仄暗い部屋から

神崎真紅

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第三章

act 19 立て続けに起きた事故

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 瞳の父は、七人兄弟の末っ子だった。
  だから従兄弟はたくさんいたけど、歳が離れ過ぎていてあまり遊んで貰った記憶はなかった。

  その父の姉にあたる伯母さんが、この間沸騰していたお風呂に足を入れてしまって、脚を切断するのだと父から電話が入った。

  切断しないと駄目なのかな?
  瞳はただの火傷ぐらいにしか考えていなかったから、その脚を切断するという処置に疑問を抱いた。
  けれど沸騰したお風呂に入ってしまった筋肉は勿論の事、そのまま壊死してしまい切断しないと今度は命までも失う事になる。

  伯母さんのお見舞いに父と弟夫婦と一緒に行った。
  もう96才になるという伯母さんは、少し呆けて来ていた。
  弟の事を何度も何度も繰り返し『秀なの?』と聞いていた。

  まぁ・・・・。
  弟も変わったし、何より会わない年月が長すぎた。
  伯母さんは右脚を根元から切断してあった。
  小さくなり歳を取った伯母さんには、独身の長男しか同居していない。
  この後の生活はどうなるんだろう?

  他人じゃないけど、瞳がどうこう出来る問題ではないのだが。
  瞳には、伯母さんの姿が父の姿に被って映って見えていた。
  父も独り暮らしだ。
  脳梗塞もやった、腹部大動脈瘤のオペもやった、心臓弁膜症のオペもやった。
  そんな父が瞳の実家でたった独りで、がらんと無駄に広い家に住んでいる。

  そんな父からまた電話が来た。
  今度はその下の伯母さんが、味噌汁を鍋ごとひっくり返してこぼしてしまった、と言うのだ。
  伯母さんは87才で、ひとり暮らしだったので味噌汁をこぼして火傷した足を、そのまま3日間も放置してしまった。

  病院に連れて行ったのは、父だった。
  そのまま入院となり数日間は地元の病院にいたが、やはり町医者では対処できず、先に入院した伯母さんと同じ国立救急救命センターに搬送された。

  治療法は、火傷をした部分の皮膚移植。
  まだ、切断にならなかっただけまし、と思うべきなのか。

  伯母さんは小さく痩せていたので、人工皮膚や他の部位の皮膚を使わなくても、自分の身体のしわをひっぱってそのまま縫合するだけで済んだらしい。
  オペの説明を聞いて、これまで病院にすら掛かった事のなかった伯母さんは、かなり恐い思いをしたらしいけど、無論全身麻酔下のもとで行うオペだ。

  何も判らないうちに終わり、次に看護師に話し掛けられるまで分らなかった様だ。
  それでもひと月の入院になるらしいが、もうすぐ90才に届く伯母さんにとっては、病院にいた方が不自由なく三食食べられる訳だし、ずっと入院していたい、と話していたそうだ。

  それは賢司のいる刑務所でも同じ事だった。
  釈放されても帰る家すらない、食べていける訳でもない年老いた囚人は、やっぱり刑務所の中でしか暮らせない人は、結構多いのだ。

  他にも逮捕された事で、家族から見放され一方的に離婚届を送られ、家族の居場所すら教えて貰えない人達もいた。
  こんな人は、釈放されてもまた、つまらない事件を起こして再犯で戻って来る。
  そんな人が多いのだと、賢司は話していた。



  そして、今度は瞳が銀行の駐車場でバックしてる時に、タクシーと接触事故を起こした。
  これで三度目だ。

  さすがにへこむが、警察官が現場検証していて『知り合いじゃないですよね?』と、何回か聞かれた。
  事故の状況として、いささか不自然な個所があったからなのだろう。
  瞳の車のバックランプがついたのを見て、わざと視界に入らない、必ず瞳の車がタクシーの方にバックする場所に止まっていたのだ。

  警官が疑うのも判る。
  瞳も腑に落ちない様な事故だった。
  タクシーから降りて来た運転手は、首が痛いだの、気持ちが悪いだの言っていたが、そんな怪我をする筈がない。
  典型的な当たられ屋だ。
  つまりは運転手が女だった為にカモにされたのだ。
  こんな時、賢司がいてくれたら・・・・。

  警官に呼ばれて瞳が行くと、切られたキップはピンクじゃなくて、青キップだった。
  つまり、警官も人身事故扱いにはしないでくれたのだ。
  あとは保険屋に電話を掛ければ、保険屋が全部対応してくれる。
  任意保険は運転する以上、欠かせないものだと再認識させられた結果に終わった。
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