仄暗い部屋から

神崎真紅

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第二章

act 24 ほんの少しの勇気

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賢司からの手紙が途絶えて、既に一ヶ月が過ぎようとしていた。
  焦れた瞳が、とにかく少年刑務所に行ってみようと考えた。
  何か判るかも知れない。
  まだ、いれば会えるし、いなければ移管されたと判るから。

  ジリジリと焼けつく日差し。
  蝉の鳴く声。
  受付で面会用紙に記入して待った。
  やがて受付の電話が鳴り、賢司はここにいない事を告げられた。
  それから、受付の人は親切に教えてくれた。

 「あそこの建物の、正面玄関の横に受付がありますから、そこで受刑者の名前を言えば、どこに移管されたか教えてくれますから」
 「ありがとうございます!」

  目の前がぱぁっと明るくなった。

 「はい、この人は9日に栃木に移送になってますね。これが住所です」
 「ありがとうございます。あの・・・・、面会は出来ますか?」
 「大丈夫ですよ」

  今日は金曜日。
  月曜に面会に行こう。

  あぁ。
  賢司に会える。
  その夜、賢司の事ばかり考えて、睡眠薬がちっとも効かなかった。
  話す事が有りすぎて、何から話したらいいんだろ?
  瞳は嬉しくて、賢司に電報を打った。

 『月曜日に面会に行きます』

  今日は金曜日。
  電報は今日届く。

  あぁ。
  月曜日が待ち遠しい。
  携帯のナビで道順を確認する。
  国道を通っていけば、大体一本道だった。
  これなら、瞳でも迷わずに行けるだろう。
  ・・・・多分。

 「瑠花、月曜日にパパに会いに行こうね」
 「パパに会えるの?」
 「そうだよ、ちょっと遠いから、朝早く出掛けようね」

  道に迷った時の事を考えて、瞳は朝早く出掛けるつもりでいた。
  月曜日。

 「瑠花、早く支度してね。パパ待ってるよ」
 「う~ん・・・・、眠い・・・・」
 「また昨夜遅くまで起きてたの?とにかく車に乗って。そしたら寝ててもいいからね」
 「・・・・分かった」

  家から大体二時間の道のりだった。
  決して近くは、ない。
  しかも運転は超ド級の方向音痴の瞳だ。

  でも、不安なんてなかった。
  賢司に会えるんだもん。
  一ヶ月振りだろうか。
  賢司、心配してるだろうな。
  でも、きっとわくわくしながら待ってるよね。

  瞳にしては珍しく、迷う事なく目的地に着いた。
  ここは、初犯の人間だけが入る刑務所だ。
  以前瞳は、弟の面会に来た事があった。
  その時は、父の車で、父の運転だった。
  しかも父は変わった道順で行くので、瞳には覚えられない。
  ナビだけを頼りに、車を走らせて漸く到着した。

  賢司に会える!
  震災の影響はここにもあった。
  待合室が真新しく、病院の待合室の様に変わっていた。
  テレビまである。
  そそくさと面会用紙に記入する。
  身分証と一緒にそれを渡すと、受付の男性が親切に教えてくれた。

  荷物はそこのロッカーに入れて下さい。筆記用具はお持ちになりますか?」
 「あ、はい」
 「それでは10番でお呼びします。お待ち下さい」

  案外早く順番が廻って来た。

 「10番でお待ちの方、こちらにどうぞ」
 「瑠花、行くよ。パパ待ってるよ」

  看守の後ろを歩いて、オートロックの掛かったドアから中に入る。
  無論、エアコンは効いてない。
  暑い。

 「こちらにどうぞ」
 「はい」

  面会室は、どこも同じような造りだった。

 「よぅ、迷わず来られたか?」

  賢司が入って来るなりそう言った。

 「ナビ使って、何とかね。でも大体一本道だったよ」
 「そうか。ずっと連絡取れなくなっちゃったから、何かあったのかと思ったよ」
 「だって、賢司からの手紙も来ないし、あたしが出した手紙も宛名不明で戻って来ちゃったんだよ?」
 「8月6日に来るって言ってたのに、来ないからさ。どうしたのか心配だったよ」
 「だってその前にあたしの手紙戻って来ちゃったし。移管されたのかと思って賢司からの手紙待ってたんだよ」
 「そうか。でもな瞳、電報は止めてくれ。何かあったのかびっくりするからな」
 「あれは賢司の居場所が判って、つい嬉しくて打っちゃったの」

  もう!
  人の気も知らないで。
  でも仕方ないのか・・・・。
  移管されたばかりじゃ、手紙出せないんだもんね。
  今日会えたからいいや。

 「今月あと一回面会出来るんだよね?もう月末だし、来週の月曜にまた来るよ」
 「んじゃ、そん時でいいからタオル差し入れしてくれよ。なるべく色の濃いやつな」
 「判った、ワークマンに売ってるやつでしょ?」
 「うん、それと同じ色のハンカチも頼むよ。今日は何か持って来た?」
 「今日はジャンプだけ。あと瑠花の自治会のお祭りの時の写真」
 「へぇ?瞳が自治会の祭りなんか行くの珍しくね?」
 「だって瑠花どこにも連れてってやれないしさ。少しでも楽しく過ごせればなって思ったんだよ」
 「そろそろ時間です」

  看守がそっと告げる。
  あぁ。
  もう終わりか・・・・。

 「じゃあなまた来週。気をつけて帰れよ。瑠花、バイバイ」
 「パパ、バイバイ」

  重い扉の向こうに賢司は帰ってゆく。
  何度見てもやるせない気持ちが沸き上がる。

 「瑠花、帰ろう」
 「ママ、ここ開けてくれるまで待ってるんだって、書いてあるよ」

  あれ、本当だ。
  やっぱり刑務所だわ。
  看守がドアを開けてくれる。
  オートロックを解除して、そこで看守は戻っていった。
  待合室に戻り、ロッカーから荷物を取り出し、今度は差し入れの受付に向かった。

  留置所でも、拘置所でも、殆んど手順は変わらない。
  出された用紙に、差し入れの物の名前と受刑者の名前と自分の住所、氏名を書いて渡す。
  ただ、それだけだ。
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