豚侍

コウスケ

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トン助の旅立ち

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 島の南にブータ村があった。貧しい村ではあったが、皆が協力し平和に過ごしていた。
ただ、村には秘密があった。
そんな村にトン助がいた。トン助と親友のトン丸は、毎日剣の稽古をし、互いに鍛え合っていた。ブータ村では、この二匹に勝てる者はいない。 
トン助「ハァ、ハァ、やっぱ、トン丸は強いな。」
トン丸「ハァ、ハァ、トン助も強いよ。」
トン助・トン丸「俺たちは強い」
二匹は笑いながら大の字に寝転んだ。
ちなみに「俺たちは強い」この言葉は、二匹の口癖である。
トン丸「昨日、村長が面白い事言ってたぞ。」
トン助「食い物の事?」
トン丸「違うよ。相変わらず食い時が張ってるな(笑)」
トン丸「どうやら一部の者しか知らないらしいが、村の裏山に洞窟があるらしいぞ。しかも、中に大きな壷があるみたいだ。」
トン助「裏山に?そんなのあったか?」
トン丸「今日の夜に行かないか?」
トン助「村長達しか知らないところだろ。まずいんじゃなのか?」
トン丸「大丈夫だよ。何かあっても、俺たちは強いから。余裕だよ(笑)」
トン助「強いけど・・・。う~ん。」
トン丸「なあ、トン助。俺たちは強いけど、平和すぎて、つまらなくないか?」
トン助「・・・。」
トン丸「何か起きて刺激がほしいんだよ。頼む、行こう。」
トン助「わかったよ。行くだけだからな。」
トン丸「さすがトン助。夜迎えに行くよ。」
そう言うと、トン丸は帰って行った。
トン助「相変わらずだな(笑)」
トン助も家に向かった。家の近くで村長にあった。村長は、髭が長くまるで仙人だ。
村長「トン助、今日も稽古していたのか?」
トン助「はい、してました。今から帰るところです。」
村長「そうか。そうか。ところで、ちゃんと食べているか?しっかり寝てるか?」
トン助「村長。大丈夫です。ありがとうございます。」
村長「そうか。また明日な。」
村長はトン助を気にかけていた。トン助は小さいときに両親をなくしている。育ての親としてトン助の成長を見届けているのだ。
トン助「村長、いつもありがとうございます。」と、心の中で呟いた。
 日も暮れ、辺りが暗くなった頃トン丸が来た。
トン丸「トン助、行くぞ。」
トン助「はいはい。」
二匹は誰にも見つからないように裏山に向かった。裏山には頂上に続く道が一本有り、二匹は辺りを探しながら登っていった。
トン助「暗いし、何にも見えないな。」
トン丸「しょうがないだろ。灯りを付けたら村にばれるんだから。」
トン助「まぁな。それにしても何もないな。頂上に着いちゃうよ。」
トン丸「よく探せよ。きっとあるよ。」
そう言うとトン丸は、腰に差してある刀に手を置いていつでも闘える様にしていた。
トン丸「あれなんだ?何か見える。行ってみよう。」
トン助「よく見えるな。何にも見えないぞ。」
トン助は、ブツブツ言いながら後を追った。
すると小さな入り口の洞窟があった。 
トン丸「あった。入り口は狭いけど、中は広そうだな。」
トン助「本当にあったな。よく見えたな。」
トン丸「入るぞ。」
トン丸は、恐る恐る入っていった。トン助も後をついて行き、入り口に入った瞬間、猛烈な恐怖が襲ってきた。今までに感じたことのない恐怖。汗が止まらなかった。
その頃村では。
村長「むっ!むむ!いかん誰かが洞窟に入った。」
村長は直ぐに洞窟を知る者を集めた。
村長「何者かが洞窟に入った。気配を感じたから間違いない。今から向かうのじゃ。」
村豚多数「行くぞー。」
一方トン助達は。
トン助「何かヤバイ気がするな?」
トン丸「・・・。」
トン助「どうした?」
トン丸「壷があるぞ。」
トン助「本当にあったな。じゃあ、行くか?」
トン丸「まだだ。壺を調べる。」
トン助「もういいだろ?」
トン丸「怖いのか?」
そう言うと、トン丸は壺を持ち上げ地面に叩きつけた。
バリーン
トン助「何してるんだ?」
割れた壺から赤い煙が出た。その直後、煙が五つのに分かれ、物凄いスピードで外に出ていった。
トン丸「あははははー。」
トン丸は笑い始めた。
トン助「何笑ってんだよ。何か出ていったぞ。どうすんだよ。」
トン丸「これから面白くなりそうだな?」
トン助「・・・!」
村長「放たれてしまった・・・。」
村豚多数「・・・。」
村長達は急いで洞窟に向かった。
村長「誰が封印解をいたのじゃ?」
まもなくして村長達が洞窟に着いた。そこにはトン助、トン丸がいた。
村長「お前たちが壺を割ったのか?なぜじゃ。」
トン丸「村長、壺を割っても煙が出ただけだよ。」
村長「バカモン!その壺には5匹の魔物を封印していたのじゃ。」
トン助「あの感じは、それだったのか。」
村長「洞窟に入る前の封印はどうした?なぜ封印が解けた?」
トン助「拙者はわからない。」
トン丸「俺が先に入ったけど、そんなのなかったぞ。」
村長「そんなはずがあるかー。とにかくどうにかしなくては。」
トン助「村長。なぜ、魔物が封印してあるんです?」
村長「昔、この島には5匹の魔物がいたんじゃよ。島に住む者は毎日怯えていた。そこで立ち上がった侍がいた。島を巡り、魔物を倒し、この裏山に封印したのじゃ。」
トン助「なぜ、裏山に?」
村長「それはな、この村から侍が生まれたからじゃ。侍は自分の生まれ育った村の近くに封印し、封印が解かれないよう見守っていたんじゃ。この村の一部の者しか知らない秘密だったのじゃ。」
村豚多数「何て事だ。300年前の悪夢が始まるのか。」
すると、突然トン丸が
トン丸「そんな魔物倒せばいいんだよ。」
村長「簡単に言うんじゃない。お前達は何て事をしたのじゃ。」
トン丸「トン助。壺を割ったのはお前なんだから、責任をとって倒してこいよ。その代わり俺は村を守ってる。」
トン助は驚いて言葉がでなかった。
村長「トン助、お前が割ったのか?」
トン助「ちが・・・」
トン丸がすかさず言った。
トン丸「トン助言い訳するな。旅立て。」
村長「トン助、明日の朝出発するのじゃ。皆のもの村に戻るのじゃ。」
トン助は下を向いたまま家に帰った。親友に裏切られたトン助は、胸に刃物を刺されたかのように苦しんだ。一晩中泣いていた。
そして、夜が明けた。
トン助は身支度を済まし、村長の元に向かった。昨晩の事が広まっているだけ有り、皆の者がトン助を無視していた。村長の家に着いた。
家から村長が出てきた。
トン助「村長・・・。」
トン助は本当の事を言おうとしたが、トン丸を思い言わなかった。
トン助「村長。今までお世話になりました。必ず魔物を倒し、平和な世に戻して見せます。それでは行ってきます。」
そう言うとトン助は後ろを向き、歩き始めた。
村長「トン助。全てわかっている。お前は本当に優しい子じゃよ。」
村長はトン助を抱きしめた。
トン助「村長。」
村長「トン助、良く聞くのじゃ。魔物に会ったら必ず倒すのじゃ。倒せば魔物の魂は裏山に封印される。倒すだけでいいんじゃ。よいな?」
トン助「村長、魂だけですか?本体は?」
村長「トン助、お前は優しいから辛いかも知れないのじゃが、魔物は生き物に憑依するのじゃ。」
トン助「生き物?つまり村の者達ってことですか?倒したらどうなるんですか?」
村長「死ぬ」
トン助「・・・。」
村長「トン助、本当に辛いかも知れない。島を守るため、心を鬼にするのじゃ。」
トン助「・・・。わかりました。」
村長「無事に帰って来るのじゃ。よいな?」
トン助は泣きながら言った。
トン助「必ず帰ってきます。行ってきます。」
トン助は旅立った。
トン助の後ろ姿を見て、トン丸は笑っていた。


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