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6、火吐国の第一王女
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闘技場に行くことをヨミ王子は一番に反対した。
イチ王女が「変装もしているし、雑踏にまぎれてしまえば危険はそれほどない」と強く主張した。結局、ニト王子が民に何を言うのか、自分たちも直接聞いたほうがいいという結論になった。
闘技場はいつにもまして人々でごった返していた。ニト王子が群衆の前に現れると、人々はいつものように王子や王を称える言葉を口にする。王子が手のひらを下に向けると、あたりは静かになった。皆、王子の言葉を待った。
ニト王子は、まず王宮が何者かによって破壊され、その心労で王が病にふせっているという憂うべき事実を伝えた。
悲嘆の声がさざめいたが、王子はすぐさま人々の不安を打ち消すように、堂々とした語り口で民に言葉をかける。
首謀者はもうわかっている。優秀な騎士団がすぐにでも捕らえ刑に処し、王に何かあっても火吐国第一王子である自分が王のかわりとなって国を守り、国に尽くすので民は何の憂いもない。王子を称える声が地響きのように起こる。
恍惚とした表情の人々の中、古いマントの陰からヨミ王子は兄をまっすぐに見ていた。
トウヤは籠からぬけだすと、ヨミ王子の背中の荷物をつたい、こっそり首の後ろあたりに行く。闘技場の王族専用席から手をふるニトめがけ、特別な周波で声を射た。
トウヤの飛ばした声はニト王子の額の真ん中に、バチンとぶつかる。電流ではじかれたたような状態となって、はっとなったニト王子は、声が飛んできた方向に視線を向ける。トウヤは荷物の中に姿を隠した。
ニト王子はヨミ王子をみつけた。
群衆の中にいようが、遠目だろうがマントで変装していようが、弟を見間違えることはなく、時間にしてほんの数秒、真実、二人は互いを認めあった。
そのうえで、兄は弟から顔をそむけた。
ヨミ王子の全身が絶望し、トウヤはそれをまざまざと感じる。
「兄上!」
ヨミ王子は、声をはりあげた。しかし、その声は熱狂する群衆の歓声にかきけされ、誰もヨミ王子に気づかない。ニト王子は二度と視線を向けなかった。
イチ王女がヨミ王子のそでを強くひき、一行は逃げるように闘技場を後にした。
「いったい何を考えている。肝が冷えた。注意深くしないとだめじゃないか。追われているんだぞ」
「イチはこの件からは手を引け」
闘技場で勝手なふるまいをしたことに怒っていた王女は、反省するどころか、一人で意思をかためた兄に、さらに烈火のごとく怒った。
「自分だけで解決できると思っているのか」
「お前には危険すぎる」
「バカカラス! 俺がスカウトしなけりゃ剣闘だってできなかったんだから! この恩知らず!」
「調査官をつれていく。この者の不思議な力は王が好むもの。王の注意をこちらに向けられる」
ヨミ王子はザミドの方を向いた。
「そのかわりイチをお前に預ける」
ザミドはわなわなと首を振る。
「このザミド、トウヤ様をお守りするのが役目。何を申されるか!」
ヨミ王子はイチ王女とザミドの前でひざまずいてこうべをたれた。
王族が膝を土につけ物事を頼むなど、戴冠か婚姻の時だけだ。さすがの王女もザミドも何も言えなくなった。
木に登っておりてこなくなったイチを、トウヤは自分が話してみるとかってでた。
(イチ様)
「一緒に行きたかった」
王女のひざによじのぼると、見上げたトウヤの顔にぼたりとあたたかな水が落ちてきた。
こう身体が小さくては、涙をぬぐってやることもままならない。
(イチ様は兄上がお好きなのですね)
王女はこくんとうなずく。
「カラスは剣闘ができる。わたしはカラスの剣闘が好き。ねえ、調査官も強いよね。どうすれば強くなれるの。カラスはわたしに剣闘を教えてくれない」
トウヤは自分が強いわけではなく塔の加護だと話した。王女が解せぬ顔なので、生来学ぶことが好きだったこと、塔に入ってからは好きなこと以外についても人一倍修練し、そのおかげで塔の加護をうけられるようになったことも指で伝えた。
「わたしも修練したいのに、誰も教えてくれない」
(イチ様はお小さくお若いけれど素早いし頭がいい。小兵には小兵の闘い方がございます)
「どうやって?」
(それを教えることができる者があなたを守ります。ザミドに剣闘を教えるよう言っておきましょう。あなたは聡い方だ。私の指文字をあっという間に解するようになった。鍛錬すれば立派な剣士になれるでしょう)
「カラスみたいになれる?」
トウヤは(願えば叶う)と、少女の小指と自身の両手で指きりをした。
イチ王女が「変装もしているし、雑踏にまぎれてしまえば危険はそれほどない」と強く主張した。結局、ニト王子が民に何を言うのか、自分たちも直接聞いたほうがいいという結論になった。
闘技場はいつにもまして人々でごった返していた。ニト王子が群衆の前に現れると、人々はいつものように王子や王を称える言葉を口にする。王子が手のひらを下に向けると、あたりは静かになった。皆、王子の言葉を待った。
ニト王子は、まず王宮が何者かによって破壊され、その心労で王が病にふせっているという憂うべき事実を伝えた。
悲嘆の声がさざめいたが、王子はすぐさま人々の不安を打ち消すように、堂々とした語り口で民に言葉をかける。
首謀者はもうわかっている。優秀な騎士団がすぐにでも捕らえ刑に処し、王に何かあっても火吐国第一王子である自分が王のかわりとなって国を守り、国に尽くすので民は何の憂いもない。王子を称える声が地響きのように起こる。
恍惚とした表情の人々の中、古いマントの陰からヨミ王子は兄をまっすぐに見ていた。
トウヤは籠からぬけだすと、ヨミ王子の背中の荷物をつたい、こっそり首の後ろあたりに行く。闘技場の王族専用席から手をふるニトめがけ、特別な周波で声を射た。
トウヤの飛ばした声はニト王子の額の真ん中に、バチンとぶつかる。電流ではじかれたたような状態となって、はっとなったニト王子は、声が飛んできた方向に視線を向ける。トウヤは荷物の中に姿を隠した。
ニト王子はヨミ王子をみつけた。
群衆の中にいようが、遠目だろうがマントで変装していようが、弟を見間違えることはなく、時間にしてほんの数秒、真実、二人は互いを認めあった。
そのうえで、兄は弟から顔をそむけた。
ヨミ王子の全身が絶望し、トウヤはそれをまざまざと感じる。
「兄上!」
ヨミ王子は、声をはりあげた。しかし、その声は熱狂する群衆の歓声にかきけされ、誰もヨミ王子に気づかない。ニト王子は二度と視線を向けなかった。
イチ王女がヨミ王子のそでを強くひき、一行は逃げるように闘技場を後にした。
「いったい何を考えている。肝が冷えた。注意深くしないとだめじゃないか。追われているんだぞ」
「イチはこの件からは手を引け」
闘技場で勝手なふるまいをしたことに怒っていた王女は、反省するどころか、一人で意思をかためた兄に、さらに烈火のごとく怒った。
「自分だけで解決できると思っているのか」
「お前には危険すぎる」
「バカカラス! 俺がスカウトしなけりゃ剣闘だってできなかったんだから! この恩知らず!」
「調査官をつれていく。この者の不思議な力は王が好むもの。王の注意をこちらに向けられる」
ヨミ王子はザミドの方を向いた。
「そのかわりイチをお前に預ける」
ザミドはわなわなと首を振る。
「このザミド、トウヤ様をお守りするのが役目。何を申されるか!」
ヨミ王子はイチ王女とザミドの前でひざまずいてこうべをたれた。
王族が膝を土につけ物事を頼むなど、戴冠か婚姻の時だけだ。さすがの王女もザミドも何も言えなくなった。
木に登っておりてこなくなったイチを、トウヤは自分が話してみるとかってでた。
(イチ様)
「一緒に行きたかった」
王女のひざによじのぼると、見上げたトウヤの顔にぼたりとあたたかな水が落ちてきた。
こう身体が小さくては、涙をぬぐってやることもままならない。
(イチ様は兄上がお好きなのですね)
王女はこくんとうなずく。
「カラスは剣闘ができる。わたしはカラスの剣闘が好き。ねえ、調査官も強いよね。どうすれば強くなれるの。カラスはわたしに剣闘を教えてくれない」
トウヤは自分が強いわけではなく塔の加護だと話した。王女が解せぬ顔なので、生来学ぶことが好きだったこと、塔に入ってからは好きなこと以外についても人一倍修練し、そのおかげで塔の加護をうけられるようになったことも指で伝えた。
「わたしも修練したいのに、誰も教えてくれない」
(イチ様はお小さくお若いけれど素早いし頭がいい。小兵には小兵の闘い方がございます)
「どうやって?」
(それを教えることができる者があなたを守ります。ザミドに剣闘を教えるよう言っておきましょう。あなたは聡い方だ。私の指文字をあっという間に解するようになった。鍛錬すれば立派な剣士になれるでしょう)
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