仄暗い部屋から

神崎真紅

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第三章

act  21 摂食障害

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 四月の終わりの頃。

  突然民子さんから電話が掛かって来た。
  このずけずけと、自分の考えを押し付ける賢司の姉が、瞳は苦手だった。

  電話の内容は、賢司が出所した後どうするのか、と言う事だったのだが・・・・。

  民子さんが言いたい事は、環境を変える、と言うものだった。
  とにかくこのままの環境では、賢司はまた覚醒剤に手を染めるのが時間の問題だ、と言う事。

  確かに、瞳もそれはうすうす考えていた事だけれど、再犯率九割と言われている薬物だけに、賢司がまた同じ事を繰り返す心配は拭いきれなかった。
  民子さんの言い分は、この土地を離れ全く違う環境、つまり埼玉にいる賢司の父親の元に行け、と云うものだった。。

  けれど瞳の父はもう80才。
  ここからなら車で20分で実家に帰れる。
  大きな手術を二度受けている父に、何か遭った時に埼玉は遠すぎる。

  瞳の気持ちや、立場を民子さんは考えていない。
  ただこの電話を、一刻も早く切りたかった。
  あの声を聞くのも嫌だった。

  自己満足で、いつも上から目線で話をする。
  自分の考えが全て正しいと勘違いしているそんな人には、何を言っても無駄な事を瞳は知り尽くしていた。

  それに瞳の精神科の主治医も、環境を変えたからって覚醒剤を絶つのは無理だと言われた。
  環境を変えれば覚醒剤が止められる程、甘くはない。

  しかも賢司は瞳とのドラックセックスに嵌り切っていた。
  瞳と一緒にいれば必ずまた手を出す事も、容易に想像がついた。
  何を変えても、ただ無駄に終わるだけだろう。
  それ程に覚醒剤の誘惑は大きいのだ。

  民子さんからの電話を受けて以来、瞳は摂食障害に陥っていた。

  瞳が摂食障害になったのは、これが初めてじゃ、ない。
  これまでにも、何度となく陥っていた症状だった。

  何を食べてもすぐに吐いてしまう。
  食べると気持ちが悪くて、我慢出来ずに、大量の水を飲んでは指を喉に突っ込んで吐き戻す。

  瞳の右手の甲には、吐きダコが出来ている。
  摂取出来るのは、水分だけだった。

  それでもお腹は空く。
  空腹を満たす為に食べると、その後は瞳にとって地獄の時間になってしまう。
  吐く為に水を一気に1L飲み干し、トイレで吐く。
  食べては吐く、の悪循環の繰り返しだった。

  ・・・・お陰で体重は一気に減ったけれど。
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