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第六話 イベント②
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『バンクエットオブレジェンズ ファンフェス』、通称BFFはバンクエットオブレジェンズ公式が主宰しているイベントの中でも最大規模を誇る催し物。
その特徴は他の巨大イベントであるプロリーグやチャンピオンフェスとは異なり上級者から初級者、更にはゲームをプレイしていない者まで自由に参加出来る敷居の低さにあった。
会場ではバラエティー豊かな屋台グルメを堪能したり、景品が貰えるゲームに挑戦して限定グッズを入手したり、更にはアイドルのコンサート等も行なわれて一日中居ても飽きる事の無い正しくお祭りだ。
更に当然ゲームイベントらしくプレイヤー同士の交流も可能。
プロプレイヤーに挑戦出来るコーナーや会場に来た人同士がフリーに対戦出来るコーナー。更には普段プレイしている様子を見れない開発陣と有名インフルエンサーが戦うコーナー等が存在し人を集めている。
そして疾風がこの幕張メッセで開催されたBFFへと半年ぶりに外出しタクシーに乗ってまでやって来た理由。それはそのイベント内で行われるコーナーの1つにあった。
対戦イベントの一つに『勝ち残りタイマンバトル』という、一般プレイヤー同士が普段の試合とは異なる1対1のレベル10状態で戦えるというコーナーがある。
そしてそのコーナーでは名前の通り勝ったプレイヤーが残り連戦してゆき、勝利数を重ねれば重ねる程よりレアなイベント限定報酬が受け取れるという仕組みに成っていた。
疾風は、このイベントの一勝報酬である限定スキンを欲していたのだ。
昨日のランクマッチで邪険にされてから調べたのだが、どうやらこのバンクエットオブレジェンズではスキンが初期状態のままだと地雷の可能性が高いとして嫌がられるそうだ。
それに加え、アサシンなんてマイナージョブを使用していれば尚更である。
正直スキンとジョブだけで人を地雷だと決めつける輩はどうかと思う。
だがそれで毎回マッチングする度に白い目を向けられていては敵わない。
其処でネットで調べた結果初期スキンより課金スキン、課金スキンよりもイベント限定スキンを使用しているプレイヤーは信用度が高く見積もられるとの情報を得て、遥々幕張メッセまで取りに来たのだ。
「此処…何処だ…………??」
そして遥々やって来て、疾風は迷子と成っている。
(おッ、おかしいな、そんなに会場の前から移動してない筈なのに…歩いても歩いても元居た場所に戻れない)
疾風は凪咲に言われた通り会場である幕張メッセの真正面にタクシーで降り立った。
しかしその久し振りに足を踏み入れた外の世界が物珍しく感じ、キョロキョロと忙しなく首を振りながら歩いている内にいつの間にか会場外へ出てしまった様なのである。
そして来た道を必死に思い出しながら戻っているのだが、歩けば歩く程見た事の無い場所が現われ、もうどの方向へ向って歩けば良いのかすら分からなく成ってしまっていた。
(あ、そうだ! 携帯のマップを使って幕張メッセまで案内してもらえば………ッ!?)
今時小学生でも思い付きそうな事をさも妙案思い付きたりという表情で閃いた疾風は、携帯を入れていた筈のポケットを探った。
しかし、無いのである。掌を内に収めるのみで一杯一杯というスペースを入念に1分程掛けて探っても、携帯の硬質な感触は見つからなかった。
それでも往生際悪く自らの身に起った出来事を認められない彼は全身全てのポケットを弄った。しかしその全ての時間が結果的に無駄と成る
携帯を落した。恐らく乗ってきたタクシーの中か、若しくはこの迷子に成っている道の何処かに。
(ヤバい、ヤバいぞ…ッ!! 何か急に心細く成ってきた。此処何処ッ!?)
携帯を探しながらも、事態は刻一刻悪化を続ける。
ポケットを探るのに意識を取られ、碌に前も見ず歩き続けた結果更に迷子の深みへと嵌っていたのである。
気が付くと周囲には幕張メッセが有りそうな気配すら消失し、『一時間~円』や『一休み如何ですか?』という看板が周囲を囲むホテル街へと迷い込んでしまっていた。
(これはマジで不味い、これ以上下手に動くと取り返しの付かない事に成る気がする………)
現状、自分の行動全てが事態を悪化に導いている事に疑いようはない。
動けば動く程深みに嵌ってゆく今の疾風には、この都会のコンクリートジャングルが流砂の蟻地獄に見えていた。
(如何する? いや如何するもこうするも無いだろッ。携帯が無いんだ、誰かに道を聞くしかない)
幸い、其処の判断は最低限間違わなかった。これ以上何も分からないのに一人で足掻いても事態が悪化するのみ。
誰かに幕張メッセへの道を尋ねなくては成らない。
しかしネットを除けばもう2年以上妹以外の人間と話していない疾風には、如何やって他人に話掛ければ良いのか分からなかった。
誰なら話し掛けて良いのかも、どんな口調で話し掛ければ良いのかも、最後何とお礼を言えば良いのかも分からなかったのである。
(いやッ、そんな事言って居る場合じゃない。多少恥を掻く事に成ったとしても誰かに話し掛けないと………よし、さッ四人目に擦れ違った人に道を聞こう!!)
疾風は最初三人と心を決めようとしてビビり、四人目の人に道を尋ねる事を決めた。
そうして顔を見ると緊張するから俯いた彼の横を一人、二人、三人と気配が通り過ぎていき、等々四つ目の足音が近付いてくる。
・・・………ッ………ッ………カツッ……カツッ…カツッ、カツッ
そして、遂に四つ目の影が隣を横切った。
「あのッ、済みませんッ!!」
疾風は覚悟が揺らがぬようにギュッと目を瞑り、振り向いてその擦れ違った影へと声を掛けた。
「あぁ”んッ?」
しかし返って来た低い嗄れ声、そして開けた目に映った巨大なドクロがプリントされたパーカーの後姿を見た彼は、自分が運命の神に見放されたのだと悟る。
疾風が道を聞こうとした四人目に擦れ違った人物。太陽光を眩く反射するボブヘアーの金髪で、両耳にピアスを付けた女性が、凄まじい眼光をその瞳より放ちながら振り返ったのであった。
その特徴は他の巨大イベントであるプロリーグやチャンピオンフェスとは異なり上級者から初級者、更にはゲームをプレイしていない者まで自由に参加出来る敷居の低さにあった。
会場ではバラエティー豊かな屋台グルメを堪能したり、景品が貰えるゲームに挑戦して限定グッズを入手したり、更にはアイドルのコンサート等も行なわれて一日中居ても飽きる事の無い正しくお祭りだ。
更に当然ゲームイベントらしくプレイヤー同士の交流も可能。
プロプレイヤーに挑戦出来るコーナーや会場に来た人同士がフリーに対戦出来るコーナー。更には普段プレイしている様子を見れない開発陣と有名インフルエンサーが戦うコーナー等が存在し人を集めている。
そして疾風がこの幕張メッセで開催されたBFFへと半年ぶりに外出しタクシーに乗ってまでやって来た理由。それはそのイベント内で行われるコーナーの1つにあった。
対戦イベントの一つに『勝ち残りタイマンバトル』という、一般プレイヤー同士が普段の試合とは異なる1対1のレベル10状態で戦えるというコーナーがある。
そしてそのコーナーでは名前の通り勝ったプレイヤーが残り連戦してゆき、勝利数を重ねれば重ねる程よりレアなイベント限定報酬が受け取れるという仕組みに成っていた。
疾風は、このイベントの一勝報酬である限定スキンを欲していたのだ。
昨日のランクマッチで邪険にされてから調べたのだが、どうやらこのバンクエットオブレジェンズではスキンが初期状態のままだと地雷の可能性が高いとして嫌がられるそうだ。
それに加え、アサシンなんてマイナージョブを使用していれば尚更である。
正直スキンとジョブだけで人を地雷だと決めつける輩はどうかと思う。
だがそれで毎回マッチングする度に白い目を向けられていては敵わない。
其処でネットで調べた結果初期スキンより課金スキン、課金スキンよりもイベント限定スキンを使用しているプレイヤーは信用度が高く見積もられるとの情報を得て、遥々幕張メッセまで取りに来たのだ。
「此処…何処だ…………??」
そして遥々やって来て、疾風は迷子と成っている。
(おッ、おかしいな、そんなに会場の前から移動してない筈なのに…歩いても歩いても元居た場所に戻れない)
疾風は凪咲に言われた通り会場である幕張メッセの真正面にタクシーで降り立った。
しかしその久し振りに足を踏み入れた外の世界が物珍しく感じ、キョロキョロと忙しなく首を振りながら歩いている内にいつの間にか会場外へ出てしまった様なのである。
そして来た道を必死に思い出しながら戻っているのだが、歩けば歩く程見た事の無い場所が現われ、もうどの方向へ向って歩けば良いのかすら分からなく成ってしまっていた。
(あ、そうだ! 携帯のマップを使って幕張メッセまで案内してもらえば………ッ!?)
今時小学生でも思い付きそうな事をさも妙案思い付きたりという表情で閃いた疾風は、携帯を入れていた筈のポケットを探った。
しかし、無いのである。掌を内に収めるのみで一杯一杯というスペースを入念に1分程掛けて探っても、携帯の硬質な感触は見つからなかった。
それでも往生際悪く自らの身に起った出来事を認められない彼は全身全てのポケットを弄った。しかしその全ての時間が結果的に無駄と成る
携帯を落した。恐らく乗ってきたタクシーの中か、若しくはこの迷子に成っている道の何処かに。
(ヤバい、ヤバいぞ…ッ!! 何か急に心細く成ってきた。此処何処ッ!?)
携帯を探しながらも、事態は刻一刻悪化を続ける。
ポケットを探るのに意識を取られ、碌に前も見ず歩き続けた結果更に迷子の深みへと嵌っていたのである。
気が付くと周囲には幕張メッセが有りそうな気配すら消失し、『一時間~円』や『一休み如何ですか?』という看板が周囲を囲むホテル街へと迷い込んでしまっていた。
(これはマジで不味い、これ以上下手に動くと取り返しの付かない事に成る気がする………)
現状、自分の行動全てが事態を悪化に導いている事に疑いようはない。
動けば動く程深みに嵌ってゆく今の疾風には、この都会のコンクリートジャングルが流砂の蟻地獄に見えていた。
(如何する? いや如何するもこうするも無いだろッ。携帯が無いんだ、誰かに道を聞くしかない)
幸い、其処の判断は最低限間違わなかった。これ以上何も分からないのに一人で足掻いても事態が悪化するのみ。
誰かに幕張メッセへの道を尋ねなくては成らない。
しかしネットを除けばもう2年以上妹以外の人間と話していない疾風には、如何やって他人に話掛ければ良いのか分からなかった。
誰なら話し掛けて良いのかも、どんな口調で話し掛ければ良いのかも、最後何とお礼を言えば良いのかも分からなかったのである。
(いやッ、そんな事言って居る場合じゃない。多少恥を掻く事に成ったとしても誰かに話し掛けないと………よし、さッ四人目に擦れ違った人に道を聞こう!!)
疾風は最初三人と心を決めようとしてビビり、四人目の人に道を尋ねる事を決めた。
そうして顔を見ると緊張するから俯いた彼の横を一人、二人、三人と気配が通り過ぎていき、等々四つ目の足音が近付いてくる。
・・・………ッ………ッ………カツッ……カツッ…カツッ、カツッ
そして、遂に四つ目の影が隣を横切った。
「あのッ、済みませんッ!!」
疾風は覚悟が揺らがぬようにギュッと目を瞑り、振り向いてその擦れ違った影へと声を掛けた。
「あぁ”んッ?」
しかし返って来た低い嗄れ声、そして開けた目に映った巨大なドクロがプリントされたパーカーの後姿を見た彼は、自分が運命の神に見放されたのだと悟る。
疾風が道を聞こうとした四人目に擦れ違った人物。太陽光を眩く反射するボブヘアーの金髪で、両耳にピアスを付けた女性が、凄まじい眼光をその瞳より放ちながら振り返ったのであった。
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