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10 イヌも歩けばサルに墜ちる

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 田中はあの夜、厳密な意味でえんとはヤっておらず、しかし実際いやらしい気持ちでその肌に触れた。
 それは完全にアウトな行為で、知らなかったとはいえ、えんが未成年だったことを思うと、いまだ深く落ちこむ。自分が酔っぱらってケダモノになるなんて事実、信じたくない。
 例ええん自身が「誘ったのはこっちだから、田中は悪くない」と言っても、だ。
 それが、その後ろめたい気持ちは、木の上から、田中に向かって両手を広げたえんを見て以来、すっかりなくなった。
 無条件に、無批判に、田中まるごとを受け入れようとしていた。自分にはそれができると信じている顔だった。
 果たして田中が逆の立場だった場合、できるだろうか。自分の身体より大きい男が落っこちるのを受けとめるため、両手を広げるなど。
 不思議なことに、あれ以来サル種の人々の区別が容易にできるようになった。その代わり、サル種に対し以前の自分が感じていた感覚をどんどん思い出せなくなっていく。
 つらつらとそんなことを考えながら、田中は大きな木に寄りそうように建っている、お化け屋敷みたいな美容院に向かう。
 そこは「地獄」とか「自業自得」とか、そんな感じの名前の小さな店だ。
「ジグ・オーク」の由来は、ジとグはじいさんとばあさんの名前から一文字ずつとっていて、オークは樫の木のオークからだ。しかしそのたたずまいからは、そんなあたたかな名づけエピソードは一切伝わってこない。
 一見廃屋にしかみえないため、何度訪れても、本当に営業しているのか不安になる。
 階段を上ればホラーな小人の置物があり、扉をあければフアンフアーンという間抜けな電子音が鳴って、奥から派手なばあさんが出てくる。ばあさんの連れ合いのじいさんは、いたりいなかったりで、いない時はだいたい船に乗っている。
 客のはげちらかしたおっさんが大口を開けて寝ている日もあれば、小学生が宿題をしている日もある。近所のスナックのママは若作りで、自分の趣味と実益を兼ねた奇抜な髪型をオーダーしている。
 内装はカオスとしかいいようがなかったが、天窓を新しくしてからは、天気のよい日は自然光でほのぼのと明るい。
「お?」
 こつんと頭に何かがぶつかって田中は立ち止まった。
「どうかしました?」
「次田、気をつけろ」
 田中は、いいタイミングでやってきた次田と一緒に上を見上げる。
 大きな樫の木の下で、落ちてくるものといえばどんぐりだが、ぱらぱらと上から続けざまに落ちてくる。
 田中は「来る」と思って冷静に腕を広げた。
 予想通りだった。ズサーーーーッと、茶色がかった長い髪をした美しい男が、田中の上に落っこちてきた。
「わーーーーーーっ」
 次田が悲鳴をあげるそばで、田中は表情一つ変えず、落下してきたえんをガッチリうけとめる。
 田中はえんの髪についている葉っぱやごみを払い落としてやり、地面におろした。
「というわけで逃げよう」
 えんは自分が突然木から落ちてきたことなどなかったように、主語なしで言った。それに対し、田中も主語なしで答えた。
「挨拶くらいはしないと、だ」
 えんは眉間にしわをよせ、顔を横にふる。すでにパーティーは始まっていて、そんなところに田中が登場しようものなら、面倒くさい人たちにいじられ放題なのは目に見えている。田中だってそれはわかる。
「う~ん、そりゃそうだけどな~」
 えんは以前から「誕生日パーティー? ただ口実にして自分たちが飲みたいだけだろ? そんなのより、どこか遊びに行きたい」と不満たらたらだった。
 このところ田中が忙しく、えんをろくに構ってやっていない。
 田中は、ふうっとため息をついた。何を優先すべきか考えた。次田に手土産を託すことにした。
「次田、悪い、これアイス、すぐに食わない分は冷凍庫に」
「あーはいはい」
 出会った頃の猫かぶりはどこへやら、ジグ・オークでは毒舌キャラでとおっている次田なら、適当にごまかしてくれるだろう。次田は、やれやれ、のポーズでアイスを受け取ってくれた。田中が、礼を言いかけた矢先だった。
「次田、ありがとう」
 えんがはっきり言った。思わず田中はえんの顔をまじまじと見た。
「何だよ」
「いや、別に」
 二人のやりとりに、次田はブフッと噴きだした。そして「さっさと行っちまえ、そうじゃないとアイスぶっかけるよ」と脅すものだから、そうされたくない二人は、そそくさと地獄の美容院を離れたのだった。

 田中の部屋に着くと、えんは支度を始めた。これから何をするかは、もうわかりきっていた。約束したのは随分前だったが、忘れたりはしない。
「軽くシャワーしてくる」
「おう」
 田中は指示どおり全身ドライヤーで半分ほど毛を乾かして戻ると、すっかりえんの準備は整っていた。
「ここ座って」
 えんは真新しいはさみを手にしている。それは田中からの誕生日プレゼントだった。
 高校卒業後は美容専門学校に通い、つい先日美容師の資格をとったばかりだ。
 えんは田中の胸元の毛にはさみをいれた。ふわんとひと固まりの毛が、床に落ちてゆく。
 えんの指示に従い、立ったり座ったり、腕をあげたりおろしたりする。細かく調整がはいる。田中は辛抱強くえんのやりたいようにさせた。経験豊富な美容師でも全身カットには時間がかかる。
 切った毛を吸いこむ専用の機械を全身にあてられ、ワックスで整える段階になった頃には、陽が落ちはじめていた。
「どう?」
「ここまで短くしたのは初めてだが、気に入った」
 正直に言うと、えんはへへっと得意顔で笑い、携帯を使って田中の写真を何枚もとった。
「あ、ケーキ食うから戻って来い、だって」
 二十歳の誕生日、主役不在で行われているパーティーも、ろうそくを消すのだけは本人じゃないとかっこうがつかない。
「えん」
 立ったままメッセージに返信をしているえんは、美しい青年だった。髪を高い位置で一つに結んでいるため、あらわになった首筋に田中の毛がついている。息を吹きかけると、ばっとその部分を手で押さえ、振り返った。田中の毛はふわふわで柔くて細かい。田中のいたずらに、えんの瞳が「なに?」と聞き返している。
 田中は何気ない調子できりだした。
「一緒に戻ってケーキを食ったら、俺は普通に帰る。でもまた夜になったら迎えに行く。ばあさんに気づかれず、家を出れるか?」
「それ誰に聞いてんの?」
 えんは何を言われているかを理解したうえで、田中を軽く睨んだ。
 0時をすぎると、えんは二十歳、大人の仲間入りをする。

 星明かりの下、そわそわと木の下で待っている田中のもとに、えんが木をつたって家を抜け出してきた。
 えんはぴかぴかしていた。夜でもわかるほど上機嫌だった。それはきっと昼間、田中のスタイルを「上出来だ」とばあさんに褒められたからだ。
「落っこちてこないの珍しいな」
「次田に言われた。田中の腰に負担かかるからやめろって」
 田中は、「ぬかせ」と言ってえんをかつぎあげた。そのまま急に走りだす。えんは高い声で笑いころげる。 
 腰を心配されるほどやわじゃない。
 大事なものを盗む悪い犬は、奪った後は全力で走って逃げると相場が決まっている。

 田中とえんが部屋についてまずしたことは、手を丁寧に洗うことだった。風呂はもうすませていたし、爪も短い。
 鏡の中の顔、黒い毛でおおわれていて、口は大きく裂けていて、耳はピンとたっている。正直自分のことはイケていると思っているが、サル種のヒトたちからすると、どうなんだよ、と思うことが、あの日以来たまにある。
 えんの目に、自分はどんな風に見えるのだろう。
「お前、俺が怖いとか思わないのか」
「は? 今さら何言ってんの」
 鏡越しに問いかけると、えんは出会った時のように睨んできた。挑発的に田中の胸毛をつかむ。田中も戯れに、狭い洗面所でえんの胸倉をつかんだ。
「おい、えん、お前、うちの家族に会う気はあるか」
「上等だ……で、お前の家族、何色の毛色?」
「全員もれなく真っ黒」
「へえ、見たい!」
 田中は笑うえんの唇をべろんと舐めた。そのままふんふんとこめかみの匂いをかぎ、耳の後ろ、うなじ、首筋、鎖骨を舐める。服をめくり、わきの下に顔をつっこんだ。えんの指が困ったように、田中の耳をつかむ。
 わきの下には、無防備なサル種の身体において、わずかだが毛が生えていて、それがたまらなくそそる。
 夢中で淡い毛並みをべろべろする。フェロモンが濃くて、田中はその匂いを吸いこむ。舌にまとわりつくものも芳しく、くらくらする。
「くすぐったい!」
 濡れた鼻で、腕の裏側にすっと線をひくように触れるとえんは、やや暴れた。壁際に置いたベッドに倒れこむと、さっきのおふざけの延長で、両手首をひょいと掴んで固定する。えんの身体は、自由を奪われ、緊張と弛緩を繰り返している。
 ハッ、ハッ、と息が短くなっていく。おそらく目もギラついているだろうし、口の中はよだれがいっぱいで、気を抜くとえんの身体の上にだらだらとこぼしてしまいそうだった。
「するぞ」
 田中が言うと、えんは両手を田中から奪い返し、田中の大きな口につっこんだ。田中はえんの指をがぶがぶと甘噛みし、その後、丁寧になめあげて、すすった。
 何か言い返してくると思っていたえんは、ただ上気した頬で田中を見ている。
 えんは身体をのばし、田中の大きな口のはしにキスした。
 待ちくたびれた。不安だったんだからな。そういう意味でなら、ずっと怖かった。
 えんはようやく聞きとりにくい小声で言った。そして一つにしばっていた髪をほどいた。
 顔を左右にふる。長い髪がぱさりと乾いた音をたてて、その両肩に広がる。えん自身の髪がもつ甘い匂いが、田中の鼻腔をついた。
 田中はうう、と低くうなり、えんの不安を払拭してやるように首、耳、頬、すっとしている鼻緒、唇、を順に、ていねいに舐める。えんはくすぐったがって、いやいやをするが、顎に手をそえ固定して、眉毛の舌触りを楽しむ。
 そして田中はえんの衣服をひとつずつ、わざと野蛮に、口で脱がしていった。
 こっちだって好きで「マテ」をしていたわけじゃない。へそから、みぞおち、のどの突起まで、一息に舐め上げる。

 田中はえんの秘部を、そのわずかな体毛と肌と、性器を、じっくり息がかかりそうな距離で観察した。もちろん匂いだって嗅ぐ。わかったのは、サル種の男の股間はとてつもなくエロい、ということだ。その毛はいったい何の役割だ、と問いたい。
 田中はかつてサル種にもあったはずのしっぽが生えていたはずの部分、その名残の骨に鼻を押し当てる。
 ぞんぶんに撫でてかわいがり、舌をはわせ、味をみる。そして愛しさのあまり、えんの尻の割れ目になんのためらいもなくすぽっと顔をつっこんだ。突き出した口は、そうするにうってつけだ。
 覚えている、この匂いと味と、舌触り。ささやかな茂みを蹂躙したのだ。あの日、やはり舐めたのはわきの毛ではなく、陰毛だ。えんは「ヤッてない」とは言ったが、挿入こそしなくとも、ほとんどヤッたも同然だよなあ、と田中はやるせなくなる。
「……ん、ん、それ、……あっ」
 窪みに顔をつっこんだまま舌を往復させると、えんは身体をよじる。内腿をべろりと舐める。小さな尻を両手ですくい、ぐいっと開いたり閉じたりしてみる。とにかく全部を舐めて、その匂いと味を確認したい衝動に支配される。
 サル種の短い舌とは比較にならない長い舌で、下腹部の毛の流れに逆らって舐め続ける。さりさりと、何度も何度も舐める。
 えんのピンクのペニスはしっかりカリが張り固く勃ち上がっている。手の甲、指の背でなでてやると、「あ」とえんはかわいらしい声で鳴いた。田中の手や指の毛は他の部分よりごわごわしているから、刺激が強いようだ。
 無防備な裏筋を、くすぐるようにしているうちに、田中も辛抱ができなくなってくる。なぜなら、面白いほどえんの性器はぴくんぴくんと反応するのだから。
 まるでしっぽそっくりだ。
 あふれてしょうがない大量の唾液でえんのペニスの先端を濡らす。
「あ、田中っ、べちょべちょにしたら、ぁ、バカ……っ、」
 唾液でぐっしょりとしているえんのペニスを数回しごいてやると、簡単に射精をした。
 勢いよくとびだしてきた精液も田中はなめた。まだイっており呆然とした身体をひっくり返して、尻をこねまわしながら、脚の間に再度顔をつっこんだ。すっぽりと鼻先が納まる。当然ながら放ったばかりの精液の匂いがした。
「田中、やっぱ、それ、さすがに、恥ずかし……あ、やっ、……」
 何を今さら、と無視して、睾丸をほおばり、アナルを舐めた。長い舌は、びちゃびちゃとひわいな音をたてる。
 サル種のヒトのご先祖さまは、発情するとあからさまに性器が赤く腫れ、オスを交尾に誘うと聞いたことがあるが、えんのアナルも田中に舐め続けられたせいで、濃い色に濡れ、いやらしく開いたり閉じたりして、まるで誘っているようだった。その様子を田中は凝視する。
 長い舌で舐め続けていると、えんの身体がどんどん溶けていくのがわかった。自分で自分の身体を支えられないほどになり、崩れてしまう。
「無言なの、怖い」
 はあっ……と感じきった吐息とともに、えんは抗議した。
 それでも何も言わず、ただひたすら舐め続けた。無我夢中でとめられなかった。時々ぐるると喉がなる。
 えんの身体は舐めても舐めても欲望をあおる。どこもかしこも滑らかで、濃い。時間を忘れてひたすら舐める。
「はあっ、はあっ」
 乳首をターゲットにしていた時だった。田中の熱に呼応するように、えんは二度目を放った。田中の腕にかかったそれすら、全て舐めとる。
 えんは放ったばかりでまだ疼きがおさまらない身体をなんとか起こし、田中の膝に乗り上げた。田中がまたいたずらを始めぬよう、口を両手でホールドし、「めっ」と怒った。
「むがむが(怒られるようなことはしていないぞ)」
 えんは田中のしっぽに触れる。毛の流れに指をしずめ、逆撫でしたり順撫でしたりと、うっとりとした顔で、もてあそぶ。
 優しい気持ちでえんの肌の上をぱたぱたしてやると、えんは田中のもう一つのしっぽに関心を持つ。
 勃起時のイヌ種の男性器は、普段の二倍くらいになるため、腕かとみまごう太さである。
「大き……黒……」
 田中の身体の中で数少ない毛の生えていない部分。血管が浮き出てびくんびくんしているものに、おそるおそる触れてきた。
 いつも田中にマッサージやスタイリングなどで迷いなく的確に動く指が、困り果てておずおずしているのがかわいらしい。こそばゆい、そして気持ちいい。
 両手で包んでみたものの、うろうろと目線をさまよわせたえんは、決意してかがみこみ、顔を寄せる。一生懸命ぺろぺろし始めた。その舌の小ささに、くらっとした。
「んっ、んっ」
 口いっぱい頬張って口蓋にすりつけても、先端しか入らない。見ているとたまらなくなって、田中はえんの身体の向きを、自分の顔をまたぐような体勢に変えさせた。
 えんはこんなことなんでもない、というように促されるままだったが、舌遣いがぎこちなくなったことで、その緊張が伝わってきた。
 さきほど舐めまくった場所を、指で触れた。つつくと、きゅっとするのに胸騒ぎを覚えながら、えんの身体のこわばりをどうにかして解消してやりたいと思った。
 田中は行為を中断して、えんをころんとひっくり返す。
 そして背中をさする。えんのようにはできないが、えんの指や手の動きを思い出しながら、大きな手で優しくマッサージをした。
「下手くそだが、がまんしろ」
 見よう見まねの手わざに、えんの身体がみるみる弛緩してゆく。ふにゃ、と緊張がとけたかわいい身体を、田中は愛しく思う。
 してみて初めてわかる。好きな相手に奉仕するのは楽しい。まるで身体と身体で会話しているようだ。
 これまでえんはえんなりのやり方で田中に気持ちを伝えてきた。顔や態度は不愛想でも、最初からこうやって、田中に愛情を向けてきた。自分の鈍感さが恥ずかしくなる。
 挽回したい。舐めるのを再開する。今度はちゃんと身体の声を聞きながら、念入りに舐める。えんが田中の毛をひっぱる。
「もー、舐めてばっか、ペロペロ犬!」
 さっきまでみんなの輪の中にいた。もう思春期だって過ぎたというのに、生意気な反抗期顔で、相変わらず無口で、しかし親しい人にはわかる愛情深さと素直さをもって。
 そんな愛され大事にされているえんのこんな場所を、舐めたりいじくったりしていることに罪悪感を感じる。
 すけべは後ろめたい。
「ああそうだ。俺はお前のペロペロ犬だ」
 これまで田中の肩に大人の責任がずしっとのしかかっていたが、もうどうでもいい、全部俺のもの。
「いいか?」
 えんが鼻にかかった声で「ん」とうなずく。
 手早くコンドームを自身に装着し、えんと向かいあう。つんと尖った乳首を舐める。するともっとして、というように胸を突きだしてきた。要望にこたえるべく、田中はそれを音をたてて舐めた。
 なぜならペロペロ犬だから。

 挿入は少しずつ進めた。その部分は意外な柔軟性をみせ、どんどんと田中の黒い怒張を飲みこんでいく。
「これはいったい」
「してたから」
「……え」
「準備」
 えんは早口で言ってそっぽを向く。その様子にぐっときた。
 興奮でちょっとわけがわからなくなり、えんの長い髪をもぐもぐする。
 少しずつ進める。えんの身体は田中をじわじわと受け入れてゆく。
 折った膝がしらにキスし、半分くらい進め、引き返す。それを繰り返す。ゆっくりずくんずくん抜き差しする。
「田中あ、田中のおっきいちんぽ、黒ちんぽ……こんなの……あ、浅いところばっか、」
 田中はえんの足首をつかんで、めいっぱい身体を開かせた。田中の口はよだれでいっぱいで、垂れた唾液はちょうどいい潤滑油になる。局部にたらしながら、じりじりと深くのみこませる。
「これ以上広がったら……今でもきちきちなのに……だめ……あ、っ、あっ」
 睨んだ顔、不機嫌な顔、意地悪する時の悪い顔、しょんぼりした顔、笑顔、田中を助けようと決然と腕を広げた時の顔。
 今、この時の、怯えと媚びを含んだ淫蕩な顔、こんな身体……無毛の剥きだしの身体……くそっ。
 えんの身体の中で己がさらに固くなり、激しい情動が生まれた。やみくもに突きあげまくりたい。
 ぐるると喉がなる。
 セーブを解除して、ずくんと未踏の地まで深く腰を進めると、聞いたことのない声をあげて、えんの上半身がのけぞった。勃起して揺れるえんのペニスがさっきより濃い紅色になっている。
 はは、小さくかわいい。本当にしっぽみたいに、嬉しそうに自分からぶるぶると震え悦んでいる。ばかみたいにでかくて黒い自分の性器とはまるで違う色。
 えんの肌は、じっとりと汗ばみ、腰はいやらしくくねり、田中の毛の感触を愉しむように、さっきからことあるごとに、身体をすりつけてくる。そのせいで黒い田中の毛並みは、えんの汗や体液で濡れ、艶を増している。二人の匂いがまざって一つになる。
 同じ人間で、男でもこんなに違う。違っていて愛おしい、同じが嬉しい。
 ハッ、ハッ、ハッと短い呼吸を繰り返しながら、理性を失くした。えんの身体の中をぐりっと穿った。
「や、あ、……こんな、こんなおく、おく、……っ、たなかあ、あたる……っ」
「どこにあたるんだ?」
「ううっ、ここ、ここ」
 えんは涙目で自分の腹部、胃の下あたりに手の平をあてた。
「ここ、こんなとこまで、田中のおちんちんきてる、お腹苦しいのに、気持ちい……」
 直後、えんが放った三回目の精液が、ぴしゃぴしゃと目の前でこぼれ、田中はぐるう、と低く吠えた。
 えんの両脚を抱え、何度も何度も腰を強く打ちつける。それは、激しさ、速度、すべてが高まっていく中で、起こった。
「あ……っ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
 えんが切ない悲鳴をあげる中、田中は喉でうなった。
 えんの胎内の奥深くにどくどくと大量の精液が排出された。
 自分のペニスがびっくんびっくんとえんの中で暴れると、それに反応するかのようにえんの内部がぎゅうっと収縮する。まるで搾り取るような蠢きが、田中の分身をいじめる。
 あまりの気持ちよさに、えんを抱きしめたままの態勢で、しばらく動くことができなかった。
 冷静に考えるとわずか数分、しかし体感は数十分くらいの長い長い恍惚の後、田中が深い満足のため息とともに現実に戻ると、えんと思いっきり目が合った。するとえんはきゅっと眉をしかめ、すぐ目をそらした。
「どどどどうした」
 その反応に田中は、激しく動揺する。サル種の華奢な身体に無茶しすぎたか、嫌われたか。
「なんだ、どっか痛いのか?」
 えんはぷるぷると首を振り、言いにくそうに言った。
「なんか、コレ、さっきから形……」
「……へ?」
 硬度を保ったままの田中のペニスが、射精後もえんの内部にあった。
 イヌ種のヒトの場合、性的興奮の最高潮を迎えたペニスは、一回の射精くらいでは萎えない。むしろ形状が変わり相手の体内に留まろうとする。田中はああ、と気づいて、うなる。
「知らなかったのか。はじめてなのか」
 未知の感覚に不安を隠せない様子のいたいけなえんに、とてもそそられ興奮してしまう。
「は、はじめてなわけあるか!」
 負けたくない、というように真っ赤な顔で睨んでくる。
 いや、まあ、どちらでもいいけど、そんな顔いろいろ筒抜けでかわいいだけだけども。そう思うとドゥクンと性器に血が送られる感覚がした。
 えんは、平らな腹の上に手の平をあてて、助けを求めるように「あ」と言って視線をさまよわせる。
(くっそ、かわいい)
 挿入したまま、身体の向きをぐるんと変えて、後背位の態勢をとり、その細腰をつかむ。
「え、田中、俺、もう無理、三回もイッてる、あっ、あっ、動かないで、やめて、おねがい」
「お願いされてもきけない時がある」
「……おね、おねがい……、やだっ……」
 えんの長い髪が裸の背中に広がっている。ロングヘアはこれだからたまらない。
 田中は昔からロングヘア美人に弱い。しかしそれは同種の成熟した女性に限ったことで、まさか自分が異種であるサル種の、そして一まわりも年下の若い男にはまるとは、思いもしなかった。
 えんがむずがって首を左右に振ると、茶色がかった美しい長い髪もぱさぱさと乾いた音をたて揺れ動いた。髪の匂いをフンスンとかぎながら、うなじやらこめかみを鼻でまさぐる。最高だ。煽られて腰が深くなるというもの。
「あ、あ、あ、……あっ、あっ、あっ、あああああん、」
 よい声で、よくなくサルだ。
「田中あ、ああん、中、パチャパチャするから、……、変なかんじ、する、おねがい、一回やめ……ぬいて……っ」
「こればっかりは無理だ」
「あ、あ、ぁーぁーぁ」
 田中の二度目は、一度目と同じくえんの最奥にたたきつけるように出した。えんはそれを奥の奥で全部受けとめた。貪欲な口が懸命にのみほす。 
 一時間以上かけてやっと田中の勃起が収束した。えんから性器を抜く際、ゴム製品も限界で、田中の大量のミルクがえんの身体の中でこぼれてしまった。ぱくぱくしているアナルからこぽこぽとそれはあふれてくる。
「こんないっぱい、ばか、ぁ」
 尻からあふれるものを見られまいと逃げる身体を取り押さえ、ペロペロ犬はじっくりそれを観察した。
「もう、やだ、田中、サイアク、」
 えんは自分の股の間にある田中の顔を、太ももでぎゅっと挟み、耳を掴んだ。怒る顔も嫌がる身体もかわいくて、しっぽがふりきれそうになる。
 
 セックスが終わると、田中は恥も外聞もなくえんのひざに頭を乗せ、丸くなった。でかい図体をすべてえんに預けてしまう。
 これはイヌ種の男性の多くが、親密な人の前でのみ見せる姿だ。田中のしっぽは、パタパタとベッドシーツを優しくたたいて平和なリズムをきざんでいる。
 えんは最初こそ驚いたが、すぐにくすっと笑って受け入れ、くつろぐ田中をよしよしする。
「もふもふで黒くて大きくてかっこいいから好きになったのに」
 もふもふって言われたくないって何度言えばわかる。
「俺のかわいいわんちゃん」
 ぎゅうと腕をまきつけられ、そんなことまで言われ、さすがにそれは聞き捨てならぬと片方の耳がぴっと立った。
 けれどえんの膝は気持ちいいし、えんの指は田中の鼻筋の毛を繰り返し撫で続けるものだから、いろいろ言うのも大人げない。
 絶対的幸せタイムがここにあった。
 えんはふかふかの毛に顔をうずめると、熱い息をフーッとふきこむ。しっぽはえんの吐息をうけて、ふくふくと膨らんだのだった。
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