仄暗い部屋から

神崎真紅

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第一章

act 8 罠に堕ちる

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 さて、と。
    瞳ちゃんは何が好きかな?
   やっぱり若い女の子だから、甘い物かな。
    賢司はひとり、コンビニの中を物色していた。
   目に付いた物を、片っ端からカゴに放り込む。

・・・ひととおり目ぼしい物を買い込んだ賢司は、瞳の眠るマンションへと足を向けた。
   マンションに戻った賢司が、寝室を覗くとそこには、すっかり熟睡している瞳の姿があった。

 「よく眠ってるな。こりゃあ朝まで起きそうにないか」

    賢司は寝室のドアをそっと閉めて、さっきとは違う部屋に入った。
    中には、シングルベッドがひとつ、置いてあるだけの殺風景な部屋だ。
 賢司の寝室のベッドは、キングサイズ。
   この部屋は予備の部屋だ。
   たまに賢司の親友が遊びに来る時の為のもの。
   親友の名前は清志。
   清志も薬をやっていた。
   彼はもっぱら炙り専門。
   注射が大嫌いなのだ。
  けれど、薬は止められないでいる。
  いつも賢司にからかわれていた。

 「そんな事やってねぇで、一発刺してみりゃ判るぜ」
 「冗談はよせよ。俺は注射が嫌いなんだよ」
 「ははっ、俺が炙りやっても効かねぇからなぁ」

   他愛もない話を、お互いに薬を身体に入れながら話す。
   清志は出会い系で女の子を誘っては、ビールに薬を入れて飲ませ、効いて行くのを見てるのが好きという、変わった趣味を持っていた。
   賢司にビールに入れて女の子に飲ませると、面白いという話をしたのは、清志だった。
   その話を聞いて、賢司も色んな女で試してみた。
   みんな寸分違わず発情していった。
   飲んでも効くのか・・・。



    翌朝瞳は見知らぬ部屋で目覚めて、困惑していた。

 「ここ…何処?」
 「やぁ、起きたかい?二日酔いは大丈夫?」
 「主任…?ここ主任の家ですか?」
 「あぁ、そうだよ。瞳ちゃん昨夜潰れちゃって、送って行けなかったからね」

    賢司が微笑みながら、そう言った。
    何という失態…。

 「主任、ご迷惑をお掛けしてすみません」
 「何いってるの?瞳ちゃんは俺の彼女になるって、言ったじゃない。忘れちゃったの?」
 「は?いつそんな話をしたんですか?」

  …やっぱり憶えてないか。仕方ないだろうな。
  自分でブラッグアウトするって、言ってたしな。

 「瞳ちゃんに記憶なくても、約束したんだから、俺の彼女になってよ」
 「えっはいっ」

   (あぁ~。
   またやっちゃったよ~。
   あたし酔うと記憶なくすの判ってる癖になぁ…)

 「腹、減っただろ?一緒に食べよう」
 「え…、主任が作ったんですか?」
 「瞳ちゃん、主任は止めようね?賢司って呼んでよ」

   (あれ?
   あたし服が違う…。
   ってか、これ賢司さんが着替えさせたの?
    男物のパジャマだよ~。
   じゃあ…。
   あたし、賢司さんに見られちゃったの?)

   恥ずかしさで、頬から顔全体が紅潮して来た。

 「あぁ、着替えね。そこに掛けて置いたよ。シャワーは使うかい?」 
 「あ、いえ、いいです!!」

    咄嗟に断った。

 「そう?じゃあ着替えたらキッチンにおいで」

   瞳は素早く着替えを済ませて、キッチンに入って行った。
   淹れたてのコーヒーの香りが、二日酔いの頭に心地よい。

 「いい香り…」
 「コーヒーは好きかい?」
 「はい、砂糖と牛乳をたっぷり入れたのが好きです」

  お子ちゃま嗜好だなそりゃ。
   賢司は大きめのマグカップに、コーヒーを注いだ。

 「後は好みでどうぞ」



──────

  瞳はこれからどんどん狂っていく。
    天国と地獄はある意味、背中合わせなのかもな・・・。
    賢司が売人をやっていたのは、もう昔の事。
   今では自分が売人から買っている。
   けれど、個売は高い上に、質が安定しない。
   瞳とふたり分の量を確保しなければならない。
   それも、上等なやつを。
   考えあぐねた末、賢司は知り合いの元締めに連絡を取った。
   此処のモノなら、まず外れはない。

 「久しぶりだな、元気か?」

   聞き慣れた、しゃがれ声が携帯の向こう側から聞こえた。
   賢司の用件など、お見通しの様に言葉が返って来た。

 「幾つ欲しいんだ?」
 「10g、それとポンプ(注射器)10本」
 「あぁ・・・、判った。直ぐ来るかい?」
 「20分で行く」
 「随分早いな、女か」
 「まぁな」

  電話を切ると、賢司は瞳にバスローブを羽織らせて、車に乗せた。
    薬が効いてる。
   ひとりでは置いていけない。
   夜の街道を賢司は車を走らせた。
   助手席に乗せた瞳の花芯には、ローターが埋め込まれていた・・・。

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