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12 <オマケ>しつぽはイエスイエスである~田中の新婚生活 ~

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「俺は肉のハマナサの商品券じゃないと受けとらんって言っただろー! いらん!」
 あえていやがるのは、サラリーマンの作法だ。結果、田中の結婚祝い飲みはとても盛り上がった。最終的には「イヌ種のしっぽと耳を、サル種の君も体験!」とデカデカとキャッチコピーが書かれた派手な箱を、押し問答の末受けとった。
 結婚相手が若い美人であることを次田にばらされたものだから、祝いの席では、いじられっぱなしだった。
 随分飲まされ、酔っぱらって帰宅すると、キッチンのテーブルにもらった花束やらなにやらをどさっと置いて、まず風呂に入った。全身ドライヤーで身体を乾かし、鼻歌を歌いながら戻ってくると、梱包は乱暴にとかれ、空き箱が打ち捨てられていた。
 おやおや。
 床に落ちていた取説を、何の気なしに拾ってぺらぺらめくる。
 耳としっぽを疑似体験するためのおもちゃは、装着すると耳はこめかみから、しっぽは尾骨を通じて、神経伝達物質の波動を感知し、動くとある。耳は極細のカチューシャのような感じで、しっぽは特殊な吸着盤で皮膚に直接装着する。
 さてさて。
 寝室をのぞくと、ベッドがこんもりしている。そーっと毛布をめくる。かわいい三角の耳が見えた。
 えんは、すばやい動きで毛布を奪い返し、頭を隠した。
 しかし「頭隠して尻隠さず」とはよくいったもので、勢いよくふとんをひっぱりすぎて、尻がまるだし。まるだしになってこちらを向いている尻は、田中の方を向き、シャツとデニムの間、尾骨あたりでもっふもふのしっぽがぶんぶんぶんと楽しそうに揺れている。
『すきすきすきすき田中かっこいいい、すきすきスーツかっこいいたなかたなかたなかあだいすきいたなかはおれのおれの☆』
 人工のしっぽはちぎれそうなほど左右に揺れていて、なぞの音声がしゃべり続ける。
『すきすきすきすき田中かっこいいい、すきすきスーツとかまじかっこいいもふもふの毛、だーいすきスーツでだいてくれないかな~☆』
 田中はベッドの角に頭をぶつけた。

「何の気なしにつけたらとれなくなった」
 すんすんとべそをかくえんをなだめながら、取説を再度熟読し、みつけにくい場所にあった音声スイッチを探しなんとかオフにする。
 取説には、つけた人の心をAIが音声に変換するとある。
 流れ続けていた「すきすき」がようやく止まると、えんはようやくほっとしたように息をついた。その顔を見た田中は、もう限界とばかりに涙を流して笑った。
 仕事を終えてジグ・オークから帰ってきたところ、変なプレゼントをみつけて、何も考えず好奇心でつけてみたら外れなくなるわ、田中にみつかるわ、変な声が流れるわで、散々な目にあったえんを笑わずにはいられない。
 えんはキーッと逆ギレして、笑う田中を無言で蹴った。耳もしっぽもちゃんと連動してキーッとなっている。
「『すきすきすきすき田中かっこいいい、すきすきスーツとかまじかっこいいたなかたなかたなか』」
 ひいひい笑いながら、おもちゃの音声の真似をすると、えんはますます怒って、田中の背中をぼかすか殴った。
 田中はにやにやしながら、意地悪を言う。
「スーツが好きなのか。それは初耳だ。『スーツでだいてくれないかな~☆』」
「言うな! バカっバカっ!」
「なんでだ? 俺はお前にモテているとわかってうれしい。なんなら今スーツを着てやってもいい。ただし条件がある」
 舌なめずりする田中に、えんのつけ耳はぴくんと反応し、偽物のしっぽは本物みたいにきゅっと緊張する。

「エロいな」
 えんの尾骨にフィットしたしっぽは、さっきから田中の目を存分に楽しませていた。もちろん音声はオフにしてある。
 えんは無言であるが、しっぽがふるふる揺れている。まったくにやにやしてしまう。
「あっ、スーツ着たばっかなのにもう脱ぐの、ずる……」
「だって汚れるだろ」
 つけ耳ではなく本物の耳の方に低くささやくと、おもちゃの方がぺたんとひれ伏した。   
 くったりと垂れたしっぽを優しくつかんで、上に持ち上げた。四つん這いの姿勢でそうすると、しっぽが垂れている状態だと隠れてしまう尻がまるみえになる。衣服を身につけているため、隠すべきものではないのに、まるで秘密を暴いたような興奮を感じた。
「あ」
「しっぽ、感じるのか」
「そんなはずないのに、なんか、うあ」
 田中が手をはなすと、自分で持ち上げたまま固まった。
「してほしくて自分からしっぽを上げるなんて、淫乱なわんちゃんだ」
 耳はぶるぶるぴくぴくしている。耳もしっぽも毛の色はえんの髪色とほぼ同じ、耳の中はピンクで柔らかそうで、田中はその作りの繊細さに感心した。
 田中は腕をまわしてえんのジッパーをジジ……とおろし、ぴっちりと下半身を覆っているデニムを下着ごとずるんとはがした。しっぽは恥ずかしそうに垂れ下がってくる。田中の目からえんの大事な部分を守るように、しょんっ、となる。
 ダメだ、戻りなさいと叱りつけるように、鼻先を使って払いのける。そのまま匂いをかいだ。えんは「ぁぁ……」と吐息をもらした。田中はその反応に満足して、やはり下がってくるしっぽを今度はキュッと上につかみあげ、有無をいわさず、尻をちゃんとむきだしにする。ペニスを尻のみぞにこすりつける。
「………………っ」
 いきなりずぷりと挿入すると、えんの耳としっぽはぴんっと緊張し、やがてゆっくりゆっく力が抜けて倒れていく。そんなえんのにせのケモ耳を噛むと、えんはかすれた声であえいだ。
 二十歳になってから現在に至るまでの三年間、田中を受けいれ続けているせいで、えんの身体は田中にすぐ開いてしまう。
 もはやがつがつと容赦なくまぐわってもえんの口からは快感の声しかでない。その激しい突き上げに、さっきどうやってもとれなかったつけ耳としっぽがはずれてしまった。
「たなか、中がぁ、なか、……あ、あ、ぁ、あ、ぁ」
 よがるえんの何もついていないつるんとした尾骨を眺める。えんとは結婚したばかりだが、不愛想なのは変わらないし、世代ギャップなのか種族ギャップなのか、何を考えているのかわからない時がいまだある。
 それがしっぽと耳のおもちゃが、心の中は違うと教えてくれた。
 だいたいおもちゃの音声などデタラメだと言って否定すればいいのに、真っ赤になって怒るものだから、心の声です真実ですと認めたも同然だ。
 そういうちょっとぬけていて素直なところがかわいい。かわいすぎる、本当にかわいい。
 しれっとした顔をしている時も、あんな風に心の中では田中を想って大騒ぎしている。そんなのデレる。
 田中のしっぽはぶんぶんとちぎれそうな勢いだ。
「ん、ん、かあいい、っていうなぁ……」
 知らぬ間に声にだしていたらしい。二人のピークが同時に来て、しかしイヌ種の常としてそれだけでは収まらない。
「すまんな」と言うと「俺で良かったな~、田中。ほかの奴なら逃げ出すんだからな。毎回こんなしつこくて長いセックス」と憎まれ口をたたく。そのくせ、えんはつながっている間中、田中の胸の毛をぎゅっとつかんで離さない。ふわふわの毛にうっとりと顔をうずめる。
 そんなことをされると、田中のしっぽはますますぶんまわる。
 田中は心も毛もちんこも、この髪の長いサル種の男につかまれてしまった。
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