仄暗い部屋から

神崎真紅

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第四章

act 7 おうぶ

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 賢司がさんざん薬漬けになったままの状態で、仕事に出かけたその日の朝9時前。

  瞳の仕事場に、賢司と一緒に働いている夏樹から電話が入った。

 『瞳さん、賢司さんが心臓発作で救急車で運ばれました』
 「えっ?なんで?」

  あまりにも突然の連絡に、瞳はすっかり冷静さを失って意味不明な返事をしていた。

 『現場で倒れたんで、近くの総合病院に運ばれました。瞳さんこっちまで来られますか?』

  いや、来られるかとか、そんなレベルの話しじゃないし。

 「分かった。すぐ出られるか分からないけど、何て病院?」
 『県西総合病院です』

   
   まだ時間は早いし、瞳が抜けた穴を埋める人は来ない。
  瞳は取りあえず店長に賢司の事を話した。
  店長は、すぐさま代わりの人を探して連絡を取ってくれた。

 「宮原さん、大丈夫ですからすぐに病院に向かって下さい」
 「申し訳ありません。失礼します」

  車に飛び乗り、ナビで目的地を病院にセットする。
  ハンドルを握った途端、さっきまでとは違う現実の世界に引きずり込まれた。

  賢司・・・・。
  どうか、無事でいて・・・・。
  気付いた時には視界が滲んでいた。



  およそ一時間かかって、目的地の県西総合病院が見えてきた。
  が、どこに行けばいいのか分からない。
  瞳は夏樹に電話した。

 「病院に着いたけど、どこに行けばいいの?」
 「裏側に救急患者窓口がありますから、そっちから入って来て下さい」

  裏側?
  裏側の、救急窓口・・・・。
  裏側って、どこ?
  相変わらず瞳の方向音痴は健在だった。

  半分泣きたい気持ちになりながら、あっちこっち救急窓口を探し歩いた。
  と、そこへ賢司が夏樹と社長と一緒に出てきた。

 「あっ、いた。社長どうもすみませんでした。賢司、大丈夫?」
 「瞳か、遅いよ」

  ふらふらしながらも、何とか自力で歩いている。

 「いや瞳さん、変な話しだけどね、賢司君おうぶに憑依されてるみたいだから」
 「は?おうぶ?何ですか?」
 「ほら、賢司君が撮影した動画、見せてもらったんだけどね、赤い丸いのが映って動いてたでしょ?」
 「ああ、あれですか」
 「あれね、おうぶっていう霊体なんだけど、赤いおうぶは悪霊なんだって」

  ・・・・初めて聞いた。
  ていうか、このタイミングでその話し?

 「瞳、俺に悪霊が憑いてるんだってよ。心臓の発作も、その悪霊の仕業なんだって」

  いや、それ、違うと思う。
  賢司の心臓発作は、覚醒剤っていう麻薬のせいだと思うけど。
  ま、いいか。
  悪霊に憑りつかれてるって思えば、少しはおとなしくなってくれるかも知れないし。

  でも、社長もやっぱり変わった人だったんだな。
  悪霊とか信じる人には見えないのにな。
  尤も、覚醒剤もやるような人には見えないし。

 「瞳、帰るぞ。じゃ、社長どうもすみませんでした」
 「いえいえ、ゆっくり休んで。お祓いした方がいいと思うよ」

  本気で言ってるんだ?それ?
  瞳は内心呆れていたけれど、お祓いぐらいなら自分にも出来るわ、と心の中でそう思いつつ家路についた。



  そう、この日を境に、賢司には本当に呪われてるのかと思うような出来事が、次々襲い掛かる。

  本当に悪霊なんてものの存在を信じるのならば、だけど。
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