【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋

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3、闘技場

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 闘技場に到着したニト王子が王族専用の観覧席に登場すると、民は大歓声をあげた。貴族や商人が挨拶のため列をなす。
 鍛えあげた剣士たちが次々と現れ、殺傷力のない模擬剣を派手に振りあげる。ザミドはあからさまに興味がなさげである。見世物としての剣技など、実戦でしのぎを削ったザミドにとって見るに堪えないのだろう。
 観覧席からは、闘技場全体がよく見わたせる。剣士の控えの間あたりに少年がおり、時々そばを通る大人に話しかけられている。その唇の動きを読んだ。
(ザミド、あれを見ろ。わかるか)
「子どもの賭け師でしょうか。数字と日付……金額……ふむ」
(どうやら今夜のようだ)
 夜半前に王宮を抜けだし、首尾よくもぐりこめば、面白いものを見物できそうだった。

 夜の剣闘は闘技場の地下で行われていた。
 昼間と違い、模擬剣ではなく真剣で戦う。人々は警備司を警戒して仮面をつけ顔を隠している。
 トウヤとザミドもまずは仮面を買いもとめた。
 トウヤは目尻に涙模様が描かれた泣き顔を模したもの、ザミドは笑い顔のものにし、目元を隠す。いずれもどこにでも売られている仮面である。用心を重ねフードのついたローブで髪と全身を蔽う。
 観客席を見わたすと、従者連れの貴婦人、粗末な身なりの平民と様々だ。
 浴場といい剣闘といい、身分の異なる人々にまじわりがある。厳然とした縦社会で、階級が異なれば娯楽を共有することなどない塔とは随分違う、とトウヤは思う。
 深夜の剣闘は、どちらかが「まいった」と言うまで戦うというシンプルなルールで、「まいった」と言った者を少しでも傷つけると、失格になる。
 昼の闘技場で見た初戦敗退の地味な剣士が、無駄のない剣さばきで、対戦相手から悲鳴のような「まいりました」を勝ち取っている。まるで別人のようだ。
 ザミドが身をのりだす。
「いいぞ! 黒猫!」
 みなが黒猫のマスクをつけた剣闘士の勝利を称えた。黒猫は、ぶん、と剣を空中で一振りし、歓声に応えている。
 そこに凝った細工のマスクやベールでめかしこんでいるご婦人集団から、高い声が次々とあがった。
 黒猫の対戦相手として、漆黒のカラスの冠をつけた若い剣士があらわれたのだった。
 目元は隠れているが、ひきしまった端正な口元と美しい顎のかたちから、素顔はさぞ美形だろうと容易に想像がつく。
「カラス様ぁ!」
「うるわしのカラス様、どうかわたしにお恵みを!」
 剣闘の前に剣士は観衆から祝福をうけるのがならわしだ。剣士が差しだした剣先に軽く触れるしぐさをするだけなのだが、乙女たちは皆、その役割に選ばれたいと必死だった。
 我こそは、とこぞって身を乗り出す乙女たちに、剣士は一瞥もくれなかった。そんなつれない態度も乙女たちには逆効果で、気持ちがたかぶり卒倒寸前の者もいる。
 そんな中、カラスはぐるりと観客席を見わたした。
 まっすぐに客席の中ほどを剣で指し示した。
 そこはちょうどトウヤたちが座っているあたりで、周囲に乙女は一人もいない。最前列でごったがえしていた乙女たちは何事、と振り返るが、カラスが誰を指しているのかわからない。ザミドもトウヤもきょろきょろと辺りを見回すばかりだ。
 そこへ一人の少年が、す、とトウヤの足元にひざまずいた。口元を布で巻いて隠しているが、昼間トウヤとザミドが見かけた賭け師の少年で間違いない。
「剣士があなた様の祝福を求めておいでです。さ、どうぞこちらへ」
 少年がトウヤの手をとったので、皆の視線がトウヤに集中した。選ばれなかった乙女たちは嫉妬と羨望の悲鳴をあげる。
 ザミドがすかさず喉を鳴らした。
「……トウヤ様、ここはザミドにお任せください」
 これは嫌な予感しかしない。
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