どうぞお好きに

音無砂月

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「お嬢様。こちらが例の件です」
アーサは奥方のプレゼントを買い、上機嫌で帰った後でセバスチャンが一枚の書類を持ってきた。
「俺、もう二度とあの女の相手は嫌なんだけど」
中庭から戻ってきたダリウスが不機嫌に言う。
「大丈夫よ。次は用意しているから」
「次?」
ダリウスは怪訝な顔をした。だが私の方に答える気がないと分り、質問はしてこなかった。
無駄なおしゃべりをしない彼のこういうところは特に気に入っている。
「セバスチャン、私の頼んでおいたものは用意できて?」
「はい。こちらに」
「ありがとう」
私がセバスチャンから受け取ったのは私宛のパーティーの招待状。
私はそれを持って自分の部屋を出る。
後にセバスチャンとダリウスが続く。向かった場所はシャーベットの部屋だ。
中にはセルフ殿下も居た。
「何の用だ?」
殿下は私の顔を見るなり不機嫌に口を尖らせる。子供かっ!。
シャーベットは精悍なダリウスに釘付けだ。余程この男を気に入ったらしい。
「実は再来月、私の知人のパーティーがあるの。でも私はこの日、所用で行けないからシャーベット様。あなたに代理で行っていただきたいのですけどどうかしら?」
「まぁ!パーティー!」
あくまでも私の代理だが、パーティーに行けることが嬉しすぎてそのことは頭にないようだ。
「セルフ、パーティーに行くなら新しいドレスやアクセサリーも揃えないとね」
「そうだな」
甘い笑みをセルフはシャーベットに見せる。
「行商人の手配はセバスチャンがしますわ」
セバスチャンは一歩前に出て一礼した。
「そう。では、よろしくお願いしますわね、セバスチャン」
女主人のように振る舞うシャーベットだけれどさすがはセバスチャン。
顔色一つ変えない。
「ではこの日はお願いね」
「はい。他ならず、スカーレット。あなたの頼みですもの」
「・・・・・」
私はシャーベットに笑みを見せたまま退出した。

これ以降、私が社交界に出ることはめっきり減った。
代わりにシャーベットがセルフを伴い出席する。
彼女は私の代理だと言っているが出席者側は初耳で、けれど私たちの関係を知り尚且つセルフ殿下が口を挟めば誰も文句は言えず、仕方がなく二人を出席させているのだ。
しかもシャーベットは愚かにも社交界で堂々と私のことをよびすてにし、セルフ殿下と一緒に罵る。
けっして罵っているようには見えないようにオブラートに包んで。
だから誰もが口にする。
身の程知らずのシャーベットがセルフ殿下の威光をかさにきてスカーレットを蔑ろにしていると。
婚約当初から愛人を婚約者の家に住まわせ好き放題させているセルフ殿下の無かった評判は今やマイナス状態。
そして私の資産を狙って、婚約しているにも関わらずたくさんの縁談話が舞い込んだ。

◇◇◇

「人は悲劇とゴシップには弱い生き物なのよ」
一人、執務室で夜酒を楽しんでいる私を月が見下ろしている。
「幸せな人間を見れば汚したくなる。可哀想な人を見れば、自分の幸せを再確認する為の土台にしたがるもの。だから人はゴシップが好きだし、可哀想な人には優しくなる。」
明日のパーティーを楽しみにしているシャーベットを思い、私はくすくすの笑った。
楽しくて仕方がないのだ。
自分がどこへ向かっているのかも気づかず、奈落へと転げ落ちていく様を見るのが。
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