仄暗い部屋から

神崎真紅

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第四章

act 6 連鎖

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 瞳は、仕事のシフトが入っていたので、休みと合わせて二日間、賢司に付き合って薬を使い、いつものドラッグセックスを一睡もせずににやった。

  初日は仕事が終わってから、真っ先に逸る(はやる)心を抑える様に、賢司の待つ新居に向かった。

  どんなにキレイ事を並べても、覚せい剤という麻薬の味を覚えてしまった瞳には、その誘惑に勝てるわけもなく、また一分一秒が途轍(とてつ)もなく長く感じた。
  待ちくたびれた様に、賢司は瞳の左内肘に針を刺した。
  用意周到な賢司の事、新居に着いた時には、既に二人分の薬は作ってあった。
  賢司は必ず瞳に先に打って、様子を見てから自分に打つ。

  注射器を見ただけで、フラッシュバックを起こす。
  もう、止められない。
  賢司に全てを委ねた。

  そして始まるお決まりのセックス。
  この時、既に瞳の脳裏に『仕事』の文字は掻き消えていた。
  それでもまだ救いだったのが、明日休みだったという事。
  そして二日間、ぶっ通しで何度も薬を打ちながら、何処までも深い暗闇と言いようのない快楽に沈んでゆく。

  そして、三日目。
  瞳はこの日仕事が入っていた。
  二日間一睡もせずに、仕事に行ったのは瞳にとって初めての事だった。




  それは、当然起こるべきことのように起こった。
  問題が、それも一番厄介な問題が起きてしまった。

  それは新居に引っ越して間もなくの頃だった。
  賢司がひとりで走り出した。
  毎日毎日、尽きる事無く薬を使い始めた。
  最悪の展開だった。

  この時瞳が一緒に付き合ったのは、始めの二日と、その後仕事が終わってからの一日だけだった。

  そんなに眠らずに仕事に行けば、何かしら失敗をするかも知れない。
  そして・・・・。
  誰かにバレやしないか?と、考えてしまう。
  覚醒剤特有の、汗の臭いと、くぐもった様に低くなる、声のトーン。 

  瞳が働いているのは、コンビニだ。
  国道沿いにあるこの店には、頻繁にスピード違反で捕まったり、事故で警官が立ち寄る事が多いのだ。
  瞳はそれが怖かった。

  そう言っては聞こえがいいが、現実には賢司から誘われたら断れない、自分自身の弱さから逃げていただけの事。

  賢司に誘われる前に急くように睡眠薬を飲んでベッドに入った。


 「瞳・・・・」


  賢司の呼ぶ声が、遠のく意識の向こうから聞こえた。
  そのまま睡眠薬の力で、瞳の意識は沈んでいった。

  諦めた賢司が取った行動は、瞳に対する腹いせの様なものに近かった。

  一体どれだけの量の覚醒剤を持っていたのだろう?
  その日から賢司は、一週間続けて薬を使い続けた。
  そして、またおかしな妄想に囚われていった。

 「瞳、犬があんまり吠えるからさ俺、携帯を庭に置いて録画してみたんだよ。そしたらな、変な人影らしきものが写ってたんだ」
 「え、やだ。誰か庭に入って来てるの?」
 「いや、俺は違うと思うんだ。ほら、これ観てみろよ。人影が赤いライトを持って動いてるから」

  その映像を見たけれど、確かに赤いライトの様なものが動いてるのは写っていた。
  けれど、賢司の言うような人影らしきものは、瞳には見えなかった。

 「そうだね、何だろう?この赤い点?」
 「瞳、お前本当に知らないのか?」
 「は?何を?」

  またおかしな妄想話に付き合わされるのかと、瞳の声のトーンが、明らかに変わった。

 「何を怒ってるんだよ?俺は瞳に知らないか、って聞いただけだろ?」
 「そんなのあたしが知ってるわけないよ。それより本当に誰か庭に入って来てるんなら警察呼ばなきゃ」

  少し、賢司に皮肉った言い方をした瞳に対して、賢司はやはり怒りを隠しながらも答えた。

 「俺は警察の事なんか一言も言ってないぞ?何でそんな話しになるんだよ?」
 「だって、他人がうちの庭に入って来てるんなら犯罪でしょ?」
 「本当に他人なのか俺には信じられないけどな」

  あぁ、やっぱりこの展開か・・・・。
  不毛な言い争いをする気なんてないのに。
  あんな赤い点なんて、賢司がスマホで録画してたんだったら、その光が窓ガラスに反射していただけだと思うのに。



   この時の一件が、思いもよらない方向に話は進んでいった。
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