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1章
最後の「竜人」
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のどかな村だった。
それも、先程までは。
「あっははははっ!」
少女のような声が聞こえる。少し凛々しく、だがまだ幼さも残る声だ。
その声の持ち主はと言うと、空を仰ぎ、両手に血に濡れた短剣を持っていた。
だがそれよりも特徴的なのは、猛々しい角、翼、尾であった。
そう、彼女は――
――竜の亜人であった。
あー、寝みぃ…。
今俺は何をしているかと言うと、別に何もしていない。
久しぶりの休日を、私服にでも着替えて…過ごしたいんだけど、肝心の私服がないので、結局メイド服。
今度買いに行こうかな?あ、でもそういうセンス無かったわ…。誰か連れてこ。
窓から外を見てみると、街はかなり賑わっていた。そろそろ年に一度の祭りもあるらしいし、それで盛り上がってるのかな。
「うー、暇だなぁ…」
思わず独り言。すると、俺が居た居間に、フォルが入ってきた。
「なら私と話そうか」
「うわ、聞いてたの?」
「うん」
なんてこった。俺ストーキングされてるのかね?失言はしないようにしないと。
「まぁいいけど…」
「やった。…けど話すことが無かったな」
「えぇー」
何かあって来たんじゃないのかよー。俺は思わずフォルの頭を掻き回す。
「うわっ。…」
何か気持ちよさそうなんだけど。フォルは恍惚の表情をしていた。
「ルゥーナちゃーぁん!」
またしてもこの居間に来客が。次はドアを勢いよく開けて出てきた。
「それなら私が面白い話を…あだっ」
ありゃ。やって来たレイは、自分で開けたドアにぶつかった。勢いよく開けられたドアが反復して戻ってきたんだね。
「痛たた…いや、私はこんなのでへこまないよ…」
そう言っているが、レイはおでこを抑えて俯いているため説得力がない。
「相変わらず間抜けだね、レイは」
「何をーっ!」
フォルがレイをからかう。いやぁ、愉快な奴らだ。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…」
このままだと喧嘩でも始まりそうだったので、俺は二人を宥める。
「むむぅ…」
レイが不満そうな声を上げるのに対し、
「ふっ」
フォルはどうやら勝ち誇っているようだ。
「まあ落ち着いて。レイ、面白い話って何?」
「あー!それ!えっとね、どんな話かと言うと…」
「ルナっ!」
突然ドアが勢いよく開けられる。やって来たのはジンさんだ。
「ど、どうしたんですか?」
ジンさんが息を切らせてまで俺を呼びに来るということは、何か重大なことがあったに違いない。
「そ、それが、だ…。深き森の近くの村が襲われていた…」
「えっ…本当ですか?」
まさかジンさんが嘘を付くはずがない。
「ああ…。今回は更にたちが悪い。これを行ったというのは…」
「いうのは?」
「——竜の亜人だというんだ」
まさかそんな。まだ亜人は生きていたというのか?死滅したはずじゃ?
同胞が見つかったはずなのに、事が事なので素直に喜べない。とても複雑な気持ちだ。
「ジンさんが僕を呼びに来たってことは、やっぱり行かなきゃならないんですよね?」
「そういうことになる」
だがフォルが黙っていない。いきなり立ち上がって言う。
「待ってよ。私たちも行かなくていいのかい?」
「そうだ!」
しかしジンさんは冷静に答える。
「悪いが二人は着いてくることは出来ない。存在は秘匿されているからな…」
「ルー姉が心配なのに!?駄目なのかい!?」
「駄目だ」
ここまで強く言われてしまうと、流石にフォルも座り込む。
「さあ、ルナ。行くぞ」
「…はい」
「…ルー姉」
静かにフォルが言った。
「無理はしないで。私達は、待ってるから」
フォル…。
「うん。傷一つ無く、帰ってくるよ」
ジンさんが扉を閉める。
「行こう」
「はい」
…何かが聞こえる…
「私、なんか影薄くなかった?」
「珍しいじゃないか」
深き森は、デイライト領とフルミネア領の間にある。よって必然的にアイリスさんも来ていることになるだろう。
今は壊滅した村に向かって馬を急がせているところだ。
こっそり馬に魔法をかけて速度を上げていることは言うまでもない。てか言えない。
今は大体昼下がりくらいだ。それなりに掛かったな。
「見えてきたぞ!」
ジンさんが叫ぶ。そして目の前に広がっていたのは、
地獄であった。
本当はのどかな村だったのだろう。だが、今は血溜まり池だ。所々に死体が転がっていて、近付いてみるとそれの表情は様々だった。
苦悶の表情、絶望の表情。今にも泣きそうな顔や、首から上が無いものもあった。
「これは…ひどいな」
ジンさんが呟いた。それも納得だ。
「うえっ…」
脳が追いついたのか、突然吐き気が襲ってくる。
俺はそれを何とか抑えて、ジンさんに言う。
「ジンさん…。例の亜人は?」
「今のところは見当たらないが…おっと、あれは…」
ジンさんは何かに気付いたようだ。その方を見てみると、
「おーい!大丈夫ーっ!?」
アイリスさんがいた。
「大丈夫だ!やっと来たんだな!」
「そっちの馬車が早かったんじゃないのー!?」
ギクり。な、なんのことでしょうねぇ。
竜の亜人とやらは、もうどこかに行ってしまったのかな?
…ん?何かが聞こえる。風を切るような音だ。
合流した二人と騎士は気付いていなさそうだ。俺は振り向く。
「あれは…?」
見えたものは 、何か小さな塊だった。
鳥か?飛行機か?いや…
「人だぁぁぁぁぁぁ!」
思わず叫ぶ。
「どうした!?」
皆が反応した。俺は指を指す。
「あれはっ…!臨戦態勢!」
「ハッ!」
「あれが例の亜人かぁ」
さて、やらねば。
あれ?何かこっち来てない?
えっ、ちょ…突っ込んでくるぅぅ!
「わあああぁぁっ!」
俺は押し倒された。倒れた時に頭を打った。痛い。
俺の上に誰か乗ってる。女の子みたいだ。多分俺と同年代。
黒いコートにレザーアーマー。髪の毛はくせっ毛で、ふわふわしている。そして特徴的なのは、翼、角、尾。
間違いない。この子が例の亜人なんだ。
「そこの!ルナから離れろ!」
ジンさんが叫ぶ。
「嫌だ!」
しかし竜人は拒否。逆に、
「貴様らが何かしようものなら、こいつを殺す!」
「えっ、ちょ…それはまずいって」
「うるさいなぁ!黙れ!」
と脅迫してくる。
「くっ…」
流石にジンさん達も動けず。どうしたものか…。
「ん?もしかしてお前は亜人?」
え?なんだいきなり。
「そうだけど…」
直後、竜人は笑い出した。
「あはははは!そうかそうか!ちなみに私も亜人だよ!いやぁ、嬉しいよ!」
「な、何これ」
「何これって私だよ。あ、名前聞いてるのかな?なら私はリアだ!君は?」
勢いに押されて俺は言う。
「る、ルナだよ…」
「おー、いい名前だ!」
な、何なんだ…。
「リア、だっけ?君はルナちゃんに何をするつもり?」
アイリスさんが尋ねた。ていうか、乗ったままは苦しい。
「ん?いや、この子以外皆殺しにしようと…」
なんだと!それは聞き捨てならんな。
「何…っ」
ジンさんは剣を構える。
「おっと、何か変なことしたら本当にこの子殺しちゃうけど?」
そう言ってリアが腰から短剣を二本抜くと、ジンさんは構えを解き、剣を置いてくれた。他の騎士も同様だ。
「そもそも何でリアちゃんは殺そうとしてくるの?」
疑問をぶつけてみる。
「そんなの君には関係ない!」
しかし答えは帰ってこず。さらに、
「わわっ…!?」
リアはいきなり俺の首根っこを掴み、翼を開く。
「ルナっ!」
ジンさんが静止しようと駆け寄ってくるが、時すでに遅し。
リアは俺を空へと連れて行ってしまった。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!苦しい苦しい…ぐえっ」
高ぁぁぁぁぁい!助けてぇぇぇぇぇぇ!
「あはははははっ!これでもう邪魔者はいない!」
へ?邪魔者?
「さあ!私と勝負だ!言っとくけどすっごい血に飢えてるからね私!」
そう言ってリアは俺を放り出す。
「落ちるぅぅぅぅぅぅぅ!ぅぅぅああ!『浮遊せい』やぁぁぁぁ!」
突如俺の落下が止まる。成功したっぽい。
「よ、よし…」
「うわ、飛んでるんじゃなくて歩いてるじゃん…。キモッ」
「キモッって何!?」
流石にショックだ。
「まあいいや。死ね!ぐちゃぐちゃにしてあげる!」
突然リアが滑空して突っ込んでくる。両手には短剣が。
やばい殺されるっ!こいつサイコパスってやつだ!
「え、えっと、『物理攻撃を防御』!」
詠唱して一拍おいた後、目の前に盾が現れ、俺はそれを掴み取る。
そしてそれにリアは突っ込んできた。攻撃は防ぎきれたが、衝撃が半端ではない。俺は吹き飛ばされる。
「君を何とかしたら、人間は皆、殺してやる!ハッ!」
リアは衝撃を受け流した後、さらに追撃してくる。
「皆、みんな、ミンナ!まずは君からだよぉぉぉぉっ!」
俺はそれを盾で必死に防ぐが、もうじき限界だろう。腕が痺れてきている。
「ぐっ、うぁ、こ、このぉ!『衝撃反射そして疲労回復』!」
それを唱えた瞬間、攻撃していたリアが吹き飛ぶ。そして腕の痺れも取れた。
「うーん、やっぱり魔法って最強!」
しかしリアは空中で回転し、再度こちらに向かってくる。
「なかなかやるじゃないか!でも、次で最後!地上に君の肉を散らしてあげるよ!」
そう言うと、リアはいきなり消えた。
「なっ…」
「そこぉ!」
後ろから声が!恐らくリアだ!
「うわぁ!?『衝撃弾』っ!」
俺は赤いエネルギー体を飛ばす。殺傷能力はない。
「なっ!?」
赤い弾は空を切り裂きながら飛んでいく。不意打ちだったのか、もろに命中。
「ぐぎゃっ」
詠唱の関係上あまり力は込めていないはずだったが、リアは吹き飛ばされた。
…ん?
あれ?気絶してね?
「ちょちょちょ、え、あれ?…落下してる?」
意識がないので翼を開けない。つまりこのままでは地面に叩き付けられる!
——やりすぎた!
「え、え、えっと?どうしよう!?」
しかし今この状況では、リアは助けられない。今から降りていっても、それは無駄な足掻きに終わるだけだろう。
——だがそれでも俺は。
俺がやったのだから、行動を起こさない訳にはいかない。
「ならせめて…!」
そう言って、俺は空を蹴る。
落ちる、落ちる、落ちる。落下によって感じるその恐怖に、俺は目を背けたくなる。
だが、ここでこれをやめてしまえば、リアはどうなるだろう?
言わずとも分かる。彼女は地面に叩きつけられて、ただの肉片になるだけだ。そんな光景は見たくない。
——なら、救わなきゃ。
「まだ…!まだ足りない!もっと速く!もっと!」
魔法の力で、俺は空を蹴り続ける。そのたびに、俺は加速するのを感じる。
リアは、後少しで届きそうだ。手を伸ばせば触れられるくらいに近い。
彼女は俺を殺そうとした。だがそれでも、俺は彼女を救いたい。この手で、その生命を掬いたい。
「っ!」
なのに、その時は来た。
彼女が、地面へと吸い込まれていく。間に合わない。
そして、リアが堕ちる時、彼女は——
目を開け、確かに俺を見つめていた。
「リアァァァァァァァァッ!」
それも、先程までは。
「あっははははっ!」
少女のような声が聞こえる。少し凛々しく、だがまだ幼さも残る声だ。
その声の持ち主はと言うと、空を仰ぎ、両手に血に濡れた短剣を持っていた。
だがそれよりも特徴的なのは、猛々しい角、翼、尾であった。
そう、彼女は――
――竜の亜人であった。
あー、寝みぃ…。
今俺は何をしているかと言うと、別に何もしていない。
久しぶりの休日を、私服にでも着替えて…過ごしたいんだけど、肝心の私服がないので、結局メイド服。
今度買いに行こうかな?あ、でもそういうセンス無かったわ…。誰か連れてこ。
窓から外を見てみると、街はかなり賑わっていた。そろそろ年に一度の祭りもあるらしいし、それで盛り上がってるのかな。
「うー、暇だなぁ…」
思わず独り言。すると、俺が居た居間に、フォルが入ってきた。
「なら私と話そうか」
「うわ、聞いてたの?」
「うん」
なんてこった。俺ストーキングされてるのかね?失言はしないようにしないと。
「まぁいいけど…」
「やった。…けど話すことが無かったな」
「えぇー」
何かあって来たんじゃないのかよー。俺は思わずフォルの頭を掻き回す。
「うわっ。…」
何か気持ちよさそうなんだけど。フォルは恍惚の表情をしていた。
「ルゥーナちゃーぁん!」
またしてもこの居間に来客が。次はドアを勢いよく開けて出てきた。
「それなら私が面白い話を…あだっ」
ありゃ。やって来たレイは、自分で開けたドアにぶつかった。勢いよく開けられたドアが反復して戻ってきたんだね。
「痛たた…いや、私はこんなのでへこまないよ…」
そう言っているが、レイはおでこを抑えて俯いているため説得力がない。
「相変わらず間抜けだね、レイは」
「何をーっ!」
フォルがレイをからかう。いやぁ、愉快な奴らだ。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…」
このままだと喧嘩でも始まりそうだったので、俺は二人を宥める。
「むむぅ…」
レイが不満そうな声を上げるのに対し、
「ふっ」
フォルはどうやら勝ち誇っているようだ。
「まあ落ち着いて。レイ、面白い話って何?」
「あー!それ!えっとね、どんな話かと言うと…」
「ルナっ!」
突然ドアが勢いよく開けられる。やって来たのはジンさんだ。
「ど、どうしたんですか?」
ジンさんが息を切らせてまで俺を呼びに来るということは、何か重大なことがあったに違いない。
「そ、それが、だ…。深き森の近くの村が襲われていた…」
「えっ…本当ですか?」
まさかジンさんが嘘を付くはずがない。
「ああ…。今回は更にたちが悪い。これを行ったというのは…」
「いうのは?」
「——竜の亜人だというんだ」
まさかそんな。まだ亜人は生きていたというのか?死滅したはずじゃ?
同胞が見つかったはずなのに、事が事なので素直に喜べない。とても複雑な気持ちだ。
「ジンさんが僕を呼びに来たってことは、やっぱり行かなきゃならないんですよね?」
「そういうことになる」
だがフォルが黙っていない。いきなり立ち上がって言う。
「待ってよ。私たちも行かなくていいのかい?」
「そうだ!」
しかしジンさんは冷静に答える。
「悪いが二人は着いてくることは出来ない。存在は秘匿されているからな…」
「ルー姉が心配なのに!?駄目なのかい!?」
「駄目だ」
ここまで強く言われてしまうと、流石にフォルも座り込む。
「さあ、ルナ。行くぞ」
「…はい」
「…ルー姉」
静かにフォルが言った。
「無理はしないで。私達は、待ってるから」
フォル…。
「うん。傷一つ無く、帰ってくるよ」
ジンさんが扉を閉める。
「行こう」
「はい」
…何かが聞こえる…
「私、なんか影薄くなかった?」
「珍しいじゃないか」
深き森は、デイライト領とフルミネア領の間にある。よって必然的にアイリスさんも来ていることになるだろう。
今は壊滅した村に向かって馬を急がせているところだ。
こっそり馬に魔法をかけて速度を上げていることは言うまでもない。てか言えない。
今は大体昼下がりくらいだ。それなりに掛かったな。
「見えてきたぞ!」
ジンさんが叫ぶ。そして目の前に広がっていたのは、
地獄であった。
本当はのどかな村だったのだろう。だが、今は血溜まり池だ。所々に死体が転がっていて、近付いてみるとそれの表情は様々だった。
苦悶の表情、絶望の表情。今にも泣きそうな顔や、首から上が無いものもあった。
「これは…ひどいな」
ジンさんが呟いた。それも納得だ。
「うえっ…」
脳が追いついたのか、突然吐き気が襲ってくる。
俺はそれを何とか抑えて、ジンさんに言う。
「ジンさん…。例の亜人は?」
「今のところは見当たらないが…おっと、あれは…」
ジンさんは何かに気付いたようだ。その方を見てみると、
「おーい!大丈夫ーっ!?」
アイリスさんがいた。
「大丈夫だ!やっと来たんだな!」
「そっちの馬車が早かったんじゃないのー!?」
ギクり。な、なんのことでしょうねぇ。
竜の亜人とやらは、もうどこかに行ってしまったのかな?
…ん?何かが聞こえる。風を切るような音だ。
合流した二人と騎士は気付いていなさそうだ。俺は振り向く。
「あれは…?」
見えたものは 、何か小さな塊だった。
鳥か?飛行機か?いや…
「人だぁぁぁぁぁぁ!」
思わず叫ぶ。
「どうした!?」
皆が反応した。俺は指を指す。
「あれはっ…!臨戦態勢!」
「ハッ!」
「あれが例の亜人かぁ」
さて、やらねば。
あれ?何かこっち来てない?
えっ、ちょ…突っ込んでくるぅぅ!
「わあああぁぁっ!」
俺は押し倒された。倒れた時に頭を打った。痛い。
俺の上に誰か乗ってる。女の子みたいだ。多分俺と同年代。
黒いコートにレザーアーマー。髪の毛はくせっ毛で、ふわふわしている。そして特徴的なのは、翼、角、尾。
間違いない。この子が例の亜人なんだ。
「そこの!ルナから離れろ!」
ジンさんが叫ぶ。
「嫌だ!」
しかし竜人は拒否。逆に、
「貴様らが何かしようものなら、こいつを殺す!」
「えっ、ちょ…それはまずいって」
「うるさいなぁ!黙れ!」
と脅迫してくる。
「くっ…」
流石にジンさん達も動けず。どうしたものか…。
「ん?もしかしてお前は亜人?」
え?なんだいきなり。
「そうだけど…」
直後、竜人は笑い出した。
「あはははは!そうかそうか!ちなみに私も亜人だよ!いやぁ、嬉しいよ!」
「な、何これ」
「何これって私だよ。あ、名前聞いてるのかな?なら私はリアだ!君は?」
勢いに押されて俺は言う。
「る、ルナだよ…」
「おー、いい名前だ!」
な、何なんだ…。
「リア、だっけ?君はルナちゃんに何をするつもり?」
アイリスさんが尋ねた。ていうか、乗ったままは苦しい。
「ん?いや、この子以外皆殺しにしようと…」
なんだと!それは聞き捨てならんな。
「何…っ」
ジンさんは剣を構える。
「おっと、何か変なことしたら本当にこの子殺しちゃうけど?」
そう言ってリアが腰から短剣を二本抜くと、ジンさんは構えを解き、剣を置いてくれた。他の騎士も同様だ。
「そもそも何でリアちゃんは殺そうとしてくるの?」
疑問をぶつけてみる。
「そんなの君には関係ない!」
しかし答えは帰ってこず。さらに、
「わわっ…!?」
リアはいきなり俺の首根っこを掴み、翼を開く。
「ルナっ!」
ジンさんが静止しようと駆け寄ってくるが、時すでに遅し。
リアは俺を空へと連れて行ってしまった。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!苦しい苦しい…ぐえっ」
高ぁぁぁぁぁい!助けてぇぇぇぇぇぇ!
「あはははははっ!これでもう邪魔者はいない!」
へ?邪魔者?
「さあ!私と勝負だ!言っとくけどすっごい血に飢えてるからね私!」
そう言ってリアは俺を放り出す。
「落ちるぅぅぅぅぅぅぅ!ぅぅぅああ!『浮遊せい』やぁぁぁぁ!」
突如俺の落下が止まる。成功したっぽい。
「よ、よし…」
「うわ、飛んでるんじゃなくて歩いてるじゃん…。キモッ」
「キモッって何!?」
流石にショックだ。
「まあいいや。死ね!ぐちゃぐちゃにしてあげる!」
突然リアが滑空して突っ込んでくる。両手には短剣が。
やばい殺されるっ!こいつサイコパスってやつだ!
「え、えっと、『物理攻撃を防御』!」
詠唱して一拍おいた後、目の前に盾が現れ、俺はそれを掴み取る。
そしてそれにリアは突っ込んできた。攻撃は防ぎきれたが、衝撃が半端ではない。俺は吹き飛ばされる。
「君を何とかしたら、人間は皆、殺してやる!ハッ!」
リアは衝撃を受け流した後、さらに追撃してくる。
「皆、みんな、ミンナ!まずは君からだよぉぉぉぉっ!」
俺はそれを盾で必死に防ぐが、もうじき限界だろう。腕が痺れてきている。
「ぐっ、うぁ、こ、このぉ!『衝撃反射そして疲労回復』!」
それを唱えた瞬間、攻撃していたリアが吹き飛ぶ。そして腕の痺れも取れた。
「うーん、やっぱり魔法って最強!」
しかしリアは空中で回転し、再度こちらに向かってくる。
「なかなかやるじゃないか!でも、次で最後!地上に君の肉を散らしてあげるよ!」
そう言うと、リアはいきなり消えた。
「なっ…」
「そこぉ!」
後ろから声が!恐らくリアだ!
「うわぁ!?『衝撃弾』っ!」
俺は赤いエネルギー体を飛ばす。殺傷能力はない。
「なっ!?」
赤い弾は空を切り裂きながら飛んでいく。不意打ちだったのか、もろに命中。
「ぐぎゃっ」
詠唱の関係上あまり力は込めていないはずだったが、リアは吹き飛ばされた。
…ん?
あれ?気絶してね?
「ちょちょちょ、え、あれ?…落下してる?」
意識がないので翼を開けない。つまりこのままでは地面に叩き付けられる!
——やりすぎた!
「え、え、えっと?どうしよう!?」
しかし今この状況では、リアは助けられない。今から降りていっても、それは無駄な足掻きに終わるだけだろう。
——だがそれでも俺は。
俺がやったのだから、行動を起こさない訳にはいかない。
「ならせめて…!」
そう言って、俺は空を蹴る。
落ちる、落ちる、落ちる。落下によって感じるその恐怖に、俺は目を背けたくなる。
だが、ここでこれをやめてしまえば、リアはどうなるだろう?
言わずとも分かる。彼女は地面に叩きつけられて、ただの肉片になるだけだ。そんな光景は見たくない。
——なら、救わなきゃ。
「まだ…!まだ足りない!もっと速く!もっと!」
魔法の力で、俺は空を蹴り続ける。そのたびに、俺は加速するのを感じる。
リアは、後少しで届きそうだ。手を伸ばせば触れられるくらいに近い。
彼女は俺を殺そうとした。だがそれでも、俺は彼女を救いたい。この手で、その生命を掬いたい。
「っ!」
なのに、その時は来た。
彼女が、地面へと吸い込まれていく。間に合わない。
そして、リアが堕ちる時、彼女は——
目を開け、確かに俺を見つめていた。
「リアァァァァァァァァッ!」
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