仄暗い部屋から

神崎真紅

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第四章

act 19 壊れかけ

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   今年の長い梅雨のせいで、賢司は仕事がなかった。そんな7月のある日。

   賢司が家中を破壊して回っている。

   ここ数日間、賢司はまたひとりで覚醒剤にどっぷりと浸かっている。

   瞳は、右わき腹から背中にかけて、時折、耐え難い激痛に苛まれていた。
   何も、やる気になれずただひとりベッドに潜り込んでいた。

   その間、賢司は休みもせずに、壊れたロボットの様に動き続けている。
   瞳の知る限りでは、賢司はもう軽く5日くらいは寝ていない。

   馬鹿らしくて何も話す気にもなれず、ただ瞳は身体の限界と戦っていた。

   そう。
   限界が来たら、死ねる。

   瞳自体も、覚醒剤の影響を強く受けて、まともな思考なんて持ち合わせていなかったのかも知れない。

   一度壊れた脳は元には戻らない。
 そして、壊れた心もやっぱり元には戻れないのだろう。

   今回も賢司はまた瞳を誘おうとしてきた。
けれど瞳は、身体の不調を切実に訴えて、何とかはぐらかしていた。
 本当ならこのまま入院してしまいたい。

   今の壊れた賢司の傍にいるだけでも、病状が悪化する。

   目覚めた時から、賢司の発するとてつもないデカい物音に、かなり苛ついて来ていた。

   それは同時に、瞳への当てつけにも聞こえるからこそ、だ。

   そんなに覚醒剤がやりたいの?
   それがもう瞳には、分からなくなっていた。

   だって恐怖しか感じない。
   だって痛みしか与えられない。

   瞳は、まだ、人間だ。
   感情は、死んではいない。

   けれど、賢司は、もう人間じゃないのかも知れない。
   ふたりの行き着く先は地獄なのだろうか?
ならば今生きている世界も地獄なのではないか?

   賢司の動きはまるで機械仕掛けの人形宜しく、止まる、という事を知らない。

   嗚呼、さっき多めに飲んだ安定剤が少し効いてきたようだ。

   うっすらと、視界がぼやけてゆく…。
   このまま目覚めたくはないのだけれど。
   目覚めた時、病院のベッドだったら良いのにな、なんてふと、思ってみた。

   生きるのは苦痛。
   死ぬのは淋しい。

   どんなに足掻いても、瞳はこの家からは離れられないのだ。

   覚醒剤も品質があるらしくて、悪いものだと一度でも廃人になってしまう事もあるらしい。

   そこは賢司。
   つてはたくさんあるのだろう。
   今までで、変なものに当たった事はなかった。

   けれど良すぎるのも善し悪し。
   賢司は瞳には容赦ない量を打つ。

   それは賢司が気持ちよくなるためでしかなかった。
   例え瞳が多すぎる覚醒剤のために、心臓が止まっても、それでいいのだろう。

   歪んだ、歪み切った恋情。
  そして、断ち切れない、愛憎。

   これを何と表現したらいいのか、瞳には、思い付かなかった。


   ただ、恐怖だけは忘れる事は出来なかった。
   それが、何に対しての恐怖なのかは考えたくはなかったけれど。

   賢司への恐怖なのか?
   覚醒剤への恐怖なのか?

   恐らくどちらとも決められない。
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