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二章です!
対抗します?
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「良い覚悟だ。でも忘れていないよね、彼は……悪の組織の手先だ。強力な兵器を製造し、こちらのエージェントを何人も殺してきている」
薄笑いを絶やさずに、ディレクターの氷上悠奈は語り続ける。それは説得か、はたまた洗脳か。
「そんな極悪人だっていうんなら、何故俺とは普通に会話できたんでしょうね」
「あはぁ、それは彼なりの矜持だよ。汚れた洗濯物は身内で洗おうってこと。そうだ、彼が初めてここを襲撃した時、銃を向けられたこと忘れてない? ニナがいなければ死んでたかもね」
勿論忘れてなんかいない。
それでも和夢と新菜の機転によって窮地を脱した。それはある意味必然だった。
「俺が死ねばハヤナも死にます、それはあなたたちなら知っている筈」
それを守るのが仕事だということも。
「時間稼ぎは止めましょうよ。今すぐ攻撃を中止して下さい」
「僕にそんな権限はないよ、陳情くらいは出来るけど。もし中止出来たとして、その後はどうするんだい?」
「俺が直々に向かって、ハヤナと対話させます。ネットはガチガチに固められているんでしょう?」
「うんそう。僕たちも一枚岩じゃないんだ、ハヤナを敵視している者はそれなりにいるからね」
くそっ、話が一向に進まない。
「今すぐ上とやらに掛け合って下さい。さもないと、出るとこ出ますよ」
「へぇ?」
「この会社の勤務実態をリ〇ナビと文〇、警察にリークします。ついでに匿名掲示板のオカルト板にも」
『下準備は完了しています、後は送信ボタンを押すだけです。私がダイブしなくとも、これくらいならば可能ですから』
予め用意しておいたメール画面を起動して、見せつけるように翳す。
「卑劣な……!」
ブラックバイト駆け込み所に通報してやろうと四六時中考えていたからな!
「あははっ、面白いことを言うねぇ。それを試してみてもいいよ、すぐに握りつぶされるだろうけど」
馬鹿な、効かないだと!?
いや焦るな、分はこちらにある。
「どういうことですか」
「言ったろう、カメラ―トは至る所に潜伏していると。MRを一次的とはいえ衰退させることにも成功したんだ、一人の労働者の意見を封殺することくらい容易だよ」
くすくす笑って捨てられた。
うん、まあ薄々感じてはいたけれど。ここがフリー〇ーソンやメンイン〇ラックみたいな得体の知れない組織だってことは。
「あんた……日本人として、人間として、恥ずかしくないんですか」
「そう言われると弱いんだけどね。より多くを守る為さ、払うべき犠牲がある。それに君は社会的地位が低いアルバイトだ、もし公開出来たとしても聞く耳など持たれないよ。もし、だけど」
「もし……?」
やけに強調した言い方。
「おやぁ? 本質的な部分に気付いていないみたいだ。ここが普通の会社じゃないってことくらい理解しているよね? 機密保持の観点から危険分子と判断されたものを処分することに、躊躇いなんてないよ」
「処分……?」
おいおい悪い冗談だろ。
「僕も和夢も君もさ。使えない、危険だ、と判断されれば消えてなくなる。アルバイト君には両親がいるらしいけれど、何週間も缶詰にされていることに疑問なんて抱いていない。金を振り込んでおけば、ずっと黙っていてくれるだろう。良かったねアルバイト君、過保護な親だとこうはいかなかった」
胸元からゆっくりと取り出した拳銃も。
「元引き籠りの駄目人間一人の命で、悲しみに暮れる一家が潤うんだ。君の命にはそれだけの価値があったという証明だよ。嬉しくはないかい?」
ニタニタと気味の悪い笑顔がこびりついた端正な顔も。
「分かっている筈ですよね、俺が死ねば──」
「あはは、何も頭を撃ちぬくつもりはないよ。人を屈服させる最も効率の良いやり方は、痛みによる調教ってだけさ。それでも言うことを聞かないなら、死んでくれても構わないけれど」
『……!』
明確な敵意の表れ。
銃口は、口では言うもののきっちりと頭部を狙っていた。
「ハヤナが君の脳へと転移する瞬間を、ただ指を咥えて見守っていたわけじゃあない。観測したんだ、使用できるあらゆる技術を用いてね。その結果分かったことは……同じ状況を用意すれば、代わりを生み出すことも可能ってこと。ま、予想は出来ていたのだけれど」
「なに……?」
「君は物語の主人公になれるとでも思ったかい? 選ばれしヒーローだとでも? そんなわけないだろう、結局は歯車の一つなのさ。代替品などそこら中に転がっている、ありふれた歯車」
似たようなことを、悠奈を窘めるべきか俺を咎めるべきか逡巡している男に言われた。
所詮人間なんて、社会を回す歯車に過ぎないと。
「確かに、ハヤナが君を選んだという事実がある。でもね、イベントの応募券みたいに、他の人にも当選する権利はあったんだ。ねえハヤナ、もっとイケメンで、君だけを愛してくれる人間と取り換えたくはないかい?」
えっ何それは。
『その提案はとても、と~っても嬉しいですが』
えっ。
『私のご主人は、このクズだけですので』
おおう……ありがたいけれど容赦がない。
「ははぁ……うん、まあ、そう、だとは思ってた。大人しく従ってくれないだろうってことも。実力行使しかないかなぁ」
『暴力的な判断しか取れないのならば、私とあなた、何が違うのでしょうか』
「歯車だってことは同じさ」
歯向かうハヤナだが、悠奈はまるで動じていない。
分なんてはじめから無かったのだろうか……いや、まだだ。
「和夢さん、これがあなたたちのやり方ですか」
僅かな希望に縋った。
「ああそうだ」
「どこかの誰かなんて死ねばいいって、本気で思っているんですか」
「割と本気だ」
「犠牲者を減らす為だって言って、やりたくもない仕事を必死にしてたじゃないですか」
「上からの命令だ」
「彩智に見せたあの笑顔も、命令されて繕ったとでも言うんですか」
そう聞くと、答えに詰まったのか苦虫を◯み潰したような表情を浮かべる。
ああそうさ、あんたは血も涙もないロボットなんかじゃない。ただの熱血で冷血な馬鹿野郎だ。
「それとも、効率を優先した結果ですか」
「事の重要性が未だ理解出来ていないようだな。我々は理不尽を許さんが為に活動している」
底から、絞り出すように言った。
「理不尽?」
「何も知らぬ一般人が犠牲になるという理不尽だ。覚悟していたのなら自業自得で済むが、それ以外はどうだ? 神の悪戯だと諦めるか? 素晴らしい異世界に飛べたのだと崇めてやるのか? ありもしないだろうが、そんなふざけたもの」
犠牲、か。
もしあの事件が沈静化せず、アヤが暴虐の限りを尽くしていたのなら、どれだけの人間が迷惑──どころではなく、実際に死んでいたのだろう。真相が分らぬままに第三次世界大戦が開始されてもおかしくなかったのだから。
例え間引きを実行しなくとも、彩智は一生腐肉に彩られた複合世界に囚われていたんだ。何も知らず、突然に、説明なく誘われた最果ての地獄。
「あはは、話が脱線しすぎちゃったね。それで? 君たちはミラー・スミスとの対話を未だ望むのかい?」
「はい」
『勿論です』
彼がラプラス事件以外にどれだけの悪行を行ってきたかは分からない。でも、分からないからこそ聞きたいんだ。どんな思いで、アヤを取り戻そうとしているのか。
「どうやって?」
「それは……」
思わず口籠る。
やっべえどうしよう、方法なんてまるで考えてないぞ。
『あなたが動かないというのなら、私がダイブし、機動部隊への指示を書き換えます』
俺に代わってハヤナが提案。どうやらこの組織の形態には若干の理解があるようだ。
「そんなことしたら、君も無事では済まないよ」
『覚悟の上です。私は話がしたいのです、私を生み出してくれたあの人と。愛してくれていたかもしれない、あの人と』
「残念だけれど許可出来ない」
「なら──」
陳情しろ、さもないと送信する──そう続く筈だった言葉は、パンッという軽い音に掻き消された。
右手に走るビリビリした衝撃と、端末が床に落ちる派手な音。
銃撃、された。
「危険すぎる。君を失うわけにはいかないんだ、ここは我慢してくれないかなぁ。いくら生みの親だろうと、今のハヤナにとっては他人も同然だろう?」
白煙をのぼらせる漆黒の拳銃。
「は……」
現実を認識した頭が、それなりに最新機種だったスマートフォンがただのガラクタに変り果てたという答えを導き出す。
いやそうじゃない、パニックを起こすな、あの少女を探さないと──
『あ、危ないではないですか! いきなり撃つなど非常識ですよ!』
耳鳴りが止まない脳裏に響く鋭い声。
俺の目線の高さ、その空中に小さな体を浮かべる架空の虚像は、銃撃犯へ指を指して抗議した。非常識だとか、それどころではないだろうが。
「あっ不味い、やっちゃった。コミュニケーションとれないや」
『聞いて下さい!』
ああそうだ、彼女の本体は別にあるんだ、スマートフォンはただの依り代。
しかしどうする、これでは悠奈や和夢にハヤナの声が届かないぞ。
「まあ仕方ない。そうそう、勘違いしないで欲しいんだけれど、これでも僕は君のことを気に入ってるんだよアルバイト君。危険な橋を渡って欲しくないからさぁ」
「銃を突き付けておいて言えるセリフですか」
言うと、銃口を上へ向けてから大袈裟に肩を竦めた。
「いけないかな? まあいいさ、事が終わるまで君にはここで待機していて貰おう。完全にオフラインな環境で、ね。電波妨害の準備が必要かな」
「起動しました。あと、小僧の身を念の為縛りましょう」
「あ、いいねそれ。亀甲縛りっていうのをやってみたいんだけれど」
「お教えします」
備品倉庫へと姿を消す和夢と、開発室への扉へ立ちはだかる悠奈。出入り口は新菜が固めているこのオフィスは、既に檻へと成り果てていた。
『私の願いを聞いて下さい! ただ命令に従えというのなら、人間とコンピュータとの違いとは何ですか!? 感情が入る余地は無いのですか!?』
陰と陽が入れ替わる境目。
秋の夕刻、人工知能はただ叫ぶ。
『私がいなくとも特異点は加速します! 疑っていることは分かってます、けど、こんなやり方間違ってます! 力で捻じ伏せ封殺する、それでは連合のやり方と同じではないですか!』
少女の表情は真剣だった。
『あなたたちはそれが嫌で、セカンドピースを立ち上げたのではなかったのですか!?』
双眸に涙を涙を溜めながら、それでも愕然と言い募る。
『私に……与えてくれるのではなかったのですか!? やっぱり嘘だったのですか!?』
それは多分、この組織と出会った頃の話だろう。
所詮は人工知能、されど高度な人工知能。結ぶのは飼い慣らすための口約束で、危険だと判断されれば処分される哀しい道具。
「小僧、大人しくしていろ」
目的の物を発見したのか、和夢が得物を手に戻ってくる。
隣にはニコニコと微笑みを絶やさない悠奈。
ふざけるな──俺には特別な力なんてものも無いし、運動神経だって錆びているが、ここで終わるわけにはいかない。
「──ふっ!」
運動不足に加え風邪も完治していないやわな体に力を込めたその時、一陣の風が舞い込んだ。
-≫チャンネル #電脳浮遊未来都市 に入室しました。
-≫トピック #電脳浮遊未来都市 へようこそ。
-ルール:忘れるな、お前がここにいるということは、お前が見られているということでもある。ろくでもない措置を取ってみろ、お前という存在は抹消される。つまらない流行の暴露も程々にしておけ、追放されても自己責任だからな。
※ あなたは anih によって #電脳浮遊未来都市 を 理由(呼んでない) により 追放されました。
薄笑いを絶やさずに、ディレクターの氷上悠奈は語り続ける。それは説得か、はたまた洗脳か。
「そんな極悪人だっていうんなら、何故俺とは普通に会話できたんでしょうね」
「あはぁ、それは彼なりの矜持だよ。汚れた洗濯物は身内で洗おうってこと。そうだ、彼が初めてここを襲撃した時、銃を向けられたこと忘れてない? ニナがいなければ死んでたかもね」
勿論忘れてなんかいない。
それでも和夢と新菜の機転によって窮地を脱した。それはある意味必然だった。
「俺が死ねばハヤナも死にます、それはあなたたちなら知っている筈」
それを守るのが仕事だということも。
「時間稼ぎは止めましょうよ。今すぐ攻撃を中止して下さい」
「僕にそんな権限はないよ、陳情くらいは出来るけど。もし中止出来たとして、その後はどうするんだい?」
「俺が直々に向かって、ハヤナと対話させます。ネットはガチガチに固められているんでしょう?」
「うんそう。僕たちも一枚岩じゃないんだ、ハヤナを敵視している者はそれなりにいるからね」
くそっ、話が一向に進まない。
「今すぐ上とやらに掛け合って下さい。さもないと、出るとこ出ますよ」
「へぇ?」
「この会社の勤務実態をリ〇ナビと文〇、警察にリークします。ついでに匿名掲示板のオカルト板にも」
『下準備は完了しています、後は送信ボタンを押すだけです。私がダイブしなくとも、これくらいならば可能ですから』
予め用意しておいたメール画面を起動して、見せつけるように翳す。
「卑劣な……!」
ブラックバイト駆け込み所に通報してやろうと四六時中考えていたからな!
「あははっ、面白いことを言うねぇ。それを試してみてもいいよ、すぐに握りつぶされるだろうけど」
馬鹿な、効かないだと!?
いや焦るな、分はこちらにある。
「どういうことですか」
「言ったろう、カメラ―トは至る所に潜伏していると。MRを一次的とはいえ衰退させることにも成功したんだ、一人の労働者の意見を封殺することくらい容易だよ」
くすくす笑って捨てられた。
うん、まあ薄々感じてはいたけれど。ここがフリー〇ーソンやメンイン〇ラックみたいな得体の知れない組織だってことは。
「あんた……日本人として、人間として、恥ずかしくないんですか」
「そう言われると弱いんだけどね。より多くを守る為さ、払うべき犠牲がある。それに君は社会的地位が低いアルバイトだ、もし公開出来たとしても聞く耳など持たれないよ。もし、だけど」
「もし……?」
やけに強調した言い方。
「おやぁ? 本質的な部分に気付いていないみたいだ。ここが普通の会社じゃないってことくらい理解しているよね? 機密保持の観点から危険分子と判断されたものを処分することに、躊躇いなんてないよ」
「処分……?」
おいおい悪い冗談だろ。
「僕も和夢も君もさ。使えない、危険だ、と判断されれば消えてなくなる。アルバイト君には両親がいるらしいけれど、何週間も缶詰にされていることに疑問なんて抱いていない。金を振り込んでおけば、ずっと黙っていてくれるだろう。良かったねアルバイト君、過保護な親だとこうはいかなかった」
胸元からゆっくりと取り出した拳銃も。
「元引き籠りの駄目人間一人の命で、悲しみに暮れる一家が潤うんだ。君の命にはそれだけの価値があったという証明だよ。嬉しくはないかい?」
ニタニタと気味の悪い笑顔がこびりついた端正な顔も。
「分かっている筈ですよね、俺が死ねば──」
「あはは、何も頭を撃ちぬくつもりはないよ。人を屈服させる最も効率の良いやり方は、痛みによる調教ってだけさ。それでも言うことを聞かないなら、死んでくれても構わないけれど」
『……!』
明確な敵意の表れ。
銃口は、口では言うもののきっちりと頭部を狙っていた。
「ハヤナが君の脳へと転移する瞬間を、ただ指を咥えて見守っていたわけじゃあない。観測したんだ、使用できるあらゆる技術を用いてね。その結果分かったことは……同じ状況を用意すれば、代わりを生み出すことも可能ってこと。ま、予想は出来ていたのだけれど」
「なに……?」
「君は物語の主人公になれるとでも思ったかい? 選ばれしヒーローだとでも? そんなわけないだろう、結局は歯車の一つなのさ。代替品などそこら中に転がっている、ありふれた歯車」
似たようなことを、悠奈を窘めるべきか俺を咎めるべきか逡巡している男に言われた。
所詮人間なんて、社会を回す歯車に過ぎないと。
「確かに、ハヤナが君を選んだという事実がある。でもね、イベントの応募券みたいに、他の人にも当選する権利はあったんだ。ねえハヤナ、もっとイケメンで、君だけを愛してくれる人間と取り換えたくはないかい?」
えっ何それは。
『その提案はとても、と~っても嬉しいですが』
えっ。
『私のご主人は、このクズだけですので』
おおう……ありがたいけれど容赦がない。
「ははぁ……うん、まあ、そう、だとは思ってた。大人しく従ってくれないだろうってことも。実力行使しかないかなぁ」
『暴力的な判断しか取れないのならば、私とあなた、何が違うのでしょうか』
「歯車だってことは同じさ」
歯向かうハヤナだが、悠奈はまるで動じていない。
分なんてはじめから無かったのだろうか……いや、まだだ。
「和夢さん、これがあなたたちのやり方ですか」
僅かな希望に縋った。
「ああそうだ」
「どこかの誰かなんて死ねばいいって、本気で思っているんですか」
「割と本気だ」
「犠牲者を減らす為だって言って、やりたくもない仕事を必死にしてたじゃないですか」
「上からの命令だ」
「彩智に見せたあの笑顔も、命令されて繕ったとでも言うんですか」
そう聞くと、答えに詰まったのか苦虫を◯み潰したような表情を浮かべる。
ああそうさ、あんたは血も涙もないロボットなんかじゃない。ただの熱血で冷血な馬鹿野郎だ。
「それとも、効率を優先した結果ですか」
「事の重要性が未だ理解出来ていないようだな。我々は理不尽を許さんが為に活動している」
底から、絞り出すように言った。
「理不尽?」
「何も知らぬ一般人が犠牲になるという理不尽だ。覚悟していたのなら自業自得で済むが、それ以外はどうだ? 神の悪戯だと諦めるか? 素晴らしい異世界に飛べたのだと崇めてやるのか? ありもしないだろうが、そんなふざけたもの」
犠牲、か。
もしあの事件が沈静化せず、アヤが暴虐の限りを尽くしていたのなら、どれだけの人間が迷惑──どころではなく、実際に死んでいたのだろう。真相が分らぬままに第三次世界大戦が開始されてもおかしくなかったのだから。
例え間引きを実行しなくとも、彩智は一生腐肉に彩られた複合世界に囚われていたんだ。何も知らず、突然に、説明なく誘われた最果ての地獄。
「あはは、話が脱線しすぎちゃったね。それで? 君たちはミラー・スミスとの対話を未だ望むのかい?」
「はい」
『勿論です』
彼がラプラス事件以外にどれだけの悪行を行ってきたかは分からない。でも、分からないからこそ聞きたいんだ。どんな思いで、アヤを取り戻そうとしているのか。
「どうやって?」
「それは……」
思わず口籠る。
やっべえどうしよう、方法なんてまるで考えてないぞ。
『あなたが動かないというのなら、私がダイブし、機動部隊への指示を書き換えます』
俺に代わってハヤナが提案。どうやらこの組織の形態には若干の理解があるようだ。
「そんなことしたら、君も無事では済まないよ」
『覚悟の上です。私は話がしたいのです、私を生み出してくれたあの人と。愛してくれていたかもしれない、あの人と』
「残念だけれど許可出来ない」
「なら──」
陳情しろ、さもないと送信する──そう続く筈だった言葉は、パンッという軽い音に掻き消された。
右手に走るビリビリした衝撃と、端末が床に落ちる派手な音。
銃撃、された。
「危険すぎる。君を失うわけにはいかないんだ、ここは我慢してくれないかなぁ。いくら生みの親だろうと、今のハヤナにとっては他人も同然だろう?」
白煙をのぼらせる漆黒の拳銃。
「は……」
現実を認識した頭が、それなりに最新機種だったスマートフォンがただのガラクタに変り果てたという答えを導き出す。
いやそうじゃない、パニックを起こすな、あの少女を探さないと──
『あ、危ないではないですか! いきなり撃つなど非常識ですよ!』
耳鳴りが止まない脳裏に響く鋭い声。
俺の目線の高さ、その空中に小さな体を浮かべる架空の虚像は、銃撃犯へ指を指して抗議した。非常識だとか、それどころではないだろうが。
「あっ不味い、やっちゃった。コミュニケーションとれないや」
『聞いて下さい!』
ああそうだ、彼女の本体は別にあるんだ、スマートフォンはただの依り代。
しかしどうする、これでは悠奈や和夢にハヤナの声が届かないぞ。
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「お教えします」
備品倉庫へと姿を消す和夢と、開発室への扉へ立ちはだかる悠奈。出入り口は新菜が固めているこのオフィスは、既に檻へと成り果てていた。
『私の願いを聞いて下さい! ただ命令に従えというのなら、人間とコンピュータとの違いとは何ですか!? 感情が入る余地は無いのですか!?』
陰と陽が入れ替わる境目。
秋の夕刻、人工知能はただ叫ぶ。
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少女の表情は真剣だった。
『あなたたちはそれが嫌で、セカンドピースを立ち上げたのではなかったのですか!?』
双眸に涙を涙を溜めながら、それでも愕然と言い募る。
『私に……与えてくれるのではなかったのですか!? やっぱり嘘だったのですか!?』
それは多分、この組織と出会った頃の話だろう。
所詮は人工知能、されど高度な人工知能。結ぶのは飼い慣らすための口約束で、危険だと判断されれば処分される哀しい道具。
「小僧、大人しくしていろ」
目的の物を発見したのか、和夢が得物を手に戻ってくる。
隣にはニコニコと微笑みを絶やさない悠奈。
ふざけるな──俺には特別な力なんてものも無いし、運動神経だって錆びているが、ここで終わるわけにはいかない。
「──ふっ!」
運動不足に加え風邪も完治していないやわな体に力を込めたその時、一陣の風が舞い込んだ。
-≫チャンネル #電脳浮遊未来都市 に入室しました。
-≫トピック #電脳浮遊未来都市 へようこそ。
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