殿下、あなたの悪事を暴き、私は必ず運命を変えるので覚悟してくださいませ!

音無砂月

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本編

25.王城のゲヘナ2

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side.エリシュア

どうして、こうなった。
ただ魔力が欲しかっただけ。
ただ貴族として認めてもらたかっただけ。
ただ、それだけだったのに。

「初めまして、哀れな仔羊ちゃん。私はマリーカ・マルグリット、ここで魔法の研究を任されている。侯爵家の出だが、気にすることはない。私のことは博士と呼びたまえ」
連れて行かれた王城の地下室で、女とは思えないみっともない姿をした女がそう言った。これで侯爵令嬢だと?
下位の貴族令嬢ですらもっとまともな格好をしているぞ。それにドレスではなく白衣?しかも研究?女の分際で?
「君が何を考えているか手に取るように分かるよ」
「っ」
本当に分かっているんだろうか?
彼女は憤ることも不快感をあらわにすることもない。興味がないとばかりに机の上にある資料に目を通しながら「この分析が甘い」だのここはこうすべきだっただの言っている。
その紙に何が書かれているかは知らない。でも女が理解できるぐらいだからきっと大したことは書いていないのだろ。にも、関わらず俺との会話よりもその紙切れを優先させるということは、俺との会話はその紙切れほどの価値もないと言われているようで腹が立つ。
どいつも、こいつも馬鹿にしやがって。
こいつが侯爵令嬢でなかったら、身の程を分からせてやれるのに。いや、こんな陰気臭い場所で、こんなだらしのない格好をしていのだ。きっと侯爵家でも厄介者のはずだ。それに彼女自身、言っていたではないか。侯爵家であることは気にするなと。
ならば、気にしないでおこう。
「止めておくことを、おすすめするよ。言ったはずだ、君の考えていることは手に取るように分かると」
猫のような目がこちらを向く。それだけでゾワりと背筋を嫌な汗が流れた。
「私は確かに女だ。腕力の上では君には勝てない。だが、それでも私は君を制圧することぐらい簡単なのだよ。君のような魔力なし君などね」
ブチっと頭の線が切れる音がした。
気がつけば俺は無礼なこの女に殴りかかっていた。怒りで理性が完全に飛んでいる意識の中でも女がニヤリと笑っているのが見えた。その瞬間、俺は魔力の塊を腹に当てられ、立てなくなってしまった。かろうじて意識を保てていたのは、こんな訳の分からない女にやられる自分が許せなかったからだ。
俺は魔力が欲しいから殿下の言葉に従ったのに、殿下はこんな女を使って俺に何をさせる気なんだ。
「ほぅ、これを食らっても意識を保ってるとは、無駄に高いだけの矜持でも感心せざるを得ないな」
女は動けない俺の髪を掴み、女とは思えないほどの力で俺を引きずっていく。
「さぁ、研究を始めようか。君はここへ来てしまった。ここはゲヘナ、足を踏み入れたが最後、君はもうエデンの門を潜ることは許されない。神様は反吐が出るほどの潔癖主義者だからね」
血の気が引いていく。体の震えが止まらない。
『キェェッ!』とここに入った時から見て見ぬふりをしていた、牢に閉じ込められたキメラたちが存在を主張するように騒ぎ始める。嫌な予感が止まらない。
「まさか、ここにいる化け物どもは」
ニィッと女が笑う。同時に自分の未来が確定した瞬間だった。
「た、助けてくれ。頼む、なんでもする。お、お願いだ。頼む。ただ、魔力が欲しかっただけなんだ」
「君のことは知っているよ。事前に調べさせていたからね。魔力がない、平民の血を引く、そういう鬱屈したものを暴力で紛らわせていたのだろう。自分よりも弱い立場の者たち相手に。私がしているのは理由が違うだけで君がしていることと同じだ。ただの暴力だよ。好奇心を満たすためのね。だから私も助けを乞う者に慈悲の心をかけはしない。君だってしなかっただろう?」
「あっ、あっ、そんな、でも、俺は、俺は」
「ここまで酷いことはしていない?確かにそうだろうね。でも、被害者にはそんなのどうでもいいことだよ。そして、私にとってもどうでもいいことだよ。君の感情なんて」
ああ、どうしてこんなことになったのだろうか。俺はただ魔力が欲しかっただけだ。魔力は貴族の証だから。魔力がない俺は貴族ではないと言われいるようで、自分の中に流れている平民の血を肯定するようで嫌だったから。
俺は貴族だ。選ばれた存在なんだ。だからそれを証明するためにも魔力が必要だった。だから欲しかっただけのに。俺は何も間違ってはいない。悪いのは平民の血が流れている母だ。俺を魔力なしで産みやがって。そして貴族として魔力を欲しがっていた純真な俺の心を弄んだ殿下が悪い。どうして俺はこんなにも不幸なのだろうか。
「ああ、憎悪の化け物になったな。負の感情が強すぎたか」
「博士、調子はどうだ?」
「ああ、殿下」

『ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス』

「それは?」
「殿下が連れて来た少年だよ。卑屈な性格に拍車がかかったようだね」
「そんなレベルの話しではないだろ」
ガチャっ!
殿下を殺したくてたまらない。身体中が痛い。こんなに痛いのも、こんなに人を恨んだのも初めてだ。
間抜けにもここへやって来た殿下を殺そうと手を伸ばしたが堅牢な鉄格子に邪魔されて触れることすらできない。くそっ、なんなんだこの鉄の塊はっ!これじゃあ、殿下を殺せないじゃないか。
ガチャ、ガチャと揺するがびくともしない。
「人語を話すキメラにはなった。力も人であった時の倍だし、肌も硬化されている。ただ魔力なしが魔力ありにできるのかという実験は失敗だね。もし成功したら人の手で魔石を生み出せるのかいう実験のヒントになるかと期待したんだが、残念だ」
・・・・俺は失敗作なのか?ここでも俺は失敗作なのか?

『ルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス』

どうして俺がこんな目に。魔力、魔力だ。魔力さえあれば父さんや母さんを失望させずに済んだ。魔力さえあれば誰にも馬鹿にされない立派な貴族の一員として認められた。魔力さえあれば殿下の口車に乗せられてこんな所まで来なかった。魔力、魔力さえあれば。

『ヨコセ、マリョク、オマエノ、ヨコセェッ』

「こんな姿になってもまだ人の意識があるのか」
「殿下に対する恨みばりだがな。先ほども言ったようにこれは失敗だ。近々処分するつもりでいる」
「眠らせることはできるのか?」
「眠らせてどうする?」
「ザイードが来る。奴を殺すのに使える。足もつかないしな。戦争になればより簡単に素材が入ると思わないか?」
「私は実験ができれば何だっていいさ」
「そうか。一時間ほど眠らせておいてくれ。あと体内に爆弾を仕掛けてくれ。ザイードの殺害に成功したら待機させている騎士に処分させる」
「了解した」
殿下が去っていく。一度だけ俺を見て俺の姿を鼻で笑って。
くそっ、馬鹿にしやがって。待てよ、腰抜け。俺を閉じ込めないと怖くて、俺の前に立つことすらできないんだろ。
「そんな姿になっても意識があるなんて、哀れだね。壊れちゃいないよ。その方が楽だよ」
言葉とは裏腹に無感情な声がそう囁いた。それを最後に俺の意識は閉じていった。体内に何を入れられたのか分からないが、とうとう死ぬかもしれないという恐怖と共に。
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