バンクエットオブレジェンズ~フルダイブ型eスポーツチームに拉致ッ、スカウトされた廃人ゲーマーのオレはプロリーグの頂点を目指す事に!!~

NEOki

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第六話 イベント

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「えぇッ”!? 外出したいッ、疾風今外出したいって言った?」

 早朝五時。普段なら絶対起きている筈の無い時間に二階から降りてきた兄の姿、そして発した言葉に凪咲は目玉が飛び出さんばかりの表情となった。
 外出したい、そんなここ暫く聞いた覚えのない言葉が疾風から出たのだから当然である。

「うん、ちょっとゲームのイベントに行きたいんだ。夕飯までにはかえッ……」

「駄目ッ!! 絶対駄目、危ないもん!!」

 そして驚きが一段落した所で、彼女はそう切って捨てたのである。

「えぇ………だッ大丈夫だって、電車に乗れば直ぐ会場前に着くし。そんな治安が悪い場所に行くわけじゃないし」

「で、電車ッ!? 今電車って言ったの? 駄目だよ電車なんて、痴漢に遭うかも知れないッ」

「オレ男だからそんな心配しなくたって大丈夫」

「今の世の中男とか女とか関係ないの! 変態もジェンダーフリー、性癖はダイバーシティなんだから!! とにかく今日は辞めて。お仕事がない日なら私が何処へでも連れて行ってあげるから」

「いやぁ……オレの行きたいイベントは二日間しかやってなくてさ、今日が最終日なんだよ。この前凪咲が教えてくれたゲームあっただろ? あのゲームにハマっちゃって…それでその、ゲームを遊ぶのに如何しても必要な物がそのイベントで手に入るんだ」

「私が教えた…ゲーム?」

 其れまで断固として認めないという姿勢を顔に示し続けていた凪咲。
 しかし今彼女が復唱した部分を、ジークの動かし慣れていない口が話した途端、急に表情筋が溶けたのである。

 そして嬉しさと戸惑いが混じった表情と成った彼女は、突然の事に混乱し見落としていた兄のある変化に気付く。
 疾風の瞳にコントラストと輝きが戻っているのだ。

「私の教えたゲームが、疾風の役に立ったの…?」

「ああ、凄い役に立ったよッ。凪咲のお陰で好きだったゲームがサービス終了したショックからも立ち直れた。全部お前のお陰だ」

「そっか……私おにッ、疾風の役に立てたんだね。疾風の役に…疾風の…………ッ」

 凪咲の質問に、疾風が返したその言葉がトドメと成った。
 そして彼女にとって最も重要な点をブツブツと連呼する度に、凪咲の顔へはしたない笑顔が浮かび上がっていったのである。

「だから頼むッ!! 凪咲、今日だけ外出させてくれ。絶対危ない事しないから!!」

「……………………分かった。今日だけ特別だよ?」

「本当かッ!!」

「でも電車は使っちゃ駄目。痴漢に遭わなかったとしても、疾風絶対駅の中で迷子になるから。ていうか疾風何処行きたいの?」

「えっと~、確か………夕張、メッシみたいな~」

「幕張メッセね。じゃあ家からタクシーで幕張メッセまで行って、終わったらちょくで家にタクシーで戻ってくる。寄り道しない、買い食いしない、これ約束ッ!! 守れる?」

「おう! オレは妹との約束は絶対に守るぞ」

「フフフッ、それは信頼してる。じゃあ私が家を出るまでに急いで準備しなくちゃ、その服装で外に出る訳にはいかないしね」

 そう言って凪咲は疾風の着ている服を指差してフルフルと揺らした。
 
「準備? このままの恰好で良いだろ」

「駄目。疾風には分からないかも知れないけど、社会にはダボダボのジャージとれたTシャツ姿の人間は外に出ちゃいけないっていう憲法以上に厳しいルールがあるの。それに、折角疾風に着せようと思って買った服が沢山有るんだしッ」

 そう言って今度は急にテンションが高く成り、今一理解出来ていない兄を凪咲は衣装部屋へと引っ張り込んだ。

 そして其処から着せ替え人形宜しく、一体どれだけ自分の為に集めたのだと驚愕する程大量のサイズも肩幅もピッタリな服を着ては脱ぎ着ては脱ぎとさせられる事と成ったのである。
 正直疾風には全く違いが分からない。しかし凪咲はずっと難しい顔をしてムーッと唸り続け、30分掛けて漸く外へ着ていく服装が決まったのだった。

 しかし其処から更に細々とした準備や安全対策を施され、1時間の時が過ぎ去った頃に漸く全ての準備が完了したのである。


「良い、疾風? 絶対変な人に付いていっちゃ駄目だよ、怪しい車に乗るのも駄目、危ない話に乗るのも駄目、知らない人の家に行く何てもっと駄目だからねッ!!」

「大丈夫だって、そんな子供みたいに心配しなくても何も起んないよ」

 とても身長170センチの人間相手とは思えぬ事を話ながら、凪咲はもう呼んだタクシーが来ていると言うのに延々疾風の服装を正していた。
 体幹という物が消失しているせいか、どれだけ整えても片側に服が傾がるのである。

「ほら、タクシーも待たせてるしそろそろ行くよ。五時には帰るから」

「あぁ……ッ」

 待たせて待機料金を取られても仕方ないので、疾風は妹の襟を弄っている手を優しく自分から離す。
 そして玄関の前にある短い石段を降りタクシーの方へと駆けていった。

「じゃあ、行ってきまーす!!」

 そう最後に凪咲へと手を振って声を掛け、疾風は車へと乗り込んだ。車の窓ガラス越しに見えた妹の目が潤んでいる様に映ったのは、きっと光の反射か何かが原因なのだろう。
 そうして疾風はタクシーに揺られてイベント会場へと向かったのだった。
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