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第三章
act 13 瞳の病気
しおりを挟む内科の薬が無くなったので、瞳は掛かりつけの病院に薬を貰いに行った。
そこで医師から先月採血した時の、肝機能の数値が三桁まで上がっている事を告げられた。
「ずっと低くはなかったけどね、三桁は拙いよ。今日も採血と、それから点滴ね」
慣れた病院だ。
瞳は処置室のベッドに横になった。
看護婦さんも、皆見知っている。
左腕を出して待っていた。
瞳は右腕は血管が出ないからだ。
しかし。
何年も賢司の手によって、覚醒剤を打たれ続けたその腕は、中々血管に入らない。
かなりベテランの看護婦さんだったのだが、一度目は失敗。
二度目で漸く静脈に針が入った。
先ずは採血を二本。
瑠花が興味津々で見ている。
「ママの血、黒いね」
「これは静脈から採ってるからだよ。空気と混ざれば真っ赤になるんだよ」
「ふ~ん・・・・。瑠花血液型何だろうな」
普通は出産の時に、母子手帳に記載されるのだが、瑠花を産んだ周産期センターでは、稀に夫婦喧嘩の元になる事があるとかで、瑠花の血液型は未だ調べていない。
本人は知りたくて仕方がない様だが。
瞳がB型で、賢司がA型だ。
本来なら、全ての血液型が当てはまる。
けれど、お互いの両親にO型はいない。
なので瑠花の血液型にO型はあり得ない。
採血の後、小さな点滴のパックが下げられた。
「30分くらいかな?」
「そうだね、小さいからね。じゃ、終わったらこのボタン押してね」
「瑠花が見てる」
「そう?じゃあお願いね」
何だか横になってたら、眠っちゃいそう。
・・・・少し、眠ったのだろうか?
「・・・・マ、ママ。もう終わるよ」
瑠花の声に、はっとした。
「もう少しだね」
点滴は、もう殆んど残ってなかった。
「瑠花、もう呼んでもいいよ。逆流しちゃうからね」
「うん」
ポ----ン!
直ぐに看護婦さんが来てくれた。
「はい、お疲れ様。抜く時ちょっと痛いよ。じゃ、ここちょっと押さえててね。ゆっくりでいいからね。1番に入ってね」
医師からの話を聞くために1番診察室に入る。
「えーと、少し肝臓の薬飲んでもらうからね。それと、今日の採血の結果を聞きに、明後日の午後また来て」
「はい、ありがとうございました」
----2日後。
「うーん、肝機能の数値は前よりは良くなってるね。じゃあエコーで診るから、そこに寝て。お腹出して」
「はい」
「これ、太り過ぎだよ。普通はこれで肝臓見えるのに。はい、大きく息を吸ってーはい、止めて。こうやって深く息を吸うと肺が上がって肝臓が見えるんだよ」
く、くるし・・・・。
「胆石があるね。大きさは2㎝くらいかな。1・8㎝だね」
「えっ?そんな大きいのがあって、痛くないんですか?」
「普通は痛いはずだよ。でも、痛くないなら無痛胆石だね」
「先生、胆石なんて初めて聞きました。何時からあったんですか?」
「これだけの大きさになるには、2年くらい前にはあったんじゃ、ないかな。それだけ太ってれば、珍しくないよ。脂肪の塊、脂肪で出来た石だね」
「うわ~、何かショック・・・・」
「肝臓はそんなに脂肪ついてないね。はい、もういいよ」
看護婦さんがお腹を拭いてくれる。
「さて、肝機能が上がってるから、そろそろインターフェロン治療を考えた方がいいと思うよ」
「はい、でもここじゃもう出来ないんですよね?」
「うん、僕は紹介状を書くだけ」
「じゃあここから近い相川さんでいいです」
「決めるの?」
「はい、今ヘルパーの手続きを取ってるんで、やるなら早い方がいいと思います」
「二度目だからね、今度は1年間かかるよ」
「やっぱり副作用は同じですか?」
「勿論、でも薬も種類が増えたみたいだし、持ってる型に合う薬を使うはずだよ。ま、前回と同じⅡ型だろうけどね」
「判りました、決めます」
「そう、じゃあ紹介状書いておくから、休み明けに取りにきて」
「判りました、ありがとうございました」
休み明け、瞳は紹介状を貰いに再び来院。
受付けに用意されていたものを預かって帰宅。
さて。
紹介状は貰ったものの、ヘルパーの方がまだ決まらないのか、何も連絡が入らない。
これではいつから治療を始めればいいのか。
そうこうしているうちに、6月も半ばになってしまった。
面会に行かなくちゃ。
賢司に出した手紙には5日過ぎに行くと書いて出してしまっていた。
まさか4万しか入金がないとは、夢にも思わなかったから。
瑠花の子供手当てのお金が入ったら、それでガソリンを入れて行こう。
ガソリンさえ入っていれば、瑠花とふたりだ。
コンビニで使う分くらいあればいい。
13日にそのお金が入る。
週明けの火曜日に面会に行こう。
----その日の刑務所は、やけに空いていた。
受付け番号も、午後からなのに7番。
午後1番で呼ばれた。
「賢司聞いてよ~、今月4万しか入ってなかったんだよ。生活出来ないよー」
「そうか?あっちはどうした?日本建設の社長からそのあと連絡あったか?」
「ないよ。仕事ないのかなぁ?」
「それはねぇな。相手と日当で話しが着かないのかもな」
「そっちからの収入ないと、この先苦しいー」
「瞳から連絡してみろよ。俺が仮り面入ったとかって、で、ついでに仕事の方どうなりましたか、ってさりげなくな」
「うん、判ったよ」
「で、海はどうなったって?」
「海の権利は返す事になったよ。12万もの大金、今のあたしには用意出来ないし。せめて権利代12万払えば来年まで繋げておけるけど、賢司やる気ないんでしょ?」
「もう海は商売にならねぇよ。海で2ヵ月間店やったとしても、その先の2か月収入無くなるんだぜ。また借金しちまったら同じ事だろ?」
それは、そうだ。
賢司の話しは至極尤もな事だった。
どっちにしても、もう民子さんには賢司は海をやる気はないと、返事はしてしまった。
これで海ももう永遠にさよならなんだ。
「それで、賢司は帰って来たら仕事どうするの?」
「それだけどな、やっぱり赤津さんとこのビニールハウス建てを一緒にやろうと思ってんだ。結構金額いいらしいしな。仕事も年間通してあるらしいしな」
「でも、賢司初めての仕事でしょ?大丈夫なの?」
「仕事自体はそんなに難しいもんじゃないらしいよ。すぐに覚えられるってさ」
「それならいいけど。あ、夏樹がちえと別れたって、ひょっこり来たよ」
「へぇ、やっと吹っ切れたのか。手紙書こうにも何て書いたらいいのか、正直困ってたんだよ。んじゃ夏樹に手紙出せるな」
「パパ、夏樹にいちゃんね、性格戻っちゃったんだよ」
「性格?」
「ずっと落ち込み激しくて、瑠花もからかわれなかったのに、またからかい出したよ。そっちの方が夏樹らしいけどね」
「時間です」
うわー。
何か、一気に喋った気が、する。
「次は来月か?」
「そうだね、日本建設から入金あれば来られるんだけど」
「ま、気を付けて帰れよ。じゃな。瑠花、またな」
「パパ、また来るよ」
次はいつになる事か・・・・。
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