悪役令嬢の妹は自称病弱なネガティブクソヒロイン

音無砂月

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第1章 婚約破棄

XI.密会(?)の結果

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 父の執務室に私、グロリア、ジーク、ヴァンが集められた。

 「学校でのことだが」
 そう切り出した父の放つ重苦しい空気に充てられてか私は自分に非はないと思っているが妹が愚弄されていると知りながら周りを諫めなかったのも事実なのでそれに対するお咎めぐらいはあるかと思う、知らず知らずに握りしめていた拳に力が入る。
 私の隣に座るグロリアも緊張で体を震わせていた。

 「グロリア」
 「・・・・は、はい」
 「まず事実確認からだ。授業開始前にセシルのいる特進科に行ったのは事実か?」
 「は、はい。じ、事実です」
 「何をしに行った?」
 「分かりません」

 あれだけ暴れておいて『分かりません』とは・・・・。
 いい迷惑である。

 「ただ、婚約の話で少々混乱しておりまして」

 ああ、ついにグロリアにも婚約の話が出たのか。

 「それはセシルにしても仕方のない話だな。
 セシルは私がお前の婚約について考えていたことを知らない。
 何か言いたいことがあるのなら私の所へ来なさい。
 ただ、貴族に生まれた以上は家の為の婚姻は仕方なしと受け入れて欲しい」
 「そ、それは分かっています。
 私なんかを貰ってくれる人が居るのならそれはとても喜ばしいことだと思っていますわ」

 「・・・・私なんか、ね。
 グロリア、お前はミハエルのことを好いているのか?」
 「え?」
 まさかの質問にグロリアは驚き、言葉に詰まっている。
 父の言葉で私が思い出したのは中庭で見たミハエルとグロリアが抱き合い、口づけを交わしている姿。
 痛む胸はない。
 元々あまり好きではなかった。
 でも、なぜだろう。虚しさが広がって行く。

 近くに立っていたジークが私を心配そうに見ている。

 「中庭の噴水の所でミハエルと口づけを交わしていたそうだな」
 「っ!それは」
 「どうなんだ?」
 答えられないのは事実だから。
 「答えなさい、グロリア」
 父の叱責に怯えながらグロリアは蚊の鳴くような声で「はい」と答えた。
 父から呆れの溜息が漏れる。
 ヴァンが掴み、その情報を父に流したのだろう。
 それを聞いても平然としている。
 対するジークは驚きで目を見開いている。

 「で、でもお父様。私達は愛し合っているのです」
 「だから姉の婚約者に手を出していいというものではない」
 「けれど、家の為の婚姻なのでしょう。だったら私とお姉様、どっちが婚姻しても同じはずだわ」
 それは以前、私が冗談半分で父に言ったことだ。
 ただ、私は自分の言っていることの意味が分かった上で発言した。
 それに対してグロリアは何も分かってはいない。
 「あなた馬鹿ですの?」
 父からお鉢が向けられるまで黙っているつもりだったのですが何も分かっていないグロリアを見て思わず口を挟んでしまった。
 父から特に咎めるような空気は出てないので良しとして続けさせていただきます。

 「私でもあなたでもどっちでもいい?
 それって結局どっちも要らないってことでしょう」
 「なっ!なんてことを言うんですか、お姉様!
 ミハエル様はそのような方ではありません。お姉様は誤解していますわ」
 「誤解、誤解、誤解ねぇ。
 ねぇ、グロリア。
 姉の婚約者に手を出しておいて本当に全てが丸く収まると思っているの?」

 そんなわけがない。
 普通はそこで完全に溝が生まれるはずだ。
 そもそもミハエル様は姉妹どっちにも手を出したと取られる。
 そうなった場合、父は怒り、当然この婚約自体が破断する可能性だってある。
 幾ら上位貴族で、当時は仕方のない婚約だったとしても今と昔では状況が違う。
 今なら我が伯爵家は侯爵家とのこの婚約を取りやめにできる。
 まぁ、ミハエル様もグロリアも現状を知らないのでそうは思っていないようだが。

 「分かっています。分かっていますわ、お姉様。
 私なんかがお姉様に勝てるはずがないと、それぐらい分かっています。でも!」
 「ねぇ、その『私なんか』って止めてくれない。結構耳障りなのよね。
 あなたってとんだ売女よね。
 大人しい顔をして姉の婚約者を寝取ろうなんて」
 「そんな、私そんなはしたないこと」
 「あら自覚ないの?
 人前であんな熱れつなキスをしておいて」
 「人前?」
 「当然でしょう。あなた達がいたのは中庭よ。
 教室から丸見えの、ね。
 私だけではないのよ。既に何人もの人があなたとミハエル様の不貞を見ているわ。
 あなたは姉から婚約者を寝取った女狐。
 私は妹に婚約者を取られた笑いもの。
 お互いに家に泥を塗った、親不孝者ね」

 グロリアの顏が青くなる。
 人に見られていたことがよっぽどショックだったのだろう。
 そもそもあんな場所でしておいて見られないと思っている神経がどうかしている。

 「私は、別に、そんなつもりは」
 「あら、じゃあどういうつりもだったのかしら?
 婚約者のいる男に何の意図があって口づけをしたの?
 私に納得できる答えをくださるかしら?」
 「だって、それは、お姉様が」
 「私が何?責任転換はよして頂戴」

 ポロポロとグロリアは泣き出した。
 これではまるで私が弱い者いじめをしているみたいではないか。

 「セシル、お前はミハエルとのこと、どう思っている?」
 「お父様、まず謝罪させてください。
 私の不徳の致すところ。そのせいでお父様や家に迷惑をかけてしまい申し訳ありません。
 ミハエル様との婚約は破棄させてください。
 私はどのような処罰でも受ける所存です」
 「セシル、お前が謝罪する道理はないよ。
 元々この婚約は私も望んではいなかった。
 できるだけ、お前に傷がつかないように婚約を破棄しよう。
 それと、グロリア、セシルの婚約は破棄になったがお前とミハエルが婚約することはない」
 「どうしてですか?
 お姉様とミハエル様は家に必要だから婚約をなさったのでしょう。
 ミハエル様は私で良いと仰ってくれていますわ。
 だったら私で良いではありませんか」

 「グロリア、いいことを教えてあげるわ。
 情勢常に変化するものなのよ。それに元々向こうが望んだ婚約で我が家には必要のない婚約だったの。
 以前の我が家には侯爵家に歯向かうだけの力がなかったから仕方がなく受け入れたけれど今は違うわ。
 『嫌だ』と言えるのよ」

 「グロリア、婚約破棄は致命的だ。
 お前がそうさせた。お前の姉に。
 そこでお前とミハエル様の婚約を許せばセシルは妹に婚約者を取られたと社交界で笑いものになり次の縁談にも影響が出る。
 何よりもこれ以上家に傷をつけるようなことはしないでくれ。
 お前の婚約者は予定通り、あの中から選べ」
 「・・・・・・して、どうしてお父様はいつもそうなの?
 お姉様のことばっかり」

 「私はセシルを優先した覚えはない。
 そう見えるのはセシルが必要なことを、いや、それ以上に家に貢献し、お前は病弱だなんだと言って現状に甘え、何もしてこないからだ。
 何もしないお前と家の為に頑張っているセシルを平等に扱えば、それはセシルに対する侮辱だ」
 「だって、だって仕方がないじゃない!
 私はお姉様と違って体が弱いんだもん」

 そう言って部屋を出て行ったグロリアはで自分の部屋に戻る。

 「・・・・・・誰の体が弱いって?」
 「言うな、セシル」

 はぁ、と深い溜息をついた父は大分お疲れのようだ。
 無理もない。

 「すまない、セシル。
 当時の我が家にもう少し力があればこのような結末は避けれたのに。
 しかも我が家は現在、お前のおかげでもっている状態なのに、このような仕打ちを」
 「いいえ、お父様。私が自分でやっていることですわ。
 お父様の助けがしたくて。
 それにこの程度でへこたれる程、私は軟ではありませんわ」
 「だが、暫く社交界では辛いぞ」
 「これでも一応、理解ある友人がいますの。
 それに氷姫は何があっても揺るがないものですわ」

 私もにっこりと笑ってジークと一緒に部屋を出た。



❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️


 「お嬢様」
 夜間になり眠れない私の元へジークが訪ねて来た。
 その手にははちみつ色をした液体が入っている瓶とガラスのコップが二つある。

 因みにお酒の摂取が可能な年齢は14歳からとなっているので私は問題なく飲める。
 普段はあまり飲まないのだが。

 私はジークの気遣いに感謝し、彼と一緒にお酒を飲むことにした。

 「好いていらしたのですか、ミハエル様を」
 私は持っていたグラスを傾けながら考えた。

 「正直言うと、馬が合わないなとは思った。
 考え方とか、価値観とか、全然違うし」

 ミハエルは上位のものにはへりくだるが、下位の者には見下す傾向にある。
 平民を同じ人間だとは考えていない。
 そんな人に好感を持つことはできなかった。
 そんな彼だからこそ私がやっている事業のことは黙っていた。
 お金目当てで来られても困るし。

 「でも、傷ついたのは事実ですよね。
 ミハエル様とグロリア様のことで」
 「そう、ね。好いてもらいたいとは思ったし、自分も極力好きになれるように努力はしたけど無理だった。
 結果、大損ね。失敗、失敗。まぁ、こういうこともあるよ」

 「私だったら絶対に大切にするのに」
 「ん?何か言った?」
 「いいえ、何も。
 そろそろ寝ましょうか」
 「そうね。夜更かしはお肌の大敵」

 お酒を飲んでちょっと話して、それだけ。
 でもアルコールが体に回ってきたせいか、さっきよりかは眠れそうだ。
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