【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋

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2、二人の王子

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 連日、トウヤのもとへ火吐国第一王子からの贈り物と来訪がとまらない。
「調査官殿、今日もまた麗しい。ところでそろそろ声を聞かせてくれる気になろうか?」
 ずかずかと部屋に入ってくる派手で尊大な金の髪の王子は、浴場でなれなれしくトウヤに話しかけてきたその人である。
 すぐにトウヤ達の素性を調べ、それからは茶会だ夜会だと、ことあるごとに招待され、気づけばニト王子自らが、トウヤの元へ通ってくるようになった。
「えー、トウヤ様は喉をいためられており」
「はて、この前は、無言行、いや願掛けと言っておった。聞くところによると、まこと調査官殿の声は鳥がさえずるような美声で、実際に本物の鳥が飛びたったとのこと」
「えー、何卒ご勘弁を」
 毎日のように繰り返している問答のため、ザミドは棒読みで返す。
「そのかわりこのザミドが通訳として、トウヤ様の意思をお伝えしますゆえ」
 王子がいくらトウヤと二人きりになろうとしても、ザミドは頑としてゆずらない。
「いやいやお前がいなくとも筆談で問題ない。ザミドよ、南の浴場はまだ行ったことがないだろう? 葡萄酒をとかしこんだ湯殿があってよい心地になるぞ。今から行ってきてはどうか」
「は、ありがたいお言葉、ただ私の主人はトウヤ様なので、殿下の命令とあっても、従うことはできませぬ」
 ニト王子は、王子という身分、簡単にその権力を行使できようものを、ザミドとのこのようなやりとりを楽しんでいるふしがある。
 王子が美しい調査官に執心しているという話はすでに王宮に広がっている。ニト王子はたいそう好色だという噂だったが、小姓のいうことには、毎晩のように寝所に呼び寄せていた遊び女も、呼ばれなくなったとのことである。
 また、第一王子の下には第二王子がおり、それが先日犬蛇の騒動で出会ったヨミ王子だった。
 ニト王子とは違い、民の前にはあまり姿を見せず、王宮でも一部の近習以外は人を寄せつけない。偏屈で変わり者という評判だった。
 母違いの兄弟ゆえ、兄の金の髪とは異なる漆黒の髪をしている。対照的な見た目から、当代人気の詩人が兄と弟を太陽と月になぞらえた。それを商人たちが勝手に肖像画にして売り、儲けている。
「トウヤ殿、このわからずやに席を外すよう言ってもらえぬか。空気を読めと」
 陽光のように明るく笑う第一王子は、トウヤにわざとらしく目くばせをおくる。それにはザミドの真一文字に結んだ口元もゆるみかけたが、すんでのところで平然とした態度を保っている。
 トウヤは職務に忠実なザミドが頼もしく、そして王子でありながら無理強いなどせずかけひきを楽しんでいるニト王子を好ましく思う。二人の掛け合いに、にこにこしてしまう。
「この館は気にいったか? ほかにいりようなものがあればなんでも言え。水菓子は足りているか?」
 甘くささやき手を握ろうとするが、ザミドに阻止される。それをおくびにもださずに、裏からちょっかいだそうとしてそれも邪魔されている。
「『これ以上何を欲しましょうか』とトウヤ様はおっしゃっております」
「まことか?」
 トウヤはこくりとうなずき、また微笑む。最初案内された質素な小部屋と比べようがない豪奢な広間に移ったばかりだ。
「そなたの笑顔はなんとも愛らしい」
 ニト王子は、ザミドの妨害にも屈することなく上機嫌だった。 
「今日はこれから闘技場で剣闘がある。そなたたちはわたしの供をするのだ。いやとは言わせぬ」
 ヨミ王子が言いだすと、トウヤは微笑んだままうなずいた。トウヤはちょうど民の暮らしを見たいと思っていたところだった。

 王子のお供をするとなると、トウヤは女官たちによって飾りたてられた。しかし彼女たちがさがったとたん、トウヤはつけられた装飾を次々とりはずしてしてゆく。
(ザミド、考えを述べよ)
 紅をぬぐい落としながら、トウヤはザミドをうながした。
 ザミドは口の動きだけで声を発さず答えた。
『よくわからない、というのが本音でございます。ただ、ニト王子を見ていると思い出す男がおります。わたしが若かりし頃、配属先で上官だった男です』
(続けよ)
『裕福な家の嫡男で、誰にでもへらへらとして上からも下からも軽んじられておりました。剣もまともに振れません。金の力で地位を買ったのは明白でしたが、疎まれることはなく、むしろ上のものからひきたてられました』
 トウヤは長椅子でくつろぎ、瑠璃杯にもられた葡萄を一つつまむ。
『あえてでくのぼうをたて、傀儡にしようという上の判断だったのでありましょう。しかしでくのぼうは豹変しました。辣腕をふるい、組織の爛れた膿を一掃し、団を統率し鍛えあげたのです。頭がきれることにも驚かされましたが、何より驚いたのは剣の腕でございます。皆、見事に欺かれたました。その男は貧相な見た目で、顔も印象もまるで違うのに、ニト王子を見ていると、なぜかその男のことを思い出します』
 トウヤはザミドの言葉を読唇しながら、続けざまに葡萄を口に運ぶ。
(ザミド)
「はっ」
(なかなか面白い)
 トウヤに褒められ、ザミドの小鼻がふくらんだ。
 部屋に迎えに来た女官が、飾り立てたはずが普段とかわらぬトウヤの姿を見て、ひどく落胆した。ザミドは「トウヤ様は華美な装いを好まぬ! 覚えておくがよいぞ!」と勝ち誇ったように言い放った。
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