に成って検証班と呼ばれるプレイヤー達により明らかにされたのだった。

 前線の位置を決める要素は大きく二つ。
 一つが双方の陣営に発生したデスの数、もう一つが中立地帯内で獲得された経験値の合計。

 最も前線への影響力が強いのは最初に述べたデス数。例え他の要素でどれだけ優位を取っていたとしても、やられたプレイヤーがいる方の陣営は前線が後退し陣地を失う事となる。
 しかしこのデスはそもそも各チーム四人しか居ない為それほど多く発生する物ではなく、殆ど前線の決定要因に成る事はない。

 そこで基本的に前線の位置を決める事となるのが、二番目に述べた中立地帯内で獲得された経験値の合計である。

 このバンクエットオブレジェンズでは、如何やらどれだけモンスターを狩って経験値を稼げているのかという事が、中立地帯内の制圧具合を示すパラメーターとして見られているらしい。
 つまり前線の位置を上げたいと思ったなら中立地帯内で多くモンスターを狩れば良い。下げたいと思ったならモンスターを狩る数を減らせば良いのだ。

 そしてこの時、彼らのチームは敢えてモンスターを狩る量を減らしていたのである。

(来たッ、前線確定! 後は敵の見える様な位置に……)

ヒュンッ!

 作戦通り前線の位置を下げる事に成功したアーチャーは、それが確定した途端周囲をキョロキョロと見渡し始める。
 すると、そんなたった今敵陣へ塗り替えられた場所に唯一人取り越された彼女へと躊躇無く矢が飛んできた。しかしその攻撃を予期していたアーチャーは、素早く樹木の背後に回って身を隠し敵からの射線を切る。

 そして其処で息を殺し逃げ回るのではなく彼女は反撃に打って出た。
 矢が飛んできた方向、恐らく敵アーチャーが潜んでいると思しき方向目掛けて何かキラキラと輝く物体を投擲したのである。


………ッドオ”ンッ! ゴロ”ロ”ロ”ロ”ロ”ロ″ロ″ロ″ロ″ォ!!

 
 一瞬の間を挟み、彼女がまるで手榴弾が如く物体を投げ込んだ先に閃光が煌めき極太の落雷が降り注いだ。

 アーチャーが投げたのは『メモリークリスタル』と呼ばれるアイテム。
 本来マジッククラスのプレイヤーでなければ唱える事の出来ない高威力魔法『ブラスト』『ライトニング』『サイクロン』『ブリザード』のいずれかが封じられた水晶で、投擲し割れた先でランダムにいずれかの魔法が発生する。1度使用すれば再使用までかなりのクールタイムを要すが、その代わり攻撃力がひ弱なクラスにも侮れぬ火力を与えてくれるアイテムだ。

 魔法はどれも命中すればナイトやパラディンでさえ唯では済まない威力。もしもアーチャーが貰ったのなら一溜まりもな………

ヒュンッ!!   ヒュンッ!!

 しかし、雷撃が地面を吹飛ばし発生した煙の向こう側より、まるで生存を知らせるかの如き風切り音が飛び出してきた。
 如何やら命中させる事は出来なかったらしい。


『外れても良い、唯アーチャーのアイテム枠二つが相手に伝われば良いんだ』


 だが、実際にはこのメモリークリスタルが外れる事すらもバンディットの組み上げた作戦の一部だったのである。
 彼が言っている通り、アーチャーのアイテム枠二つがジェットストリームとメモリークリスタルである事さえ敵が認識してくれれば良いのだ。

 アーチャーは序盤ステータスが高いため前線の押し合いに参加する事の多いジョブ。そしてその前線の押し合いに負けた場合、新しく敵の陣地に組み込まれた場所に取り残されるという非常にデスリスクの高い状況に陥ってしまう可能性が高い。
 故に多くのアーチャーはそれを想定し、命綱として緊急脱出用のアイテムを保有している場合が多いのだ。

 しかし現在彼女はメモリ-クリスタルを投擲した事、そして序盤にジェットストリームを使用しなければ有り得ない速度で前線に上かって来た事、この二つにより緊急脱出用のアイテムが無いと割れてしまっている。
 更に加えて彼女は今敵陣デバフによりステータスが減少し、全てのアイテムを使い切った状態。

 敵目線には、これ程美味しそうな餌は無いだろう。


『そしてその釣り餌に喰い付いた敵を逆に此方が刈り取る。ウィザードにはあくまで自然に、まるでアーチャーを逃がそうとしているかの如く魔法を発動して欲しい』

【戦術魔法:ブラインドミスト】

【強化魔法:ウォーオブアグレッション】


 作戦の筋書きをなぞりウィザードが魔法を発動。アーチャーの周囲へ霧が立ち籠み始め、更にその身を炎の様なエフェクトが包む。
 この瞬間発動した二つの魔法、『ブラインドミスト』は霧が覆っている範囲のプレイヤーをマップ上から消し視覚的にも見え辛くするという効果を持つ。そして『ウォーオブアグレッション』は敵陣に立つ事によって発生するデバフを打ち消す効果がある。

 端から見れば、アーチャーを自陣まで逃がす為の防御的一手に見えるだろう。

「……よし、じゃあそろそろ取りに行こうかッ」

 だがその状況下で敢えて攻める、それが自らの描いた勝利へのルートだと歩みで語りバンディットは霧の中へと足を踏み入れた。

 彼の立てた作戦の全貌はこうである。
 先ずはバンディットがレベル6に到達してブーストを使用可能に成るまで前線を維持。そしてブーストが使用可能になれば、魔法で撤退をサポートしている風に見せかけつつアーチャーが敵プレイヤーを連れて後退してくる。そして発生させた霧に紛れてバンディットが敵陣に侵入、アーチャーが彼の元へと敵を誘導して不意打ちを仕掛ける。
 そうして敵からスキルとアイテムとステータスを奪い、一気に優位を確立させるという物であった。

 言ってしまえば単純な話である。劣勢に立っているフリをして誘い込みカウンターを仕掛けようとしているだけなのだから。
 しかしその単純な釣り餌が、この緊迫した戦場でどれ程有効なのかをバンディットは経験則として知っていたのである。

(上級者と一般人の間にある一番の差は欲望の制御。チームの事を思えない、キルを取って自分がランクポイントを稼ぎたいだけの野良プレイヤーなら確実に引っ掛かるッ)

 バンディットはそう腹の中で呟きながら勝利を確信した笑みを浮かべ、身を藪の中に隠す。

 そして息を潜めていると目の前を指示通りにアーチャーが走り抜け、それから少し想定より遅れて彼女の背を追う敵アーチャーの足音が近づいて来た。
 この足音が自らの射程圏内に入った瞬間、試合の勝敗が決する。

【ブースト ソウルシーフ起動。奪い取りましょう、骨の髄まで】

 バンデットはブーストを起動させ、黒紫のオーラが覆っていく鉈をゆっくりと殺気研ぎ澄ましながら振り上げる。
 そして敵の足音が自らの間合いに入った瞬間、彼は身体を弾丸の如く打ち出し薙ぎ払われた紫の剣閃が敵の頭蓋を斬り飛ばした。


ズバァァア″ッ!!

「…………え?」


 という頭の中で描いていたイメージに反し、背中に謎の衝撃を受けたバンディットは唯一歩すら踏み出す事もできず前方へ崩れ落ちた。
 何が起ったのか分からない。だが身体が動かず地面に這いつくばる事しか出来ない彼は、残った絞りカスの様な力を掻き集めて背後を見た。

 すると其処には全く想定していなかった影、この段階でこんな前方へ出てきて良い筈が無いナイトジョブの敵プレイヤーが彼の血を吸った剣を握り立っていたのである。
 更にバンディットには、そのナイトの全身を覆っているスキンに見覚えがあった。

(アレは……BCFオフライン大会の準優勝記念スキン…………そうか″ッ、僕はとんでもない読み違いをしていた。このレベルの怪物にこんな作戦が通用する筈が無いッ!)

 バンディットは光の粒へと身体が変化していく中、自らの犯した致命的なミスに顔を歪ませた。彼は侮っていたのだ、このオンラインマッチが普段通りの有象無象がはびこる低レベルな場所だと考え作戦を立てていた。
 しかし実際には、今日この場所には幾匹もの普段であれば海底みなぞこで互いを喰らい合っている怪物達が浮上してきていたのだ。

 彼らは気付いていなかったのである。
 今このオンラインマッチには、とある最強のプレイヤーを倒さんと日本中のセミプロクラスに分類されるプレイヤー達が押し寄せて来ていたのだ。

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