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6、火吐国の第一王女
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ヨミ王子は、イチ王女と名乗る少年の姿をした少女を不服そうな目で見る。
しかし王女はどこ吹く風である。
「わたしたちは今やニトに追われる身である。調査官、そなたたちもそうだろう。追われている者同士、手を結ぶのが最善である」
ヨミ王子は何も言わない。
トウヤはザミドを見た。ザミドは驚きを隠せていなかったがなんとか、「まずはそちらの事情を詳しくお聞かせ願いたい」とトウヤの言葉を代弁した。
王女はニッと笑い、話し方を「わたし」から「俺」に戻した。
「初めに言っておく。まず、俺が王女だと誰かにばらしたら殺す」
ザミドの眉が若干ひくついたが、挑発に乗らずにトウヤの言葉を伝えることに徹して続ける。
「何かを知ったとて、この地でいったい誰に何と言いましょう」
「それはそうだ。なあカラス。いや『兄上』?」
ヨミ王子は兄上と呼ばれても反応しなかった。その手は剣にかけたままだ。
よくよく見れば、王女と名乗る少女のふるまい、しゃべり方、表情や身にまとう空気がニト王子と似ている。そして顔の造作と髪の色はカラス、つまりヨミ王子と似ていた。
「俺の母親は、ちょっと変わった女でな? 王妃って立場が向いてなくて王宮もあんまり好きじゃなくて赤ん坊の俺を連れて飛び出して、俺のことは気のいい商人の夫婦にまかせきりで、今はどこにいるかもわからない」
ザミドは、たまらず尋ねた。
「まだ年若いあなたがなにゆえ男の恰好をして剣闘を」
「俺が男のなりをしているのは商売上便利だからだ。見た目が可憐だと舐められるだろ? 剣闘は商売を学ぶのも、自分の力を試すのにもうってつけ。カラスは街で野良の剣闘士ともめているのを見て、俺がスカウトしたんだ」
ヨミ王子はおし黙ったまま動かないが、剣にかけていた手を腕組に変えた。
それを合図にトウヤは、ザミドの手の上から降り、イチ王女の話をじっくり聞くためドールハウスの中にあった長椅子でくつろいだ。
「『追われている』と言ったが。なぜニト殿下に追われているのです」
「わからないのか? 王がいなくなったのはずっと前だというのに、王宮の破壊と関連づけて発表がされた。ニトは首謀者を討伐、その手柄とともに王になる、つまりそういうことだ。ニトは我々が邪魔になった。つまり濡れ衣を着せられようとしている」
「王がいなくなったのはずっと前、とは……」
「気鬱になりふさぎこみがちになったところ、ある日突然いなくなったのだ」
また「気鬱」、そして行方知れず、か。
王の長き不在は、そろそろ隠し立てできず、どうにかしないといけない段階になってしまっている、と王女は言った。
「ニト王子とお話されたのですか?」
「いや申し開きの機会さえ与えられず。問答無用で追われている」
「……王の安否は」
「心当たりのある場所がある。まず我々の味方となって手を貸すと、助けると約束してほしい」
イチ王女は懇願する。すると黙っていたヨミ王子が、とうとう口を開いた。
「あやかしに助けを乞うなど」
「カラス、調査官があやかしだったとて、王宮の連中に追われているこの状況で贅沢をいえる身分ではないぞ。このままだとこの者たちともども、なんやかんやと罪をきせられ、亡き者にされる」
王女の言い分にもヨミ王子は険しい顔のままだった。そしてぼそりとつぶやいた。
「……呪い」
「……え?」
思わず眉をひそめたイチ王女に、ヨミ王子はトウヤを目で示す。
「この者からは嫌な感じがする」
「どんな?」
「最初にこの者と会ったあの日以来、ずっと顔が頭を離れない」
「……え、」
「この者を見るとわけもなく心臓がざわざわする」
全員無言になった。
トウヤはすでに知っていたので、聞かなかったふりをして、虚空を見つめた。
それってなんか別のやつの可能性、と、他の者は同じことを考えていた。王子が大真面目なので誰も口に出せなかった。ザミドは咳ばらいをして、もごもごと言った。
「トウヤ様を一目見てそのような症状になって困っているという者がでるのは今にはじまったことではなく……」
イチ王女は、小さなトウヤに顔を近づけ、質問攻めにした。
「そんなことより、どうすればそんな風になれるのだ。もう元の姿にはならないのか? 他に何ができる? 病を治したり、媚薬を口から出す、小さくなれる、ほかにはなんだ? 剣闘の時何が起きているかわからなかったが、なぜそんなに強いんだ? 鳥や宝石を口からだせると聞いたぞ? 一言もしゃべらないが、声が関係あるのか?」
ザミドが代弁する。
「塔の加護にございます。トウヤ様は塔での暮らしが長いゆえ、あやかしなどでは決してなく」
「塔! 行ってみたいな。ねえねえザミドは何ができるんだ?」
「わたしなどは塔の加護を受けるほどの力はありません」
「ともかく反対だ」
ヨミ王子は二人の会話をさえぎった。
イチ王女は、ヨミ王子を無視し、ザミドとトウヤに再度頼んだ。
「調査官よ。頼む。どうか我々に手を貸してほしい。王を探して気鬱を治し、もう一度王宮に戻ってもらいたいと思って塔に伝書を送った。まだしばらくはこの国を治めてもらいたいのだ。ニトが我々に兵を差し向けている。俺とカラスが邪魔なんだ。あれを止められるのは、この国で王以外いない。頼む、断らないでおくれ、断ったら殺す」
王女は丁重に依頼しつつも、物騒な言葉をつけ加えることを忘れなかった。
しかし王女はどこ吹く風である。
「わたしたちは今やニトに追われる身である。調査官、そなたたちもそうだろう。追われている者同士、手を結ぶのが最善である」
ヨミ王子は何も言わない。
トウヤはザミドを見た。ザミドは驚きを隠せていなかったがなんとか、「まずはそちらの事情を詳しくお聞かせ願いたい」とトウヤの言葉を代弁した。
王女はニッと笑い、話し方を「わたし」から「俺」に戻した。
「初めに言っておく。まず、俺が王女だと誰かにばらしたら殺す」
ザミドの眉が若干ひくついたが、挑発に乗らずにトウヤの言葉を伝えることに徹して続ける。
「何かを知ったとて、この地でいったい誰に何と言いましょう」
「それはそうだ。なあカラス。いや『兄上』?」
ヨミ王子は兄上と呼ばれても反応しなかった。その手は剣にかけたままだ。
よくよく見れば、王女と名乗る少女のふるまい、しゃべり方、表情や身にまとう空気がニト王子と似ている。そして顔の造作と髪の色はカラス、つまりヨミ王子と似ていた。
「俺の母親は、ちょっと変わった女でな? 王妃って立場が向いてなくて王宮もあんまり好きじゃなくて赤ん坊の俺を連れて飛び出して、俺のことは気のいい商人の夫婦にまかせきりで、今はどこにいるかもわからない」
ザミドは、たまらず尋ねた。
「まだ年若いあなたがなにゆえ男の恰好をして剣闘を」
「俺が男のなりをしているのは商売上便利だからだ。見た目が可憐だと舐められるだろ? 剣闘は商売を学ぶのも、自分の力を試すのにもうってつけ。カラスは街で野良の剣闘士ともめているのを見て、俺がスカウトしたんだ」
ヨミ王子はおし黙ったまま動かないが、剣にかけていた手を腕組に変えた。
それを合図にトウヤは、ザミドの手の上から降り、イチ王女の話をじっくり聞くためドールハウスの中にあった長椅子でくつろいだ。
「『追われている』と言ったが。なぜニト殿下に追われているのです」
「わからないのか? 王がいなくなったのはずっと前だというのに、王宮の破壊と関連づけて発表がされた。ニトは首謀者を討伐、その手柄とともに王になる、つまりそういうことだ。ニトは我々が邪魔になった。つまり濡れ衣を着せられようとしている」
「王がいなくなったのはずっと前、とは……」
「気鬱になりふさぎこみがちになったところ、ある日突然いなくなったのだ」
また「気鬱」、そして行方知れず、か。
王の長き不在は、そろそろ隠し立てできず、どうにかしないといけない段階になってしまっている、と王女は言った。
「ニト王子とお話されたのですか?」
「いや申し開きの機会さえ与えられず。問答無用で追われている」
「……王の安否は」
「心当たりのある場所がある。まず我々の味方となって手を貸すと、助けると約束してほしい」
イチ王女は懇願する。すると黙っていたヨミ王子が、とうとう口を開いた。
「あやかしに助けを乞うなど」
「カラス、調査官があやかしだったとて、王宮の連中に追われているこの状況で贅沢をいえる身分ではないぞ。このままだとこの者たちともども、なんやかんやと罪をきせられ、亡き者にされる」
王女の言い分にもヨミ王子は険しい顔のままだった。そしてぼそりとつぶやいた。
「……呪い」
「……え?」
思わず眉をひそめたイチ王女に、ヨミ王子はトウヤを目で示す。
「この者からは嫌な感じがする」
「どんな?」
「最初にこの者と会ったあの日以来、ずっと顔が頭を離れない」
「……え、」
「この者を見るとわけもなく心臓がざわざわする」
全員無言になった。
トウヤはすでに知っていたので、聞かなかったふりをして、虚空を見つめた。
それってなんか別のやつの可能性、と、他の者は同じことを考えていた。王子が大真面目なので誰も口に出せなかった。ザミドは咳ばらいをして、もごもごと言った。
「トウヤ様を一目見てそのような症状になって困っているという者がでるのは今にはじまったことではなく……」
イチ王女は、小さなトウヤに顔を近づけ、質問攻めにした。
「そんなことより、どうすればそんな風になれるのだ。もう元の姿にはならないのか? 他に何ができる? 病を治したり、媚薬を口から出す、小さくなれる、ほかにはなんだ? 剣闘の時何が起きているかわからなかったが、なぜそんなに強いんだ? 鳥や宝石を口からだせると聞いたぞ? 一言もしゃべらないが、声が関係あるのか?」
ザミドが代弁する。
「塔の加護にございます。トウヤ様は塔での暮らしが長いゆえ、あやかしなどでは決してなく」
「塔! 行ってみたいな。ねえねえザミドは何ができるんだ?」
「わたしなどは塔の加護を受けるほどの力はありません」
「ともかく反対だ」
ヨミ王子は二人の会話をさえぎった。
イチ王女は、ヨミ王子を無視し、ザミドとトウヤに再度頼んだ。
「調査官よ。頼む。どうか我々に手を貸してほしい。王を探して気鬱を治し、もう一度王宮に戻ってもらいたいと思って塔に伝書を送った。まだしばらくはこの国を治めてもらいたいのだ。ニトが我々に兵を差し向けている。俺とカラスが邪魔なんだ。あれを止められるのは、この国で王以外いない。頼む、断らないでおくれ、断ったら殺す」
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