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第三章
act 17 塀の中から
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年が明けて賢司が逮捕されてから、三年目のお正月を迎えた。
時の経つのも早く感じる様になって来た。
今年の6月頃には賢司も多分仮出所で出られるのだろう。
面会の時にも、刑務官はつかなくなった。
家族だけで30分間話しが出来る。
そこで賢司が耳打ちして来た人物がいた。
酒井さんという人で、かなり大きな仕事をしているらしく、なんと三億円の家を持っているという。
その人とは、約一年間同じ部屋にいたらしい。
その時、色々賢司に世話になったらしく、その人から電話が入るからと1月の面会の時に言われた。
…こんな話しも、刑務官がいたら絶対出来ない。
ずっと雑居房にいて、仲良くなったらしい。
そんな話しを聞いてから、数日後に電話が来た。
『どうも、酒井ですー。宮原さんから聞きましてーその内顔出しますよ』
・・・・顔出すって、どういう事だろう?
それから酒井さんは、度々電話を掛けて来る様になった。
そして。
『2月の3日か5日にそっちに行こうと思ってるんですけど、どっちが都合いいですかねー?』
「そうですね・・・・、3日なら空いてますけど」
『判りましたー、それじゃあ3日にそっち行きますんで』
早口で、訛なまりのある酒井さんの言葉は聞き難かった。
けれど、悪い印象はなかった。
あの賢司が、自分のいない時にあたしに他人を会わせるなんて、初めての事だったから。
2月3日当日。
また酒井さんから着信が入った。
『あの、今高速走ってるんですけど、何処で降りたら近いんですかね?』
あたしは最寄のインターチェンジを答えた。
酒井さんは、奥さんと一緒に来てくれた。
これは最低限の常識だ。
初対面の女に会うのに、男ひとりで来たのでは、何かと不都合が生じてしまう。
それから瑠花も連れて魚市場に行って、観光客しか入らないめやくちゃ高い回転すしやに入った。
そこで瑠花は100円の回転すし屋ではお目に掛かれない本マグロ三点盛りを喜んで食べた。
一皿800円のすしだ。
勿論酒井さんの奢り。
更に瑠花に五千円小遣いまでくれた。
お腹がいっぱいになった瑠花は、酒井さんの乗って来たぴかぴかの新車のクラウンの乗り心地の良さにうとうとし始めていた。
それから9日後の月曜日に賢司の面会に行った。
賢司に酒井さんに〇○水産の回転すし屋に連れて行って貰った事、酒井さんが新車のクラウンに乗って来た事を話した。
「へぇ、やっぱりクラウン買ったのか。レクサスは息子が乗ってるって言ってたからな」
「パパ、瑠花もクラウン乗りたい」
「うーん、そうだなぁ。でも俺もう見栄張っていい車に乗ろうとか考えなくなったんだ」
・・・・賢司って究極の見栄っ張りなのに気付いてないのかな?
まぁ、それも塀の中にいる間だけだと思うけどね。
『俺、タバコも辞められそうだからな』
ふぅん、それじゃあ隣りでパカパカ吸ってやろうかな。
とにかく賢司が戻って来るまであと数か月。
面会に行っても自然に笑みが零れる。
慣れた刑務所までの道のりも、もう数回で終わるんだ。
時の経つのも早く感じる様になって来た。
今年の6月頃には賢司も多分仮出所で出られるのだろう。
面会の時にも、刑務官はつかなくなった。
家族だけで30分間話しが出来る。
そこで賢司が耳打ちして来た人物がいた。
酒井さんという人で、かなり大きな仕事をしているらしく、なんと三億円の家を持っているという。
その人とは、約一年間同じ部屋にいたらしい。
その時、色々賢司に世話になったらしく、その人から電話が入るからと1月の面会の時に言われた。
…こんな話しも、刑務官がいたら絶対出来ない。
ずっと雑居房にいて、仲良くなったらしい。
そんな話しを聞いてから、数日後に電話が来た。
『どうも、酒井ですー。宮原さんから聞きましてーその内顔出しますよ』
・・・・顔出すって、どういう事だろう?
それから酒井さんは、度々電話を掛けて来る様になった。
そして。
『2月の3日か5日にそっちに行こうと思ってるんですけど、どっちが都合いいですかねー?』
「そうですね・・・・、3日なら空いてますけど」
『判りましたー、それじゃあ3日にそっち行きますんで』
早口で、訛なまりのある酒井さんの言葉は聞き難かった。
けれど、悪い印象はなかった。
あの賢司が、自分のいない時にあたしに他人を会わせるなんて、初めての事だったから。
2月3日当日。
また酒井さんから着信が入った。
『あの、今高速走ってるんですけど、何処で降りたら近いんですかね?』
あたしは最寄のインターチェンジを答えた。
酒井さんは、奥さんと一緒に来てくれた。
これは最低限の常識だ。
初対面の女に会うのに、男ひとりで来たのでは、何かと不都合が生じてしまう。
それから瑠花も連れて魚市場に行って、観光客しか入らないめやくちゃ高い回転すしやに入った。
そこで瑠花は100円の回転すし屋ではお目に掛かれない本マグロ三点盛りを喜んで食べた。
一皿800円のすしだ。
勿論酒井さんの奢り。
更に瑠花に五千円小遣いまでくれた。
お腹がいっぱいになった瑠花は、酒井さんの乗って来たぴかぴかの新車のクラウンの乗り心地の良さにうとうとし始めていた。
それから9日後の月曜日に賢司の面会に行った。
賢司に酒井さんに〇○水産の回転すし屋に連れて行って貰った事、酒井さんが新車のクラウンに乗って来た事を話した。
「へぇ、やっぱりクラウン買ったのか。レクサスは息子が乗ってるって言ってたからな」
「パパ、瑠花もクラウン乗りたい」
「うーん、そうだなぁ。でも俺もう見栄張っていい車に乗ろうとか考えなくなったんだ」
・・・・賢司って究極の見栄っ張りなのに気付いてないのかな?
まぁ、それも塀の中にいる間だけだと思うけどね。
『俺、タバコも辞められそうだからな』
ふぅん、それじゃあ隣りでパカパカ吸ってやろうかな。
とにかく賢司が戻って来るまであと数か月。
面会に行っても自然に笑みが零れる。
慣れた刑務所までの道のりも、もう数回で終わるんだ。
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