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第三章
act 22 賢司の仮釈放決定
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また数日置いて、民子さんから電話が来た。
今度の電話は、前とは違い穏やかなものだった。
『賢司の出所日が決まったよ。7月21日だって。それで瞳、あんた迎えに行けるの?』
「大丈夫です!釈放は朝の8時半だからこっち6時に出れば待っていられますから」
『あ、そう。あたしは連休の後だから休めないから、じゃあ責任持ってあんたが迎えに行ってね。その後も忙しいからさ。あ、それと賢司はまだ知らないから内緒にしてよ』
「はい、分りました」
突然知らされた賢司の仮釈の日。
今度こそ本当に賢司が帰って来る。
果たして賢司はどのくらい覚醒剤に手を出さずにいられるのか?
瞳は、賢司が帰って来て嬉しい反面心配もついて回る。
瞳と一緒にいたら、また賢司はいつかはその禁断の薬に手を出してしまうだろう、と。
もうそれは避けられない現実となって、瞳自身も巻き込む事だろう。
その時、瞳はどうすればいいのか3年経った今でも分らないままだった。
それに瞳は今、摂食障害を引き起こしている。
摂食障害の引き金になったのは、民子さんからの電話だった。
いつも上から目線で、その言葉はまるで刃物の様に瞳の心を傷付ける。
掛かり付けの精神病院の主治医に、食べても結局無理矢理でも吐いてしまうと相談した。
すると医師からの答えは、至って単純なものだった。
「そのお姉さんに生活面で何か世話にでもなってるの?」
「いいえ、何も」
「だったら何も言われる筋合いはないんじゃないの?聞き流せばいいじゃない?」
「はぁ・・・・それはそうですけど、一応今回の賢司のガラ受けになって貰ってるんで」
「でも、それとこれとは別問題じゃない?実の弟なんでしょ?」
「まぁ、そう言われればそうですけど」
「あんまり考え過ぎない事だね」
医師は笑ってそう言った。
ここは県立の精神病院。
あたしなんかよりはるかに重症な精神疾患の患者が大勢いる。
そして、瞳の主治医であるこの医師は、この病院の副医院長であり、薬物専門のドクターだ。
ちょっと頭のてっぺんの髪が淋しくなっていて、かなり度の強いメガネを掛け、いつも笑顔でカウンセリングする。
相談しやすい印象そのもののドクターだ。
病院のドクターには、守秘義務がある。
急性の薬物中毒で救急搬送されなければ、警察に通報される事は、ない。
だからこそ賢司の事も全て隠さずに話せる。
瞳が心配している事、つまりは賢司が今回の服役で覚醒剤の誘惑から逃れられるか、というごく単純な質問に、医師はこれまた直球で返してきた。
「たとえ環境を変えるつもりで違う街に引っ越したとしても、やりたい奴は必ずまたその地で売人を見つけるからね。無駄だよ」
瞳もそう思っていた。
民子さんに言われた『埼玉のお父さんの所に引っ越せ』という無茶な話しも、所詮は気休めにもならないって事。
賢司は、瞳が傍にいればいつかまたきっと覚醒剤に手を伸ばすだろう。
でも、それを止める術すべは何一つない、という哀しい現実。
賢司にとって、瞳の存在こそが、起爆剤になりかねないという事。
人間の意思など、覚醒剤の前ではまさに風前の灯火ともしびの様に、軽く吹き飛ばされてしまう。
それ程に、覚醒剤の魔力は大きいのだ。
今度の電話は、前とは違い穏やかなものだった。
『賢司の出所日が決まったよ。7月21日だって。それで瞳、あんた迎えに行けるの?』
「大丈夫です!釈放は朝の8時半だからこっち6時に出れば待っていられますから」
『あ、そう。あたしは連休の後だから休めないから、じゃあ責任持ってあんたが迎えに行ってね。その後も忙しいからさ。あ、それと賢司はまだ知らないから内緒にしてよ』
「はい、分りました」
突然知らされた賢司の仮釈の日。
今度こそ本当に賢司が帰って来る。
果たして賢司はどのくらい覚醒剤に手を出さずにいられるのか?
瞳は、賢司が帰って来て嬉しい反面心配もついて回る。
瞳と一緒にいたら、また賢司はいつかはその禁断の薬に手を出してしまうだろう、と。
もうそれは避けられない現実となって、瞳自身も巻き込む事だろう。
その時、瞳はどうすればいいのか3年経った今でも分らないままだった。
それに瞳は今、摂食障害を引き起こしている。
摂食障害の引き金になったのは、民子さんからの電話だった。
いつも上から目線で、その言葉はまるで刃物の様に瞳の心を傷付ける。
掛かり付けの精神病院の主治医に、食べても結局無理矢理でも吐いてしまうと相談した。
すると医師からの答えは、至って単純なものだった。
「そのお姉さんに生活面で何か世話にでもなってるの?」
「いいえ、何も」
「だったら何も言われる筋合いはないんじゃないの?聞き流せばいいじゃない?」
「はぁ・・・・それはそうですけど、一応今回の賢司のガラ受けになって貰ってるんで」
「でも、それとこれとは別問題じゃない?実の弟なんでしょ?」
「まぁ、そう言われればそうですけど」
「あんまり考え過ぎない事だね」
医師は笑ってそう言った。
ここは県立の精神病院。
あたしなんかよりはるかに重症な精神疾患の患者が大勢いる。
そして、瞳の主治医であるこの医師は、この病院の副医院長であり、薬物専門のドクターだ。
ちょっと頭のてっぺんの髪が淋しくなっていて、かなり度の強いメガネを掛け、いつも笑顔でカウンセリングする。
相談しやすい印象そのもののドクターだ。
病院のドクターには、守秘義務がある。
急性の薬物中毒で救急搬送されなければ、警察に通報される事は、ない。
だからこそ賢司の事も全て隠さずに話せる。
瞳が心配している事、つまりは賢司が今回の服役で覚醒剤の誘惑から逃れられるか、というごく単純な質問に、医師はこれまた直球で返してきた。
「たとえ環境を変えるつもりで違う街に引っ越したとしても、やりたい奴は必ずまたその地で売人を見つけるからね。無駄だよ」
瞳もそう思っていた。
民子さんに言われた『埼玉のお父さんの所に引っ越せ』という無茶な話しも、所詮は気休めにもならないって事。
賢司は、瞳が傍にいればいつかまたきっと覚醒剤に手を伸ばすだろう。
でも、それを止める術すべは何一つない、という哀しい現実。
賢司にとって、瞳の存在こそが、起爆剤になりかねないという事。
人間の意思など、覚醒剤の前ではまさに風前の灯火ともしびの様に、軽く吹き飛ばされてしまう。
それ程に、覚醒剤の魔力は大きいのだ。
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