31 / 63
第2章 剣を振るう理由
30.騎士初日
しおりを挟む
レイファ・ミラノ、十四歳
学園入学まで一年
アイルが学園に入学し、乙女ゲームが本格的に始まるまで後四年
私は今日から騎士に交じり、訓練することになった。
「公爵令嬢がなんで騎士に?必要ないだろう」
「案外、男漁りだったりして」
「俺の知り合いが侍女として王女宮で働いているんだけどさ、そいつが言うにはかなり性格が悪いらしいよ」
「それ、俺も聞いた。実は最近できた彼女が王女宮の侍女でさ」
「ちゃっかり彼女自慢してんじゃねぇよ。滅びろ、リア充」
「公爵令嬢らしく高慢で、侍女を見下してるとか。王女殿下の威光を笠にきてるとか噂があるな」
「王宮の侍女からは嫌われてるよな。まぁ、性格の悪い女は同性に嫌われるものだって、姉上が言ってたから彼女の性格が悪いのは間違いないと思うよ」
聞こえてるよ。
公爵令嬢という身分を気遣っての陰口なのだろう。声のトーンは小さいけど私の耳には全て入っていた。
男の職場に無理やり、しかもイレギュラーで高位貴族の令嬢が入ってきたらそりゃあいい気はしないだろう。自分たちの仕事を舐めているのかと思われても仕方がない。
それに城内にいることが多いのか侍女たちと仲が良いみたいね。
私を嫌っている侍女からいろいろ吹き込まれているのだろう。
制服を着ている人は集団力が強かったり、騎士という特性上、誇りをもってしている人もいる。そういう人ほど私の存在に対する反発は強いだろう。
周囲の視線はうざいし、直接的な行動に移されなくても敵意とは向けられるだけで疲れる。
と、思っていたのは訓練が始まるまで。
実際に訓練が始まると周囲に気づかれないような絶妙なタイミングでちょっかいを出してくる。
たとえば走っている途中にわざと足を引っかけて転ばせたり、対戦訓練中に近くで別の人と対戦していた人が私の腹部に肘を当ててきたりなど。
◇◇◇
「公爵令嬢の癖に生意気」
「泣きもしないなんて可愛くないよな」
「騎士団長から直接、剣の稽古をつけてもらってたらしいよ」
「は?何それ。あり得なくねぇ」
「どうせお嬢様のお遊びだろ」
対戦訓練の時にそこそこ私が剣を使えたことが気に入らなかったようだ。
力では敵わないからユニアスにはそういう人と剣でやり合う時にどうすればいいのか教わっていた。
受け止めるのではなく、力を受け流す。それが私のスタイルだ。
チート能力のおかげでそこそこ戦える。でもそれはユニアスに稽古をつけてもらっていたから。その事実が余計に私と彼らの溝を深めたようだ。
馴れあいをしに来たわけではないので無理に仲良くなる必要はないけど、どうせやるならやりやすいようにしたい。
この空気、何とかならないかな。
視線を向けると私を睨みつける目が幾つもあった。
無理そうだ。
取り敢えず顔を洗って来よう。この場に留まりたくはないし。
私は一人で手洗い場に行き、頭から水を被る。
「どうぞ」
横からタオルが差し出されたので視線を向けると長いこげ茶色の髪を横に流した優男がいた。
騎士の恰好をしている。一緒に訓練を受けた新人騎士の誰かだろうか。
「ありがとう」
私はタオルを受け取り顔を服。
「アレックス・フォーゲルです」
「レイファ・ミラノです。フォーゲルということは伯爵家の方ですよね。でも貴族名鑑には」
「私は妾腹で、最近引き取られたばかりなのでまだ載っていないと思いますよ。それにしてもよく貴族名鑑に載っていないって分かりましたね。まさか、全部覚えているんですか?」
「ええ。記憶力には自信があるので」
アレックスは驚いていた。
貴族名鑑は膨大だし、毎年更新されるから全てを覚えるのは通常は不可能。でも私は神様のチート能力により記憶力が良いのだ。貴族名鑑程度、覚えるのは造作もない。
学園入学まで一年
アイルが学園に入学し、乙女ゲームが本格的に始まるまで後四年
私は今日から騎士に交じり、訓練することになった。
「公爵令嬢がなんで騎士に?必要ないだろう」
「案外、男漁りだったりして」
「俺の知り合いが侍女として王女宮で働いているんだけどさ、そいつが言うにはかなり性格が悪いらしいよ」
「それ、俺も聞いた。実は最近できた彼女が王女宮の侍女でさ」
「ちゃっかり彼女自慢してんじゃねぇよ。滅びろ、リア充」
「公爵令嬢らしく高慢で、侍女を見下してるとか。王女殿下の威光を笠にきてるとか噂があるな」
「王宮の侍女からは嫌われてるよな。まぁ、性格の悪い女は同性に嫌われるものだって、姉上が言ってたから彼女の性格が悪いのは間違いないと思うよ」
聞こえてるよ。
公爵令嬢という身分を気遣っての陰口なのだろう。声のトーンは小さいけど私の耳には全て入っていた。
男の職場に無理やり、しかもイレギュラーで高位貴族の令嬢が入ってきたらそりゃあいい気はしないだろう。自分たちの仕事を舐めているのかと思われても仕方がない。
それに城内にいることが多いのか侍女たちと仲が良いみたいね。
私を嫌っている侍女からいろいろ吹き込まれているのだろう。
制服を着ている人は集団力が強かったり、騎士という特性上、誇りをもってしている人もいる。そういう人ほど私の存在に対する反発は強いだろう。
周囲の視線はうざいし、直接的な行動に移されなくても敵意とは向けられるだけで疲れる。
と、思っていたのは訓練が始まるまで。
実際に訓練が始まると周囲に気づかれないような絶妙なタイミングでちょっかいを出してくる。
たとえば走っている途中にわざと足を引っかけて転ばせたり、対戦訓練中に近くで別の人と対戦していた人が私の腹部に肘を当ててきたりなど。
◇◇◇
「公爵令嬢の癖に生意気」
「泣きもしないなんて可愛くないよな」
「騎士団長から直接、剣の稽古をつけてもらってたらしいよ」
「は?何それ。あり得なくねぇ」
「どうせお嬢様のお遊びだろ」
対戦訓練の時にそこそこ私が剣を使えたことが気に入らなかったようだ。
力では敵わないからユニアスにはそういう人と剣でやり合う時にどうすればいいのか教わっていた。
受け止めるのではなく、力を受け流す。それが私のスタイルだ。
チート能力のおかげでそこそこ戦える。でもそれはユニアスに稽古をつけてもらっていたから。その事実が余計に私と彼らの溝を深めたようだ。
馴れあいをしに来たわけではないので無理に仲良くなる必要はないけど、どうせやるならやりやすいようにしたい。
この空気、何とかならないかな。
視線を向けると私を睨みつける目が幾つもあった。
無理そうだ。
取り敢えず顔を洗って来よう。この場に留まりたくはないし。
私は一人で手洗い場に行き、頭から水を被る。
「どうぞ」
横からタオルが差し出されたので視線を向けると長いこげ茶色の髪を横に流した優男がいた。
騎士の恰好をしている。一緒に訓練を受けた新人騎士の誰かだろうか。
「ありがとう」
私はタオルを受け取り顔を服。
「アレックス・フォーゲルです」
「レイファ・ミラノです。フォーゲルということは伯爵家の方ですよね。でも貴族名鑑には」
「私は妾腹で、最近引き取られたばかりなのでまだ載っていないと思いますよ。それにしてもよく貴族名鑑に載っていないって分かりましたね。まさか、全部覚えているんですか?」
「ええ。記憶力には自信があるので」
アレックスは驚いていた。
貴族名鑑は膨大だし、毎年更新されるから全てを覚えるのは通常は不可能。でも私は神様のチート能力により記憶力が良いのだ。貴族名鑑程度、覚えるのは造作もない。
281
あなたにおすすめの小説
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。
このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる!
それは、悪役教授ネクロセフ。
顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。
「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」
……のはずが。
「夢小説とは何だ?」
「殿下、私の夢小説を読まないでください!」
完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。
破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ!
小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる