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3、闘技場
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(行かずともよい)と制止するのも間に合わず、次の瞬間にはザミドは観客席から剣闘場におりたっていた。
どよめきが起こった。
自身の剣を抜いたザミドは、カラスの対戦相手である黒猫の前にでた。観衆は大喝采だ。少年に手をひかれ、トウヤは前列の特別な席へと導かれる。乙女たちからの視線が痛い。
カラスは特等席のトウヤに向かって剣を差しだした。しかしトウヤはカラスの剣を無視して、ザミドの方を向いた。
ザミドがあわてて剣をさしだすと、その剣先に祝福を与える。
ご婦人から絶大な人気を得ているカラスからのご指名にもかかわらず、トウヤがそれに見向きもせず、飛び入り参加のどこの馬の骨ともわからぬじじいに祝福を与えたことに、割れんばかりの拍手と笑いがおこった。
カラスはプライドをへし折られたかたちになったが、首をかしげるようなしぐさをしたのみで飄々としていることも、観客を大いに愉快がらせた。
ザミドはますます鼻息荒く、よせばいいのにカラスを挑発する。
「はーっはっはっはっは! この尊き御方の祝福を受けようとは、千年早い! このわしを倒してからぬかせ!」
「いいぞ! じじい、やっちまえ!」
「ひっこめじじい、邪魔すんな!」
「カラス様~~!!」
ザミドの高笑いに様々なヤジと黄色い声援がとぶ。トウヤに声をかけた少年は、誰よりも大きな声で「やれ! カラス、ザミド、両方とも存分にやれ!」と楽しそうだ。
トウヤは諸々を諦め席に身体を沈めた。ザミドにも息抜きが必要だろうと思うことにする。
ザミドの先制攻撃で剣闘ははじまった。
いきいきとザミドは剣をふるい、カラスはザミドの攻撃に圧され気味ではあるが、相手の力量をはかっているような舐めた動きだ。それにザミドが気づかないはずはない。
一転、煽るようにぎりぎりを攻める。カラスがそのひと太刀を寸でのところでかわすたびに、乙女が一人、また一人と気絶する。
「あんたの連れ、カラス相手になかなかやるね」
少年がトウヤに話しかける。トウヤは首をすくめた。さきほど少年が「ザミド」と名を呼んだのを聞き逃してはいない。
「でも、うちのカラスはあんたのところの爺より上だ」
少年が言ったそばから、カラスの反転攻勢となった。ザミドはキレのよい動きで、防御をとっている。
「負けるなじじい! カラスなんかやっちまえ!」
「じじい、若造をこらしめて顔を暴け!」
カラスが、どこの誰ともわからぬ爺と互角なのが愉快らしく、男たちのザミドを応援する声が増してゆく。そしてひいきの危機とあっては乙女たちも熱がはいる。場内は大盛り上がりだ。
勝負は長丁場になってきた。ザミドが素人に本気になるようなことはないだろうが、ここまで決着がつかないとなるとうっかりケガをさせかねない。
トウヤは戯れも潮時と判断し、観覧席から剣闘場に飛び降りた。
自分の出番を奪われたかたちの黒猫に近づき、(拝借する)と目礼した。剣士のはしくれとしてはっと背筋を正した黒猫は、自分の分身ともいえる大切な剣を、トウヤに差しだす。
(聡い子だ)
察しのいい黒猫のために剣の束から剣先にかけて守護を与えた。これで防御は増す。この先黒猫は剣の庇護をうける。
トウヤが剣を構えると、目深にかぶっていたフードがはらりとおち、編み込まれていたはずの長い髪が生き物のように肩をおおった。
手首を数度返す。
剣先で塔の加護を、宙に詞を書きつらねた。
急ぎ足でやったため省略も多く、それは何もわからないものからすれば、おそろしく素早い動きの華麗な剣舞だった。
トウヤは剣士ではないため、腕力などは及ばない。全身の重心移動と体幹で、効率的に剣を操った。松明に照らされ、剣のひるがえりによりチカチカと火花がとぶ。
突然の二人目の闖入者に一部の観客は身を乗り出したが、ほとんどの観客は試合に夢中でトウヤに気づかなかった。戦いに集中している二人にいたっては、トウヤなどまるで視界に入っていない。
トウヤは遊戯にのめりこんでいる二人の間に、前触れもなくぬらりと入りこむと、両者の剣を順にはじきとばした。
カラスもザミドも、何が起こったのか瞬時にわからなかったが、ザミドはすぐ我に返り、跳ねとばされた剣が落下してくるのを身体を半回転させながらつかみ、鞘にしまってトウヤに平伏した。
カラスの剣は遠くにはね飛ばされ、天井近くの石壁に深くささる。
賭け師の少年が別の剣をカラスに投げてよこした。受け取って身を低く沈めながら、対戦相手が戦いの勝敗つかずして、戦意を「閉じた」のを理解した。楽しいおもちゃを奪われ、カッとなる。
邪魔をした張本人、長い髪の泣き顔マスクのトウヤに向かって踏み出すと、ザミドが察知し動いた。そこへトウヤはザミドの側頭部をひじを使ってほんの軽く押す。するとザミドは大きく横へふっとんだ。
その隙をついて、カラスの剣がトウヤの喉を狙う。
(まいりました)
どよめきが起こった。
自身の剣を抜いたザミドは、カラスの対戦相手である黒猫の前にでた。観衆は大喝采だ。少年に手をひかれ、トウヤは前列の特別な席へと導かれる。乙女たちからの視線が痛い。
カラスは特等席のトウヤに向かって剣を差しだした。しかしトウヤはカラスの剣を無視して、ザミドの方を向いた。
ザミドがあわてて剣をさしだすと、その剣先に祝福を与える。
ご婦人から絶大な人気を得ているカラスからのご指名にもかかわらず、トウヤがそれに見向きもせず、飛び入り参加のどこの馬の骨ともわからぬじじいに祝福を与えたことに、割れんばかりの拍手と笑いがおこった。
カラスはプライドをへし折られたかたちになったが、首をかしげるようなしぐさをしたのみで飄々としていることも、観客を大いに愉快がらせた。
ザミドはますます鼻息荒く、よせばいいのにカラスを挑発する。
「はーっはっはっはっは! この尊き御方の祝福を受けようとは、千年早い! このわしを倒してからぬかせ!」
「いいぞ! じじい、やっちまえ!」
「ひっこめじじい、邪魔すんな!」
「カラス様~~!!」
ザミドの高笑いに様々なヤジと黄色い声援がとぶ。トウヤに声をかけた少年は、誰よりも大きな声で「やれ! カラス、ザミド、両方とも存分にやれ!」と楽しそうだ。
トウヤは諸々を諦め席に身体を沈めた。ザミドにも息抜きが必要だろうと思うことにする。
ザミドの先制攻撃で剣闘ははじまった。
いきいきとザミドは剣をふるい、カラスはザミドの攻撃に圧され気味ではあるが、相手の力量をはかっているような舐めた動きだ。それにザミドが気づかないはずはない。
一転、煽るようにぎりぎりを攻める。カラスがそのひと太刀を寸でのところでかわすたびに、乙女が一人、また一人と気絶する。
「あんたの連れ、カラス相手になかなかやるね」
少年がトウヤに話しかける。トウヤは首をすくめた。さきほど少年が「ザミド」と名を呼んだのを聞き逃してはいない。
「でも、うちのカラスはあんたのところの爺より上だ」
少年が言ったそばから、カラスの反転攻勢となった。ザミドはキレのよい動きで、防御をとっている。
「負けるなじじい! カラスなんかやっちまえ!」
「じじい、若造をこらしめて顔を暴け!」
カラスが、どこの誰ともわからぬ爺と互角なのが愉快らしく、男たちのザミドを応援する声が増してゆく。そしてひいきの危機とあっては乙女たちも熱がはいる。場内は大盛り上がりだ。
勝負は長丁場になってきた。ザミドが素人に本気になるようなことはないだろうが、ここまで決着がつかないとなるとうっかりケガをさせかねない。
トウヤは戯れも潮時と判断し、観覧席から剣闘場に飛び降りた。
自分の出番を奪われたかたちの黒猫に近づき、(拝借する)と目礼した。剣士のはしくれとしてはっと背筋を正した黒猫は、自分の分身ともいえる大切な剣を、トウヤに差しだす。
(聡い子だ)
察しのいい黒猫のために剣の束から剣先にかけて守護を与えた。これで防御は増す。この先黒猫は剣の庇護をうける。
トウヤが剣を構えると、目深にかぶっていたフードがはらりとおち、編み込まれていたはずの長い髪が生き物のように肩をおおった。
手首を数度返す。
剣先で塔の加護を、宙に詞を書きつらねた。
急ぎ足でやったため省略も多く、それは何もわからないものからすれば、おそろしく素早い動きの華麗な剣舞だった。
トウヤは剣士ではないため、腕力などは及ばない。全身の重心移動と体幹で、効率的に剣を操った。松明に照らされ、剣のひるがえりによりチカチカと火花がとぶ。
突然の二人目の闖入者に一部の観客は身を乗り出したが、ほとんどの観客は試合に夢中でトウヤに気づかなかった。戦いに集中している二人にいたっては、トウヤなどまるで視界に入っていない。
トウヤは遊戯にのめりこんでいる二人の間に、前触れもなくぬらりと入りこむと、両者の剣を順にはじきとばした。
カラスもザミドも、何が起こったのか瞬時にわからなかったが、ザミドはすぐ我に返り、跳ねとばされた剣が落下してくるのを身体を半回転させながらつかみ、鞘にしまってトウヤに平伏した。
カラスの剣は遠くにはね飛ばされ、天井近くの石壁に深くささる。
賭け師の少年が別の剣をカラスに投げてよこした。受け取って身を低く沈めながら、対戦相手が戦いの勝敗つかずして、戦意を「閉じた」のを理解した。楽しいおもちゃを奪われ、カッとなる。
邪魔をした張本人、長い髪の泣き顔マスクのトウヤに向かって踏み出すと、ザミドが察知し動いた。そこへトウヤはザミドの側頭部をひじを使ってほんの軽く押す。するとザミドは大きく横へふっとんだ。
その隙をついて、カラスの剣がトウヤの喉を狙う。
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