XANXUS~おにいちゃん

神崎真紅

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プロローグ

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「あらん、ボスったらまだ寝てるのかしら~?もう朝食の時間なのに~」

 ルッスーリアが、ザンザスの寝室に向かった。
 
 コンコン!
 ノックをしてみたが、いつもの罵声が聞こえてこない。


「またリリィと寝てるのかしら~ん」


 リリィは——。
 あのザンザスの妹で、ザンザスとは似ても似つかないほど、愛くるしい。
 金色の髪に大きな濃い緑の瞳。
 ザンザスの妹でなければ、どれだけの男の視線を集めただろうか?
 リリィに近づいて来る者は、全て、兄ザンザスの手で消されてきた。

 カチャッ……。
 ドアが開いて、眠そうな顔をしたリリィが出て来た。

「おはよ……」
「あぁら~。お早う、リリィちゃ~ん。今朝も可愛いわねぇ」


 そう言いながらルッスーリアはリリィのほっぺにキスをした。

「何をしている?」
「ボス……」

 ルッスーリアの顔面が蒼白に変わった。

「おにいちゃん?ルッス姐の挨拶だよ?」
「ボスったら~、あんまり遅いから起こしに来たのよ~」
「誰がそんな事を頼んだんだ?」
「あ、あら~、お邪魔だったかしら~?」
「邪魔だ!消えろ!」

 そのままリリィの肩を抱いて、部屋に戻った——。
 
 
 ————————
 
 
 ザンザスに妹がいるとわかった時、ヴァリアー部隊総出で探した。

 ザンザスが見つけた時。
 リリィはお金持ちの家で、メイドをしていた。
 が、それは名ばかりで、まるで奴隷のようだった。ろくに食事も与えられず、ザンザスが助けた時には、小さく痩せて、着ている服はぼろぼろだった。

 ボロを纏ったリリィの姿を見た時、ザンザス自らの過去と重なった——。

「俺はザンザス。お前の兄だ。これからは俺がお前を守る」
「おにいちゃん……?」

 ザンザスの記憶が蘇ってきた。
 俺も9代目に拾われるまでの生活は荒んでいたな。

 ザンザスはリリィを壊れ物のように大切に抱きしめ、ヴァリアー基地に連れ帰った。


 ——基地の中は、それこそ大混乱。
 ボスが連れ戻してくる妹のために、浴槽の準備やら、お腹も減ってるだろうと簡単な夜食の準備まで万全だった。

 ——ガチャっ!バーン!

「今帰ったぞ、クソミソカス共!」

 怒鳴り散らすザンザスの背後からそろそろと顔を覗かせて、消え入りそうな声で言った。


「あの……リリィです……よろしくお願いします」
「んま~、なんて可愛いんでしょうね~。リリィ、お風呂の用意が出来てるわよ~」

 ルッスーリアが声をかけた。
 お風呂……?
 ここどこ……?
 
「ここは俺の家だ。なにも怖がらなくていい」
「はい……」

 心細いままバスタブに身体を沈める。
 リリィの身体にはムチで打たれた時の、無数の傷がついていた。

「いたっ」

 傷口にお湯が染みる。
 痛みをこらえて、身体の汚れを落としてゆく。
 ルッスーリアが用意してくれた服に袖を通す。

「これ……?これでいいのかな?」

 どう見てもこれって下着じゃないかな?
 とにかくその服を着て、リリィはザンザスの元に戻った。

「おにい、ちゃん」

 いつもの様にザンザスは、ソファに座って酒を飲んでいたのだが。
 リリィの姿を見て口に含んでいたブランデーを、勢いよく吹きだした。

「ぶっ——。なんだ?その服はぁ~?」
「え?でもこれが用意してあったから」
「おい!オカマ。テメェ何考えてやがる」
「あらん、可愛いじゃな~い?」
「へぇ~。ルッスーリアにしてはいい趣味なんじゃね?」

 ベルが口を挟んで来た。

「か、可憐です」

 レヴィはいつもの調子。

「ざけるな。ここには男しかいねぇんだ。リリィのベッドは俺の寝室に用意しておけ」
「んま~、ボスったらまさか?」
「ふざけるな。俺のそばにリリィは置く」

 ヴァリアー基地内で、ザンザスの言葉は絶対的だった。
 
「リリィ、お前のことはこの俺が絶対に守り抜いてやる」

 リリィの肩口からのぞいた傷を見たザンザスが、はっきりと言った。
 その、痛々しげにか細く傷だらけの身体をそっと抱いて。

「おにい、ちゃん」
「あぁ、ひどい目にあったな。すまない」

 リリィの瞳から涙が零れ落ちた。
 幾度も死にかけた。
 ムチで打たれ、食事もろくに与えられなかった。挙句の果てには、貞操すら奪われて。
 まるで生きたオモチャでしかなかった。

 そんな地獄の日々に終止符を打ってくれたのは、暗殺部隊ヴァリァーのボスで、リリィの兄と名乗ったザンザスだった。

「リリィ、今夜は疲れているだろう?俺の寝室にお前のベッドは用意した。ゆっくり休め」
「あの……おにいちゃんは?」
「ひとりじゃ恐いのか?」
「ん、うん」
「じゃあ一緒に「ゔォォ~い"~!!帰ったぞぉ~!クソボスの妹が見つかったんだと~?」」

 ヒュー!
 ゴン!!

 ザンザスが手近にあった置物をスクアーロに投げつけた。

「るせぇ!カス鮫。リリィが恐がるだろうが」
「ってぇ"ぇ"~。何しやがる」
「テメェの出番はねぇ」
「このクソボスがぁ"ぁ"ぁ"~、ん?お前がボスの妹なのかぁ~?」

 びっくりしたリリィは、ザンザスの後ろに隠れてしまった。

「はい……」
「う"ぉ"ぉ"ぉ"い"。可愛いじゃねぇかぁ~?」
「黙れ。カス鮫!リリィ、寝るぞ」

 ザンザスは煩く騒ぐスクアーロを尻目に、リリィを連れて寝室に向かった。
 
  ザンザスの寝室に用意されていたリリィのベッドは。
 天蓋付きの、これまた金と白で統一された乙女チックなベッドだった。
 無論ルッスーリアの趣味だった。

「これ……?」
「あぁ。オカ……ルッスーリアの趣味だろうよ。相変わらず悪趣味だぜ」
「素敵……」
「気に入ったのか?」
「うん。あたし……ここで寝ていいの……?」

 おどおどしながら、リリィは聞いた。
 そのリリィの様子を見て、ザンザスは胸が痛んだ。

 何故?
 もっと早くに救えなかった?
 何故?
 もっと早くに判らなかった?
 ただ取り返しのつかない過去を悔やんでいたのだった。

「お前はもう何も怯えることはない。安心して寝ろ」
「おにいちゃん、ありがとう」

 そう言って、リリィはザンザスの頬にキスをした。
 
 ふっ!
 この俺が柄じゃねぇな。リリィが愛しいなんて。
 妹ってのはこんなにも可愛いものなのか?

 リリィは、ふかふかのベッドに横たわった。


 ──静かな寝息が聞こえて来た。
 安心したのか。
 ゆっくり休め、リリィ。

 眠るリリィの頬にキスを落として、そっと部屋から出ていった。
 
 ザンザスが心を痛めているのは、リリィの生い立ちの事だった。
 リリィを弄んだヤツはかっ消した。

 だが。
 リリィの傷は消せないのだ。
 身体についていた鞭の傷あとは、いずれ消えるだろう。

 しかし。
 失ってしまった大切なものは、もう元通りにはならない。
 リリィは、それを充分には理解していないだろう。

「俺が……守ってやりたかった」

 ザンザスの苦悩が、伝わってくる。
 そっと、寝息を立ててるリリィの髪を撫でれば、ん、と小さな声を出して、安心しきった寝顔を向けた。
 さらさらと、きらめく金髪がその白い顔にかかる。

 ザンザスは、時を忘れいつまでもリリィの寝顔を見つめていた。

「妹か……。不思議な気分にさせやがる」

 ザンザスにとって、初めての感情だった。

『愛しさ』
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