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11 地獄へようこそ
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憧れの人から勧められたものの、本当にここなのかと確証がもてず、鈴木は何度もスマホで確認する。
転勤で訪れたのはサル種が大多数を占める中核都市である。聞いていたとおり、見渡すかぎり、サル種ばかり。イヌ種もミックスもほとんどいない。
イヌ種とサル種のミックスである鈴木の転勤の辞令は、先月でたばかり。
内示が貼りだされると、ある人がとあるサロンを紹介してくれた。
「次田さんのおすすめですか?」
「ぜんぜん!」
元気のいい返事に苦笑した。じゃあなぜ教える。
意味がわからなかったが、イヌ種ばかりの本社で人気者の次田主任(サル種)がせっかく教えてくれたのだ。ちょっとのぞくだけでものぞいてみたいと思った。そうすれば次主任に会った時、話のきっかけになって、少しはお近づきになれるかもしれない。
鈴木はそう思って、赴任そうそう、教えられた場所にのこのこやってきた。
もちろんカットをお願いするつもりである。
鈴木はぱっと見、サル種に近いが、耳としっぽはイヌ種と同じ形状で、栗色の毛が腰くらいまである。垂れた耳の先の毛も伸びてきている。
勇気をだして扉を開けると、フアンフアーンと音がした。それすらすさんだ店には場違いな、こじゃれた感じのサル種の男が迎えていれてくれた。髪が長い美形で、目を奪われる。
男はにっこりと微笑んだ。
「どうぞ」
「あっはい」
うっとりしていると、何やら不穏な気配を感じとった。何か黒いものがこっちを凝視している。
「ヒッ」
一番奥の椅子に座っている黒い短髪のイヌ種の男が、するどい目つきでこちらを見ていた。鈴木は完全にちぢみあがった。
おびえる鈴木に「ちょっと待ってくださいね」と美形は言って、ぐるぐるうなっているイヌ種の男のそばに行き、怒った。
「客を威嚇してどうすんだ、この駄犬」
「威嚇なんかしてねえし」
胸倉をつかみあう二人にケンカをヤメテー!!と叫びそうになった時、サル種の男がぷいと横を向いて低くつぶやいた。
「ブラウンのロングヘア、あれ、むしろ田中のど真ん中だろ。お前の方こそヨダレもんじゃないのかよ」
イヌ種の男は口をぱくぱくし、頭をぼりぼりかきむしった。
「……毛なんかあってもなくても関係ねえ。お前以外、興味ねえし」
一転して空気がかわった。サル種の美形は、頬をそめ、イヌ種の男のしっぽはぶんぶん揺れている。
あ、これはひょっとして痴話げんか?
そこへ、ものすごくビビッドなオレンジのワンピースにピンクの髪をした小さなばあさんが、奥から元気に登場した。
「いらっしゃいませえ~」
凍りついている鈴木と、今にもおっぱじめそうな二人を一瞥すると、大きな舌打ちをした。
「えん、田中っ、」
くわっと鬼みたいな顔で二人の男を怒る。
「仕事中に夫夫で乳繰り合うな!!」
「誰が!?」
「何にもしてねえし!!」
ぎゃんぎゃんともめだす。鈴木はひええと縮みあがり、逃げだしたい気持ちでいっぱいである。
「いったい何なんだここは……??」
鈴木の悲鳴まじりの声に、突然静まり返った。ケンカの手をとめた全員が不思議そうな顔で鈴木を見る。
「どこからどうみても地域のアットホームな美容院だが?」
イヌ種の男が言った。
やばい、かなり帰りたい。
end
転勤で訪れたのはサル種が大多数を占める中核都市である。聞いていたとおり、見渡すかぎり、サル種ばかり。イヌ種もミックスもほとんどいない。
イヌ種とサル種のミックスである鈴木の転勤の辞令は、先月でたばかり。
内示が貼りだされると、ある人がとあるサロンを紹介してくれた。
「次田さんのおすすめですか?」
「ぜんぜん!」
元気のいい返事に苦笑した。じゃあなぜ教える。
意味がわからなかったが、イヌ種ばかりの本社で人気者の次田主任(サル種)がせっかく教えてくれたのだ。ちょっとのぞくだけでものぞいてみたいと思った。そうすれば次主任に会った時、話のきっかけになって、少しはお近づきになれるかもしれない。
鈴木はそう思って、赴任そうそう、教えられた場所にのこのこやってきた。
もちろんカットをお願いするつもりである。
鈴木はぱっと見、サル種に近いが、耳としっぽはイヌ種と同じ形状で、栗色の毛が腰くらいまである。垂れた耳の先の毛も伸びてきている。
勇気をだして扉を開けると、フアンフアーンと音がした。それすらすさんだ店には場違いな、こじゃれた感じのサル種の男が迎えていれてくれた。髪が長い美形で、目を奪われる。
男はにっこりと微笑んだ。
「どうぞ」
「あっはい」
うっとりしていると、何やら不穏な気配を感じとった。何か黒いものがこっちを凝視している。
「ヒッ」
一番奥の椅子に座っている黒い短髪のイヌ種の男が、するどい目つきでこちらを見ていた。鈴木は完全にちぢみあがった。
おびえる鈴木に「ちょっと待ってくださいね」と美形は言って、ぐるぐるうなっているイヌ種の男のそばに行き、怒った。
「客を威嚇してどうすんだ、この駄犬」
「威嚇なんかしてねえし」
胸倉をつかみあう二人にケンカをヤメテー!!と叫びそうになった時、サル種の男がぷいと横を向いて低くつぶやいた。
「ブラウンのロングヘア、あれ、むしろ田中のど真ん中だろ。お前の方こそヨダレもんじゃないのかよ」
イヌ種の男は口をぱくぱくし、頭をぼりぼりかきむしった。
「……毛なんかあってもなくても関係ねえ。お前以外、興味ねえし」
一転して空気がかわった。サル種の美形は、頬をそめ、イヌ種の男のしっぽはぶんぶん揺れている。
あ、これはひょっとして痴話げんか?
そこへ、ものすごくビビッドなオレンジのワンピースにピンクの髪をした小さなばあさんが、奥から元気に登場した。
「いらっしゃいませえ~」
凍りついている鈴木と、今にもおっぱじめそうな二人を一瞥すると、大きな舌打ちをした。
「えん、田中っ、」
くわっと鬼みたいな顔で二人の男を怒る。
「仕事中に夫夫で乳繰り合うな!!」
「誰が!?」
「何にもしてねえし!!」
ぎゃんぎゃんともめだす。鈴木はひええと縮みあがり、逃げだしたい気持ちでいっぱいである。
「いったい何なんだここは……??」
鈴木の悲鳴まじりの声に、突然静まり返った。ケンカの手をとめた全員が不思議そうな顔で鈴木を見る。
「どこからどうみても地域のアットホームな美容院だが?」
イヌ種の男が言った。
やばい、かなり帰りたい。
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