3 / 89
1巻
1-2
しおりを挟む「じょ、冗談じゃないかもしれないですよ」
「そうか。じゃ、襲われるのを期待して待っている。話の流れ的に、俺の家に行くってことで決まりだな」
強引な話の展開に、返す言葉が咄嗟に浮かばなかった。それを同意とみなしたのか、亮一は可南子の背中に置いていた腕を離す。それからとても自然にウエストに手をまわし、引き寄せてきた。
「あの」
「俺を杖の代わりだと思えばいい。可南子も倒れたくはないだろう。行こう」
笑顔で、当たり前のように下の名前で呼ばれて、呆気に取られる。普通の女の人なら勘違いをするからやめたほうがいいと注意をしたくなるが、喉に詰まって言葉にならない。
前から歩いてくる人は、必ず亮一に視線を止めた。何故こんな女が横にいるのだと思われているのだろうかと、可南子は俯く。
途中で別れて地下鉄で帰れないかと考えたけれど、亮一をうまく説得できない気がした。やはりホテルまで送ってもらって、タクシーに乗ろう。
亮一に迷惑を掛けているのが心苦しい。それでも、人に寄りかかりながら歩くのは心地いい。
可南子は酔いを言い訳に、ホテルまでの間だけはと、亮一に少し体を預けた。
目覚めると知らない天井が目に飛び込んできて、可南子は数秒固まった。慌てて上体を起こして時計を探す。ヘッドボードにある時計は朝の五時を指していた。
いつ寝たのかも思い出せずに、可南子は頭を抱えた。きっと亮一の家に泊まってしまったのだ。しかも彼のセミダブルのベッドを占領して。
「最低……」
可南子は呻く。そして、少しずつ昨日のことを思い返す。
昨晩、ホテル前のタクシー乗り場に足を向け『帰ります』と亮一に主張した。けれど、腰にまわされた手は離れなかった。
『俺の家で休む約束をした』
亮一は唖然とする可南子を、強引とも言えるエスコートで地下駐車場に連れていくと、助手席のドアを開ける。一縷の望みをいだいて彼の顔を窺ったが、目で乗るように促されて終わった。
諦めてお礼を言って乗った車は、すぐに亮一の自宅マンションに着いた。道を覚えられるほどの近さに驚きながらも、これなら少し休ませてもらったら帰れると楽観視してしまった。
勧められるままソファに座ると、酔いも手伝ってお尻に根っこが生える。立ち上がるには、そうとうの覚悟がいるほどに。
亮一はそんな可南子を気にした様子もなく、彼がコンビニに行ってくる間にシャワーを使うように言ってきた。
驚いたが、彼は淡々としていて警戒心を抱かせるものは全くなかった。
親友に頼まれて、介抱しているだけ。改めてそう認識しつつ彼からタオルとTシャツ、ペットボトルを受け取ると、緊張が一気に緩んだ。
亮一がいたら、さすがにバスルームを使わせてもらうのは遠慮しただろう。けれど、家の主である彼は可南子を残して出掛けてしまったのだ。じっとしているのも落ち着かない。
美容室でセットした髪には、小さなピンがたくさん刺さっていて、頭皮がずっと痛かった。ストッキングは腰の辺りやむくんだ足を圧迫しているし、早く脱ぎたい。
不満を声高に訴えはじめていた体は、温かいシャワーの誘惑に勝てなかった。
亮一は少し長めに買い物をしてきてくれたようで、髪を乾かし終わった頃に帰ってきた。コンビニの袋に入った歯ブラシとメイク落とし、下着を渡されたとき、可南子は完全に警戒心を解いた。
ここまで清々しく下心がない様子だと、女として見られず寂しいとさえ思えない。安心して、かろうじて残していたメイクも落とす。一日窮屈な格好をしていた為、借りた大きなシャツにほっとした。
亮一がシャワーを浴びに行ったところまでは記憶にある。
でも、自分がいつ寝たかは覚えていない。初めてのお酒の失敗が痛すぎる。すっかり冷静さを取り戻した頭は、昨晩帰るべきだったとしきりに可南子を責める。
この寝室に亮一の姿がないのは、ダイニングにあったソファで寝ているからだろうか。あのソファは、彼の高い身長には小さかった気がする。
可南子の眉間に皺が寄った。せめて今からでもベッドで寝てもらおうと、ベッドから降りて寝室のドアをゆっくりと開ける。
ダイニングは暗く静かだった。部屋のソファの上に人影がないかと目を凝らす。亮一は見当たらない。出かけているのかと視線を動かすと、床に大きな人影があった。
「っ!」
可南子は悲鳴を上げそうになり、口に手をやる。亮一はフローリングの上で寝ていたらしい。カーペットがあるとはいえ体が痛いはずだ。迷惑を掛けた自分がベッドで寝ていたことに、心苦しさでいっぱいになる。
すぐに仰向けで寝ている亮一の傍に寄って、彼の体の脇に膝をついた。
「志波さん、ベッドで寝てください」
左の肩に触れると熱かった。可南子の指が冷たいのか、亮一の体温が高いのか、たぶん両方だろう。
その熱さに風邪でも引いてしまったのかと一瞬怯んだものの、再び肩に手をかけ、控え目に揺する。
「志波さん」
亮一は目を開いて、可南子に眠たげな顔を向けた。暗がりの中でもわかる顔立ちの良さに、見惚れる。こんな人の体を壁や杖の代わりにしたのだから、酔いは怖い。二度と飲みすぎないようにしようと心に誓いながら、動揺で引きつった顔を彼に向ける。
「す、すいません、ベッドをお借りしていました。ベッドで寝てください。私、今から帰ります」
亮一の左腕が上がったので、可南子は傾けていた体を起こした。だが、思いがけずに彼の腕が首にまわされてゆっくりと引き寄せられる。体を支えきれずに、彼の首筋に顔をうずめる形で倒れこんでしまった。
暗い中、亮一の男らしい匂いを吸い込んで顔が熱くなる。
「志波さん!」
抗議の声など聞こえないかのようにウエストを抱え込まれ、彼の体の上に乗せられた。全身で感じる、鍛えられた硬い体、熱い体温、呼吸。
体を起こそうとしても彼の腕に阻まれて、叶わない。どきどきと煩い心臓が冷静さを遠ざけていく。
「おはよう」
のんびりとした口調の亮一は、自分の上にしっかり乗るように可南子の体をまた動かした。可南子の着ているシャツが捲れて外気に触れた太腿に、硬いものが当たる。
それが何かわからない振りはできず、もう一度体を起こそうとするが、やはり亮一は離してくれなかった。
「ふ、ふざけないで……」
可南子の弱り切った声を聞いても、亮一は腕の力を緩めない。
「襲いに来たようなので、迎えただけだ」
耳に息がかかる近さで囁かれる。記憶を刺激されて、昨夜の帰り道での彼との会話を思い出す。
襲うかもしれないとは言った。けれど、引かれる為に勇気を振り絞って言った冗談だ。酔っていたとはいえ、昨晩の自分が恨めしい。
「昨日はごめんなさい。ベッドで寝てくださいって言いに来ただけなの。お願い、離して」
「ベッドで襲うと言いに来たわけだ。なかなか、大胆なお誘いだな」
そう呟いた亮一は、片肘をついて上体を起こし、可南子の脇と膝の下に腕を差しいれた。
「わっ」
「暴れたら危ないからな」
彼は重さなど感じていない様子で立ち上がり、可南子は抱きかかえられたまま固まる。
あっというまに寝室に続くドアを潜った彼に、自分の体温が残っているシーツにゆっくり下ろされた。
可南子は、素早く体に跨ってきた亮一の冷静な表情にうろたえる。
「具合はどう」
至近距離で見る彼の切れ長の目は大きくて、絵のように綺麗だった。迫力のある双眸に射竦められて心臓が痛い。可南子は、唇をわずかに開けて短い呼吸を繰り返す。
昨日の夜はそっけないほどだったのに。亮一とベッドの上にいる現実を受けいれられず、可南子は手で顔を覆った。
「お陰様で、もう、大丈夫です」
明るくなりつつある寝室で、彼の体温を肌で感じている。先ほどから心臓が潰れそうに苦しい。おまけに、ベッドの上で聞く声は色っぽく、同じ人の声色とは思えなかった。
昨夜、下心はないと言っていたし、迷惑を掛けられたから、そのお返しにからかいたいのかもしれない。けれど、冗談にしてはすぎている。
「昨日は迷惑をお掛けして、本当にごめんなさい。もう大丈夫なので帰り……」
言い終わる前に、亮一が顔を覆う手にキスをしてきた。柔らかい感触に理解が追いつくより先に、生温かいものが同じ場所を掠める。それが舌だとわかった瞬間、出したことのない声が出た。
「ぁっ!」
背筋にゾクリと震えが走って、可南子は逃げるようにうつ伏せになり、枕を両手で抱えて顔を埋める。動悸が激しさを増して、苦しい。
「良くなったのなら、よかった」
耳元で熱い吐息と一緒に囁かれ、そのまま耳を唇で食まれた。
「んん」
亮一は可南子の黒髪をすくってよけると、耳の後ろからうなじにかけて唇を移動させていく。下腹の奥のうずうずとした感覚に、可南子はさらに顔を枕に押し付けた。
「息、苦しくないか」
亮一の気遣う声からは余裕さえ感じる。彼はこういうことに慣れていると思うと、ツキンと、胸に痛みが走った。
息は苦しいけれど、亮一に触れられるのは嫌じゃない。でも理性が、流されては駄目だと可南子をせっつく。矛盾に苛まれながらも、肌は期待に粟立った。
「ぅっ」
亮一に熱い手で太腿の外側を往復するように撫でられて、さらに頬が熱くなる。内側の柔らかい部分に彼の手が移動すると、体はわかりやすく震える。
「し、ばさん」
可南子が弱く亮一の名を呟くと、彼の動きがぴたりと止まった。ほっとしたのも束の間、右脇下に腕を差しいれられ、いとも簡単にころんと横向きに転がされる。
突然視界が開けて、驚きに可南子の目が丸くなった。
「……あ」
「窒息する」
枕から剥がされて息は楽になったが、心許ない。何か縋るものを探す為に動かした腕ごと背後の亮一に抱き締められて、身動きが取れなくなった。
「お、襲うなんて言って、ごめんなさい……」
可南子の声が緊張で震える。昨夜のたった一言でこんなことになるとは思いもしなかった。少しの間の後、唇を引き結んだままの可南子の髪を、亮一が宥めるように丁寧に撫でる。
「可南子が謝ることじゃない」
「……」
頭を撫でられるなんて久し振りだ。次第に強張っていた体が緩んできて、安堵にふぅと長い息が出た。
「……俺が楽しみにしていただけだ。やめてほしいなら、やめる」
彼の言葉に心がきゅっと締め付けられる。次に拒めば亮一はもう触れてこないだろう。でも、そうなるときっと寂しい。
「嫌なら、拒んでくれ」
拒まないでほしいという気持ちが伝わってくる声だった。勘違いかもしれないのに、また息苦しくなる。
亮一は強引な所はあるけれど、可南子を傷つけることはない。逞しい腕に似つかわしくない繊細な触れ方をする。
「私……」
この優しい人に抱かれてみたいという思いが強烈に湧き上がった。どくん、と心臓が大きく打つ。
披露宴会場での、亮一の女の人への態度からは、付きまとわれるのを嫌っている印象を受けた。抱かれても彼の特別になることはきっとない。それでも、過去から前に進むきっかけが欲しい。
可南子が逡巡していると、彼は雰囲気を少し和らげた。
「やめるか」
亮一は可南子が拒むことを前提に、はいと答えやすいように質問を変えてくれる。強引なのにどこかフェアで憎めない。
「あ……」
可南子はこくり、と生唾を呑み込む。
「あの、キ……」
やめない、と答えればいいだけなのに、キスしてくださいと言いかけて黙った。何故そんなことを口走りそうになったのか、自分でも全くわからない。
可南子が顔を青くしていると、亮一は肘をついて心配そうに覗き込んできた。
「気分が悪いなら薬を持ってくる。二日酔いか」
可南子が上を向くと、鼻が触れ合うほどの近さに彼の顔があった。気遣いの色を湛えた目が、可南子を見つめている。
「……大丈夫……」
昨日会ったばかりなのに、どうしてこんな目を向けることができるのだろう。
気づくと、可南子は衝動的に亮一の唇に自分の唇を重ねていた。硬そうな体からは想像もできないほど柔らかい。唇を離すと急に恥ずかしくなって、彼の顔を直視できないまま顔を伏せた。
顎を掴まれたかと思うと、顔を斜めにした彼が近づいてくる。一瞬のことで、目をつぶることもできない。
「う、んっ」
彼の唇に押されて、枕に頭が沈んだ。漏れる息も全て捕らわれていく。入り込んだ舌に歯列や上顎を撫でられて、甘いお菓子を食べたみたいに顎がぎゅっと痺れた。
「ふっ……ぅ」
激しさに目の前がチカチカする。彼の肩を押し返したが、びくともしない。
こんなキスは初めてで、口の中を侵す熱い感触にぼぅっとなり、呼吸をするのがやっとな状態になった。
「可南子」
また下の名前を呼ばれて、可南子の頬は薄らと色づく。こんなキスの後では、特別扱いをされている気がしてしまう。
「さっきの、なし」
「さっき……?」
「やめられない。だから、痛かったら言ってくれ」
亮一は可南子のシャツを捲り上げた。サイズが大きかったせいでいとも簡単に脱げてしまい、身に着けているものはブラとショーツだけになる。彼が息を呑んだのがわかった。
「ま、待って……!」
可南子は慌ててブラの上から腕で胸を隠した。亮一の焦げ付きそうなほどの視線を感じる。
いざ抱かれるとなって、本当にいいのか迷いが出た。数年ぶりで、うまくできるのかもわからない。
迷いに気づいたのか、亮一は可南子の耳朶を指でくすぐるように撫でてきた。こそばゆくて、気持ち良い。
「……優しく、する」
亮一の真剣な眼差しに誘われて小さく頷くと、彼は嬉しそうに微笑んだ。たったそれだけなのに嬉しくて、迷いは消えてなくなった。
頬に触れられながら落とされたキスは、先ほどの激しいものとは全く違った。亮一の鍛えられた筋肉質の体からは全く想像できない、柔らかい唇。
やがて、下着の上から脚の間を触れられると、蕩けていた気持ちが固くなった。
「あのっ」
「力を、抜けるか」
彼は肩に唇を落としてきた。彼の息に肩を愛撫されている気がする。先を急ごうとしない様子が、息を詰めていた可南子に呼吸を思い出させた。
「は、はい」
素直に返事をした可南子に、亮一はおかしそうに目元に笑みを浮かべる。
「痛かったら、言えよ」
「はい……」
亮一はまた笑みを浮かべて、下着の上からまだ芽吹いていない敏感な場所を弄った。
痛みとはちょっと違う不思議な感覚が腰の辺りにじんと広がって、可南子は無意識に膝をこすり合わせる。すると彼はショーツに手を掛け、躊躇いなく爪先から引き抜いた。
「あの!」
「……肌、本当に白いな」
いきなりのことに固まったせいで、脚を閉じようとしたが間に合わない。
太腿の裏を手で押し上げられ、その間に亮一の顔が沈んでいく。自分でも見たことがない場所をじっと見る彼の目には、疑いようもない欲情が灯っていた。
「み、……見ないで」
「なんでだ。綺麗なのに」
そこに彼の熱い息を吹きかけられ、可南子は悲鳴に近い声を上げる。
「き、汚いです!」
「シャワー、浴びただろ」
「そ、それは、きのう!」
「汚くない」
脚を左右に押し広げられ、まだ膨らんでいない敏感な芽を、亮一の舌で探り当てられる。
「んぁっ」
痛くはない。けれど、変な感じだった。唾液をたっぷり含ませながら唇で啄まれる度、体がぶるっと震える。
「ひぁ……ぅっ……」
彼の唾液が割れ目を伝って落ち、シーツを濡らした。それをお尻の下で感じつつ、可南子は手の甲で口を押さえて声を我慢する。
恥ずかしいばかりだった刺激が、しだいに甘い熱に変わっていく。舌で捏ねられると、気持ち良さが鮮明になってきた。
「声、我慢するな」
膨れはじめた芽に、ジュッと吸い付かれる。鋭敏な刺激がゾクッと背骨を駆け上った。
「あ、いや……っ」
口から漏れるのはいや、という言葉なのに、どこか甘ったるく響く。舌で転がすみたいに芽を舐め続けられ、背中が弓なりに反った。
「濡れたな……」
亮一は顔を離し、すっかり硬くなった芽を親指で押さえながら、蜜をまとわせた中指を割れ目に埋め込んだ。息を整える暇も与えてもらえない。
するすると彼の長い指を呑み込んでいくそこに、可南子自身が驚く。
「ンンッ、あ……っ」
すっかり自分の蜜で潤っていた中は、彼の指をしっかりと咥える。しかも、きゅう、と締め付けた。
「……んっ」
「力を、抜いとけよ」
すぐに馴染んだ指は、内側の壁をゆっくりと時間をかけて探りはじめる。傷つけないように優しく、最初は浅く、徐々に深く。
可南子の息は乱れ、体は勝手に彼の指を受けいれやすい角度にくねる。まるで、快楽の中に溶け込んでいくみたいだった。
「ぁ、あ、ンッ。はぁ――」
亮一の指が中をくまなく撫でまわす。指先がお腹側を掠めると、可南子の体が震えた。明らかに他と違う敏感なそこをまた擦られて、堪えきれず腰が跳ねてしまう。
「あッ」
「ここか」
手の腹で芽を押さえられ、そこを執拗に捏ねられると、可南子は大きな波に運ばれるように、とんとんと高みへの階段をのぼりはじめる。
「あ、んっ、んっ……ふぁっ」
「いい声だ」
媚薬同然の亮一の声に頭がぼぅっと痺れて、あれこれ考えることをやめた。
このまま身を委ねるから、高まった悦を弾けさせてほしい、そんな思いを抱いて亮一を見ると、視線が絡まる。
彼は指を動かしつつ体を起こし、可南子の背中に手をまわして胸からブラジャーを素早く取る。頂きを尖らせた小ぶりな胸が亮一の眼下に晒された。
「あっ」
「白い……」
亮一は感嘆するように息を吐き、可南子が腕で隠す前に、桃色の頂きを口に含んできつめに吸う。
快楽の後押しは、あっけなかった。
「ふッ、あッ、ああっ……っあ……」
あっという間に絶頂に持ち上げられて、可南子の内側は亮一の指をビクビクと締めつける。
「イったか」
呼吸を整える可南子の耳元で、亮一が囁いた。初めて達した可南子は倦怠感に呆けたまま、返事の代わりに彼の顔へ頬を傾ける。
髭の感触がざらりとして少し痛い。けれど、彼が傍にいる実感に、不思議と満たされた。
「……これ以上、煽るなよ」
亮一は指を抜いて、溢れた蜜を塗り広げていく。そこは滴った蜜で既にぐっしょりと濡れて火照っていて、指がなめらかに滑った。
ちりちりする感覚に奥がうずき、気持ち良さに息を吐くと、胸の頂きに歯を立てられる。
「んッ、ふっ……ぁ」
痛みと快感の中間の感覚が、つんと体の奥に響いて、もっと欲しいと懇願するように胸を上げてしまう。可南子の反応に亮一はくっと喉で笑い、抜いていた指をまたずっと挿しいれた。
「ああっ」
いちいち反応してしまう自分の体が恥ずかしい。背中にじっとりと汗が滲む。充分緩んだ場所に二本目の指が入ると、可南子は異物感に一瞬だけ怯んだ。
「力を抜いて」
「んっ」
彼の言葉を聞いて体の力を緩める。それを確認すると、ゆっくりだった指の動きは次第に速くなった。それに反応して、可南子の喘ぐ声も大きくなる。
「……ッ……あっんっ……あ、あっ」
ぐちゅぐちゅという音は、自分が彼を受けいれている音だ。蜜を零し続け、もっと深くに彼を誘おうとしている。自分の声や淫らな水音に耳を塞ぎたいのに、シーツを掴む手は動かない。彼の熱を帯びた目に自分だけが映っているのを見たら、あの弾けそうな感覚が近づいてきた。
「あ……っ」
亮一の指は可南子が反応する場所を執拗に突いてくる。熱の階段を駆け上がっていく可南子の目の前に、真っ白な世界が広がる。
「んあっ、は……」
息が止まるような何かが走り抜けて、中がどくどくと亮一の指を締め付けた。二度目の虚脱に重い体をベッドに沈ませると、彼に抱き締められる。
「大丈夫か」
硬い体とは正反対の、柔らかく気遣う声。それが心の中にすとんと入りこんで、目尻に涙が滲んだ。自分はまだ酔っているのかもしれないと思いつつ、彼の体の下で細い息を吐く。
「だい、じょうぶ」
「よかった」
亮一は可南子から体を離すと、ヘッドボードの棚にある箱の中から小さな四角いビニール袋を取り出した。彼が持っているものが何かは、すぐにわかった。避妊を考えてくれていたことにとても安心すると同時に、当たり前のようにベッドの傍に置いてあったことに心がざわつく。
唇を引き結んで息を潜めた可南子の頬を、亮一が手の甲で撫でてきた。鎧を着込みはじめていた心がすぐに綻ぶ。
「俺の子を、産んでくれるのか」
「なに――」
突拍子もない発言に、何を言っているのという言葉が喉に詰まった。
「何か、避妊具が嫌そうに見えた」
他の人の存在を感じただけです。そんなことを言えるはずもなく、可南子は首を横に振る。
亮一は避妊具を持ったまま眉間に皺を寄せていたが、何かに気づいたように険しい顔を緩ませた。
「これは昨日、コンビニで買った」
コンビニで女性用下着と一緒に買ったという意味だろうか。何とも言えぬ恥ずかしさに、じわじわと可南子の頬が熱くなっていく。
「それに家に誰もいれたことはない。勘違いされ――」
「か、勘違いするつもりはないです!」
これは今日だけのことで、亮一を束縛するつもりはない。けれど、彼の口からそういった話を聞きたくなくて、言葉尻に被せた声が大きくなる。胸の痛みを堪えつつ息をついた唇に、噛みつくような視線を感じた。
「……?」
次の瞬間、亮一に手首を掴まれシーツにきつく縫いとめられる。怒った顔をした彼と目が合った。無言のまま唇を重ねられ、可南子は目を閉じる。
「ふぅッ……ン」
滑り込んできた舌に、体は素直に火照りを取り戻していく。彼の硬い手に胸を覆われ、指の間で頂きを挟まれ、舌をきゅっと吸われた。蜜がまたとろりと染み出したのがわかる。
「勘違いしろよ」
肌を重ねながらの言葉は、とても甘く聞こえた。亮一は会ってからというもの、ずっと勘違いさせるような態度を取ってくる。でも、肝心な言葉は絶対に口にしない。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。