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番外編
番外編 まだ恥じらってもいいですか? (2) ※R18
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◇
早苗に連れていかれたランジェリーショップは煌(きら)びやかで、普段これを身に付けている人がいるとは思えないほどの繊細な下着が揃っていた。
圧倒されて後ずさりした可南子を店に押し入れた早苗は、顔見知りらしい店員と楽しげに下着を選び始めた。会話から、自分の下着ではなく、可南子の下着を選んでいるのがわかった。
……わ、私の意志はどこに。
ふと目をやった棚にあった、黄色いレースの生地に惹かれたショーツを手に取って広げると、向こうの棚が透けて見えるレース生地に、TとYの間の何を隠したいのかわからない形のショーツで、可南子は両手で広げたまま固まる。
「ねぇ、可南子。一応聞くけど、ベビードールは持ってる?」
「赤ちゃんの、人形……?」
「はい、持ってなーい。なら、ベビードールと紐のTバックかな」
「さ、早苗さん。あのね、たぶん、亮一さんはこんなことを望んでいないと思うの」
黄色のレースのショーツを広げたまま、可南子はそわそわと落ち着かない。
すると早苗はニコニコ笑顔の店員を後ろに仁王立ちになり腕を組んだ。先程までの下着を選ぶキャッキャした雰囲気が、ごぉっと、背後に起こった風に吹き飛んだ。
「恋バナできるようになった、志波可南子さん。大切なことをお伝えしておきましょう」
「もう、わかりました……」
「わかっていません。あのね、まず、こんな下着をつけても男は気づかないと思っておく事」
そもそもの前提が崩れた、と可南子は気が遠くなる。
「こういうのを身に着けていることを意識して自分で自分を高めるの。そういう恥じらいや自信が、男を魅了するの。相手が望むか、望まないか。そんなことを考えていたら一歩も進めません。可南子はお洒落を男のためにしているわけじゃないでしょう」
「……はー。早苗はやっぱりすごいねぇ」
確かに洋服は自分が着たいものを着て楽しんでいる。下着もそれの延長線なのかと納得する。
女子力が高い人は言う事が違う。
自分が魅了できるかは置いておいて、素直にすごいと尊敬の眼差しを向けると、早苗はまんざらでもない様子でコホンと咳ばらいをした。
「でも、気づいてもらえないとお金の無駄だから、暗くてもわかりやすい、サイドがヒモのTバックと、ベビードールにする。そういう努力は必要」
現実もちゃんと見ている早苗をますますカッコいいとキラキラした目で可南子は見た。
「というわけで、私が選ぶねー」
早苗が意気揚々と言うと、話の流れ的に可南子は頷いた。
店を見渡すと宝石のような下着が、控え目にだが丁寧に自分を主張しているように感じた。
現れる持ち主が大切な時間を演出する、その時のために。
最初は圧倒されているだけだった店も、少し楽しく感じ始める。
可南子は手に持っていた黄色のショーツをもとの場所に戻すと、新しいショーツを手に取った。
◇
……雰囲気に流された。
可南子はソファに座って、正面のテレビの上にある掛け時計をじっと睨んでいた。
早苗が出してきた幾つかの候補の中から、可南子は一着のベビードールを選んで買った。身に着けて一時間ほど過ごしたあたりで、やっと素直に着なくても良いのではないかと思い始めた。
ベビードールの柄が透けない、オフホワイトとブラックの細かいチェックのブラウスに、渋い緑色のフレアスカートを着ているが、いつもと違ってもさもさとする。こういう下着は、上から服を着るものはないのだと実感を伴ってわかる。
……雰囲気に流されるの、こわい。
可南子は顔を手で覆った。店員と早苗のテンションに引きずられたといっても過言ではない。際どいものばかりを選ばされたせいか、感覚が鈍ってしまったらしい。
買い物が楽しかったのは事実だが、一人になってみるとプレッシャーに押しつぶされそうになる。
良いとその場で思っても、いざ使ってみると何かが違う。下着も靴や服と同じだと知った。いい経験になった、とブラウスの上から、胸の下で左右を繋いでいるリボンが施されたホックに触れた。
もう脱ごうという意思が柔弱になるのは、この一か月の間、亮一の誘いを拒んできたからだ。 だが、緊張しすぎて気分が悪くなってきた。このまま二十二時までに亮一が帰宅しなければ脱ごうと決めて、可南子は時計を睨んでいた。
あと五分、と秒針がまわる時計盤をじっと見つめた。あと少しで脱げるとソファに背中を預けて目を閉じると玄関から物音がした。亮一が帰宅したのがわかって、じわり、と汗が額に浮かんだ。
素面(しらふ)で自分から誘うようなことをしたことを思い出せない。後戻りできない無謀な試みに、砂を飲み込んだような乾きが喉に広がる。
いつも出迎えるのに座っているわけにもいかず、可南子は緊張で痛い胃の辺りを抑えながら立ち上がった。
玄関には、週末なのに疲労感を漂わせない亮一が屈んで革靴の紐を解いていた。
亮一はこの一か月をどう思っているのだろうか。
拒んでも普通に接してくれる亮一の気持ちは、薄雲に覆われているように見えない。
「ただいま、起きてたのか」
「おかえりなさい」
可南子は過度の緊張から逃げたくなる気持ちを鎮めるように両手で肩を抱いた。
身体を起こしてスリッパを履いた亮一は、ぎこちない雰囲気の可南子の顔をまじまじと見た。
「……疲れてる。俺は良いから早く寝た方が良い」
「ありがとう、大丈夫。ご飯はおいしかった?」
心づかいが嬉しくて、可南子は亮一の厚い胸に腕を伸ばして抱きついた。
亮一のスーツに染みこんだタバコと飲食店の油の匂いを胸いっぱいに吸い込む。亮一からお酒の香りはしなかった。
問いかけに「普通だった」と答えた亮一は、可南子の髪に唇を落とす。
「かなは何を食べた」
「ミルクラテ」
「それは飲み物だ。夕飯は」
「お腹が空いてなくて、お茶だけ」
「……最近、食欲が落ちてるだろう。ちゃんと食べないと駄目だ。明日の朝の為にサンドイッチを買ってきた。それを」
「お母さんみたい」
「なら、ちゃんと食べてくれ」
可南子の態度を責めず、体調を気遣ってくれる亮一の優しさに可南子は胸がいっぱいになる。
……大好き。
今なら言えそうな気がした。
早苗が握り拳を作って『セックスしたいっていうんだよ』と背後で騒いでいる。
どっどっどっ、と鼓動が大きく早くなって、可南子はぎゅっと目をつぶった。
硬い胸を唇に感じるほどにスーツに顔を押し付けて、なんとか声を出す。
「あのね、せ……す、し……し」
「どうした」
亮一の手が後頭部を撫でてくれる。それに後押しされるように、明瞭に発音しようと勇気を振り絞る。
「せっ、す、し」
「寿司を食べたいのか。自分から言うなんて珍しいな……。明日のジムの後に行くか」
「……はい」
「食欲があるのは良い事だ。いつでも連れて行くから言ってくれ。ただ、まずはサンドイッチ」
……お寿司じゃない。
放心するような消耗感の中、亮一の身体に身を預ける。
そもそも口にするのも憚ってきた言葉を亮一の前で言うハードルが高い。おまけに身に着けているのは、亮一を誘うため選んだベビードールだ。こんな無理を重ねて、精神的に疲れないはずがない。
隣から聞こえる情事の声に、平和な生活を脅かされている。頑張って声を殺して亮一に抱かれるという選択肢の方が楽だ。
そう痛感していると、亮一の腕が可南子の背中に回った。愛おしむように撫でられて、じんわりと身体の奥に歓びの痺れが広がり始める。
「シャワーを浴びただろう」
「うん」
「……なんで服を着てるんだ」
「コンビニに、行こうとしてました」
口から出た嘘に焦り、可南子は亮一から身体を離す。亮一はそれを止めずに怪訝そうに顔を覗き込んできた。
「何か、変だぞ。どうした」
亮一の切れ長の目が久し振りに全てを見逃すまいと強い光を宿して可南子を見据えた。そして、押し黙っている可南子の背中に手を回すと、いつもならブラジャーのホックがある辺り指で撫でた。
可南子の肌が火照って「あっ」と声が漏れる。
「とりあえず、下着なしでコンビニに行くのはやめてくれ」
「……胸も小さいし、誰も気づかないよ。それに、このブラウスは余裕があって」
「そういう問題じゃない。……何か着てるな。これ、なんだ」
背中のベビードールと素肌の境目を指で往復された。ふっと、このまま気づいてもらえればと願った。
「キャミソールです」
だが、グレーな嘘が流暢に口から出た。キャミソールがあらぬ方向に進化したような形だから全てが嘘ではない。
千載一遇のチャンスを逃した自分の口に絶望していると、ますます怪訝そうな顔で亮一は可南子を見た。
「……まずは食事だ」
亮一は追及をせずに、通勤鞄の後ろに隠していたかのように置いていた、ビニール袋を持ち上げた。
その袋に好きなハード系のパン屋のロゴが入っていて可南子は目を輝かせる。ずっしりと重量のあるビニール袋を受け取って覗くと、沢山のパンが入っていた。
「嬉しい!」
「飲んだ店の近くにあったんだ」
「それで買ってきてくれたの? 本当に嬉しい。ありがとうございます」
嬉しそうにパンのビニール袋を抱えた可南子に、亮一は優しく笑んだ。
亮一の表情を見て、可南子に罪悪感が入り混じった感情が交差する。
「それと、これ」
次に亮一が通勤鞄と一緒に手に取ったのは、大手のDVDレンタルの袋だった。
亮一がDVDを借りるのをはじめて見た可南子は、渡されるまま受け取る。
「……すごく、珍しいね」
「AVが入ってる」
「えーぶい」
「アダルトビデオだ。見たことが無いんだろ?」
可南子が驚きながらも素直に頷くと、亮一は「隣の」と続けた。
「隣のあの声は一般的ではないと思う」
あまり触れてほしくなさそうに言ったところをみると、経験から鑑みて、という事なのだろう。
「ごめんなさい。頭ではわかってるの」
「ああいうのを聞いて、気持ちが削がれるのもわかる。無理強いをするつもりもない。ただ、俺は可南子が声を出してくれるのはいつも嬉しいと思ってる」
「……」
「それに、大きな声を出したと思ったら、俺はいつも可南子の口を塞いでる」
熱く唇を塞がれた感触を思い出すと、知らぬうちに指は唇を触れていた。
「声を出されるのが嫌だとかではなくて、誰にも聞かせたくないからだ。俺だけの、特権だ」
「……あの」
「可南子らしいなと思って様子を見てた」
「私らしい?」
「らしいだろ。妙に生真面目に考える。DVDは気が向いたら一緒に見よう。何事も勉強だ、奥さん」
そう言った亮一に、シャワーを浴びてくる、と肩を叩かれた。
……優しい。
呆れながらもずっと見守っていてくれたのだ。支えて包み込んで、甘い香油を全身に塗るように大事にしてくれている。
パンとDVDをローテーブルの上に置くと可南子は風呂場がある洗面所へと向かった。
すでにシャワーの水音がしていて、亮一の迷いのない、いつも通り行動に安堵した。
洗面所のドアのそばに膝を抱えて座り込むと膝の間に顔を埋める。セクシーな下着を脱ぐなら、今だ。
……考え過ぎ、か。
いつも、正解を探しているということだ。思うままに生きることよりも、ダメージの少ない予測できる道を選んでいる。
亮一との関係だけは、そこから抜け出たところから始まった。
シャワーの音が止んで、亮一が身体を拭く音が聞こえてきた。
「亮一さん、入ってもいい?」
「どうした」
濡れた髪のまま顔を出した亮一は下着だけ身に着けて上半身は裸だった。会ってから殆ど変わらない、鍛えられて無駄が無い肉体は、何度目にしてもハッとする。可南子は頬を染めて微笑した。
立ち上がると洗面所に足を踏み入れ、洗面台の前にいる亮一の濡れた髪に触れた。亮一はその優しく手首を掴むと、身を屈めて可南子のこめかみに辺りに頬を寄せる。漂ってきた風呂上がりの湿度と熱に、可南子の心臓が跳ねた。
「何か食べたか」
「ううん」
「なんだ、食べさせないと食べられないのか」
亮一は可南子の手を離して、にやりと笑う。食べさせるという意欲に満ちた笑顔は心に絡みつく。
可南子は、優しさに包まれた中で大きく息を吸った。
「あの、あのね。隣から聞こえてくる声なんだけど」
「ああ」
亮一はタオルで髪を拭くのを中断して、真面目な顔で可南子を見た。
「私があんな声を出してても、その、引かない?」
「引かない」
即答した亮一は鏡に向き合ってドライヤーを取り出すと、プラグを洗面所のコンセントに差し込んだ。
「引くわけがない」
亮一の揺るぎない言葉に、可南子は一人で悶々と考えていたことを申し訳なく思う。
ごぉっとドライヤーの音が洗面所に響いている。可南子は亮一の短い髪があっという間に乾くのを眺めた。
何気ない日常の光景に好きだという想いが湧き水のように溢れ出る。ドライヤーを片付けている亮一の背後から可南子は抱きついた。
亮一の久しぶりの生身の背中に唇を押し付けて、それから頬をぴたりとつける。
「……コンビニに行くなら付き合う。着替えるから、まず可南子は下着をつけてくれ」
「行かなくて、大丈夫」
亮一は大きく息を吐く。
それから、自分の胸にある可南子の手を包むように触れた。
「かな、無理強いはするつもりはないが、俺も我慢はしてる」
「うん、わかってる。ごめんね。でも、ありがとう」
「……可愛い奥さんが何をしても、可愛いからいいんだ」
「甘やかしすぎ……」
「五歳も年上なんだ、少しは余裕のある恰好良いフリをさせてくれ」
愛されているという実感に、他人の喘ぎ声で受けたショックが剥がれだす。
「……今日、一緒に……寝たい」
セックスしたいとは言えなかった。精いっぱいの自分の言葉で囁いてから、亮一の背中に口づけた。自分の気持ちが届くように、根付くように。
亮一は背中から回された可南子の手を解(ほど)く。そして、可南子に向き合うと頭の上に唇を落とした。
「……寝るという意味を、確かめてもいいか」
可南子のフレアスカートの中に亮一の手が忍び入った。スカートがたくし上げられて、日に当たる事のない白い太腿が現れる。あの下着を見られる、と緊張で固まりかけた可南子のこめかみを亮一の唇がくすぐった。
心の準備をする間もなく、スカートに潜っていた亮一の手が、覆(おお)う布の無い、柔らかい尻の上で止まる。
温かい手にショーツの形を探り当てられて可南子は身を縮めた。高鳴る鼓動が、亮一の反応を待つ。だが、亮一は何も言わず布を探すように手を動かし、尾てい骨にある小さな三角の布に触れた。
布の中に指を入れて引っ張ってから抜く。肌と布地が触れ合うとパチン、と音がなった。
「あ、あの」
沈黙に耐えられず可南子が口を開くと、亮一の唇が優しく重なった。その羽のような感触は、喋るなという意味だ。
フレアスカートのホックが外されチャックが降ろされると、スカートが床に落ちた。
居たたまれずに俯くとシャツの裾から出た、ベビードールの左右に分かれた羽のような裾が目に入った。黒の生地に縁どられた象牙色のレースと、同じ色で施された花柄の刺繍。華美になり過ぎない同じ柄のショーツが、合間からちらちらと見えている。
眼下で亮一の指がシャツのボタンを外していく。上から聞こえる息遣いは急いているように感じた。ボタン全て外されたシャツが脱がされると、羞恥に耐えきれなくなった可南子は自分の肩を抱く。
「……買ったのか」
可南子が躊躇いながら頷くと、亮一は耳元に口を寄せた。
「次は……俺に選ばせてくれ」
次は、という言葉が心に溶け込んだ。
独占欲と興奮が混じった声にうずきがうまれて、股の間から蜜がとろりとしみ出した。
亮一の唇はそのまま可南子の耳を食(は)んで、うなじから鎖骨、肩へと辿った。這われた跡には愉楽が灯り、肌は熱く火照る。亮一の歯が肩の紐を噛んだ。
歯が肩に当たり、唇と歯の折り重なる刺激に思わず名を呼ぶ。
「亮一、さん」
「似合ってる。綺麗だ」
亮一は手を使わず、歯で紐を引っ張り、肩から腕へとずり落とした。
可南子の声を出すまいと堪えて力の入る身体さえ、亮一は楽しんでいるように感じた。
肩紐が腕まで落ちると胸を隠す部分も一緒に下がり、張りのある白い乳房の膨らみが覗いた。明るい電気の下、可南子が肩紐を戻そうとすると、亮一がベビードールの上から乳房の先端、薄桃色の実を噛んだ。
「……っ!」
出そうになった声を喉に力を入れて、やっとの思いで殺す。
ベビードール越しの唾液で濡れていく先端は固くなり、亮一の熱いと息が悦びに火をつけた。
亮一の髪を掴んで抱き寄せている事に気づかないまま、可南子は背中を壁に預ける。
すでに湿った小さなショーツは、あわいと一体化したように濡れて食い込んでいた。
一か月ぶりの刺激は、絶え間なく快美な波を打ち付けてくる。
……気持ち、いい。
亮一の指がショーツの脇から濡れそぼった蜜唇へと指を滑り込ませた。直接的な快楽に短く大きな息が吐き出される。
「り、りょ、いち、さん」
「かな、エロい」
力が抜けてしゃがみこんでいく可南子の身体を、亮一はショーツから指を抜き、ウエストに手を回して支える。その身体を洗面所のクッションフロアにうつ伏せにすると臀部(でんぶ)を容易く持ち上げた。布に覆われていない双つの白い丘を手で掴んで、ぐっと広げる。
「あっ」
ショーツはますます食い込んで、外気が蜜で潤んだ蜜唇にヒヤリと触れた。亮一には間違いなく丸見えになっている。可南子が身を捩ろうとするとベビードールが首のあたりまで落ちてきた。腰骨をしっかりと掴まれて身体は動かない。
恥ずかしさから、可南子は床に付いた肘下で顔を隠す。
「すまん、床は痛いよな。……だから、早くイッてくれ」
「……っ!」
ショーツの隙間から蜜口に挿入された指に、内側の敏感な部分を刺激される。声だけは出すまいと堪え、可南子は乱れる呼吸だけを短く繰り返す。
確実に敏感な場所を捉え細かに動く亮一の指に、内側の襞(ひだ)が熱を持って蕩けていく。奔馬のような悦楽が体中に廻り、余波は指先にまで痺れとなって残る。
「はっ、はぁ……ハァ……」
潤んで腫れぼったい蜜唇から蜜液が滴(したた)り、それを潤滑油にして亮一は指を動かし続けた。ぐちゅぐちゅという音が、声の代わりに身体の状態を表していた。
身体に奥に力が入り、足の指に自然と力が入りだす。この感じは、逸楽が弾け飛ぶときの感覚だった。
「ふ、あ、りょ、いちさ、ん。い、イッ、」
「イくか」
亮一は手の動きを速めた。こうやっていつも亮一は溺れるまで追い詰めてくる。可南子は腕を自分の口に押し付けて、声を出すのを必死で堪える。
ウエストを回ってきた亮一の手が、正面から濡れそぼった蜜唇の頂にある赤い実に触れてきた。
「そこ、ダ……ッメ」
「気持ちいいなら、イってくれ」
泣きそうな声で訴えたが、亮一の指は蜜に濡れた赤い実を指で転がす。痛みのような快楽は、絶頂まで一気に駆け抜けさせる。
「はぁっ、は、ぁっ」
目の前に光を見た身体は小さく痙攣していた。可南子の締め付ける中から指を抜いた亮一は、可南子のわきの下から腕を入れて抱え起こす。
「ベッドに行くぞ」
至近距離から欲望に滾(たぎ)った目で見つめられた。頷く代わりに、亮一の唇に唇を重ねる。呻いた亮一の手が後頭部に置かれた。
「……好き。いつも、ありがとう」
唇が深く重なる前、可南子は弾けた名残の熱い吐息と一緒に囁く。
空回りしては迷惑をかけてしまう。それでもいつも見守ってくれている。
「それは、俺の台詞(せりふ)だ、奥さん」
甘い言葉がたくさん積もって、いつかきっと溶かされる。
可南子が甘美な夢にぎゅっと目を瞑ると、夜は長いぞ、と亮一は不敵に笑った。
早苗に連れていかれたランジェリーショップは煌(きら)びやかで、普段これを身に付けている人がいるとは思えないほどの繊細な下着が揃っていた。
圧倒されて後ずさりした可南子を店に押し入れた早苗は、顔見知りらしい店員と楽しげに下着を選び始めた。会話から、自分の下着ではなく、可南子の下着を選んでいるのがわかった。
……わ、私の意志はどこに。
ふと目をやった棚にあった、黄色いレースの生地に惹かれたショーツを手に取って広げると、向こうの棚が透けて見えるレース生地に、TとYの間の何を隠したいのかわからない形のショーツで、可南子は両手で広げたまま固まる。
「ねぇ、可南子。一応聞くけど、ベビードールは持ってる?」
「赤ちゃんの、人形……?」
「はい、持ってなーい。なら、ベビードールと紐のTバックかな」
「さ、早苗さん。あのね、たぶん、亮一さんはこんなことを望んでいないと思うの」
黄色のレースのショーツを広げたまま、可南子はそわそわと落ち着かない。
すると早苗はニコニコ笑顔の店員を後ろに仁王立ちになり腕を組んだ。先程までの下着を選ぶキャッキャした雰囲気が、ごぉっと、背後に起こった風に吹き飛んだ。
「恋バナできるようになった、志波可南子さん。大切なことをお伝えしておきましょう」
「もう、わかりました……」
「わかっていません。あのね、まず、こんな下着をつけても男は気づかないと思っておく事」
そもそもの前提が崩れた、と可南子は気が遠くなる。
「こういうのを身に着けていることを意識して自分で自分を高めるの。そういう恥じらいや自信が、男を魅了するの。相手が望むか、望まないか。そんなことを考えていたら一歩も進めません。可南子はお洒落を男のためにしているわけじゃないでしょう」
「……はー。早苗はやっぱりすごいねぇ」
確かに洋服は自分が着たいものを着て楽しんでいる。下着もそれの延長線なのかと納得する。
女子力が高い人は言う事が違う。
自分が魅了できるかは置いておいて、素直にすごいと尊敬の眼差しを向けると、早苗はまんざらでもない様子でコホンと咳ばらいをした。
「でも、気づいてもらえないとお金の無駄だから、暗くてもわかりやすい、サイドがヒモのTバックと、ベビードールにする。そういう努力は必要」
現実もちゃんと見ている早苗をますますカッコいいとキラキラした目で可南子は見た。
「というわけで、私が選ぶねー」
早苗が意気揚々と言うと、話の流れ的に可南子は頷いた。
店を見渡すと宝石のような下着が、控え目にだが丁寧に自分を主張しているように感じた。
現れる持ち主が大切な時間を演出する、その時のために。
最初は圧倒されているだけだった店も、少し楽しく感じ始める。
可南子は手に持っていた黄色のショーツをもとの場所に戻すと、新しいショーツを手に取った。
◇
……雰囲気に流された。
可南子はソファに座って、正面のテレビの上にある掛け時計をじっと睨んでいた。
早苗が出してきた幾つかの候補の中から、可南子は一着のベビードールを選んで買った。身に着けて一時間ほど過ごしたあたりで、やっと素直に着なくても良いのではないかと思い始めた。
ベビードールの柄が透けない、オフホワイトとブラックの細かいチェックのブラウスに、渋い緑色のフレアスカートを着ているが、いつもと違ってもさもさとする。こういう下着は、上から服を着るものはないのだと実感を伴ってわかる。
……雰囲気に流されるの、こわい。
可南子は顔を手で覆った。店員と早苗のテンションに引きずられたといっても過言ではない。際どいものばかりを選ばされたせいか、感覚が鈍ってしまったらしい。
買い物が楽しかったのは事実だが、一人になってみるとプレッシャーに押しつぶされそうになる。
良いとその場で思っても、いざ使ってみると何かが違う。下着も靴や服と同じだと知った。いい経験になった、とブラウスの上から、胸の下で左右を繋いでいるリボンが施されたホックに触れた。
もう脱ごうという意思が柔弱になるのは、この一か月の間、亮一の誘いを拒んできたからだ。 だが、緊張しすぎて気分が悪くなってきた。このまま二十二時までに亮一が帰宅しなければ脱ごうと決めて、可南子は時計を睨んでいた。
あと五分、と秒針がまわる時計盤をじっと見つめた。あと少しで脱げるとソファに背中を預けて目を閉じると玄関から物音がした。亮一が帰宅したのがわかって、じわり、と汗が額に浮かんだ。
素面(しらふ)で自分から誘うようなことをしたことを思い出せない。後戻りできない無謀な試みに、砂を飲み込んだような乾きが喉に広がる。
いつも出迎えるのに座っているわけにもいかず、可南子は緊張で痛い胃の辺りを抑えながら立ち上がった。
玄関には、週末なのに疲労感を漂わせない亮一が屈んで革靴の紐を解いていた。
亮一はこの一か月をどう思っているのだろうか。
拒んでも普通に接してくれる亮一の気持ちは、薄雲に覆われているように見えない。
「ただいま、起きてたのか」
「おかえりなさい」
可南子は過度の緊張から逃げたくなる気持ちを鎮めるように両手で肩を抱いた。
身体を起こしてスリッパを履いた亮一は、ぎこちない雰囲気の可南子の顔をまじまじと見た。
「……疲れてる。俺は良いから早く寝た方が良い」
「ありがとう、大丈夫。ご飯はおいしかった?」
心づかいが嬉しくて、可南子は亮一の厚い胸に腕を伸ばして抱きついた。
亮一のスーツに染みこんだタバコと飲食店の油の匂いを胸いっぱいに吸い込む。亮一からお酒の香りはしなかった。
問いかけに「普通だった」と答えた亮一は、可南子の髪に唇を落とす。
「かなは何を食べた」
「ミルクラテ」
「それは飲み物だ。夕飯は」
「お腹が空いてなくて、お茶だけ」
「……最近、食欲が落ちてるだろう。ちゃんと食べないと駄目だ。明日の朝の為にサンドイッチを買ってきた。それを」
「お母さんみたい」
「なら、ちゃんと食べてくれ」
可南子の態度を責めず、体調を気遣ってくれる亮一の優しさに可南子は胸がいっぱいになる。
……大好き。
今なら言えそうな気がした。
早苗が握り拳を作って『セックスしたいっていうんだよ』と背後で騒いでいる。
どっどっどっ、と鼓動が大きく早くなって、可南子はぎゅっと目をつぶった。
硬い胸を唇に感じるほどにスーツに顔を押し付けて、なんとか声を出す。
「あのね、せ……す、し……し」
「どうした」
亮一の手が後頭部を撫でてくれる。それに後押しされるように、明瞭に発音しようと勇気を振り絞る。
「せっ、す、し」
「寿司を食べたいのか。自分から言うなんて珍しいな……。明日のジムの後に行くか」
「……はい」
「食欲があるのは良い事だ。いつでも連れて行くから言ってくれ。ただ、まずはサンドイッチ」
……お寿司じゃない。
放心するような消耗感の中、亮一の身体に身を預ける。
そもそも口にするのも憚ってきた言葉を亮一の前で言うハードルが高い。おまけに身に着けているのは、亮一を誘うため選んだベビードールだ。こんな無理を重ねて、精神的に疲れないはずがない。
隣から聞こえる情事の声に、平和な生活を脅かされている。頑張って声を殺して亮一に抱かれるという選択肢の方が楽だ。
そう痛感していると、亮一の腕が可南子の背中に回った。愛おしむように撫でられて、じんわりと身体の奥に歓びの痺れが広がり始める。
「シャワーを浴びただろう」
「うん」
「……なんで服を着てるんだ」
「コンビニに、行こうとしてました」
口から出た嘘に焦り、可南子は亮一から身体を離す。亮一はそれを止めずに怪訝そうに顔を覗き込んできた。
「何か、変だぞ。どうした」
亮一の切れ長の目が久し振りに全てを見逃すまいと強い光を宿して可南子を見据えた。そして、押し黙っている可南子の背中に手を回すと、いつもならブラジャーのホックがある辺り指で撫でた。
可南子の肌が火照って「あっ」と声が漏れる。
「とりあえず、下着なしでコンビニに行くのはやめてくれ」
「……胸も小さいし、誰も気づかないよ。それに、このブラウスは余裕があって」
「そういう問題じゃない。……何か着てるな。これ、なんだ」
背中のベビードールと素肌の境目を指で往復された。ふっと、このまま気づいてもらえればと願った。
「キャミソールです」
だが、グレーな嘘が流暢に口から出た。キャミソールがあらぬ方向に進化したような形だから全てが嘘ではない。
千載一遇のチャンスを逃した自分の口に絶望していると、ますます怪訝そうな顔で亮一は可南子を見た。
「……まずは食事だ」
亮一は追及をせずに、通勤鞄の後ろに隠していたかのように置いていた、ビニール袋を持ち上げた。
その袋に好きなハード系のパン屋のロゴが入っていて可南子は目を輝かせる。ずっしりと重量のあるビニール袋を受け取って覗くと、沢山のパンが入っていた。
「嬉しい!」
「飲んだ店の近くにあったんだ」
「それで買ってきてくれたの? 本当に嬉しい。ありがとうございます」
嬉しそうにパンのビニール袋を抱えた可南子に、亮一は優しく笑んだ。
亮一の表情を見て、可南子に罪悪感が入り混じった感情が交差する。
「それと、これ」
次に亮一が通勤鞄と一緒に手に取ったのは、大手のDVDレンタルの袋だった。
亮一がDVDを借りるのをはじめて見た可南子は、渡されるまま受け取る。
「……すごく、珍しいね」
「AVが入ってる」
「えーぶい」
「アダルトビデオだ。見たことが無いんだろ?」
可南子が驚きながらも素直に頷くと、亮一は「隣の」と続けた。
「隣のあの声は一般的ではないと思う」
あまり触れてほしくなさそうに言ったところをみると、経験から鑑みて、という事なのだろう。
「ごめんなさい。頭ではわかってるの」
「ああいうのを聞いて、気持ちが削がれるのもわかる。無理強いをするつもりもない。ただ、俺は可南子が声を出してくれるのはいつも嬉しいと思ってる」
「……」
「それに、大きな声を出したと思ったら、俺はいつも可南子の口を塞いでる」
熱く唇を塞がれた感触を思い出すと、知らぬうちに指は唇を触れていた。
「声を出されるのが嫌だとかではなくて、誰にも聞かせたくないからだ。俺だけの、特権だ」
「……あの」
「可南子らしいなと思って様子を見てた」
「私らしい?」
「らしいだろ。妙に生真面目に考える。DVDは気が向いたら一緒に見よう。何事も勉強だ、奥さん」
そう言った亮一に、シャワーを浴びてくる、と肩を叩かれた。
……優しい。
呆れながらもずっと見守っていてくれたのだ。支えて包み込んで、甘い香油を全身に塗るように大事にしてくれている。
パンとDVDをローテーブルの上に置くと可南子は風呂場がある洗面所へと向かった。
すでにシャワーの水音がしていて、亮一の迷いのない、いつも通り行動に安堵した。
洗面所のドアのそばに膝を抱えて座り込むと膝の間に顔を埋める。セクシーな下着を脱ぐなら、今だ。
……考え過ぎ、か。
いつも、正解を探しているということだ。思うままに生きることよりも、ダメージの少ない予測できる道を選んでいる。
亮一との関係だけは、そこから抜け出たところから始まった。
シャワーの音が止んで、亮一が身体を拭く音が聞こえてきた。
「亮一さん、入ってもいい?」
「どうした」
濡れた髪のまま顔を出した亮一は下着だけ身に着けて上半身は裸だった。会ってから殆ど変わらない、鍛えられて無駄が無い肉体は、何度目にしてもハッとする。可南子は頬を染めて微笑した。
立ち上がると洗面所に足を踏み入れ、洗面台の前にいる亮一の濡れた髪に触れた。亮一はその優しく手首を掴むと、身を屈めて可南子のこめかみに辺りに頬を寄せる。漂ってきた風呂上がりの湿度と熱に、可南子の心臓が跳ねた。
「何か食べたか」
「ううん」
「なんだ、食べさせないと食べられないのか」
亮一は可南子の手を離して、にやりと笑う。食べさせるという意欲に満ちた笑顔は心に絡みつく。
可南子は、優しさに包まれた中で大きく息を吸った。
「あの、あのね。隣から聞こえてくる声なんだけど」
「ああ」
亮一はタオルで髪を拭くのを中断して、真面目な顔で可南子を見た。
「私があんな声を出してても、その、引かない?」
「引かない」
即答した亮一は鏡に向き合ってドライヤーを取り出すと、プラグを洗面所のコンセントに差し込んだ。
「引くわけがない」
亮一の揺るぎない言葉に、可南子は一人で悶々と考えていたことを申し訳なく思う。
ごぉっとドライヤーの音が洗面所に響いている。可南子は亮一の短い髪があっという間に乾くのを眺めた。
何気ない日常の光景に好きだという想いが湧き水のように溢れ出る。ドライヤーを片付けている亮一の背後から可南子は抱きついた。
亮一の久しぶりの生身の背中に唇を押し付けて、それから頬をぴたりとつける。
「……コンビニに行くなら付き合う。着替えるから、まず可南子は下着をつけてくれ」
「行かなくて、大丈夫」
亮一は大きく息を吐く。
それから、自分の胸にある可南子の手を包むように触れた。
「かな、無理強いはするつもりはないが、俺も我慢はしてる」
「うん、わかってる。ごめんね。でも、ありがとう」
「……可愛い奥さんが何をしても、可愛いからいいんだ」
「甘やかしすぎ……」
「五歳も年上なんだ、少しは余裕のある恰好良いフリをさせてくれ」
愛されているという実感に、他人の喘ぎ声で受けたショックが剥がれだす。
「……今日、一緒に……寝たい」
セックスしたいとは言えなかった。精いっぱいの自分の言葉で囁いてから、亮一の背中に口づけた。自分の気持ちが届くように、根付くように。
亮一は背中から回された可南子の手を解(ほど)く。そして、可南子に向き合うと頭の上に唇を落とした。
「……寝るという意味を、確かめてもいいか」
可南子のフレアスカートの中に亮一の手が忍び入った。スカートがたくし上げられて、日に当たる事のない白い太腿が現れる。あの下着を見られる、と緊張で固まりかけた可南子のこめかみを亮一の唇がくすぐった。
心の準備をする間もなく、スカートに潜っていた亮一の手が、覆(おお)う布の無い、柔らかい尻の上で止まる。
温かい手にショーツの形を探り当てられて可南子は身を縮めた。高鳴る鼓動が、亮一の反応を待つ。だが、亮一は何も言わず布を探すように手を動かし、尾てい骨にある小さな三角の布に触れた。
布の中に指を入れて引っ張ってから抜く。肌と布地が触れ合うとパチン、と音がなった。
「あ、あの」
沈黙に耐えられず可南子が口を開くと、亮一の唇が優しく重なった。その羽のような感触は、喋るなという意味だ。
フレアスカートのホックが外されチャックが降ろされると、スカートが床に落ちた。
居たたまれずに俯くとシャツの裾から出た、ベビードールの左右に分かれた羽のような裾が目に入った。黒の生地に縁どられた象牙色のレースと、同じ色で施された花柄の刺繍。華美になり過ぎない同じ柄のショーツが、合間からちらちらと見えている。
眼下で亮一の指がシャツのボタンを外していく。上から聞こえる息遣いは急いているように感じた。ボタン全て外されたシャツが脱がされると、羞恥に耐えきれなくなった可南子は自分の肩を抱く。
「……買ったのか」
可南子が躊躇いながら頷くと、亮一は耳元に口を寄せた。
「次は……俺に選ばせてくれ」
次は、という言葉が心に溶け込んだ。
独占欲と興奮が混じった声にうずきがうまれて、股の間から蜜がとろりとしみ出した。
亮一の唇はそのまま可南子の耳を食(は)んで、うなじから鎖骨、肩へと辿った。這われた跡には愉楽が灯り、肌は熱く火照る。亮一の歯が肩の紐を噛んだ。
歯が肩に当たり、唇と歯の折り重なる刺激に思わず名を呼ぶ。
「亮一、さん」
「似合ってる。綺麗だ」
亮一は手を使わず、歯で紐を引っ張り、肩から腕へとずり落とした。
可南子の声を出すまいと堪えて力の入る身体さえ、亮一は楽しんでいるように感じた。
肩紐が腕まで落ちると胸を隠す部分も一緒に下がり、張りのある白い乳房の膨らみが覗いた。明るい電気の下、可南子が肩紐を戻そうとすると、亮一がベビードールの上から乳房の先端、薄桃色の実を噛んだ。
「……っ!」
出そうになった声を喉に力を入れて、やっとの思いで殺す。
ベビードール越しの唾液で濡れていく先端は固くなり、亮一の熱いと息が悦びに火をつけた。
亮一の髪を掴んで抱き寄せている事に気づかないまま、可南子は背中を壁に預ける。
すでに湿った小さなショーツは、あわいと一体化したように濡れて食い込んでいた。
一か月ぶりの刺激は、絶え間なく快美な波を打ち付けてくる。
……気持ち、いい。
亮一の指がショーツの脇から濡れそぼった蜜唇へと指を滑り込ませた。直接的な快楽に短く大きな息が吐き出される。
「り、りょ、いち、さん」
「かな、エロい」
力が抜けてしゃがみこんでいく可南子の身体を、亮一はショーツから指を抜き、ウエストに手を回して支える。その身体を洗面所のクッションフロアにうつ伏せにすると臀部(でんぶ)を容易く持ち上げた。布に覆われていない双つの白い丘を手で掴んで、ぐっと広げる。
「あっ」
ショーツはますます食い込んで、外気が蜜で潤んだ蜜唇にヒヤリと触れた。亮一には間違いなく丸見えになっている。可南子が身を捩ろうとするとベビードールが首のあたりまで落ちてきた。腰骨をしっかりと掴まれて身体は動かない。
恥ずかしさから、可南子は床に付いた肘下で顔を隠す。
「すまん、床は痛いよな。……だから、早くイッてくれ」
「……っ!」
ショーツの隙間から蜜口に挿入された指に、内側の敏感な部分を刺激される。声だけは出すまいと堪え、可南子は乱れる呼吸だけを短く繰り返す。
確実に敏感な場所を捉え細かに動く亮一の指に、内側の襞(ひだ)が熱を持って蕩けていく。奔馬のような悦楽が体中に廻り、余波は指先にまで痺れとなって残る。
「はっ、はぁ……ハァ……」
潤んで腫れぼったい蜜唇から蜜液が滴(したた)り、それを潤滑油にして亮一は指を動かし続けた。ぐちゅぐちゅという音が、声の代わりに身体の状態を表していた。
身体に奥に力が入り、足の指に自然と力が入りだす。この感じは、逸楽が弾け飛ぶときの感覚だった。
「ふ、あ、りょ、いちさ、ん。い、イッ、」
「イくか」
亮一は手の動きを速めた。こうやっていつも亮一は溺れるまで追い詰めてくる。可南子は腕を自分の口に押し付けて、声を出すのを必死で堪える。
ウエストを回ってきた亮一の手が、正面から濡れそぼった蜜唇の頂にある赤い実に触れてきた。
「そこ、ダ……ッメ」
「気持ちいいなら、イってくれ」
泣きそうな声で訴えたが、亮一の指は蜜に濡れた赤い実を指で転がす。痛みのような快楽は、絶頂まで一気に駆け抜けさせる。
「はぁっ、は、ぁっ」
目の前に光を見た身体は小さく痙攣していた。可南子の締め付ける中から指を抜いた亮一は、可南子のわきの下から腕を入れて抱え起こす。
「ベッドに行くぞ」
至近距離から欲望に滾(たぎ)った目で見つめられた。頷く代わりに、亮一の唇に唇を重ねる。呻いた亮一の手が後頭部に置かれた。
「……好き。いつも、ありがとう」
唇が深く重なる前、可南子は弾けた名残の熱い吐息と一緒に囁く。
空回りしては迷惑をかけてしまう。それでもいつも見守ってくれている。
「それは、俺の台詞(せりふ)だ、奥さん」
甘い言葉がたくさん積もって、いつかきっと溶かされる。
可南子が甘美な夢にぎゅっと目を瞑ると、夜は長いぞ、と亮一は不敵に笑った。
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