【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋

文字の大きさ
8 / 44
3、闘技場

3

しおりを挟む
 トウヤが微笑んで唇の動きだけで言うと、剣先は柔らかな喉元までわずか三寸、ぴたりと止まる、それがほぼ同時に起こった。互いのマスク越しにトウヤとカラスの目が合う。
 最初、ザミドとカラスの剣闘だったところ、いつのまにやらもう一人が現れ剣舞を披露したかと思うと、両剣士の剣がふっとび……と、急展開についていけない観衆は、しばらく状況を理解できない様子だった。誰かが拍手し、そのあとわあっと大歓声があがり、カラスの勝利を祝う声もあがる。
 そのどさくさにまぎれ、トウヤは黒猫に剣を戻した。黒猫は剣士のはしくれとして三者の動きすべてを見届け、その妙技に腰をぬかしながらも剣をうけとった。トウヤはフードを深くかぶりなおし、ザミドを促す。二人はすみやかに地下剣闘場を去った。

「待て」
 マスクを捨て、何食わぬ顔で王宮へ戻ろうとした矢先に呼び止められた。
 剣闘を仕切っていた賭け師の少年だった。
「あんたたち、また出てくれよ」
 少年はずしりと重い革袋をザミドに投げた。
「今日の取り分だ」
「悪いがなんのことかわらん」
 ザミドは、投げてよこされた革袋を、少年に投げ返した。
「剣闘にでたいやつはうじゃうじゃいるのに、せっかくのスカウトを断るなんて、カラス、どう思う?」
 少年が呼びかけると、物陰から背の高い男が現れた。カラスの冠をはずし、目元を隠すマスクをしている。月明りでも漆黒の髪とはっきりわかる。あいかわらず野生動物のような気配をしている。
「何の話かさっぱりわからぬ。我々は急いでいる」
 ザミドが言うやいなや、男が剣を抜いた。ザミドも抜こうとするが抜くことができなかった。トウヤがあらかじめ縛りをかけておいたのだ。
 トウヤは固まっているザミドの前にでる。
 そして特別な息を吐くと、重く湿った甘い香りが夜風にのる。ザミドはとっさに自分の鼻と口を手で覆った。
 無防備だった少年はまともにくらい、目をまわしてその場で倒れた。
「いったい何をした?」
 トウヤは倒れた少年を抱き上げ、カラスに歩み寄った。
 少年を間にして二人が接近したその時だった。トウヤはカラスに口づけをするのかと思うほど顔を近づけた。
「ヨミ王子、今夜のことはお互いなかったことにいたしましょう」
 カラスは驚き、少年を奪い取るように後ろに退くが間に合わない。
 大量の美酒を空腹にくらったようなダメージがあるはずのカラス、いやヨミ王子は、顔が赤らみ目は血走っている。吐く息は熱く荒い。
 トウヤの吐息が王子の唇にかかっただけで、このありさまだ。なんなら本当に口づけしてやろうかと魔が差しかけるが、そんなことをしたら王子は少年を抱えたままぶっ倒れてしまう。トウヤはいたずらを心の中だけにとどめた。
(ザミド、行くぞ)
 しばらく息を止めていたザミドは、ぜーはーと深く呼吸した。
「トウヤ様、その、今夜は誠にわたくしの不徳の致すところで。お叱りは覚悟しております」
(よい)
 トウヤは副官を寛大な心で許した。王子の裏の顔を見ることができたのは、大きな収穫だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布
BL
最強騎士団長×お人好しな努力家 それと沢山のもふもふ動物たちに愛されるお話

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

とある辺境伯の恋患い

リミル
BL
鉄仮面な辺境伯(42)×能天気マイペースな男爵家四男(17) イディオス男爵の四男であるジゼルは、家族や周りから蝶よ花よと愛されて育ってきた我儘令息だ。 上の兄達は独立したが、我儘放題のジゼルに両親は手を焼いていた。 自立するよう促され、是が非でも働きたくないジゼルは貴族達に婚姻の文を送りまくる。唯一、ジゼルを迎え入れると返答したのは、辺境伯のルシアスだった。 色よい返事がくるとは思いもしなかったジゼルは、婚約を破談にさせようととんでもない我儘をぶつけるが、ルシアスは嬉々としてそれを受け入れるばかりで──。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...