XANXUS~おにいちゃん

神崎真紅

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   こんな気持ちにさせた女はリリィが初めてだ。この感情は兄としてのものだと思っていた。だが今、はっきり感じた。
 これは恋だ。
 俺はリリィをひとりの女として愛してる。

「リリィ、泣いているのか?」

 バスルームに向かって声をかける。

「な、泣いてなんかないよ」

 赤い目をしたリリィが顔を出して言った。
 ふっ。
 嘘が下手だな。

「今夜、お前を……いや、何でもない」

 ザンザスが言葉を切った。

「おにいちゃん」
「ん?どうした?」
「今夜、一緒に寝ていい?」

 何かを察したのか、リリィが言う。

「ああ、お前がそうしたいのならな」

 それだけ言うのが精一杯だった。
 俺は理性を保てるだろうか?いや、それは無理だろうな。今夜、俺はリリィを抱いてしまうだろう。

「俺も風呂に入って来る」

 ザンザスの姿がバスルームに消えていった——。
 
 ザンザスがバスルームに消えていった後。

 リリィは。
 冷蔵庫からペリエを取り出し、バスローブのままでザンザスのベッドに入った。
 寝る前の薬をその水で流し込みそのまま横たわった。

「本当に俺と寝るのか?」

 風呂から出て来たザンザスが聞いた。

「うん!」

 仕方ないな。
 これ以上リリィに言っても、また泣かせるだけか。
 ザンザスは、ベッドには入らずに、ソファに座ってまたブランデーのグラスを揺らしていた。
 どうするんだ?
 ザンザスの中で、未だ葛藤している思い。
 禁忌という名の愛を、今夜貫いてしまってもいいのか?

「お、にい、ちゃん」

 リリィが甘えた声を出しながら、後ろから抱きついてきた。

「何だ?まだ寝なかったのか?」

 起きている事を知りながら、ザンザスは言った。

「おにいちゃんを待ってるの」
「そうか……」

 俺の決断次第って事か。
 ふっ。難しい問題だな。
 リリィの為になるのなら、それでいいはずじゃねぇか?俺にしてやれる事なら、例えそれが禁忌だとしても、何を畏れることがあるんだ?

「リリィ、ベッドに来い」
 
 『ベッドに来い』

 ザンザスの、決意の言葉だった。

「うん!」

 リリィは嬉しそうに、ザンザスの後をついてベッドに入った。
 そのまま。
 ふたりの身体が重なる。

「お、にい「黙れ、リリィ」」

 言葉を遮る様に、ザンザスはリリィの唇をキスで塞いだ。

「俺に任せろ」
「ん……」

 ザンザスの唇が、リリィの首筋をなぞる。

「ぁっ……っっ……」

 リリィの切ない声が漏れ聞こえて来る。
 おにいちゃんが、好き……。
 おにいちゃんが、好き……。
 リリィの緑色の瞳から、涙がひとつ、零れ落ちた。

「リリィ?嫌なのか?」
「ちが……、嬉しいの……」
「そうか」

 その言葉を聞いたザンザスは、リリィの背中の傷痕に、そっとキスをした。
 そんな事で、リリィの過去が消せるわけじゃない。
 そんな事はわかっている。
 だが、俺がリリィを抱くことで忌まわしい記憶を忘れられるのなら。
 ザンザスは、静かにその身を、リリィの中へと進めていった。

「お、にい……」

 堪らずリリィが、ザンザスにしがみついた。
 こんな……。
 こんな感じ初めて……。
 リリィは戸惑っていた。
 今までは、望まぬ相手に数えきれないほど犯された。何度も死にたいと、泣いた。
 これが、本当に好きな人に抱かれるって事なんだ。

「リリィ、大丈夫か?」
「おにいちゃん……好き……」
「ああ、俺もだ。リリィ」

 リリィ。
 俺がお前を守り抜こう。
 
 リリィ。
 こんなに女を愛しいと思ったことはなかったな。
 荒い息遣いの中、リリィの意識は朦朧としていた。快感の波が、止めどなく押し寄せる。そのたびザンザスの大きな背中に、か細い腕を回して仰け反る。

「はっ……ぁっ……ぁぁぁっ……」
「気持ちいいのか?」
「お、にぃ、ちゃ……」

 リリィの身体が、どれだけの男の慰み物にされたのか。それは、リリィが激しく感じる様子を見ればわかる。
 まだ16の少女が、こんなに感じるはずがないんだ。
 それだけの経験を重ねて来たんだ。
 望まぬ相手に、無理矢理にな。

「リリィ、俺が好きか?」
「すき……ぁぁぁ……。おにぃ……」

 その言葉と同時に、リリィは登り詰めた。
 そのままザンザスの腕の中で、意識を飛ばした。

「そうか……。俺が好きか」

 ぐったりしたリリィの身体を、愛おしげに抱きしめていたが、やがてベッドからそっと抜け出した。
 俺は、リリィの愛に応えることが正しい選択なのか?
 ザンザスは、苦悩していた。
 
 コンコン!!

 不意にドアをノックする音が響いた。
 ザンザスは、ソファから立ち上がりドアへ向かった。

「——誰だ?」
「俺だぁ~」

 スクアーロか。またうるせぇ奴が来たな。
 カチャリ……。
 ザンザスが、静かにドアを開けた。

「リリィが寝てる。うるせぇとカッ消すからな」

 言われて、スクアーロがベッドに視線をやると。
 何も纏わず、毛布にすっぽりくるまったまま、寝息を立てているリリィの姿があった。

「ザンザス……?」
「何だ?」
「リリィをどうした?」

 ザンザスは、言葉に詰まっていたがやがてこう言った。

「抱いた。リリィの希望でな」

 安堵しきった寝顔で、ザンザスのベッドに横たわるリリィ。
 まだあどけない寝顔だった。

「貴様は……、妹を抱いたのかぁ~」

 密かに寄せていた、スクアーロの、リリィへの想い。
 ザンザスは気付いていたが、リリィが望んだのは兄のザンザスの愛だ。

「っるせえ!貴様に……貴様に何が判る?」

 スクアーロはその場に立ち尽くした。
 ザンザスが苦悩する姿を見るのは、初めてだったかも知れない。

「どうやら俺の出番はなさそうだな。邪魔したな」

 そっと部屋を後にした。

「けっ!完敗だぜ!」

 スクアーロの瞳にキラリ、光るものが見えた気がした……。
 
「あら?スクアーロじゃな~い。何やって……」

 廊下ですれ違い様に声を掛けて来たのは、ルッスーリアだったが、スクアーロの顔を見て何があったのか察したらしく、言葉を遮った。

「……何だ、テメェか」
「テメェか、じゃないわよ?何があったのよ?」
「別に……」
「別に、じゃないわよ。顔に書いてあるわよ?し・つ・れ・ん・て、ね?」
「うるせぇ!俺はリリィが……リリィが笑っていさえすれば……それで……」
「あら~、そう、やっぱりボスを選んだのね。残念ねぇ」

 スクアーロは何も答えずに、自分の部屋へ入っていった。

「やれやれ、だわね~」

 ルッスーリアも自室に消えていった。
 ボンゴレのアジトに静かな夜が更けてゆく。
 ザンザスは。
 まだひとり、いつもより多めに酒を呑んでいた。
 時折、眠るリリィの顔を覗き込みながら。
 まだ自分の選んだ道が、正しかったのか、判らずに静かに酒を呑んでいた。

「おにいちゃん……?」

 いきなりリリィが起きて来た。
 びっくりしたのはザンザスの方だ。

「何だ、気がついたのか?」

 気がついた、って?

「あたし?どうしたの?」
「俺の腕の中で、失神しただろ?覚えてねぇか?」

 リリィの顔が、耳まで真っ赤に染まっていった。

「嘘っ?」
「嘘言ってどうする?」

 ザンザスが不敵な笑みを浮かべ、笑った。
 リリィは少しはにかみながら言った。

「おにいちゃん?」
「何だ?」
「大好き」
「そうか……。もう遅い、今夜は寝ろ」
「おにいちゃんと一緒に寝る」

 ふっ。

 ザンザスはリリィの肩を抱いて、ベッドに入った——。
 
 またしても意識を飛ばしてしまったリリイの髪を、愛しげに撫でる仕草を繰り返すザンザス。

 少し激しかったか。
 しかし、俺は手加減する事すら出来なかった。
 それだけ、リリイを愛している。
 深く、深く。
 これ以上の愛は、一生涯超える事はないだろう。

「ん……おにぃ……」

 ふっ。
 寝言でこの俺を呼ぶか。

 リリイ、忘れるな。
 お前は俺のただひとりの妹だ。
 どんな事がこの先起ころうとも、俺はお前を守り抜く。
 それだけは忘れるな。
 未だ眠り続けるリリイの唇に、愛しげにキスを繰り返すザンザス。

 ——そろそろ朝飯の時間になる。
 起こすか。

「リリイ、起きろ、朝だ」
「ん……おにぃちゃ?」
「ふっ、身体は大丈夫か?」

「?何が??」
「失神、しただろう?覚えてないのか?」
「?失神?何で?」

 くっくっくっ。
 含み笑いは、やがて高笑いに変わっていった。

「判らねぇのなら、それでいい。朝飯だ、支度しろ」

 ?????
 ザンザスが、何をそんなに笑ったのか、リリイには判らなかった。
 
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