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29.類が友を呼んだだけなので当然の結果
side.アラン
クソっ、最悪だ。
まさか男なら誰でも腰を振る淫乱を一時とは言え、側に起き、あまつさえ”恋人”にしていたなんて。考えるだけで胸糞悪くなる。
「アラン様」
「なんだ、騒々しい」
いつも冷静沈着で伯爵家に相応しい執事が慌ただしくやって来たが俺はランの裏切り行為に腹を立てていたので気づかなかった。
「そ、それが、その、ラン様がお見えに」
「はっ。あの淫乱野郎が俺に媚を売りに来たか。一体どんな言い訳をしに来たのやら。せめてもの情けだ。聞くだけは聞いてやろう」
「あ、いえ、アラン様。お、お待ちください、アラン様」
俺以外の奴と不貞を働きながらさも純真な顔をして俺の隣に居続けただけはある。図々しい男だ。徹底的に立場を分からせて追い出してやる。
「ア、アラン」
「・・・・・その声、ランか?」
「そ、そうだよ」
服だけは貴族らしい上等なものだ。だが、顔は原型を留めてはいない。それに、酷い異臭がする。どろり、どろりと床に落ちているのはおそらく、顔の肉片。
火傷じゃない。腐っているのか?
異様な光景に、玄関ホールに集まっていた使用人は恐怖で顔を引き攣らせている。中には失神して同僚に支えてもらっている人もいた。
俺もできることなら失神してしまいたい。もちろん、そんな無様な姿は次期伯爵としてのプライドが許さない。
「その顔はどうした?」
「化け物だよ」
「は?」
「義姉さんが化け物に頼んで、僕にこんな仕打ちをしたんだ。助けて、アラン。痛いんだ。痛くて、たまらない」
「近づくな。おい、こいつを捕獲しろ。顔には触れるな。袋か何かを被せろ。何しているっ!さっさと動け」
「は、はいっ!!」
俺は使用人に命じてランに縄をかけた。
「やめて、何で。やめてよ」と泣き叫ぶランが暴れるたびに顔の肉片が散らばる。使用人はそのことに恐怖しながらも何とか顔に袋を被せ、手足を縛ることができた。
「騎士団に連絡しろ。新種の病かもしれん」
「アランっ」
「俺の名前を呼ぶな。先ほどフィオナがやったと言ったな。証拠はどこにある?」
ランは黙り込んだ。なるほど、こうやって正式な後継であるフィオナを追い詰めて、居場所をなくさせたのか。薄汚い血が流れている奴はやることも薄汚い。そんな奴の甘言に騙されていたなんて。
「全てをフィオナのせいにして被害者面するのはよせ。貴様ら親子がグランチェ子爵夫人を死に追いやった。そしてフィオナまでも」
おそらく、フィオナはもう生きてはいないだろう。貴族令嬢が家から追い出されるのは死と同義だ。別に彼女の生死なんぞ俺には関係ないがな。所詮はただの子爵令嬢。伯爵家の跡取りである俺には相応しくなかったのだ。
「連れて行け。俺とはもうなんの関係もない。今後、こいつを屋敷に入れるな」
「アラン、アラン、アランっ!!」
やって来た騎士団に連行されながらもランは最後まで俺の名前を叫び続けた。不愉快なことこの上ない。
ーーーーおやおや、いけませんね。アラン・モンド伯爵令息
ご自分の恋人ぐらい最期まで面倒を見なくては。
木の上から屋敷の様子を見ていた黒蛇はそう呟いて騎士団の後を追った。
◇◇◇
「は?どういうことだよ」
「そのままの意味だ」
ランは騎士団の隙を見て逃亡。現在、行方は分かっていない。俺のところに来られても困るので使用人には常に屋敷の周囲を見張って、見かけたら排除するように伝えてある。
ランのあの症状が疫病なのか、彼が逃亡したことによって正体は解明できていない。それにより、感染した可能性のある俺や使用人は隔離されることになった。
全てあの考えなしのバカのせいだ。あのバカが何も考えずに俺のところに来たせいで飛んだとばっちりを食う羽目になったと騎士団からの通達を聴き終えて暫くしたら父に執務室へ来るよう言われた。
そこであり得ないことを聞くことになった。
「何で、俺が除籍なんだよ。俺はモンド家の後継だろ」
「後継は落ち着いたら分家から用意する」
「俺がいるのに、分家の奴らから選ぶ理由なんてないだろっ!」
当然のことを言っただけなのに、父は机を拳で叩き、俺を睨みつけた。
「当然の結果だと思わんか?」
意味が分からない。何が当然の結果なんだよ。当然の結果というのは俺がこの家を継ぐことだろう。後継から外されるだけではなく、家から除籍って何だよ。俺に薄汚い平民にでもなれというのか。この俺が?冗談じゃない。
「お前が婚約者をどう扱おうが問題はない。所詮は子爵家の女だ。だが、表向きは婚約者として立てるべきだったんだ。裏で何をしようともな。相手が何も言えない立場の人間なら尚更。それがどうだ?堂々と不貞を働き。それも相手は妾子。まぁ、妾子の役割なんてその程度でしかないがな。だが、お前はその妾子を図に乗らせた。正妻を望まされるなんて制御できてない証拠だ」
くっ。確かに、一度はランを正妻にと考えた。でも今は違う。あんな男なら誰でにも腰を振るう男なんて相手にはしない。
「早々に捨てるべきだった。今更捨てても全てが遅い」
父は俺に幾つかの書類を投げつけた。それには我が家と取引のある事業家だったり、付き合いのある家からの手紙だった。
「婚約という大切な契約の意味も分からない者とでは今後の可能性を見出すのは難しく、手を引かせて貰いたい。疫病に感染した可能性のある我らと付き合い、あのような悍ましい姿になりたくないので今後は距離を置かせてもらう。その書類には全てそのようなことが書かれている」
商人や付き合いのある家から距離を置かれれば、事業家から手を引かれればモンド伯爵家は破産するしかない。今抱えているいくつもの事業は全て共同で、モンド伯爵家だけでは担えないのだ。
「やっとことの重大さが分かったか」
「父上、俺は」
「お前が一番、疫病にかかっている可能性が高い。よって、平民として放逐はせん。行き先は既に手配している。そこから死ぬまで出てくるな」
「俺を、見捨てるのか?」
親子の慈悲に縋ろうとした俺を父は鼻で笑った。
「お前が今までしてきたことだろう。最初に見捨てたのは婚約者であるフィオナ嬢。あの妾子の甘言に惑わされ、見捨てた。次に正妻にと考えるほどまでに惚れ込んでいた妾子だ。あやつがおかしな疫病にかかったと知った瞬間、お前は見捨てた」
「ち、違う」
ランは見捨てたんじゃない。見限ったんだ。あいつが先に俺を裏切ったから。だから・・・・。
「違うかどうかなんて問題じゃない。世間がそう判断したことが問題なんだ。お前がそう判断させた。お前の行いが。妾子を見捨てた時点でお前の評価は地に落ちた。回復の見込みはない。お前がもう少し考えて動けていたら疫病に感染した可能性があったとしても、我が家がここまで見放されることはなかった」
「俺が、もう少し考えていたら?」
考えが足りていなかったのはランだけではなく、俺もだと言いたいのか?だからこの結末を招いたのか?
◇◇◇
寒い。
父が用意したのは一年中、雪で覆われている山の一角に存在する幽閉塔だった。昔、罪を犯した王族を捕らえていた場所だ。罪を犯したとはいえ王族。昔、王族は神の子と扱われていたため人の子である臣下が直接手を下すことはできなかった。だからこの極寒の地に塔を建てて、閉じ込めた。
そうすれば、寒さと飢えで勝手に死んでくれるから。
「父上は、俺を殺す気なのだな。息子の俺を」
寒い、お腹がすいた。
腹が減った俺は初めて塔の中に入り込んだ虫を食べた。寒さを凌ぎにやって来たネズミを食べた。
吹雪の中、実も葉もないただの木にかぶりついた。
貴族である俺がこんなものを食わないといけないことに絶望した。
安らぎはない。
唯一の安らぎであるはずの眠りさえ悪夢でうなされるのだ。
顔を腐らせたランが俺に迫る。どうして裏切ったのかと。
また別の日では「愛している」と悍ましい姿で囁きながら肉体関係を強制してくる。ねちゃり、ねちゃりと俺の腹の上に自身の鎖った肉を溢しながら腰を降ってくる姿は恐怖でしかない。
そして最後は俺自身さえも肉が腐りだし、ランと同じ悍ましい姿に変わるのだ。それは夢なのに、妙にリアルでそしてなぜか肉が腐る時に激痛が走るし、ランに触れられる度に不快感があるのだ。
夢なのに。
「・・・・・」
目を覚ますと汗だくで、その汗で余計に体が冷える。
「あ、起きた?」
「は?」
俺の下腹部あたりの布団が膨れている。
「っ、あっ、なっ、なんで」
「アァ、ラァ、ンン」
「ラ、ラン、お前、何、して」
「何って、奉仕だよぉ。イィでしょぉ。いつもぉ、シ、してあげてぇつもんねぇ。ア、アランン、コレェ、スキでしょうぉ?」
そう言ってべろりと俺のを舐めてきた。その姿は悍ましく俺はランを蹴飛ばした。
「うわぁ、ヒ、ヒドイナァ、ミ、みんなぁ、ひどいんだよぉ。ボクノコトォ、スキッテェイイ゛ダノニ゛」
言葉が変だ。顔が腐っているからか?顔だけじゃない手も足も腐っている。こいつ、痛くないのか?何でこんな体で普通に動いてるんだ。
「ボクノコトバゲモノダッテェ」
何か、何か武器はないか。
「アンナニ゛イィ、ズキダッッテ、イッテクレタノニ」
どうする?どうすればいい?武器になるものなんてない。外に逃げたとしてもこの吹雪の中だ。逃げ切れるわけがないし、逃げられたとしても凍死する。
それに、ずっとまともなものを食べられていないせで体に力も入らない。
「デモォ、アランハァ、ヂガウ゛デショォ。ボグノコト、アイシテルモンネ」
「愛してるわけないだろっ!だ、誰がお前みたいな化け物を愛するか。お前、気持ちが悪いんだよ」
もうヤケクソだった。こんな相手を刺激するようなこと、言うべきじゃないのに。そんなことすらも考えられないぐらい切羽詰まっていたのだ。
「ボグノコト、カワイイデショウ」
こいつ、俺のさっきの言葉を聞いてなかったのか。
「ひっ」
ねちゃりと腐った手でランが俺の両頬を掴む。
「ダグザン、ダグザン、アイシアオウネ」
そう言ってランはキスをして来た。しかも、腐った舌まで入れてきたから、俺の口の中はランの腐った肉が溢れた。肉と悪臭で俺は嘔吐した。何も食べていなかったから胃液しか出なかった。
そんな俺の様子に構わず、ランは俺をベッドまで引き連れて行った。こいつ、何だよ。この馬鹿力は。何でびくともしないんだよ。
「ザァ、ヅヅギィヲジヨウネェ」
「じょ、冗談だろう。うあ、や、やめろ」
これじゃあまるで夢と同じじゃないか。腐った肉を俺の腹に撒き散らしながらランは俺に触れる。俺に跨ってくる。
俺はこの化け物と死ぬまでこんな悍ましい行為を続けなければいけないのか。
「そう。愛し合っているのなら、離れてはいけない。一緒に、どこまでも堕ちるべきだ。深く、暗い、深淵に。愛に終わりはない。君たち二人にあげる祝福だ。ただし、邪神からの祝福だけどね」
クロヴィスは獣の交尾をする二人を楽しそうに見つめた。ここは隔絶された世界。クロヴィスが二人のために作った、二人だけの愛の巣。だから、終わりはない。永遠に、愛し合うのだ。
「幸せなことだろう。愛し合っているのなら」
ランに肉体は腐り続ける。邪神の毒に耐えられなかったからだ。普通ならそこで死ぬ。でもクロヴィスが祝福を与えたことでランの肉体時間は固定された。腐った状態で。だから死なないのだ。
同じようにアランにも祝福が与えられた。意識を正常に保つ祝福だ。そして二人に与えられたのは時間が止まった巣。そこに居続ける限り、老いることはない。永遠に生き続けることが可能だ。
クソっ、最悪だ。
まさか男なら誰でも腰を振る淫乱を一時とは言え、側に起き、あまつさえ”恋人”にしていたなんて。考えるだけで胸糞悪くなる。
「アラン様」
「なんだ、騒々しい」
いつも冷静沈着で伯爵家に相応しい執事が慌ただしくやって来たが俺はランの裏切り行為に腹を立てていたので気づかなかった。
「そ、それが、その、ラン様がお見えに」
「はっ。あの淫乱野郎が俺に媚を売りに来たか。一体どんな言い訳をしに来たのやら。せめてもの情けだ。聞くだけは聞いてやろう」
「あ、いえ、アラン様。お、お待ちください、アラン様」
俺以外の奴と不貞を働きながらさも純真な顔をして俺の隣に居続けただけはある。図々しい男だ。徹底的に立場を分からせて追い出してやる。
「ア、アラン」
「・・・・・その声、ランか?」
「そ、そうだよ」
服だけは貴族らしい上等なものだ。だが、顔は原型を留めてはいない。それに、酷い異臭がする。どろり、どろりと床に落ちているのはおそらく、顔の肉片。
火傷じゃない。腐っているのか?
異様な光景に、玄関ホールに集まっていた使用人は恐怖で顔を引き攣らせている。中には失神して同僚に支えてもらっている人もいた。
俺もできることなら失神してしまいたい。もちろん、そんな無様な姿は次期伯爵としてのプライドが許さない。
「その顔はどうした?」
「化け物だよ」
「は?」
「義姉さんが化け物に頼んで、僕にこんな仕打ちをしたんだ。助けて、アラン。痛いんだ。痛くて、たまらない」
「近づくな。おい、こいつを捕獲しろ。顔には触れるな。袋か何かを被せろ。何しているっ!さっさと動け」
「は、はいっ!!」
俺は使用人に命じてランに縄をかけた。
「やめて、何で。やめてよ」と泣き叫ぶランが暴れるたびに顔の肉片が散らばる。使用人はそのことに恐怖しながらも何とか顔に袋を被せ、手足を縛ることができた。
「騎士団に連絡しろ。新種の病かもしれん」
「アランっ」
「俺の名前を呼ぶな。先ほどフィオナがやったと言ったな。証拠はどこにある?」
ランは黙り込んだ。なるほど、こうやって正式な後継であるフィオナを追い詰めて、居場所をなくさせたのか。薄汚い血が流れている奴はやることも薄汚い。そんな奴の甘言に騙されていたなんて。
「全てをフィオナのせいにして被害者面するのはよせ。貴様ら親子がグランチェ子爵夫人を死に追いやった。そしてフィオナまでも」
おそらく、フィオナはもう生きてはいないだろう。貴族令嬢が家から追い出されるのは死と同義だ。別に彼女の生死なんぞ俺には関係ないがな。所詮はただの子爵令嬢。伯爵家の跡取りである俺には相応しくなかったのだ。
「連れて行け。俺とはもうなんの関係もない。今後、こいつを屋敷に入れるな」
「アラン、アラン、アランっ!!」
やって来た騎士団に連行されながらもランは最後まで俺の名前を叫び続けた。不愉快なことこの上ない。
ーーーーおやおや、いけませんね。アラン・モンド伯爵令息
ご自分の恋人ぐらい最期まで面倒を見なくては。
木の上から屋敷の様子を見ていた黒蛇はそう呟いて騎士団の後を追った。
◇◇◇
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「そのままの意味だ」
ランは騎士団の隙を見て逃亡。現在、行方は分かっていない。俺のところに来られても困るので使用人には常に屋敷の周囲を見張って、見かけたら排除するように伝えてある。
ランのあの症状が疫病なのか、彼が逃亡したことによって正体は解明できていない。それにより、感染した可能性のある俺や使用人は隔離されることになった。
全てあの考えなしのバカのせいだ。あのバカが何も考えずに俺のところに来たせいで飛んだとばっちりを食う羽目になったと騎士団からの通達を聴き終えて暫くしたら父に執務室へ来るよう言われた。
そこであり得ないことを聞くことになった。
「何で、俺が除籍なんだよ。俺はモンド家の後継だろ」
「後継は落ち着いたら分家から用意する」
「俺がいるのに、分家の奴らから選ぶ理由なんてないだろっ!」
当然のことを言っただけなのに、父は机を拳で叩き、俺を睨みつけた。
「当然の結果だと思わんか?」
意味が分からない。何が当然の結果なんだよ。当然の結果というのは俺がこの家を継ぐことだろう。後継から外されるだけではなく、家から除籍って何だよ。俺に薄汚い平民にでもなれというのか。この俺が?冗談じゃない。
「お前が婚約者をどう扱おうが問題はない。所詮は子爵家の女だ。だが、表向きは婚約者として立てるべきだったんだ。裏で何をしようともな。相手が何も言えない立場の人間なら尚更。それがどうだ?堂々と不貞を働き。それも相手は妾子。まぁ、妾子の役割なんてその程度でしかないがな。だが、お前はその妾子を図に乗らせた。正妻を望まされるなんて制御できてない証拠だ」
くっ。確かに、一度はランを正妻にと考えた。でも今は違う。あんな男なら誰でにも腰を振るう男なんて相手にはしない。
「早々に捨てるべきだった。今更捨てても全てが遅い」
父は俺に幾つかの書類を投げつけた。それには我が家と取引のある事業家だったり、付き合いのある家からの手紙だった。
「婚約という大切な契約の意味も分からない者とでは今後の可能性を見出すのは難しく、手を引かせて貰いたい。疫病に感染した可能性のある我らと付き合い、あのような悍ましい姿になりたくないので今後は距離を置かせてもらう。その書類には全てそのようなことが書かれている」
商人や付き合いのある家から距離を置かれれば、事業家から手を引かれればモンド伯爵家は破産するしかない。今抱えているいくつもの事業は全て共同で、モンド伯爵家だけでは担えないのだ。
「やっとことの重大さが分かったか」
「父上、俺は」
「お前が一番、疫病にかかっている可能性が高い。よって、平民として放逐はせん。行き先は既に手配している。そこから死ぬまで出てくるな」
「俺を、見捨てるのか?」
親子の慈悲に縋ろうとした俺を父は鼻で笑った。
「お前が今までしてきたことだろう。最初に見捨てたのは婚約者であるフィオナ嬢。あの妾子の甘言に惑わされ、見捨てた。次に正妻にと考えるほどまでに惚れ込んでいた妾子だ。あやつがおかしな疫病にかかったと知った瞬間、お前は見捨てた」
「ち、違う」
ランは見捨てたんじゃない。見限ったんだ。あいつが先に俺を裏切ったから。だから・・・・。
「違うかどうかなんて問題じゃない。世間がそう判断したことが問題なんだ。お前がそう判断させた。お前の行いが。妾子を見捨てた時点でお前の評価は地に落ちた。回復の見込みはない。お前がもう少し考えて動けていたら疫病に感染した可能性があったとしても、我が家がここまで見放されることはなかった」
「俺が、もう少し考えていたら?」
考えが足りていなかったのはランだけではなく、俺もだと言いたいのか?だからこの結末を招いたのか?
◇◇◇
寒い。
父が用意したのは一年中、雪で覆われている山の一角に存在する幽閉塔だった。昔、罪を犯した王族を捕らえていた場所だ。罪を犯したとはいえ王族。昔、王族は神の子と扱われていたため人の子である臣下が直接手を下すことはできなかった。だからこの極寒の地に塔を建てて、閉じ込めた。
そうすれば、寒さと飢えで勝手に死んでくれるから。
「父上は、俺を殺す気なのだな。息子の俺を」
寒い、お腹がすいた。
腹が減った俺は初めて塔の中に入り込んだ虫を食べた。寒さを凌ぎにやって来たネズミを食べた。
吹雪の中、実も葉もないただの木にかぶりついた。
貴族である俺がこんなものを食わないといけないことに絶望した。
安らぎはない。
唯一の安らぎであるはずの眠りさえ悪夢でうなされるのだ。
顔を腐らせたランが俺に迫る。どうして裏切ったのかと。
また別の日では「愛している」と悍ましい姿で囁きながら肉体関係を強制してくる。ねちゃり、ねちゃりと俺の腹の上に自身の鎖った肉を溢しながら腰を降ってくる姿は恐怖でしかない。
そして最後は俺自身さえも肉が腐りだし、ランと同じ悍ましい姿に変わるのだ。それは夢なのに、妙にリアルでそしてなぜか肉が腐る時に激痛が走るし、ランに触れられる度に不快感があるのだ。
夢なのに。
「・・・・・」
目を覚ますと汗だくで、その汗で余計に体が冷える。
「あ、起きた?」
「は?」
俺の下腹部あたりの布団が膨れている。
「っ、あっ、なっ、なんで」
「アァ、ラァ、ンン」
「ラ、ラン、お前、何、して」
「何って、奉仕だよぉ。イィでしょぉ。いつもぉ、シ、してあげてぇつもんねぇ。ア、アランン、コレェ、スキでしょうぉ?」
そう言ってべろりと俺のを舐めてきた。その姿は悍ましく俺はランを蹴飛ばした。
「うわぁ、ヒ、ヒドイナァ、ミ、みんなぁ、ひどいんだよぉ。ボクノコトォ、スキッテェイイ゛ダノニ゛」
言葉が変だ。顔が腐っているからか?顔だけじゃない手も足も腐っている。こいつ、痛くないのか?何でこんな体で普通に動いてるんだ。
「ボクノコトバゲモノダッテェ」
何か、何か武器はないか。
「アンナニ゛イィ、ズキダッッテ、イッテクレタノニ」
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それに、ずっとまともなものを食べられていないせで体に力も入らない。
「デモォ、アランハァ、ヂガウ゛デショォ。ボグノコト、アイシテルモンネ」
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もうヤケクソだった。こんな相手を刺激するようなこと、言うべきじゃないのに。そんなことすらも考えられないぐらい切羽詰まっていたのだ。
「ボグノコト、カワイイデショウ」
こいつ、俺のさっきの言葉を聞いてなかったのか。
「ひっ」
ねちゃりと腐った手でランが俺の両頬を掴む。
「ダグザン、ダグザン、アイシアオウネ」
そう言ってランはキスをして来た。しかも、腐った舌まで入れてきたから、俺の口の中はランの腐った肉が溢れた。肉と悪臭で俺は嘔吐した。何も食べていなかったから胃液しか出なかった。
そんな俺の様子に構わず、ランは俺をベッドまで引き連れて行った。こいつ、何だよ。この馬鹿力は。何でびくともしないんだよ。
「ザァ、ヅヅギィヲジヨウネェ」
「じょ、冗談だろう。うあ、や、やめろ」
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俺はこの化け物と死ぬまでこんな悍ましい行為を続けなければいけないのか。
「そう。愛し合っているのなら、離れてはいけない。一緒に、どこまでも堕ちるべきだ。深く、暗い、深淵に。愛に終わりはない。君たち二人にあげる祝福だ。ただし、邪神からの祝福だけどね」
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「幸せなことだろう。愛し合っているのなら」
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