仄暗い部屋から

神崎真紅

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第一章

act 7 覚醒剤

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  賢司は二本の注射器をベッドサイドの引き出しにしまい、バスルームに消えた。
  独特な匂いのする汗を流し、バスタオルを巻いてベッドに戻って来た。
  瞳に目覚める様子は、見られない。
  睡眠薬のせいもあるだろうが、何しろ三日間眠っていないのだからな。
  賢司が引き出しから注射器を取り出し、眠っている瞳の腕の静脈に針を刺した。


 「あ・・・・?な、に・・・・?あ、つい・・・・」

  眠っていた瞳が目を覚まし、うわ言の様に、自分の身体の変化を訴えた。

 「熱いか?効いたか」

  今度は急激に冷えてゆく・・・・。

 「さ、むい・・・・」
 「寒いのか」

  賢司が瞳の身体に毛布を掛ける。
  それから・・・・。
  自分の腕に針を刺した。
  熱が血管を駆け巡る。
  たちまち汗が噴き出して来た。

 「瞳、今夜もたっぷり感じさせてやるからな」

  既に瞳は薬が効いて、身体が思う様に動かせない。
  完全に賢司に支配されていた。

 「け、ん・・・・」

  何か言いたそうに、しきりに口を動かすが、口の中が渇き切っていて声も出せない。

 「どうした、瞳。気持ちいいだろ?」

  さっきの身体をめぐった、あの感覚…。
  冷えきった身体で、熱いお風呂に飛び込んだ様に、一気に熱が廻った。
  そして・・・・。
  いきなり寒くなった。
  髪の毛が逆立つ様な感覚。
  これが本当に媚薬なのだろうか?

 「け、ん・・・・、なに・・・・?」
 「これか?瞳、よく聞けよ。これがシャブだ」

  しゃ、ぶ・・・・?
  何を言っているの?

 「な、に・・・・?」
 「判らねぇか、覚醒剤だよ」

  覚醒剤・・・・?
  あたしに?
  使ったの・・・・?
  それじゃ、あたしは犯罪者なのね・・・・。

 「瞳はもう薬の味を覚えちまった。後戻りは出来ねぇよ」

  嗚呼。
  それを知った上で、あたしに使ったの・・・・?
  瞳の戸惑いが、伝わったのか、賢司は瞳の唇にキスをした。

 「う、ふっ・・・・」

  そのまま、首筋から耳たぶへと、舌を這わせてゆく。

 「ひっ、ひ・・・・ひっ・・・・」

  漏れ聞こえる、瞳の吐息の様な、喘ぎ声。

 「よく効いてるな。これなら・・・・」

  ぬぷっ!
  瞳の花弁に指を入れて、中を掻き回す様に動かした。

 「ひっ、あっ、あっ、あぅ~」

  小さく瞳の身体が跳ねた。一度目の絶頂に達した。

 「まだまだこれから瞳は狂って行くぜ」

  賢司の言葉が、何を意味するのか?






  ------賢司には、表と裏の顔があった。
  会社では主任としての顔、宮原賢司。
  そして、裏ではキタムラと名乗り薬の売人をしていた。
  ある年の新入社員として、入社して来たのが瞳。
  森下瞳だった。

  そして、賢司は瞳の上司として、瞳の新入社員の教育をする事になる。
  大学を卒業したばかりの、22才の瞳は三十路の賢司には眩しく映った。


 『この娘を手に入れたい』


  賢司の持つS性を刺激するタイプだった瞳。
  小柄で華奢な、なのに制服からでもその大きさが際立つ胸元。
  童顔で色白、瞳という名前がよく似合う大きな目。

  賢司は殊更に瞳には優しく接した。
  まだ本当の恋を知らなかった瞳が、賢司の手に堕ちるのに時間は掛からなかった。

  ある日、賢司と瞳はふたりきりで残業をしていた。
  ふと、賢司が時計を見ると、9時を回っていた。

 「森下さん、もう今夜は終わりにしよう?」
 「はい、主任」
 「腹が減っただろう?俺が奢るから、飯食ってかないかい?」
 「え?いいんですか?」

  賢司は爽やかに笑いながらこう付け加えた。

 「俺もひとりで食うのは、侘しいんだよ」
 「でも・・・・主任って女子社員の人気者じゃないですか?」
 「俺は君がタイプだけどね」
 「えっ?」

  秘かに寄せていた。
  賢司への想い。

 「主任、からかわないで…下さい」

  瞳は俯きながら、真っ赤に染まった顔を隠した。

 「はは、森下さん?顔赤くなってるよ」
 「えっ、やだっ」
 「ははっ、行こうか」
 「はい、主任笑わないで下さい」

  手早く着替えを済ますと、賢司が車を回して待っていた。

 「さぁ、乗って」
 「お邪魔します」

  瞳が車に乗った時、短いスカートから、ちらりと太股が覗いた・・・・。

 「俺の行き付けの店でいいかい?」

  助手席で、所在なくしている瞳に賢司は聞いた。

 「あ、はい。あの・・・・主任にお任せします」

  耳が、頬が、熱い。
  憧れていた賢司の運転する車の、助手席にあたしは今乗っているんだ....。

 「着いたよ」

  そこは。
  洒落た造りの、洋風居酒屋だった。

 「ここでいいかい?」
 「は、はい。あの・・・・主任?」
 「ん?何だい?」
 「このお店、よく来るんですか?」
 「うん、大抵はひとりだけどね。接待で使う事もあるよ」

  その間に店員が、奥の個室に案内してくれた。

 「こちらのお部屋で宜しいですか?」
 「あぁ、いいよ」
 「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
 「あ、ちょっと待って。森下さんアルコールはイケる?」
 「あ、はい。何でも飲めます」
 「じゃ、最初は生ビール、いく?」
 「はい」
 「君、生ビールふたつね」
 「畏まりました」

  店員が行ってしまうと、ふたりきりだ。
  瞳は、仕事の時とは違う雰囲気の賢司に、戸惑っていた。

 「瞳ちゃん、って呼んでもいいかい?」
 「えっ?はい。主任」

  あはは、と賢司は笑って言った。

 「俺の事も主任は止めてくれよ」
 「えーでも・・・・」
 「そうだな、賢司って呼んでもいいんだよ?」
 「そ、それは無理です!」
 「じゃあ宮原でもいいよ。プライベートだからね」
 「はい、それじゃ宮原さん」

  こうして間近で見れば見る程、瞳は俺の好みだな。
  どうやって口説き落とそうか?

  微笑んで瞳を見詰める賢司の、心の中は妖しく揺らめいていた....。
  程なくして、生ビールが運ばれて来た。

 「じゃあ、遅くまで残業お疲れ様」
 「お疲れ様です」

  カチンと、ふたりのジョッキが音を立てた。
  賢司は早いピッチでビールを流し込む。
  吊られて瞳もペースが早くなる。

 「好きな物を注文しなよ?」
 「あ、はい。それじゃ」

  メニューを取り出し、ぱらぱらと捲ってゆく。
  その、仕草のひとつひとつが、賢司には可愛く映った。
  幾つかの、料理を選んで瞳はオーダーした。

 「しゅ、宮原さんは何か頼まないんですか?」
 「俺か?瞳ちゃんと一緒に食べるからいいよ」

  アルコールのせいじゃ、ない。
  賢司の言葉や仕草に酔ってゆく瞳・・・・。

  これは簡単に堕ちそうだな。
  賢司は値踏みしていた。

  端正な顔立ちと、エリートコースを走る賢司。
  女子社員は皆賢司を狙っている事くらい、瞳だって知っている。

 「ねぇ、瞳ちゃん?」
 「はい~?何ですか~?」

  かなり酔っているな。
  これなら大丈夫だろう。

 「俺と付き合ってくれない?」
 「あい?今付き合ってるじゃないですか~?」
 「そうじゃなくて、俺の彼女になってくれない?」

  彼女・・・・?
  彼女って何だっけ?
  まぁいいか~?

 「いいですよ~。彼女でも何でもなりますよ~」
 「本当だね?良かった~、振られたらやけ酒になってたよ」
 「何言ってるんですか~。モテモテな癖に~」
 「何とも思ってない娘から言い寄られても、鬱陶しいだけだよ」
 「それはそうですね~。あたしも経験有りますから判ります~」
 「瞳ちゃん?大分酔ってるけど、大丈夫?」
 「あたし酔うと記憶亡くすんです~」

  ブラックアウトかよ。
  まさか今夜の事、憶えてないなんて、言わないだろうな。

 「瞳ちゃん、明日も仕事だ。今夜はこの辺で帰ろう。送って行くよ」
 「はい~、すみません~宮原さん・・・・」

  賢司は素早く会計を済ますと、千鳥足の瞳の身体を支えて車に乗せた。

  このまま。
  帰さずにマンションに連れて行こう。
  深夜の都内の街道を滑る様に車を走らせた。

  街外れの閑静な住宅街の一画に、そのマンションはあった。
  外観からして、賃貸ではない事が伺えるその造り。
  エントランスにはオートロックと、広いラウンジの様な造り。
  左側にカウンターが設置されていて、管理人が声を掛けてきた。

 「お帰りなさいませ、宮原様」
 「ただいま」

  賢司は瞳をお姫様抱っこしたまま、エレベーターに乗り最上階のボタンを押した。

 「完全に酔い潰れてるな」


  ------ポーン!!

  この階には、他に部屋はなく、賢司ひとりの空間だった。
  無論、裏の顔を持つ賢司が、出来る限り人目を避けたい為に探した物件だ。

  ごそごそとポケットから鍵を取り出し、中に入る。
  玄関を開けると、パッと照明が点いた。
  賢司は瞳を抱いたまま、寝室のベッドにそっと降ろした。


 「・・・・服は苦しいか」

  戸惑いもなく、賢司は瞳の服を脱がした。
  華奢な身体が、露になってゆく。
  その・・・・。
  豊満な胸を締め付けていたブラを外すと、形の良いふたつの乳房が揺れた。

  ゴクリ!
  賢司が喉を鳴らした。
  このまま抱いてしまいたい衝動を抑えて、瞳に自分のパジャマを着せ布団を掛けた。
  そして賢司は寝室から出てバスルームに入って行った。
  賢司が軽くシャワーを浴びて、リビングに戻って来ると、賢司の携帯が鳴った。

 「・・・・はい」

  低い声で電話に出る。

 「・・・・判った、何時もの場所に30分後に」

  賢司は携帯を切ると、リビングの隣の部屋に入り、何か作業を始めた。
  ビニール袋に入った半透明の結晶を、精密計りで計り、小さなジッパー付きの袋に入れてゆく。

  これが所謂(いわゆる)パケと呼ばれるものだ。
  中身は無論、覚醒剤。
  それを0.5gずつ計りパケを作る。

 「時間か・・・・」

  賢司は幾つかのパケと注射器を封筒に入れて、小さなバッグに入れて出掛けて行った。
  待ち合わせ場所まで、少し距離がある。
  賢司は車に乗り、静かな住宅街を後にした。

  待ち合わせ場所は、人通りの少ない繁華街の路地。
  賢司の車を見付けると、そっと歩いて来る男がふたり。

  言葉はない。
  賢司が封筒を渡し、男は万札を渡した。
  そのまま賢司は来た道を、何事もなかった様に帰って行った。

  ふと、思い立った様にコンビニに立ち寄った。
  明日の朝食用に、何か買って行こう。
  あの、可愛い俺のウサギちゃんの為に・・・・。
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