殿下、あなたの悪事を暴き、私は必ず運命を変えるので覚悟してくださいませ!

音無砂月

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本編

14.交渉

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「本日はお越しいただき、ありがとうございます。申し訳ありません、旦那様は急用が入ったため少し遅れます。こちらでしばらくお待ちいただけないでしょうか?」
鉱山の噂を流したらすぐに公爵からアクションがあった。ここまでは目論見通り。
「分かりました」
子爵令嬢だった時に最低限の礼儀作法は学んでいるけどあまり自信はないな。失礼がないようにしないと。まぁ、向こうも平民の冒険者だって分かっているから多少のことはお目溢しをしてくれるだろうけど。
「待たせてすまない」
応接室に案内されて十分後に赤い髪に緑の目をしたイケメンが入って来た。社交界でも話題になっていたのを覚えている。十四歳の息子がいるとは思えないほど若々しく、夫人だけではなく令嬢たちに高い人気を誇るのも頷ける。
まぁ、社交界で話題なんて偉そうに言うけどさ殆ど義兄だったエリシュアから得た情報だからどこまで正確かは不明だけどね。
「アーレン・メナドゥックだ。招待に応じてくれて感謝する」
イケメンだけど、目の下の隈が濃く、かなり疲れているのが傍目にも分かるな。それだけラッサールのことが深刻なのだろう。
「アリステアです。メナドゥック公爵閣下に招待していただけるなんて光栄です」
私は立ち上がり、胸に手を当てて一礼する。
「どうぞ、おかけください」
「失礼します」
「早速だが、本題に入らせてもらう」
ソファーにゆったりと座り、足を組んだ姿は余裕があり、どうしても魔石の鉱山を手に入れたいとは思えない。さすがだな。必死さを出せば足元を見られるし、つけいられる隙を与えることになる。公爵という地位はそれだけで敵を作るし、甘い蜜につられてやって来た蜂どもに根こそぎ奪われることになる。貴族も楽ではないな。
「あなたが手に入れた魔石の鉱山に関してだ。すでに他の貴族から魔石に関して何らかの話しがいっているかな?」
「いいえ、閣下が初めてです」
「そうか」と公爵は笑みを深める。かなりの破壊力だな。同じ空間に居続けたらうっかりどんな不利な交渉でも頷いてしまいそう。
そういえば、目が合っただけで妊娠をさせられるとか一時期言われてたな。それを聞いた時どんな化け物だと思ったことがあるがなるほど。最初にそれを言った者の気持ちが今なら分かるな。
「知っての通り、魔石は需要があるが、数が少なくとても希少なものだ」
自分の息子の病気には触れないか。そうだな。それは弱みの一つ。会ったばかりの信用できない人間に全てを明かすわけがない。さすがの用心深さだ。私も平民の身で公爵家と深い仲になりたいわけじゃない。きっと恩恵よりも面倒ごとの方が多いだろうから。
「そこで君がたまたま手に入れた魔石の鉱山だ。この情報が貴族間で広まれば多くの者が君の元へやって来るだろう。中には無理やり奪おうとする者もいるかもしれない」
そうだろうな。金の成る木だならぬ山だ。ただ私としては初めからラッサールに渡すために購入したから何の心配もしていないけど。
「あなたも、その一人ですか?」
問題はあっさり渡してしまうと逆に怪しまれる可能性があるということだ。多少の慎重さや疑っている姿勢を見せた方がいいだろう。
心情的にはタダで渡したいのだけど。
「ああ、そうだな。けれど私はあなたの意思を尊重する」
喉から手が出るほどのものなのに、あくまで私に選択権を与えるの?それともそう見せかけることで自分を選んだ方が得だと思わせたいのかな?ここに乗る形で鉱山を渡すか、もう少し話をし聞いてから考える素振りを見せて頷くか。なんとか怪しまれないようにタダで渡せる方法は
「私に魔石を売って欲しい。公爵家と独占契約を結んでいただけるなら面倒ごとはこちらで引き受ける」
「魔石だけですか?鉱山ではなく?」
「鉱山をいただけるのなら喜ばしいことだ。けれど、それはさすがに難しいだろう」
どれだけの魔石が眠っているかは分からない。だからこそ現在、この鉱山は値段がつけられない状態なのだ。
「閣下、私はただの平民です。今回、この山を購入したのは訓練する場所が欲しかったからです」
「わざわざ訓練のために山を購入したのか?確かに売られている当初はただの岩山で、売られている中でも最安値。それでもかなりの値だったはずだ」
平民が買うには、という言葉は口にしていなくても分かる。私だって記憶がなければ買わなかっただろう。
ただ私はただの平民ではない。だから彼を真似て余裕の笑みを浮かべて見せる。余裕というか、強者の笑み、だな。
「ご存知だとは思いますが、私はSSSランクの冒険者です」
「つまり、この程度は端金ということかな?」
私はただ笑うだけ。後は相手が好きに解釈してくれる。
「しかし、訓練に山が必要なのか?」
「普通ならいらないでしょう。けれど、私は魔法を使うので。下手な場所を選べば誰を巻き込むか分かりません」
「なるほど」
「そこでご相談なのですが、私に訓練場所の提供と魔法の講師を教えてください」
死ぬ前もまともに魔法の勉強なんかしたことがなかった。必要なのは私が魔法を使うことではない。義兄が魔法を使えるように見せる方が重要だった。そのためにひたすら魔石に魔力を込め続ける日々。だから正直、魔石にいい記憶はない。できれば見たくも、触りたくもない。王太子殿下のイカれた研究にも魔石は使用されていたし。
「それと一度だけ、私のお願いを聞いてください。それがどんな願いでも。もちろん、犯罪関係でもなければ公爵家に害が及ぶような願いではないことをお約束いたします」
「ほぅ」
うわぁー、怖いな。きらりと光る目はまさに獲物を今から噛み殺そうとする獣と同じだ。
「それと見返りに魔石の鉱山を差し上げます」
「なぜ?鉱山さえ持っていれば一生遊んで暮らせるぞ」
釣り合っていないと言いたいのだろう。でも、私にとっては重要なことだ。特に公爵が一つだけ私の願いを叶えてくれるという点に関してだ。私が王太子の実験を阻止するにしても、あの時と同じようにモルモットにされるかもしれない時も私一人では難しい。けれど公爵の協力を得られるのなら確率は格段に上がるはず。
「私はただの平民です。その平民が手に余る財力は閣下が最初に仰った通り、面倒ごとが増えるだけです。ならば訳の分からない連中に強奪されるよりあなたに渡した方が良いと判断したまでです。それにこれでもランクSSSの冒険者です。冒険者として致命的な欠陥を負うことになっても死ぬまでお金の心配をする必要がないぐらいの貯蓄はあります」
「失礼ながらあなたのことを調べさせていただきました。あなたの母君はローティス子爵の後妻だそうですね」
調べていることぐらいは予想の範囲内。公爵家の力を持ってすればこの程度調べるなど造作もないこと。だから、揺らぐ必要はない。私とあの人はもう関係ない。大丈夫、落ち着いて対処すればいい。
彼は悪意を持ってこの話しを持ち出したわけではない。私の真意を、私が信用に値する人物かどうかを知るために私の反応を見ているだけ。疑わなくてはならない要素を一つ一つ潰しているだけだ。
「あなたは夫人と前夫の間の子、つまりは完全なる平民だ。だから連れて行ってもらえなかった」
は?もしかして、この人は勘違いをしているの?私が捨てられたって?冗談じゃない。
「鉱山を持って行けば彼女たちはあなたを子供として認めざるを得ない」
「そして、私は子爵令嬢になれると?」
「・・・・」
冷え冷えとした私の態度に思うところがあったのか公爵は黙ったまま私を見つめる。私の思考を、私と家族の関係性を見極めようとしているのだろう。
「閣下は勘違いをされていますね。彼女が私を捨てたのではありません。私が彼女を捨てたのです。大体、私は彼女と違って貴族という地位に興味はありません。そもそも、貴族は私たちを受け入れるのですか?身分を与えられれば誰もが貴族として問題なくデビュタントを迎えられと?」
そんなことはない。半分とはいえ貴族の血が入っているエリシュアでさえ受け入れられなかったのだから全く入っていない私と彼女なら分かりきったこと。
「エセ貴族として指を指されて窮屈な思いをしながら生きるよりも今の地位のまま自由に生きた方が良い。その方がきっと最期は笑えるはずです」
あんな、後悔と悲しみと、憎しみに染まった人生にはならなかった。
「それで、どうしますか?私の案を受け入れてくださいますか?」
「ふむ」と閣下は少し考えた後私に手を差し出した。
「こちらにとってはメリットしかない話しだ。あなたのことも信用できると判断した。ぜひ、お願いしたい」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
これで問題が一つ解決した。良かった。
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