「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。

音無砂月

文字の大きさ
22 / 39
第三章

22

しおりを挟む
母が死んだ。
気が狂い、部屋から出て来なくなった母。
彼女の世話係が今朝がた見つけたのだ。
ベッドの上で吐瀉物にまみれて死んだ母の姿を。
死因は薬の過剰摂取。自殺だった。
理由が理由なので葬儀はひっそりと行われた。
父は帰ってこなかった。仕事で王都を離れているとかで母の葬儀に顔を出すこともしなかった。
可哀そうなお母様。あんな男の何がそんなに良かったと言うの。
「セイレーン」
葬儀にはルルーシュが出席してくれた。
ルルーシュは母と多少、面識があったのだ。だから出席してくれた。私とルルーシュと邸の使用人だけでひっそりと母を見送った。
母の両親、つまり私の祖父母に当たる彼らは来なかった。
自殺をするなど家の恥だと。泥を塗られたと憤っているらしい。
私の命令で母の死を伝えに行った使用人から聞いた。
「ルルーシュ、ありがとう。来てくれて」
「うん。そろそろ邸の中に戻ろう。日が暮れだした。」
「そうね」
上流貴族の夫人が亡くなったというのにとても質素で寂しいだけの葬儀はあっけなく終わった。
それから数日後のことだった。
父が一人の女性と少女を連れて邸に帰ってきた。
銀色の髪と目をした可愛らしい少女だ。少女は私の姿を見るなり嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「お久しぶりですわね、お父様。お母様の葬儀にも出られないほど忙しいと伺っておりましたが」
「そっちはひと段落着いた」
「そうですか」
私の嫌味をさらりと流した父は紹介しようと言って銀色の髪の少女に視線を向ける。
少女は父が口を開く前に「会いたかったわ、お姉様」と言って私に抱き着いて来た。
ぞわりと鳥肌が立ったのは生理的嫌悪の現われだったのかもしれないと後に思う。
私は無理やり少女を自分から引きはがした。
かなりの馬鹿力ね。引きはがす際に多少の抵抗を感じた。
離れたくないと縋りつく彼女の爪が腕に突き刺さった。
「私に妹はいませんわ」
私は当たり前のことを言っただけなのに少女はとても傷ついた顔をする。
「この子はライラ、今日からお前の妹だ」
ならば隣の女性はライラの母。つまり今日から私の母でもあるということ。
「っ」
冗談じゃないっ!
「お姉様、よろしくね」
そう言って無邪気に笑うライラを引っ張叩いてやりたい衝動にかられた。もちろん堪えたけど。
「気分が悪いので部屋に戻ります」
私の態度が気に入らなかったのか険し顔をした父を無視して私は部屋に戻った。
「お嬢様」
母によく仕えてくれた使用人の一人が心配そうに私を見る。私は彼女に「大丈夫よ」と答えて部屋に入った。
一人になりたかったので私の許可があるまで誰も入室しないように言っておいた。
しおりを挟む
感想 515

あなたにおすすめの小説

病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します

佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。 セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。 婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?  色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。 いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

処理中です...