23 / 29
本編
23.同胞
しおりを挟む
ボルドーを見送った後、私は魔法師を攻撃し始めた化け物に目を向ける。
必死に魔法で攻撃を交わしてはいるがやられるのは時間の問題だろう。ただ、さすがは公爵家の魔法師だ。自分が狙われるという恐怖に顔をひき吊らせながらも化け物を自分に惹きつけ、公爵たちから遠ざけようとしている。意図を察した騎士たちも効かないと分かりながら、少しでも魔法師の負担を減らすために剣での攻撃を続けていた。
騎士の中には先ほどのレオンのように魔法師ほどではないが魔法を使える者は多い、概ね貴族で構成さているからだろう。彼らも魔法と剣とで合わせて攻撃をしている。多少の足止めにはなっているのだろうが、化け物は意にも解さない様子だ。
私は先ほどよりも多くの種子を出して、先ほどよりも太い植物で化け物を拘束する。
「魔法を使える者全員で自分たちと化け物の前に分厚い壁を作ってください」
「アリステア殿、何をされのですか?」
「燃やしてみます」
「しかし、火は」
火での攻撃を硬い皮膚で弾かれたレオンは難色を示した。確かに効かないのは私も見ていた。もし、私の知る化け物と異なっていた場合、あれに火は効かない。だからってその可能性に怖気付けば悪戯に犠牲者を出すだけだ。
「最大火力で燃やします。私の全魔力を投入するので、もし失敗すれば私は使い物にならなくなります。そうなったら最優先事項として護衛対象である殿下たちを逃がしてください。私にはレイピアもあるので、その程度の足止めなら可能です」
「っ」
「・・・・分かった」
もし、そうなった場合、私は死ぬ可能性が高い。短い期間での付き合いだったのにその可能性を視野に入れた騎士たちはとても苦しそうな顔をした。
「アリステア殿」
「アリステア」
それは公爵もラッサールも同じだった。
「大丈夫ですよ、私は強いので」
これが家族だった子爵家なら、実の母ならどうしただろうか?
そんなことは考えるだけ無駄だ。答えなどとうに出ている。
「・・・・家族なのに、他人よりも他人だなんて笑える」
『アアアアアア゛ッ!!イダイ、イダイ、イダイ、ヨクモ、ヨクモ、イヴァン、イヴァン、イヴァンッ、ダマシタナ、ダマシタナァッ!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア゛ッ!!マリョク、マリョク、ヨコセ、オレノ、オレノ、オレノ、オノレダ、ゼンブ、ゼンブ、ヨコセェェッ!!』
化け物が咆哮を上げる。騎士たちは唐突に化け物の口から出た自国の王子の名前に困惑していた。
「今、終わらせてあげるね」
元は人間だったであろうその化け物も私と同様に死を願ったのだろうか?それとも、どんな姿であろうと生き残り、自分を変容させたイヴァンへの復讐を願ったのだろうか?
化け物が何を考えているのか分からない。ただ、この化け物がもう人に戻ることがないのは分かる。私はずっと見てきたから。そしてあのままいけば私も化け物になっていただろう。
「余計なことは考えない方がいいわね」
救えないのだ。ならば、せめて同胞として苦痛から解放させてあげよう。
私は思考を停止させ、魔力を練る。
もっと、もっとだ。もっと高まれ。もっとずっと強い魔法を。
「すごい、魔力がどんどん上がっていく」と誰かが呟いたのが遠くの方から聞こえた。
ああ、だんだんと外界の情報が遮断されていくな。
「もし、神様が本当に実在するのならば」
私に奇跡を与えてくれたのが神様ならば、どんな意図があったかは分からない。でも、どうか。
「この哀れな同胞に安らかな死をお与えください。全てを燃やし尽くせ火焔」
空を貫くほどの火柱が立った。火の中から化け物がもがく姿が見える。普通の化け物なら即死するほどの威力だ。でも、この化け物は生きていられるのか。
「もっと強く、もっと、もっと」
更に魔力を高める。ぐらりと視界が歪みだし、頭痛がした。
ああ、この感覚、懐かしいな。子爵令嬢だった時に何度も味わった。それでも魔石に魔力を込めることを求められた。
「たくっ、何事かと思ったぜ。アリステア、一人で無理をしすぎだ。たまには大人に頼れ」
どさりと重たい荷物を地面に転がしたボルドーは、どうやらちゃんと役目を終えたようだ。荷物だと思ったのがフードを目深に被った不審人物なので彼がこの化け物をここまで運んだのだろう。
「ボルドー、あなた、魔法が使えたの?」
ボルドーは私に合わせるように火魔法を使って火力を強めた。
「ああ、使えた。貴族だからな。そのことも踏まえて後で話す。信じられない話しだけどな。俺自身、俺の身に起こったことがまだ信じられていないんだ。それでも聞いて欲しい」
「・・・・・分かった」
ボルドーの魔力はとても強かった。平民が偶然持つにはあり得ないほどの強さだった。貴族だと彼は自身を言った。ならば、それは高位になるはずだ。魔力だけで推し量るのは難しけど、もしかしたらザイードたちと親しいことにも関係してくるのかも。
どのみち、全てが終わってからだ。私は目の前のことに集中することにした。
ボルドーが加わり、更に勢いを増した火のおかげで化け物は遂に動かなくなった。その影を徐々に小さくし、最期には小山のようになったところで私たちは魔法を止めた。
「おっと」
完全に魔力を使い果たした私は立っていられず、倒れかけた。地面に体が激突する前にボルドーが支えてくれたのは助かった。彼に支えられながら灰になった化け物を見る。
その者がどんな人生を歩んできたか、どうしてイヴァンに目をつけられたかは分からない。でも、こんなのが人の最期であっていいはずがない。
必死に魔法で攻撃を交わしてはいるがやられるのは時間の問題だろう。ただ、さすがは公爵家の魔法師だ。自分が狙われるという恐怖に顔をひき吊らせながらも化け物を自分に惹きつけ、公爵たちから遠ざけようとしている。意図を察した騎士たちも効かないと分かりながら、少しでも魔法師の負担を減らすために剣での攻撃を続けていた。
騎士の中には先ほどのレオンのように魔法師ほどではないが魔法を使える者は多い、概ね貴族で構成さているからだろう。彼らも魔法と剣とで合わせて攻撃をしている。多少の足止めにはなっているのだろうが、化け物は意にも解さない様子だ。
私は先ほどよりも多くの種子を出して、先ほどよりも太い植物で化け物を拘束する。
「魔法を使える者全員で自分たちと化け物の前に分厚い壁を作ってください」
「アリステア殿、何をされのですか?」
「燃やしてみます」
「しかし、火は」
火での攻撃を硬い皮膚で弾かれたレオンは難色を示した。確かに効かないのは私も見ていた。もし、私の知る化け物と異なっていた場合、あれに火は効かない。だからってその可能性に怖気付けば悪戯に犠牲者を出すだけだ。
「最大火力で燃やします。私の全魔力を投入するので、もし失敗すれば私は使い物にならなくなります。そうなったら最優先事項として護衛対象である殿下たちを逃がしてください。私にはレイピアもあるので、その程度の足止めなら可能です」
「っ」
「・・・・分かった」
もし、そうなった場合、私は死ぬ可能性が高い。短い期間での付き合いだったのにその可能性を視野に入れた騎士たちはとても苦しそうな顔をした。
「アリステア殿」
「アリステア」
それは公爵もラッサールも同じだった。
「大丈夫ですよ、私は強いので」
これが家族だった子爵家なら、実の母ならどうしただろうか?
そんなことは考えるだけ無駄だ。答えなどとうに出ている。
「・・・・家族なのに、他人よりも他人だなんて笑える」
『アアアアアア゛ッ!!イダイ、イダイ、イダイ、ヨクモ、ヨクモ、イヴァン、イヴァン、イヴァンッ、ダマシタナ、ダマシタナァッ!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア゛ッ!!マリョク、マリョク、ヨコセ、オレノ、オレノ、オレノ、オノレダ、ゼンブ、ゼンブ、ヨコセェェッ!!』
化け物が咆哮を上げる。騎士たちは唐突に化け物の口から出た自国の王子の名前に困惑していた。
「今、終わらせてあげるね」
元は人間だったであろうその化け物も私と同様に死を願ったのだろうか?それとも、どんな姿であろうと生き残り、自分を変容させたイヴァンへの復讐を願ったのだろうか?
化け物が何を考えているのか分からない。ただ、この化け物がもう人に戻ることがないのは分かる。私はずっと見てきたから。そしてあのままいけば私も化け物になっていただろう。
「余計なことは考えない方がいいわね」
救えないのだ。ならば、せめて同胞として苦痛から解放させてあげよう。
私は思考を停止させ、魔力を練る。
もっと、もっとだ。もっと高まれ。もっとずっと強い魔法を。
「すごい、魔力がどんどん上がっていく」と誰かが呟いたのが遠くの方から聞こえた。
ああ、だんだんと外界の情報が遮断されていくな。
「もし、神様が本当に実在するのならば」
私に奇跡を与えてくれたのが神様ならば、どんな意図があったかは分からない。でも、どうか。
「この哀れな同胞に安らかな死をお与えください。全てを燃やし尽くせ火焔」
空を貫くほどの火柱が立った。火の中から化け物がもがく姿が見える。普通の化け物なら即死するほどの威力だ。でも、この化け物は生きていられるのか。
「もっと強く、もっと、もっと」
更に魔力を高める。ぐらりと視界が歪みだし、頭痛がした。
ああ、この感覚、懐かしいな。子爵令嬢だった時に何度も味わった。それでも魔石に魔力を込めることを求められた。
「たくっ、何事かと思ったぜ。アリステア、一人で無理をしすぎだ。たまには大人に頼れ」
どさりと重たい荷物を地面に転がしたボルドーは、どうやらちゃんと役目を終えたようだ。荷物だと思ったのがフードを目深に被った不審人物なので彼がこの化け物をここまで運んだのだろう。
「ボルドー、あなた、魔法が使えたの?」
ボルドーは私に合わせるように火魔法を使って火力を強めた。
「ああ、使えた。貴族だからな。そのことも踏まえて後で話す。信じられない話しだけどな。俺自身、俺の身に起こったことがまだ信じられていないんだ。それでも聞いて欲しい」
「・・・・・分かった」
ボルドーの魔力はとても強かった。平民が偶然持つにはあり得ないほどの強さだった。貴族だと彼は自身を言った。ならば、それは高位になるはずだ。魔力だけで推し量るのは難しけど、もしかしたらザイードたちと親しいことにも関係してくるのかも。
どのみち、全てが終わってからだ。私は目の前のことに集中することにした。
ボルドーが加わり、更に勢いを増した火のおかげで化け物は遂に動かなくなった。その影を徐々に小さくし、最期には小山のようになったところで私たちは魔法を止めた。
「おっと」
完全に魔力を使い果たした私は立っていられず、倒れかけた。地面に体が激突する前にボルドーが支えてくれたのは助かった。彼に支えられながら灰になった化け物を見る。
その者がどんな人生を歩んできたか、どうしてイヴァンに目をつけられたかは分からない。でも、こんなのが人の最期であっていいはずがない。
269
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路
藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。
この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。
「聖女がいなくても平気だ」
そう言い切った王子と人々は、
彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、
やがて思い知ることになる。
――これは、聖女を追い出した国の末路を、
静かに見届けた者の記録。
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる