43 / 63
第2章 剣を振るう理由
42.サラスヴァンティー男爵登場
しおりを挟む
「王女殿下のファーストダンスの相手がミラノ公爵令嬢の婚約者だなんて」
「王族は男女問わず一夫多妻制だ。選ばれる相手は上位貴族。基本的には未婚者だが、女性であるアイル殿下なら既婚者でも問題はない。歴史上でも王女殿下のお相手には既婚者もおられたしな」
もし殿下が男であったのなら誰の子かも分からない既婚者を相手にすることはダメだが、子供を産むのは女性なので相手の王族の場合に限り既婚者でも問題はない。ただ人として既婚者に手を出すのは問題がある為、あまりない。
「そうですわね。ミラノ公爵令嬢と殿下は本当に仲がよろしいですわね。愛しい人までも共有されるなんて。くすっ」
周囲から悪意と好奇の目が向けられる。
「レイファ」
エステルとメリンダが心配そうに私の傍につく。
「今のお言葉は侮辱ととっても問題ありませんか、キリッド伯爵夫人」
「侮辱だなんてとんでもございませんわ」
夫人は扇で口元を隠しながら「おほほほ」と笑う。
「私はただ殿下と公女の仲の良さを羨んだだけですわ。良かったですわね、公女。殿下があなたを気に入ってくださったおかげで側近はあなたで間違いないのですから」
つまり側近に選ばれるのは私の実力ではない。媚売りが上手かったからだということね。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。そう言えば夫人は今日も、お一人ですか?」
私の言葉に夫人の顔が一変する。今度は私が夫人を嘲笑う番だ。
「大変ですわね、女性人気の高い殿方を夫に迎えるのは」
伯爵の女好きは有名だ。そして年を取った夫人を伯爵が相手にしなくなったのも社交界では有名な話だった。
私は夫人に夫を愛人にとられたくせにでかい顔をするなと言ったのだ。まぁ、明日は我が身かもしれないけど。
私はホールの中央で踊るマクミランとアイルを見る。
「レ、レイファ、ぼ、僕たちも踊ろう」
後ろからにゅるっと現れたアグニス。来ているとは思ったけど、絶対にアグニスと関わり合いになりたくはない。まず、アイルの前にアグニスをどうにかしないと。
「冗談はやめて下さい。ファーストダンスの相手は婚約者か身内。あなたはそのどちらでもないでしょう」
そもそも男爵家の人間が公爵家に自分から離しかけるなどマナー違反だ。アイルといいアグニスといいマナーに疎すぎだろ。私よりもアイルとアグニスの方がお似合いじゃないの。
「でも、僕たちは愛し合っているだろ」
そう言ってアグニスが私の手首を掴んで無理やりホールに連れて行こうとする。
「止めてくださいっ!」
さっきまでアイルとマクミラン、私のことで会話を弾ませていた貴族たちが私とアグニスに注目する。思ったよりも大きな声が出てしまった。掴まれた手の鳥肌が全然おさまらない。
「放した頂けませんか。私はあなたの婚約者でもなければ、恋人でもありません。訳の分からない思い込みで私に付き纏わないで。贈り物も結構です。いつもそのまま返送しているのだからいい加減察してください。迷惑です」
冷静に対処しなければ。みんなが注目をしている。少しでも対応を、言葉を間違えると醜聞に繋がる。
「それに私は公爵令嬢です。男爵令息であるあなたから声をかけてくるなんて非常識です」
「ミ、ミキちゃん、どうしてそんなに怒っているの」
本気で分からないという顔をしている。どうして金持ちの奴らってこんなにも話が通じないのだろう。おまけに思い込みも激しいし。
「私はレイファです。あなたの仰る『ミキちゃん』がどなたか知りませんけど、私とその方を同一視しないでいただきたい」
「どうして、そんな悲しいことを言うの。僕はずっと君だけを思って来たのに」
「それは一方的なお前の想いだろ。そんなものを押し付けられて迷惑に思うは当然じゃないのか。ましてや気のない男なら当然」
「いい加減、その手を放したら?淑女に気安く触れるものではない。ましてや女性の手が赤くなるまで強く握るなんて。男爵は魔法にかまけてばかりで女性の扱いをあなたに教えなかったようですね」
アシュベルとカーディルが来た。アシュベルの後ろにはアグニスが年を取ったらこんな感じなんだろうなと思わせる男性が立っていた。
「父上」と、アグニスが呟く。
「アグニス、公女から手を放しなさい。公女、謝罪は後日改めて」
「父上、僕は」
「黙りなさい」
急にアグニスが口を閉じた。不自然な状態で。多分、魔法だろう。
アグニスの体が宙に浮いたと思ったらそのまま男爵と一緒に出て行った。
「レイファ、大丈夫?手、痕になってるね。別室に行こう」
アシュベルに促されて私は静まり返った会場を出て行った。私の姿を呆然と見送るマクミランの姿が一瞬視界に入るけど彼の手をアイルがしっかりと握っているので今は声をかけない方が良いだろう。
「王族は男女問わず一夫多妻制だ。選ばれる相手は上位貴族。基本的には未婚者だが、女性であるアイル殿下なら既婚者でも問題はない。歴史上でも王女殿下のお相手には既婚者もおられたしな」
もし殿下が男であったのなら誰の子かも分からない既婚者を相手にすることはダメだが、子供を産むのは女性なので相手の王族の場合に限り既婚者でも問題はない。ただ人として既婚者に手を出すのは問題がある為、あまりない。
「そうですわね。ミラノ公爵令嬢と殿下は本当に仲がよろしいですわね。愛しい人までも共有されるなんて。くすっ」
周囲から悪意と好奇の目が向けられる。
「レイファ」
エステルとメリンダが心配そうに私の傍につく。
「今のお言葉は侮辱ととっても問題ありませんか、キリッド伯爵夫人」
「侮辱だなんてとんでもございませんわ」
夫人は扇で口元を隠しながら「おほほほ」と笑う。
「私はただ殿下と公女の仲の良さを羨んだだけですわ。良かったですわね、公女。殿下があなたを気に入ってくださったおかげで側近はあなたで間違いないのですから」
つまり側近に選ばれるのは私の実力ではない。媚売りが上手かったからだということね。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。そう言えば夫人は今日も、お一人ですか?」
私の言葉に夫人の顔が一変する。今度は私が夫人を嘲笑う番だ。
「大変ですわね、女性人気の高い殿方を夫に迎えるのは」
伯爵の女好きは有名だ。そして年を取った夫人を伯爵が相手にしなくなったのも社交界では有名な話だった。
私は夫人に夫を愛人にとられたくせにでかい顔をするなと言ったのだ。まぁ、明日は我が身かもしれないけど。
私はホールの中央で踊るマクミランとアイルを見る。
「レ、レイファ、ぼ、僕たちも踊ろう」
後ろからにゅるっと現れたアグニス。来ているとは思ったけど、絶対にアグニスと関わり合いになりたくはない。まず、アイルの前にアグニスをどうにかしないと。
「冗談はやめて下さい。ファーストダンスの相手は婚約者か身内。あなたはそのどちらでもないでしょう」
そもそも男爵家の人間が公爵家に自分から離しかけるなどマナー違反だ。アイルといいアグニスといいマナーに疎すぎだろ。私よりもアイルとアグニスの方がお似合いじゃないの。
「でも、僕たちは愛し合っているだろ」
そう言ってアグニスが私の手首を掴んで無理やりホールに連れて行こうとする。
「止めてくださいっ!」
さっきまでアイルとマクミラン、私のことで会話を弾ませていた貴族たちが私とアグニスに注目する。思ったよりも大きな声が出てしまった。掴まれた手の鳥肌が全然おさまらない。
「放した頂けませんか。私はあなたの婚約者でもなければ、恋人でもありません。訳の分からない思い込みで私に付き纏わないで。贈り物も結構です。いつもそのまま返送しているのだからいい加減察してください。迷惑です」
冷静に対処しなければ。みんなが注目をしている。少しでも対応を、言葉を間違えると醜聞に繋がる。
「それに私は公爵令嬢です。男爵令息であるあなたから声をかけてくるなんて非常識です」
「ミ、ミキちゃん、どうしてそんなに怒っているの」
本気で分からないという顔をしている。どうして金持ちの奴らってこんなにも話が通じないのだろう。おまけに思い込みも激しいし。
「私はレイファです。あなたの仰る『ミキちゃん』がどなたか知りませんけど、私とその方を同一視しないでいただきたい」
「どうして、そんな悲しいことを言うの。僕はずっと君だけを思って来たのに」
「それは一方的なお前の想いだろ。そんなものを押し付けられて迷惑に思うは当然じゃないのか。ましてや気のない男なら当然」
「いい加減、その手を放したら?淑女に気安く触れるものではない。ましてや女性の手が赤くなるまで強く握るなんて。男爵は魔法にかまけてばかりで女性の扱いをあなたに教えなかったようですね」
アシュベルとカーディルが来た。アシュベルの後ろにはアグニスが年を取ったらこんな感じなんだろうなと思わせる男性が立っていた。
「父上」と、アグニスが呟く。
「アグニス、公女から手を放しなさい。公女、謝罪は後日改めて」
「父上、僕は」
「黙りなさい」
急にアグニスが口を閉じた。不自然な状態で。多分、魔法だろう。
アグニスの体が宙に浮いたと思ったらそのまま男爵と一緒に出て行った。
「レイファ、大丈夫?手、痕になってるね。別室に行こう」
アシュベルに促されて私は静まり返った会場を出て行った。私の姿を呆然と見送るマクミランの姿が一瞬視界に入るけど彼の手をアイルがしっかりと握っているので今は声をかけない方が良いだろう。
240
あなたにおすすめの小説
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。
このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる!
それは、悪役教授ネクロセフ。
顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。
「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」
……のはずが。
「夢小説とは何だ?」
「殿下、私の夢小説を読まないでください!」
完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。
破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ!
小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる