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第二章
act 21 賢司のいない生活
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賢司が拘置所にいる間、瞳は瑠花と一緒に毎日面会に行った。
と言っても、土日祭日は会えないけど。
「賢司、判決ずいぶん下がったね?」
「あぁ、瞳の証言のお陰だよ」
「あたし本気で泣いたもんね。でも嘘じゃないよ、あれはあたしの本心だからね」
「そうだな、俺も出来るだけ早く帰れる様に頑張るよ」
「今日漫画六冊差し入れしたからね」
「さんきゅ、あとさ、小説入れてくれよ。古本でいいから西村京太郎の小説がいいな」
「賢司、小説なんか読むの?」
「暇だけはあるからな。留置所の時に読んでて面白かったからさ」
「ふぅん・・・・、じゃ、帰りに古本屋寄ってみるよ」
「あと少しだからな、こうして会えるのもさ。控訴期間が終わったら、月二回しか会えないからな」
「そう・・・・、賢司に会えなくなるの、嫌だなぁ・・・・」
「まだもう少しは会えるし、月二回は面会出来るからな」
「時間です」
あぁ、15分って早いな・・・・。
「じゃ、また明日な。あ、お菓子入れてくれよ」
「うん、判った、じゃあね」
拘置所を出て、差し入れ商店に向かう。
お煎餅と甘いものと、適当にみつくろって選んだ。
「ありがとうございます。これは宮原さんでしたね?」
「はい、そうです」
毎日の様に買っているからか、お店の人も覚えている。
この出費も馬鹿にならない。
瞳はどこか仕事を探そうと考えていた。
何もしないより、早く月日が流れてくれるだろう、と。
瑠花が幼稚園に行ってる間だけでも、仕事を探そう。
そうすれば、二年くらいすぐに過ぎる。
賢司の事だから、きっと刑務所でも上手く立ち回る筈だから。
きっと、早く帰れる。
そう信じてる。
だから賢司、早く帰って来て。
やっぱり賢司がいない生活は、淋しくて、壊れそうになるの。
あたしは・・・・。
そんなに強くないんだよ。
賢司は知ってるでしょ?
あたしが賢司なしでは生きていけない事ぐらい・・・・。
大好きな賢司。
手放したくはなかったけど、賢司が選んだ道だから、あたしは待ってるよ。何年掛かっても、あたしは待ってるよ、賢司。
そんな事、賢司なら判ってるよね?
「ママ、お腹空いた」
「そう、何が食べたいの?」
「セブンイレブンのスパゲッティ」
こいつは何でこんなにセブンイレブンが好きなんだ?
賢司があたしの知らないところで、瑠花を連れてコンビニばっかり寄ってたんだな。
「今日だけだよ?」
「うん!」
どのみち何か買って行かなければ、何もないし。
瑠花とふたりだと、何を作ったらいいのかすら、判らない。
瑠花は、賢司の酒のツマミが好きだ。
それも刺身とか、焼き魚とか。イカの塩辛まで食べる。
反対に瞳は魚はあまり好きではない。
体調によっては、生臭くて食べられない。
ふたりは帰り道のセブンイレブンに寄った。
瑠花は勝手に食べたいものを、カゴに入れている。
でも、カゴに入っているのは、変なお菓子ばかりだ。
「瑠花、お腹空いたんだよね?これはお菓子でしょ?」
「これも食べたいの!」
ったく、誰だよ?
瑠花をこんな我が儘にしたのは。
瞳はあまり食欲がなかったので、サラダをふたつ、カゴに入れた。
「ほら、瑠花。スパゲッティはこっちだよ」
「あれがいい」
指差したのは、パスタサラダ。
「これでいいの?冷たいよ?」
「パパと一緒に買ったんだ。美味しいよ」
あっそう。
あたしはいつの間にか、蚊帳の外だな。
あ!
煙草買わなくちゃ。
さすがに煙草は辞められない。
アルコールは肝臓を患ってから、呑まない様にしている。
そのせいか、煙草の本数が増えている。
「これくらい、仕方ないよね・・・・」
瑠花とふたり分でも、コンビニで買うと軽く2千円は超えてしまう。
瑠花がつまらないお菓子ばかり買うからだ。
コンビニを出て、古本屋に寄ってみる。
西村京太郎の小説は、ずらりと並んでいた。
「こんなにあるんだ。どれがいいんだろう?確か…十津川警部シリーズがいいって、言ってたっけ」
瞳は適当に六冊選んで、レジに持っていった。
さて、これは明日差し入れしよう。
「瑠花、もう帰ろう」
何だか疲れたせいか、頭が痛い。帰って少し休みたい。
ここのところ、まともに眠れていなかった。
睡眠薬が効かない時が、増えている。
酷い時だと、朝まで眠れない事がある。
これでは、身体がもたないだろうな。
まぁ・・・・。
賢司がいた時はもっと眠らない時はあったんだけど。
違う意味で。
瞳は買って来たものをテーブルに並べる。
瑠花は早速冷製パスタを食べ始まった。
瞳もサラダに手を付けるが、食欲がない。
しかも、先程から頭痛がし始めて来ている。
瞳の頭痛は多分、覚醒剤の副作用の様なものだろうか。
いつも頭の片方がズキズキと痛む。
偏頭痛の薬を飲めば、その痛みからは逃れられる。
ただ、副作用が、ある。
首の後ろ側が熱くなる。
それも苦しいのだが、この頭痛はたまらない。
瞳は観念して偏頭痛の薬を飲んだ。
「瑠花、ママお薬飲んだから、もしかしたら眠っちゃうかも知れないけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ?」
今度は、変なお菓子を作っている。
瑠花は慣れてるから、大丈夫だろう。そう思って、瞳は頭痛から逃れる様に薬を飲んだ。
暫くして頭が熱くなり始めた。
首の後ろ側が熱い。
偏頭痛の薬は、脳に向かっている血管を拡げると、医師から説明を受けていた。
そのため、多量な血液が頭に流れ込む。
首の後ろ側が熱くなるのは、そのせいだ。
・・・・いつの間にか、眠ってしまっていた。
夢を見ていた。
賢司が瞳の腕に注射を打つ夢を。
そんな夢、最近はよく見る様になった。
フラッシュバックだろうか?
瞳はいつの間にか、となりで眠っている瑠花を、起こさない様にそっとベッドから下りて、リビングに入っていった。
グラスに水を汲んで、テーブルに置いた。
傍にあったランプに火を付ける。仄かな灯り・・・・。
懐かしいな。
賢司はこのランプの灯りが好きだったっけ。
グラスの水を一気に飲んで、パソコンを立ち上げた。
忘れぬ記憶の狭間で、瞳は動画サイトの検索エンジンに『覚醒剤』と、入力した。
芸能人の逮捕の動画やら、完全にぶっ飛んでる状態の動画を、探しては観る
。
ただ、それだけなのに、瞳の足先は冷たくなってしまう。
何やってんだろう?
あたしは、薬が欲しいのだろうか?
睡眠薬すら効かない夜、瞳は不安に流されそうになりながら、ひとり物思いにふける。
「賢司・・・・、会いたい・・・・」
呟きながら、賢司の写真を見つめていた。
賢司の事を思うと、視界が歪む。
パソコンの動画サイトでは、警視庁24時が覚醒剤の密売人のアジトに踏み込むシーンが流れていた。
あぁ・・・・。
ガサだな。
部屋中くまなく探している。
やがて、未使用の注射器が数十本、押収された。
他に、使用済みの注射器とパケが出た。
部屋の住人は、現行犯逮捕された。
こんなテレビドラマみたいな事を、瞳はその身で体験しているのだ。
けれど、二度のガサ入れでも、こんな風に部屋を引っ掻き回される様な事はなかった。
一度目は私選弁護士がついていた。
そして、二度目は自首だからだろうか。
でも国選弁護士の話しだと、賢司は義姉に連れられて出頭したものの、その場になって抵抗したらしい。
だから尿も病院で強制で採取されたらしい。
知らなかった・・・・。
弁護士に聞くまで、賢司は自首したと思っていた。
瞳の検事調べの時には、賢司本人が警察署に出頭したと言われた。
検事の調書がそうなっているのなら、賢司は自首した事になるはずだ。
だから求刑より8ヶ月も少なくなったのだろう。
と言っても、土日祭日は会えないけど。
「賢司、判決ずいぶん下がったね?」
「あぁ、瞳の証言のお陰だよ」
「あたし本気で泣いたもんね。でも嘘じゃないよ、あれはあたしの本心だからね」
「そうだな、俺も出来るだけ早く帰れる様に頑張るよ」
「今日漫画六冊差し入れしたからね」
「さんきゅ、あとさ、小説入れてくれよ。古本でいいから西村京太郎の小説がいいな」
「賢司、小説なんか読むの?」
「暇だけはあるからな。留置所の時に読んでて面白かったからさ」
「ふぅん・・・・、じゃ、帰りに古本屋寄ってみるよ」
「あと少しだからな、こうして会えるのもさ。控訴期間が終わったら、月二回しか会えないからな」
「そう・・・・、賢司に会えなくなるの、嫌だなぁ・・・・」
「まだもう少しは会えるし、月二回は面会出来るからな」
「時間です」
あぁ、15分って早いな・・・・。
「じゃ、また明日な。あ、お菓子入れてくれよ」
「うん、判った、じゃあね」
拘置所を出て、差し入れ商店に向かう。
お煎餅と甘いものと、適当にみつくろって選んだ。
「ありがとうございます。これは宮原さんでしたね?」
「はい、そうです」
毎日の様に買っているからか、お店の人も覚えている。
この出費も馬鹿にならない。
瞳はどこか仕事を探そうと考えていた。
何もしないより、早く月日が流れてくれるだろう、と。
瑠花が幼稚園に行ってる間だけでも、仕事を探そう。
そうすれば、二年くらいすぐに過ぎる。
賢司の事だから、きっと刑務所でも上手く立ち回る筈だから。
きっと、早く帰れる。
そう信じてる。
だから賢司、早く帰って来て。
やっぱり賢司がいない生活は、淋しくて、壊れそうになるの。
あたしは・・・・。
そんなに強くないんだよ。
賢司は知ってるでしょ?
あたしが賢司なしでは生きていけない事ぐらい・・・・。
大好きな賢司。
手放したくはなかったけど、賢司が選んだ道だから、あたしは待ってるよ。何年掛かっても、あたしは待ってるよ、賢司。
そんな事、賢司なら判ってるよね?
「ママ、お腹空いた」
「そう、何が食べたいの?」
「セブンイレブンのスパゲッティ」
こいつは何でこんなにセブンイレブンが好きなんだ?
賢司があたしの知らないところで、瑠花を連れてコンビニばっかり寄ってたんだな。
「今日だけだよ?」
「うん!」
どのみち何か買って行かなければ、何もないし。
瑠花とふたりだと、何を作ったらいいのかすら、判らない。
瑠花は、賢司の酒のツマミが好きだ。
それも刺身とか、焼き魚とか。イカの塩辛まで食べる。
反対に瞳は魚はあまり好きではない。
体調によっては、生臭くて食べられない。
ふたりは帰り道のセブンイレブンに寄った。
瑠花は勝手に食べたいものを、カゴに入れている。
でも、カゴに入っているのは、変なお菓子ばかりだ。
「瑠花、お腹空いたんだよね?これはお菓子でしょ?」
「これも食べたいの!」
ったく、誰だよ?
瑠花をこんな我が儘にしたのは。
瞳はあまり食欲がなかったので、サラダをふたつ、カゴに入れた。
「ほら、瑠花。スパゲッティはこっちだよ」
「あれがいい」
指差したのは、パスタサラダ。
「これでいいの?冷たいよ?」
「パパと一緒に買ったんだ。美味しいよ」
あっそう。
あたしはいつの間にか、蚊帳の外だな。
あ!
煙草買わなくちゃ。
さすがに煙草は辞められない。
アルコールは肝臓を患ってから、呑まない様にしている。
そのせいか、煙草の本数が増えている。
「これくらい、仕方ないよね・・・・」
瑠花とふたり分でも、コンビニで買うと軽く2千円は超えてしまう。
瑠花がつまらないお菓子ばかり買うからだ。
コンビニを出て、古本屋に寄ってみる。
西村京太郎の小説は、ずらりと並んでいた。
「こんなにあるんだ。どれがいいんだろう?確か…十津川警部シリーズがいいって、言ってたっけ」
瞳は適当に六冊選んで、レジに持っていった。
さて、これは明日差し入れしよう。
「瑠花、もう帰ろう」
何だか疲れたせいか、頭が痛い。帰って少し休みたい。
ここのところ、まともに眠れていなかった。
睡眠薬が効かない時が、増えている。
酷い時だと、朝まで眠れない事がある。
これでは、身体がもたないだろうな。
まぁ・・・・。
賢司がいた時はもっと眠らない時はあったんだけど。
違う意味で。
瞳は買って来たものをテーブルに並べる。
瑠花は早速冷製パスタを食べ始まった。
瞳もサラダに手を付けるが、食欲がない。
しかも、先程から頭痛がし始めて来ている。
瞳の頭痛は多分、覚醒剤の副作用の様なものだろうか。
いつも頭の片方がズキズキと痛む。
偏頭痛の薬を飲めば、その痛みからは逃れられる。
ただ、副作用が、ある。
首の後ろ側が熱くなる。
それも苦しいのだが、この頭痛はたまらない。
瞳は観念して偏頭痛の薬を飲んだ。
「瑠花、ママお薬飲んだから、もしかしたら眠っちゃうかも知れないけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ?」
今度は、変なお菓子を作っている。
瑠花は慣れてるから、大丈夫だろう。そう思って、瞳は頭痛から逃れる様に薬を飲んだ。
暫くして頭が熱くなり始めた。
首の後ろ側が熱い。
偏頭痛の薬は、脳に向かっている血管を拡げると、医師から説明を受けていた。
そのため、多量な血液が頭に流れ込む。
首の後ろ側が熱くなるのは、そのせいだ。
・・・・いつの間にか、眠ってしまっていた。
夢を見ていた。
賢司が瞳の腕に注射を打つ夢を。
そんな夢、最近はよく見る様になった。
フラッシュバックだろうか?
瞳はいつの間にか、となりで眠っている瑠花を、起こさない様にそっとベッドから下りて、リビングに入っていった。
グラスに水を汲んで、テーブルに置いた。
傍にあったランプに火を付ける。仄かな灯り・・・・。
懐かしいな。
賢司はこのランプの灯りが好きだったっけ。
グラスの水を一気に飲んで、パソコンを立ち上げた。
忘れぬ記憶の狭間で、瞳は動画サイトの検索エンジンに『覚醒剤』と、入力した。
芸能人の逮捕の動画やら、完全にぶっ飛んでる状態の動画を、探しては観る
。
ただ、それだけなのに、瞳の足先は冷たくなってしまう。
何やってんだろう?
あたしは、薬が欲しいのだろうか?
睡眠薬すら効かない夜、瞳は不安に流されそうになりながら、ひとり物思いにふける。
「賢司・・・・、会いたい・・・・」
呟きながら、賢司の写真を見つめていた。
賢司の事を思うと、視界が歪む。
パソコンの動画サイトでは、警視庁24時が覚醒剤の密売人のアジトに踏み込むシーンが流れていた。
あぁ・・・・。
ガサだな。
部屋中くまなく探している。
やがて、未使用の注射器が数十本、押収された。
他に、使用済みの注射器とパケが出た。
部屋の住人は、現行犯逮捕された。
こんなテレビドラマみたいな事を、瞳はその身で体験しているのだ。
けれど、二度のガサ入れでも、こんな風に部屋を引っ掻き回される様な事はなかった。
一度目は私選弁護士がついていた。
そして、二度目は自首だからだろうか。
でも国選弁護士の話しだと、賢司は義姉に連れられて出頭したものの、その場になって抵抗したらしい。
だから尿も病院で強制で採取されたらしい。
知らなかった・・・・。
弁護士に聞くまで、賢司は自首したと思っていた。
瞳の検事調べの時には、賢司本人が警察署に出頭したと言われた。
検事の調書がそうなっているのなら、賢司は自首した事になるはずだ。
だから求刑より8ヶ月も少なくなったのだろう。
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