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第四話 オンラインマッチ⑦
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「お、来たッ」
竜の巣を走り抜け光の壁の切れ目に先回りし待つ事3分。遂に姿を現した敵プレイヤー達の姿にジークは待ちわびた感慨の滲む声を漏らした。
そしてそのターゲットの姿を物陰より眺める彼の瞳は、唯自らの心を埋めるためだけにキラリと輝く。それはまるで闇夜に屋根の上より人の営みを見下す猫の様に。
「エルメスシューズ、起動」
声を潜めたその囁きに従いアイテムが起動、彼の全身を突風を思わせる緑色のエフェクトが包む。
ジークは知りたかったのだ、自分が此処に居て構わないのかを。自分が力一杯暴れてもこの世界は壊れてしまわないのかを。このゲームのプレイヤーはあのモンスター達の様に自分へ生きる意味を与えてくれるのか如何かを。
この時、ジークが求めていたのは勝利ですらなかったのである。
勝利よりも寧ろ敗北を。永遠に手の届かぬ天上の星へと手を伸す事を偏に望んでいた。
「いや拙者が言いたいのはですなあ! ロリの愛おしさとは無限の可能性を秘めた瑞々しさにあり、アレが出来る様に成った、コレが出来る様に成った、ソレが未だ出来ないという一日一日の進歩とそれでも変わらない点を親目線で楽しむのが真のロリコンという物! 近年の低身長貧乳キャラには取り敢えずロリのタグを付けて我々オタクを食い物にしようとする風潮にはもううんざりだ! 第一成長しないロリなどロリでは無い、拙者は成長を描かれていない作品のロリを絶対にロリとは認めないでござる!! クレヨンしんちゃんのひまわりちゃんは一体何時に成ったら立てる様になるんだ、何時になったら『た』と『や』以外の言葉を話すんだ! 育児放棄してんじゃないのかあの両親ッ!!」
「異議ありッ!! 我が輩から言わせて頂けるのでしたらTristran卿の方こそフィクションと現実をはき違えておられる! 芸術がリアリティーを追求する時代は写真の発明と共に終わったのですぞ。それこそオタクコンテンツに一般常識や時間的整合性を求めるなどナンセンス、時代錯誤にも限度という物が有りますなッ! 妄想とは現実という鎖に縛られた人間に神より与えられた翼、クリエーターたるもの物理法則から因果律までゼロより世界を生み出してこそ。つまりノジャロリ大正義ッ、オバロリ大正義ッ、小学六年生でもお漏らししちゃって全然OKなんですなッ!!」
「いやいやArthur卿の仰っている事には無理がありますぞ!! 人間の妄想とは全て実経験を元にした現実の切り貼り、クリエータ-がゼロから生み出したとは些か過言が過ぎるかと。つまり卿お気に入りのノジャロリやオバロリはゼロから生み出した新生物ではなく現実を切り取り縫い合わせ設定の皮を被せたキメラ、フランケンシュタインの怪物なんですぞぉ~』
「てッ、訂正を要求するTristran卿!! それは何をもって新しい物と見なすのかという個々人の解釈の話で、貴方の主張では水はHが2個Oが1個有るだけと言っている様な物! しかし実際には水分子と水素原子・酸素原子は全く別、異なる性質を示すではないですかッ。とどのつまり私が言いたいのはですな、既存の物と既存の物を組み合わせたとして出来上がるのは新しい物というッ…」
「要するに、ショタが一番って事だろ?」
「「ホモは黙ってろ″ッ!!」」
敵陣のど真ん中をまるで秋葉原のメインストリートの如く歩いて行く彼らはバンクエットオブレジェンズの有名チーム『円卓の騎士団』のメンバー達。
この良い年をした男達の間で現在飛び交っている話題とは、ロリの定義とは何たるべきかという事であった。
そしてノジャロリもオバロリも如何なるロリも許容する派に立つのがナイトの『Arthur』。ロリとは成長過程の子供の事で無ければ成らないという派に立つのがアーチャーの『Tristran』。ショタが一番派閥に立つのがマーチャントの『Gawain』
とても1分1秒の選択ミスで勝敗がガラリと変わる試合の最中とは思えぬ会話内容。
何故これ程彼らの表情と足取りと話題に緊張感が無いのかというと、それは単純に自分達の勝利を疑っていないからであった。
敵戦力の半分を落とした時点で、ナイトであるArthurがレベル10に到達した時点で、既に勝敗は彼らの中で決していたのである。
確かにウィザードが倒され、敵に自陣最奥へと侵入される想定外のハプニングはあった。しかしそれでも、このレベル10プレイヤー含む三人が敵のユグドラシルへと到着さえすれば容易く捲り返せるとこれまでの経験で知っていたのだ。
そして何より、今この味方が集まっている状況で襲撃を仕掛けてくる馬鹿は居ない。その安心感が彼らのオタク特有な早口を更に加速させるのであった。
「そもそもですな、Arthur卿はロリの起源という物をご存じですか? このロリという概念の起源はフランス人作家ウラジミール・ナボコフの小説『ロリータ』であり、この作者は登場する幼女キャラの12歳~14歳、そして19歳時の身長・体重設定を緻密に創作ノートへ書き記していたというではないですか! これはつまりロリという概念の創造主たるウラジミール氏自身がロリとは成長する者として解釈していたという動かぬ証拠であるッ」
「異議あぁぁりッ!! このロリータという作品はロリという概念の起点と成っただけで現在のロリ文化とは離れた場所にある文学作品。もしも全てのロリ文化がこの小説の二次創作だというのならその解釈で正しいのかも知れませんが明らかッ……」
ブオォォンッ
「……ぐふぇえッ!!」
しかしその安心感故に、彼らはその常識が通用しない馬鹿の接近に気付く事さえ出来てはいなかったのである。
彼らの顔が緊迫の色に塗り変わったのは、味方のマーチャントが突然弾き飛ばされたのを目にしてから。
「が、Gawain卿!? 何が、てッ敵襲で御座るかッ?」
「皆我が輩の後ろに。どうやら命の惜しくない狂犬が一匹噛みついてきた様ですな……」
だがそこは腐っても今プロ入りに最も近いと呼ばれるチーム。襲撃に驚きながらも身体は動き、突如現れた敵の前に立ち塞がってマーチャントへの追撃を防いだ。
そしてその陣形の最前にて剣を抜いたナイトは、突風と共に現われた黒い影へと一直線な鋭い視線をぶつける。
「……そのスキン、貴様アサシンのプレイヤーですな。不意打ちと逃げ足しか能の無い日陰者がこの日向の騎士に何用で?」
そうナイトは敵のアクションに警戒しながら、それでも確かに余裕滲む声を敵に投げかけた。
それは自らが積み上げてきた幾多の戦績に対する自信。同時にこのゲームをプレイする者の中では常識な、アサシンは欠陥ジョブであるという認識に基づく言動であった。
ステータスに無駄が多い、それはアサシンを話題に出せば必ず上がってくる言葉。
このゲームで各ジョブに定められたステータスは三つ、攻撃力と体力とスピードである。
攻撃力が高ければ高い程攻撃を当てた時に与えるダメージと重みが増す。体力は高ければ高い程攻撃を受けられる回数や箇所が増える。
しかしスピードだけは例外。この数値だけは、高ければ高い程速く動けるとは成らないのである。
何故この様に奇妙な現象が起きているのか。其処には人類が新たに直面した、たった数年前には存在すらしていない限界が大きく関わっていたのである。
ゲームの操作方法が十字キーからアナログスティック、モーションセンサーから延髄接続へと移り変わっても絶対に変えられない事。それは根本的に操っているのが人の脳であるという当たり前の事実だ。
近年の技術発展に伴い、人類は現実を超えた仮想現実という無限の可能性を手に入れた。しかしにも関わらずそれを需要する根本が数千年前と何も変わっていない事、それが現在仮想の力に大きく制限を掛けている。
脳の処理能力には限界が有るのだ。そしてその限界のせいで、本来無限の可能性を持っている筈の仮想現実にも限界を作らざるを得なくなる。
手足を4本より多くする事は出来ない限界。仮想現実に意識を置いていられる時間の限界。平衡感覚が狂う空間は作れない限界。
そして、脳がコントロール出来る速度の限界。
(人間が操れる速度はこのゲームにおけるナイトのスピード数値が限度、それ以上の速度になれば満足に曲がる事も武器を振るう事さえも出来なく成る。つまりアサシンのスピード値はその50近くが人間では扱えぬ死にステータス!!)
予想外に現われたアサシンの敵を前に、ナイトはその弱点を脳内で呟き自らがこの相手に勝利出来る確信とした。
バンクエットオブレジェンズおいてナイトジョブが最強と呼ばれる理由、それはその余りにバランスが取れたステータス配分にある。
特にこのジョブに設定されたスピード数値79。これは人間が複雑な動きを作れるギリギリと言われる値であった。
対してアサシンが全ジョブの中で最も無駄が多いと呼ばれているのも、その127という桁違いなスピード数値が原因。
この無駄に高く設定されたスピードでは基本真っ直ぐ進む以外の行動が取れない。更に不意打ち以外の場面、特に真正面から戦う時には寧ろ行動に制限を掛ける足枷と成ってしまうのだ。
(……難しく考える必要は無い。奴に出来るのは唯一直線に突っ込んで来る事だけ、地面を蹴り込んだ瞬間に剣を薙ぎ払えば向こうから勝手に刃へと飛び込んでくる)
身体の正面に短刀を構え重心を前へと傾ける臨戦態勢に入ったアサシンに対し、ナイトは余裕溢れる動きで長剣を腰の横に据えた。真っ直ぐにしか進めないと分かっているのなら唯速いだけの紙装甲など恐るるに足りぬ。
アサシンは所詮不意打ちが本業。
ナイトと正面から向き合った時点で、既に奴の命運は尽きていたのだ。
ダンッ
……ズオォォンッ!!
アサシンが地を蹴った音を鼓膜が捉える。
その瞬間ナイトは勝利の確信を口端に滲ませ、その両手で握った長剣にて半径1.5メートルを一振りに薙ぎ払った。
敵が抗う事も出来ずに辿る、自らとアサシンの間に引かれた直線を斬り裂く様に。
ドッゴオオオオン!!
その直後周囲に響いたのは騎士の聖なる剣が汚らわしい暗殺者の首を撫で斬りにした音、ではなかった。
聞こえたのは予期していた快音ではなく、何か質量のある物体が地面に衝突した地響きの如き重低音。
そしてその質量の正体とは、勢いよく地面に叩き付けられた立派な兜付きの顔面。
「……うん、やっぱり人間でもこの速度は見切れないらしいな」
人間には不可能と言われたスピード値127を更に上回る速度での方向転換を成し遂げ、電光石火で敵の背後へと回り、後頭部を鷲掴みにして地面に叩き付けたジークは事も無げにそう呟いた。
科学技術の進歩が今、選ばれし者達に新しい扉を開かせようとしていたのである。
竜の巣を走り抜け光の壁の切れ目に先回りし待つ事3分。遂に姿を現した敵プレイヤー達の姿にジークは待ちわびた感慨の滲む声を漏らした。
そしてそのターゲットの姿を物陰より眺める彼の瞳は、唯自らの心を埋めるためだけにキラリと輝く。それはまるで闇夜に屋根の上より人の営みを見下す猫の様に。
「エルメスシューズ、起動」
声を潜めたその囁きに従いアイテムが起動、彼の全身を突風を思わせる緑色のエフェクトが包む。
ジークは知りたかったのだ、自分が此処に居て構わないのかを。自分が力一杯暴れてもこの世界は壊れてしまわないのかを。このゲームのプレイヤーはあのモンスター達の様に自分へ生きる意味を与えてくれるのか如何かを。
この時、ジークが求めていたのは勝利ですらなかったのである。
勝利よりも寧ろ敗北を。永遠に手の届かぬ天上の星へと手を伸す事を偏に望んでいた。
「いや拙者が言いたいのはですなあ! ロリの愛おしさとは無限の可能性を秘めた瑞々しさにあり、アレが出来る様に成った、コレが出来る様に成った、ソレが未だ出来ないという一日一日の進歩とそれでも変わらない点を親目線で楽しむのが真のロリコンという物! 近年の低身長貧乳キャラには取り敢えずロリのタグを付けて我々オタクを食い物にしようとする風潮にはもううんざりだ! 第一成長しないロリなどロリでは無い、拙者は成長を描かれていない作品のロリを絶対にロリとは認めないでござる!! クレヨンしんちゃんのひまわりちゃんは一体何時に成ったら立てる様になるんだ、何時になったら『た』と『や』以外の言葉を話すんだ! 育児放棄してんじゃないのかあの両親ッ!!」
「異議ありッ!! 我が輩から言わせて頂けるのでしたらTristran卿の方こそフィクションと現実をはき違えておられる! 芸術がリアリティーを追求する時代は写真の発明と共に終わったのですぞ。それこそオタクコンテンツに一般常識や時間的整合性を求めるなどナンセンス、時代錯誤にも限度という物が有りますなッ! 妄想とは現実という鎖に縛られた人間に神より与えられた翼、クリエーターたるもの物理法則から因果律までゼロより世界を生み出してこそ。つまりノジャロリ大正義ッ、オバロリ大正義ッ、小学六年生でもお漏らししちゃって全然OKなんですなッ!!」
「いやいやArthur卿の仰っている事には無理がありますぞ!! 人間の妄想とは全て実経験を元にした現実の切り貼り、クリエータ-がゼロから生み出したとは些か過言が過ぎるかと。つまり卿お気に入りのノジャロリやオバロリはゼロから生み出した新生物ではなく現実を切り取り縫い合わせ設定の皮を被せたキメラ、フランケンシュタインの怪物なんですぞぉ~』
「てッ、訂正を要求するTristran卿!! それは何をもって新しい物と見なすのかという個々人の解釈の話で、貴方の主張では水はHが2個Oが1個有るだけと言っている様な物! しかし実際には水分子と水素原子・酸素原子は全く別、異なる性質を示すではないですかッ。とどのつまり私が言いたいのはですな、既存の物と既存の物を組み合わせたとして出来上がるのは新しい物というッ…」
「要するに、ショタが一番って事だろ?」
「「ホモは黙ってろ″ッ!!」」
敵陣のど真ん中をまるで秋葉原のメインストリートの如く歩いて行く彼らはバンクエットオブレジェンズの有名チーム『円卓の騎士団』のメンバー達。
この良い年をした男達の間で現在飛び交っている話題とは、ロリの定義とは何たるべきかという事であった。
そしてノジャロリもオバロリも如何なるロリも許容する派に立つのがナイトの『Arthur』。ロリとは成長過程の子供の事で無ければ成らないという派に立つのがアーチャーの『Tristran』。ショタが一番派閥に立つのがマーチャントの『Gawain』
とても1分1秒の選択ミスで勝敗がガラリと変わる試合の最中とは思えぬ会話内容。
何故これ程彼らの表情と足取りと話題に緊張感が無いのかというと、それは単純に自分達の勝利を疑っていないからであった。
敵戦力の半分を落とした時点で、ナイトであるArthurがレベル10に到達した時点で、既に勝敗は彼らの中で決していたのである。
確かにウィザードが倒され、敵に自陣最奥へと侵入される想定外のハプニングはあった。しかしそれでも、このレベル10プレイヤー含む三人が敵のユグドラシルへと到着さえすれば容易く捲り返せるとこれまでの経験で知っていたのだ。
そして何より、今この味方が集まっている状況で襲撃を仕掛けてくる馬鹿は居ない。その安心感が彼らのオタク特有な早口を更に加速させるのであった。
「そもそもですな、Arthur卿はロリの起源という物をご存じですか? このロリという概念の起源はフランス人作家ウラジミール・ナボコフの小説『ロリータ』であり、この作者は登場する幼女キャラの12歳~14歳、そして19歳時の身長・体重設定を緻密に創作ノートへ書き記していたというではないですか! これはつまりロリという概念の創造主たるウラジミール氏自身がロリとは成長する者として解釈していたという動かぬ証拠であるッ」
「異議あぁぁりッ!! このロリータという作品はロリという概念の起点と成っただけで現在のロリ文化とは離れた場所にある文学作品。もしも全てのロリ文化がこの小説の二次創作だというのならその解釈で正しいのかも知れませんが明らかッ……」
ブオォォンッ
「……ぐふぇえッ!!」
しかしその安心感故に、彼らはその常識が通用しない馬鹿の接近に気付く事さえ出来てはいなかったのである。
彼らの顔が緊迫の色に塗り変わったのは、味方のマーチャントが突然弾き飛ばされたのを目にしてから。
「が、Gawain卿!? 何が、てッ敵襲で御座るかッ?」
「皆我が輩の後ろに。どうやら命の惜しくない狂犬が一匹噛みついてきた様ですな……」
だがそこは腐っても今プロ入りに最も近いと呼ばれるチーム。襲撃に驚きながらも身体は動き、突如現れた敵の前に立ち塞がってマーチャントへの追撃を防いだ。
そしてその陣形の最前にて剣を抜いたナイトは、突風と共に現われた黒い影へと一直線な鋭い視線をぶつける。
「……そのスキン、貴様アサシンのプレイヤーですな。不意打ちと逃げ足しか能の無い日陰者がこの日向の騎士に何用で?」
そうナイトは敵のアクションに警戒しながら、それでも確かに余裕滲む声を敵に投げかけた。
それは自らが積み上げてきた幾多の戦績に対する自信。同時にこのゲームをプレイする者の中では常識な、アサシンは欠陥ジョブであるという認識に基づく言動であった。
ステータスに無駄が多い、それはアサシンを話題に出せば必ず上がってくる言葉。
このゲームで各ジョブに定められたステータスは三つ、攻撃力と体力とスピードである。
攻撃力が高ければ高い程攻撃を当てた時に与えるダメージと重みが増す。体力は高ければ高い程攻撃を受けられる回数や箇所が増える。
しかしスピードだけは例外。この数値だけは、高ければ高い程速く動けるとは成らないのである。
何故この様に奇妙な現象が起きているのか。其処には人類が新たに直面した、たった数年前には存在すらしていない限界が大きく関わっていたのである。
ゲームの操作方法が十字キーからアナログスティック、モーションセンサーから延髄接続へと移り変わっても絶対に変えられない事。それは根本的に操っているのが人の脳であるという当たり前の事実だ。
近年の技術発展に伴い、人類は現実を超えた仮想現実という無限の可能性を手に入れた。しかしにも関わらずそれを需要する根本が数千年前と何も変わっていない事、それが現在仮想の力に大きく制限を掛けている。
脳の処理能力には限界が有るのだ。そしてその限界のせいで、本来無限の可能性を持っている筈の仮想現実にも限界を作らざるを得なくなる。
手足を4本より多くする事は出来ない限界。仮想現実に意識を置いていられる時間の限界。平衡感覚が狂う空間は作れない限界。
そして、脳がコントロール出来る速度の限界。
(人間が操れる速度はこのゲームにおけるナイトのスピード数値が限度、それ以上の速度になれば満足に曲がる事も武器を振るう事さえも出来なく成る。つまりアサシンのスピード値はその50近くが人間では扱えぬ死にステータス!!)
予想外に現われたアサシンの敵を前に、ナイトはその弱点を脳内で呟き自らがこの相手に勝利出来る確信とした。
バンクエットオブレジェンズおいてナイトジョブが最強と呼ばれる理由、それはその余りにバランスが取れたステータス配分にある。
特にこのジョブに設定されたスピード数値79。これは人間が複雑な動きを作れるギリギリと言われる値であった。
対してアサシンが全ジョブの中で最も無駄が多いと呼ばれているのも、その127という桁違いなスピード数値が原因。
この無駄に高く設定されたスピードでは基本真っ直ぐ進む以外の行動が取れない。更に不意打ち以外の場面、特に真正面から戦う時には寧ろ行動に制限を掛ける足枷と成ってしまうのだ。
(……難しく考える必要は無い。奴に出来るのは唯一直線に突っ込んで来る事だけ、地面を蹴り込んだ瞬間に剣を薙ぎ払えば向こうから勝手に刃へと飛び込んでくる)
身体の正面に短刀を構え重心を前へと傾ける臨戦態勢に入ったアサシンに対し、ナイトは余裕溢れる動きで長剣を腰の横に据えた。真っ直ぐにしか進めないと分かっているのなら唯速いだけの紙装甲など恐るるに足りぬ。
アサシンは所詮不意打ちが本業。
ナイトと正面から向き合った時点で、既に奴の命運は尽きていたのだ。
ダンッ
……ズオォォンッ!!
アサシンが地を蹴った音を鼓膜が捉える。
その瞬間ナイトは勝利の確信を口端に滲ませ、その両手で握った長剣にて半径1.5メートルを一振りに薙ぎ払った。
敵が抗う事も出来ずに辿る、自らとアサシンの間に引かれた直線を斬り裂く様に。
ドッゴオオオオン!!
その直後周囲に響いたのは騎士の聖なる剣が汚らわしい暗殺者の首を撫で斬りにした音、ではなかった。
聞こえたのは予期していた快音ではなく、何か質量のある物体が地面に衝突した地響きの如き重低音。
そしてその質量の正体とは、勢いよく地面に叩き付けられた立派な兜付きの顔面。
「……うん、やっぱり人間でもこの速度は見切れないらしいな」
人間には不可能と言われたスピード値127を更に上回る速度での方向転換を成し遂げ、電光石火で敵の背後へと回り、後頭部を鷲掴みにして地面に叩き付けたジークは事も無げにそう呟いた。
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