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Phase3 真の力の目覚め的な何か!
異世界へようこそ。①
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夢を、見ていた。
光の差さない暗闇の中。
からだの9割を失ってはいたが、意識と呼べるものは微かにあった。ぼろぼろと石や砂が崩れ落ちる音を遠くに聞きながら、夢を見ていた。
どうして裏切ったの。
なぜ理解してくれないの。
僕を愛してくれないの。
君なら分かってくれると思ったのに。
それらの感情は今は消え失せ、ただ、夢を見ていた。
「くつくつ、深淵へ一名様ご案内だ」
「へ……?」
目覚めた場所は暗い洞窟。
「ようこそ高村響くん。そしておめでとう、君はこの地獄へ救世主として招かれた」
「…………」
湿り気を帯びた冷気が、体の熱を奪っていく。
漆黒のマントをその身に纏う長身の女性は、冷徹な瞳で僕を舐め回し、低い声を薄暗い洞窟へ反響させる。
「では、あとは好きに生きると良い。君は生前、そういった小説やアニメを嗜んでいた筈だ、どう生きれば良いか分かるだろう?」
「せいぜん……?」
言われ、ハッとする。
そうだ、僕は死んだ。
世界に居場所が無くて。
大切な人が壊れていくのを見てられなくて。
逃げ出したんだ。
「私はお喋りが好きではない。ではな、英雄よ」
「ま、待って……下さい」
マントを翻し、去ろうとする女性を引き留めた。
置いて行かれるのが嫌だったから。
名前を呼んでくれたことが嬉しかったから。
縋ってしまった。
「ここは……異世界?」
「むう、説明不足だったか。ああそうだ、異世界だ。これで十分か?」
「異世界……どうして僕は、ここにいるんですか?」
「若干18歳で死んだ君を哀れみ、この地での新たな生を与えた。それだけだ」
「哀れみ……?」
「遊ぶ術は整えてある。自由に生きろ、君の新たな人生を」
「…………」
「もう良いか?」
女性は腰に手を当て、明らかな苛つきを漂わせる。どうして理解できないのだ、と冷気を通して伝わった。
空虚な僕の裏側に、とある感情が芽生えた。
後悔は刹那。
「ふざけないで……」
哀れみなんていらない、同情なんていらない。
どうして眠らせてくれなかった。
どうして放っておいてくれなかった。
哀しい記憶の波に、呑み込まれてしまいそうだ。
理解できるから、苛つくのだ。
異世界転移なんて、現実を逃避した人間が居場所を求めて執筆した落書きだ。
苦労も何もなく、王様気分になりたくて、チヤホヤされたくて、創造された世界だ。
薄くて中身の無いライトノベルと、頭の悪くて下品なアニメーション。
需要はあるさ、忙しい日常から逃避したい人間が読んだり買ったりしてくれるから。
僕も読んだ、視聴した。
友達にも勧めた。本も貸したが、多分、読んでくれていない。きっと分かっていたんだ、そんな世界は存在しないって。友達は強い人だったから、逃げ出したりしなかったんだ。
僕は逃げた。
初めの頃は、頭を空っぽにして読めたていた。笑ったりもしていたんだ、可笑しくて。登場人物たちは様々な理由で転移するが、トラクターに轢き殺される場合が多かった。Web小説にも系譜は受け継がれ、トラクターが過労死するのでは、と馬鹿な思考を巡らせたりもした。
でも、違うんだ。
結局はビジネスなんだ、それら全てが。
背後には執筆者がいて、アニメーターがいて、声優がいて、様々な人間によって製作されている。生活の為に、家族の為に、作品として世に出される。
それが陰鬱なものでは、誰にも読まれない、見てくれない、買ってくれない。だからコメディ要素に溢れ、死後も悪くない、こんなに楽しいのだと印象付ける。異世界は素晴らしいものだと。
結局、全てがまやかし。
ありもしない、最果ての楽園。
知りたくなくて、見たくなくて、塞ぎ込んだ。
「ふざけないで……」
死後に幸せにするなんて、とんだ悪夢だ。生きている間に幸せにしろ。
僕は死んだ、自分で死を選んだ。
苦痛しか与えられない世界を恨んで、それでも納得して、死んだ。
望まれて産み落とされた筈なのに、誰もが目を逸らして無視した。
家族は、僕に興味を持たなかった。優秀な兄がいたから、そちらにばかり世話を焼いていた。僕はただのついでだ、いてもいなくても良い、ただのおまけ。子供である僕を、構ってはくれなかった。
頭が良くて、大人である君になら分かるだろう。
死者は、ただ眠っていたいだけ。
虚無こそが、楽園なのだと。
「ふざけないで……!」
「ふざけてなどいない。君は自由だ、この世界でならば失った青春を取り戻せる」
「そんなものいらない! 僕は生きるのが嫌で死んだんだ、どうして目覚めさせたんだよ!?」
「面倒だな……」
女は舌打ちし、不満を漏らす。
面倒なのはこちらだ、人が嫌で、世界が嫌で逃げ出したのに、異世界に呼び戻されるなど。
「あー……ごほん。ようこそ高村響くん! 君は救世主として産み落とされたのよ、もっと喜ぶといいわ! その生はあちらでは花を咲かすことは出来なかったけれど、ここでなら満開に咲き誇るわ! それはそれは綺麗な花をね!」
あからさまに態度を変え、諸手を挙げて歓迎した。
「友達だってたくさん出来るわ、彼女だって選び放題! 囚われのお姫様を助けたり、奴隷の女を解放してあげたりして、モテまくりの人生を送ることだって不可能じゃない! ライバルが必要ならすぐに呼ぶわ、自殺者なんて溢れているもの!」
「やめてよ! そんなものいらないって言ってるでしょ!」
真っ赤な口紅を塗った女は、耳元まで口を裂いて高笑う。
それが嫌で、目と耳を塞いだ。
だが空気を伝い、肌を伝い、骨を伝って伝導する。
「君と同じ日本人が良い? でもゴメンね、2016年には男女合わせて2万1897人もいたのよ、今年も事故死率を上回るでしょうね。先進国の中でも自殺率は上位よ、スゴイわねえ。選り取り見取りではあるけれど、ポイポイと呼ぶワケにもいかないの、ご希望に沿う人間を送れるかは私にも分からないなあ」
「やめて……!」
「そうそう、魔法を与えるのを忘れてたわ! 私ったらうっかりさん、でもそういう所が可愛いわよね! あらいやだ名前も言い忘れてたわ、ドゥーム・バルバリッシュよ、覚えなくていいけれど」
気味の悪い猫なで声が耳朶を打つ。
瞬間、瞼越しに閃光が炸裂した。
「啼け、感激の半冠」
何事かと薄眼を開き、眩しさを放つ正体を探した。
ドゥームと名乗る女の手には、七色に輝く幾何学模様の魔法陣が揺らめいていた。
それを僕に翳し、からだが光に包まれる。
ギフト──白光が支配する間際、ふと、そんなことを思った。
──慟哭の渦に塞がれし
──其は、溶炉を導く土人形
──蠕動せよ、無根の謬
どくん、と鼓動が早まる。
途端、視界が揺らぎ、平衡感覚を失い、冷たい地面へ倒れ込んだ。
気持ち悪い、気持ち悪い、中身が掻き回されて、強姦されて、ぐちゃぐちゃに、神経を犯されているようだ。死に際にも体感した、脳が裏返るような、酷く不愉快な感覚。
吐け、掃け、全てを剥いてしまえ。でもだめだ、それでは現実から逃げられない。だから耐えろ、誰にも悟られるな、弱い自分を見せるな。自分が自分でいなくなる、旅立つ為の儀式なのだから。
「さあ……気分はどう?」
胃には何も入っていなかった為、胆汁が混ざった黄色と緑の胃液を吐き出した。粘着性を持ったソレを口から剥がし、ふらつきながら自分の状態を確認する。
気分は最悪だが、第一声は別のものとなる。
「何……これ?」
「お決まりの魔法よ、難しく考えなくていいわ! 君だけに与えるリップサー……ごほん、シークレットサービス!」
白い鎧が目に入る。
綺麗で綺麗で……不愉快な、汚れ一つない月白の鎧を纏っていた。
「魔法……この鎧が?」
「お気に召さないかしら、そんなことは無いわよね? そこらのモンスター相手なら無双できるわ、傷一つ付かないでね! 発動したいならさっきの言霊を唱えなさい、すぐに湧き出てくるから……その時は今の服でいることをお勧めするわ、相性が良いから!」
気持ち悪さが収まってくると、清涼感が襲ってきた。
体が、思考が、感覚が、研ぎ澄まされていく。
「モンスター……ここは、ゲームの世界? スキルとかステータスはあるの?」
「くつくつくつ、ここは普通の世界よ、ちょっぴり危険な普通の異世界! そんな馬鹿げたモノあるワケないでしょ、人を数値化することなんて不可能よ!」
ドゥームはさぞ楽しそうに笑う。
いらない補足を加えるのには呆れたが、苛立ちは不思議と鳴りを潜めた。、
「ああそうだ、君がいた世界には、ゲームの世界でもないのにステータスなんてものがある、ふざけた小説もあったかしら? くつくつ、神に逆らうつもりなのかしらね? 技術的特異点を超えたとしても不可能よ、分かるのは、価値があるかどうかだけ」
「価値……」
生まれた価値。
ここにいる価値。
それは何だろう。
「高村くんには価値があるわ、ここにいることがその証拠。主人公としての資格があるの、勇者としての力があるの、生を与える価値があるの。あんな若さで死んだのは悲しいでしょう、だから生きなさい」
「力……」
力を込めて、拳を握る。
誰かのものより貧弱な、小さな拳だ。
それでも今は、鋼鉄の鎧が……力がある。
「聞きたいことがあるんだけど」
「何かな? どんな些細な事でも聞くが良いわ!」
小さく舌打ちしたのを聞き逃さなかったが、ここはあえて無視する。
「これ以外に魔法を使うことは出来ないの? 炎とか雷とか、他にも……そうだ、盗みとか」
「普通の人間が魔力なんてもの持ってるワケないじゃない! それとも君は超能力者だったかしら? 頑張れば人体発火くらいは起こせるかもね」
「鎧だけ、か……」
「そうそう、この世界には魔法を使える住人が多くいるわ。魔を討つ為の魔法を持った人間が」
「へー……」
「あら興味無い? 君は英雄よ、勇者なのよ? 未来の仲間になるかもしれないのに」
「自由に生きていいんでしょ? 冒険の旅に出るかどうかは自分で決める」
「私としては、魔王討伐をおススメするけどね。強制はしないから、好きに生きるといいわ」
「魔王……?」
「そう、魔王。興味ある?」
ニヤリと嗤う、その姿は魔女。
「別に……」
「あら、残念。君の力は強力なものだから、皆が付き従うというのに」
「従う……?」
「主人公だからに決まってるじゃない! 男は妬み、女は濡れるわ! 高村君は知ってるかな、女っていうのはね、例え見せかけのものだったとしても、強さを示す男に惚れるのよ!」
下品な魔女はくつくつと高笑う。
不愉快で不愉快で、ふつふつと感情が湧いてくる。
「民は平伏し、騎士は嫉妬するわよ! だって主人公なんだもの!」
ぎち、と音を立て、歯が噛み合う。
細胞が顫動し、肌がざわめく。
ふざけるな──誰かが叫ぶ。
「──ッ!?」
衝動のまま、飛び掛かった。
振り下ろした小さな拳が、嗤い続けるドゥームを歪める。
口紅と同じ液体が溢れたが、知ったことか、侮辱されたのだ、正当な罰だ。
足りない。
もっと、罰を与えなければ。
「ふざけないで……!」
振りかぶる瞬間、言葉が追い付いた。
そうだ、正しいのは僕だ。
理不尽な目に会った、僕の行動は正しいんだ。
「ぐっ……こちらの言葉だ!」
ドゥームが声をあげると、たちまちに体が硬直する。
指一本動かせず、呼吸すらままならない。
完全な、お人形。
「私に逆らうとはいい度胸だ。君たちの体は頑丈に出来ているが、脳を破壊されればもう一度死ぬ。このまま殺してやろうか?」
切れ長の瞳で僕を貫く。
怒りを表す言葉とは裏腹の、無感情な瞳で。
「だが新たな贄を案内するのも面倒だ、今回は見逃してやる。苦しい思いをしたくないのなら、私の話を黙って聞け」
「がはっ……! はっ……はぁっ……!」
目を伏せた瞬間、体の自由が取り戻る。
空気を求め、地を這い、無様にもがき苦しんだ。
「まったく、何が気に入らないというのだ? 大人気のうぇぶ小説とやらには、意気揚々と旅立つ主人公ばかりいたというのに。堕とされた人間はどいつもこいつも……」
ドゥームの愚痴が続く中、白光の鎧が音を立てて崩れていく。体に吸い込まれるように消えていき、見慣れた学生服が顔を出した。
「異界の服を見せるだけで民衆は歓喜するのだぞ? 勇者がこの地に現れた、とな。持て囃されるのに悪い気はしないだろう?」
「ふざけないで……」
「何?」
「ふざけないで!!」
掠れた声で、叫んだ。
「そんなことして満たされるワケないよ! 全部仮初のモノなんだ、ただの英雄としか見てくれてない、その人自身を見てくれてない! 平伏す? 嫉妬する? 持て囃す? 全部嘘だよ、空しいだけだよ!」
ありのまま、叫んだ。
「小説だって同じだよ! 所詮は話を動かすキャラクターでしかない、駒でしかない! 知識やチートで生き抜くだって? 出来るワケないよそんなこと! 都合良く話が回るワケないんだよ!」
一度は嵌り込み、二度と目にしなかった架空の世界。
誰かが書き連ねる物語を動かすだけの舞台装置。
僕もそれの一つに組み込まれてしまうのか。
「馬鹿な現地人なんているワケないでしょ!? 優しいお姫様なんているワケないでしょ!? 全部嘘だよ、頭の悪い御伽噺だよ!」
感情の堰が崩壊し、熱い液体が流れだした。
「だから!! 放っておいてよ!!」
止めどなく溢れる涙。
この世界に彼はいない。
この世界に安らぎは無い。
この世界からいなくなりたい。
誰にも、何にも、見られたくなかった。
「ふん、言われなくとも消えるさ。だが最後の案内を聞け。洞窟を抜けて西へ向かえ、小さな村がある。太陽の位置を見ればおおよそ分かるだろう。念のため地図とコンパスを渡しておこう、この世界では希少なものだ、売れば大金が手に入る」
嗚咽を漏らす僕を無視して、早口にチュートリアルを再開する。
渡すと言いながら、丸めた羊皮紙と装飾されたコンパスを放り投げた。ゴトッと重い音が反響する。
正直、そんなものはいらなかった。
ただ、いなくなりたいだけで。
「ああそうだ……私に手を出せたのは君が初めてだな。久しぶりの痛みも、存外悪くないものだ。勲章の礼として、ちーとを与えよう」
塞ぎ込んだ僕に対し、遠くから手を翳す。
胎動。
体温が少しだけ、上がった気がした。
「閉じた殻を開け、迷える者を導け。それが君、高村響の新たなる生だ」
それだけ言うと、ドゥーム・バルバリッシュは闇へ消えた。
慟哭する僕を残して。
孤独な僕を残して。
許されるのなら、君に会いたい。
でも、この世界に君はいない。
楽園は、どこにもない。
それが悲しくて、声を潜めて泣いた。
存在を証明しないように。
体は正直だ、酷い空腹感が襲ってきた。
いつまでも洞窟にいるわけにはいかないので、ふらつきながら、出口を求めた。
「寒い……」
ずっとここにいて、餓死を選んでも良かった。
それでも、一条の光を求めた。
薄暗い中で、孤独に死ぬのは嫌だったのかもしれない。せめてもう一度、燦燦と輝く太陽を拝みたかったのかもしれない。
「寒い……」
渡された地図とコンパスをポケットへ捻じ込み、重い足を引きずって歩いた。風を頼りに、逃げ出した世界を求めた。
反響するのは足音のみ。
誰もいないことが、怖かった。
あの魔女と落ち着いて話をするべきだ、と後悔の念に苛まれていたが、あれで良かったのだ、間違ってはいなかったのだと思考して、手を出した非を拒絶した。
どれだけ歩いただろうか、眩しい、煌く光に包まれた。
「あったかい……」
見渡す限りの平原。緑の香りが鼻腔をくすぐる。
太陽が真上にあることを認めると、何故だか安堵した。この世界でも、こんな僕を、平等に照らしてくれるから。
睨むように、雲一つない空を見上げた。
湧いた感情は、怒りでもなく、嘆きでもなく。
言語では表せない、不思議な感情。
「僕は……」
ただ、空を見上げる僕がいた。
いつの日か、友達と見上げた空が、そこにある気がして。
無情の空に咲く華を、探していた。
気が付くと、腰を下ろして座っていた。
どれだけそうしていただろうか。膝を抱きかかえ、熱を逃がさないように、体を抱きしめながら。
「あっ、あのっ……」
不意に、か細い声が聞こえた。
いつの間にか、僕の隣に少女が座っていた。見たことも無い民族衣装を着込み、同じ姿勢で空を見上げる、一人の少女が。
「な、何を……見てるんですかっ?」
「えっと……空、かな……」
突然のことに若干戸惑いながらも、質問に答えた。少女は「へー」と短く返し、顎を上げて空を見続けた。萌葱色の短い髪を、そよ風に靡かせながら。
緑の香りに混ざって、甘い香りが届いてくる。
なんとなく、感情が落ち着いていくのが分かった。
結局、僕が考えていたことは小さなことだったんだ。取るに足らない心配事だ。ここには太陽があって、空があって、緑があって、誰かがいる。それだけでいいじゃないか。過去を忘れて、自由に生きてもいいじゃないか。この世界の住人は、誰も僕の過去を知らないんだ、一からやり直せるさ。胸には複雑な感情が入り乱れているけれど、それでも、体は生きようと泣き叫んでいる。
この空を、君も見ているだろうか。
隣にいないのが、少しだけ寂しいけれど。
「な、何色に……見えますか?」
「色? 青、かな」
「へー……同じ、です」
同い年くらいだろうか、少女は不可解な問いを投げかける。ありのままを伝えると、くすっ、と微笑んだ。何が可笑しいのか分からなかったが、つられて笑った。
笑えることが、嬉しかった。
笑い方を忘れていないことが、嬉しかった。
「私は……イーフェイって、いいます。君は?」
「へ?」
「名前を……教えて、欲しいんですっ」
「えと、僕は高村響。響でいいよ」
「へー……ヒビキさん、は、どこから来たの? バンディート村?」
「ばん……何?」
「あの、その……近くの村、ですっ。ここに来るの、多くがそこの……人、だから」
「そうなんだ。イーフェイちゃんもそこの人?」
「違い、ますっ。もっと、遠くから……来ました」
「遠く? 何の用で?」
「誰かを探して……もう見つからないって、分かってたけど。で、でも……君が、いたんです」
そう言うと、イーフェイははにかむ笑顔を向けた。
静かに、それでも力強く咲いた華。
「僕がここにいて……良かったって、思う?」
言葉が、自然と零れた。
誰かに口にした、存在証明。
華が散らぬうちに聞かなければいけないと、焦りながら。
「も、もちろん、ですっ。あ、あのっ……ヒビキさんは……私がいて、良かった?」
咲いて、咲いて、咲き誇って。
満開の華の祝福を、最悪な女神に感謝した。
「うん……ありがとう……」
「へへ。お礼を言われるなんて……思わなかった、ですっ」
ここで会話は途切れ、暫くの間、二人で空を見上げた。
かちん、かちん、と歯車が噛み合う音を聞きながら。
狂った時計が刻む時間を共有して。
「あっ」
突然、腹の虫が顔を出した。
「ヒビキさん……お腹減って、ますかっ?」
「えっと……うん、まあ」
誤魔化そうかとも考えたが、ハッキリと聞かれたらしい。羞恥心に顔が火照るのを感じて、イーフェイから目を逸らした。
「ごめん、なさいっ……何も、持ってなくて……」
「ううん、いいんだ、大丈夫だから。それと、敬語もいらないよ」
「ご、ごめんなさい……」
怒ってるわけじゃないのに、謝られてしまった。ぷるぷると震える姿は、まるで小動物。こちらも謝ると謝り返された為、僕が引き下がる形で終わらせた。
しかし、どうしようか。お金なんて持ってないし、頼りになる人もいない。この空腹を、どうやって凌げば良いのだろう。スキルなんてものは与えられていないし、平原には果物も見当たらない。
ドゥームの言う通り、まずは西へ向かうべきか。地図とコンパスを取り出そうとした時、イーフェイが声をあげた。
「あっ、あのっ……!」
「へ?」
「い……一緒、にっ……」
もごもごと口ごもりながら、何かを提案する。
「えと、一緒に家まで帰るってこと?」
なんとなく、そう思った。
僕がこの場を離れれば、イーフェイは一人になる。取り残されるのは嫌だよね、と思ったから。
「え……」
「あれ、違った?」
不安そうな目を浮かべる少女を見て、僕は間違ったのか、と動揺する。
いつも提案していたのは僕だっから、ふと、そう思ったのだが。
「そ、そうっ。そうっ、ですっ」
かぶりを振りながら頷いて、僕の言葉に同意した。
見たことも無い影が、少女と重なる。それは多分、いつかの自分だ。力も無く、弱いままの僕。
「家まで送るよ。どこにあるの?」
立ち上がりながら聞くと、イーフェイはもじもじしながら、おそらく、北の方角を指さした。
「分かった。じゃあ、行こっか」
「ふぇ?」
少女はキョトン、と目を丸くする。
「家まで、だよね? 大丈夫だよ、お腹はあんまり減ってないから」
「ふぇぇ……」
聞いたことも無い声をだして、身を強張らせる。
まさか照れてるのでは、と浅はかな考えが頭をよぎったが、出会って間もない人間に自宅を知られるのは怖いことだ、と反省する。いや、それなら一緒に行くという提案は何だったのだろう。
「あっ、のっ……そ、そのっ……手……」
「手?」
自分の手に目をやると、イーフェイの茎のように細い手を掴んでいた。
無意識に、掴んでしまっていたようだ。
──本当に行くの?
「うわっ!? ゴメン、勝手に」
「うっ、ううんっ……だい、じょうぶ、ですっ……」
すぐさま手を離すと、泣きそう、というより泣くぞ、と訴える顔を左右に震わせた。
「じゃあ……行こっか」
「はっ……はいっ……」
イーフェイが先に立って歩き出す。
小さな影法師を追って、僕も歩みを進めた。
「もうちょっと……ゆっくり……」
「あ、ごめん」
背の低い僕だったが、いつの間にか少女を追い越していたようだ。
「早く……歩か、ないでっ」
「ごめん……これくらい?」
足並みを揃えて、ゆっくりと。
「うん……これくらい……」
嬉しそうに、微笑んだ。
そうだ、焦る必要なんてない。ゆっくりと生きていこう。やりたいことも、やるべきことも、ゆっくりと探して行こう。過去との折り合いも、ゆっくりと付けていこう。
生きているから。
この空は、同じ色だから。
「ひぁっ!?」
感傷に浸っていると、何とも間抜けな声が聞こえた。
「だ、大丈夫?」
「へっ……へいきっ、ですっ」
石か何かに躓いたのか、イーフェイが前のめりに転んでいた。手を差し伸べて助け起こすと、鼻を真っ赤にした顔には涙らしき筋が流れた。
「あ、傷が出来てる。絆創膏あったかな……」
言いながら、あらゆるポケットをまさぐる。どこかにあるという確信を抱いていた。いつも傷だらけの彼の為に、肌身離さず持っていたから。
「あった。イーフェイちゃん、傷を見せて」
「へいきっ、ですっ」
両手で顔を隠していたが、耳まで真っ赤に染まっていた。転んだことがショックなのだろうか。
「でも、ばい菌とか入ったら危ないよ」
「へいきっ」
「でも、破傷風とかになると一大事だよ」
「うー……」
低い唸り声をあげ、渋々といった様子で手を開く。
整った顔を真っ赤にした、小さな猫がそこにいた。
「はい、動かないでね……」
まずはこびりついた土を落とす。先ほど見た時はもう少しだけ大きかった気がするが、多分、見間違いだろう。
少女の背丈は僕と同じくらいで、自然に真っ赤な目と僕の目が合った。つぶらな瞳は忙しく瞬きし、口元は開けばいいのか閉じればいいのか、困惑を漂わせて震えていた。
「うん、おっけー。帰ったら、すぐに水で洗おうね」
絆創膏を貼り終わる頃には、物凄い状態になっていた。震えは全身にまで広がり、足も小刻みに痙攣している。何と言ってもその顔だ、人はここまで赤面できるのかと問いたいほどの、まさに火を噴くような紅潮ぶり。こちらまで赤さが移るのを感じながら、手早く終わらせて顔を離す。
「ひゃ、ひゃい……」
ぐにゃぐにゃと揺れながら、呆然自失といった様子で反応する。心ここにあらず。
「大丈夫?」
「ひゃい……」
ダメっぽい。
とても初心な少女なのだろう、人に慣れていないことがよく分かる。なら、どうして僕に声を掛けたのだろう、と邪推したが、今は置いておく。
「おんぶ、しよっか?」
「ひゃい……」
「じゃあ、乗って」
「ひゃい……ひゃぁっ!?」
僕の肩に手を掛けた瞬間、また小さな悲鳴が聞こえた。
「大丈夫だよ、きっと僕でも支えられるから。山城君みたいに力はないけど、僕にだって……」
屈んだまま、後ろにいるであろうイーフェイに伝える。空腹感はピークを迎えていたが、多分、大丈夫。家までどれほどの距離があるかは分からないが、根拠のない確信を抱いていた。
「だ、だい、じょうぶっ、だからっ……」
「そう?」
少し意地悪しすぎたかな、と思考が巡る。僕は小さいから、きっと潰れてしまうと彼女は思ったのだろう。立ち上がって振り向くと、少女はまたもや顔を手で隠していた。
「えっと、大丈夫?」
「は、いっ……」
精魂を使い果たしました、とでも言うように、消え入りそうなほどにか細い声。ぐったりと俯いて、耳たぶまで真っ赤に染め上げて。
「うー……」
イーフェイはよろよろと、顔を隠したまま歩き出した。
僕も後を追って、今度こそ追い抜かないように、ゆっくりと歩を進めた。
常識は音を立てて崩れ去っていったが、それでも、この空間は確かにある、認知できる。
再びの人生。
絶望の過去と物足りなさを覚えながらも、僕は歩き出した。
開いた穴を埋めるように、手を繋いだのはどちらからだっただろう。
一歩、また一歩。
踏みしめる度、この世界も悪くない、と噛み締めた。
全てが偽物だと、心のどこかで疑いながらも。
光の差さない暗闇の中。
からだの9割を失ってはいたが、意識と呼べるものは微かにあった。ぼろぼろと石や砂が崩れ落ちる音を遠くに聞きながら、夢を見ていた。
どうして裏切ったの。
なぜ理解してくれないの。
僕を愛してくれないの。
君なら分かってくれると思ったのに。
それらの感情は今は消え失せ、ただ、夢を見ていた。
「くつくつ、深淵へ一名様ご案内だ」
「へ……?」
目覚めた場所は暗い洞窟。
「ようこそ高村響くん。そしておめでとう、君はこの地獄へ救世主として招かれた」
「…………」
湿り気を帯びた冷気が、体の熱を奪っていく。
漆黒のマントをその身に纏う長身の女性は、冷徹な瞳で僕を舐め回し、低い声を薄暗い洞窟へ反響させる。
「では、あとは好きに生きると良い。君は生前、そういった小説やアニメを嗜んでいた筈だ、どう生きれば良いか分かるだろう?」
「せいぜん……?」
言われ、ハッとする。
そうだ、僕は死んだ。
世界に居場所が無くて。
大切な人が壊れていくのを見てられなくて。
逃げ出したんだ。
「私はお喋りが好きではない。ではな、英雄よ」
「ま、待って……下さい」
マントを翻し、去ろうとする女性を引き留めた。
置いて行かれるのが嫌だったから。
名前を呼んでくれたことが嬉しかったから。
縋ってしまった。
「ここは……異世界?」
「むう、説明不足だったか。ああそうだ、異世界だ。これで十分か?」
「異世界……どうして僕は、ここにいるんですか?」
「若干18歳で死んだ君を哀れみ、この地での新たな生を与えた。それだけだ」
「哀れみ……?」
「遊ぶ術は整えてある。自由に生きろ、君の新たな人生を」
「…………」
「もう良いか?」
女性は腰に手を当て、明らかな苛つきを漂わせる。どうして理解できないのだ、と冷気を通して伝わった。
空虚な僕の裏側に、とある感情が芽生えた。
後悔は刹那。
「ふざけないで……」
哀れみなんていらない、同情なんていらない。
どうして眠らせてくれなかった。
どうして放っておいてくれなかった。
哀しい記憶の波に、呑み込まれてしまいそうだ。
理解できるから、苛つくのだ。
異世界転移なんて、現実を逃避した人間が居場所を求めて執筆した落書きだ。
苦労も何もなく、王様気分になりたくて、チヤホヤされたくて、創造された世界だ。
薄くて中身の無いライトノベルと、頭の悪くて下品なアニメーション。
需要はあるさ、忙しい日常から逃避したい人間が読んだり買ったりしてくれるから。
僕も読んだ、視聴した。
友達にも勧めた。本も貸したが、多分、読んでくれていない。きっと分かっていたんだ、そんな世界は存在しないって。友達は強い人だったから、逃げ出したりしなかったんだ。
僕は逃げた。
初めの頃は、頭を空っぽにして読めたていた。笑ったりもしていたんだ、可笑しくて。登場人物たちは様々な理由で転移するが、トラクターに轢き殺される場合が多かった。Web小説にも系譜は受け継がれ、トラクターが過労死するのでは、と馬鹿な思考を巡らせたりもした。
でも、違うんだ。
結局はビジネスなんだ、それら全てが。
背後には執筆者がいて、アニメーターがいて、声優がいて、様々な人間によって製作されている。生活の為に、家族の為に、作品として世に出される。
それが陰鬱なものでは、誰にも読まれない、見てくれない、買ってくれない。だからコメディ要素に溢れ、死後も悪くない、こんなに楽しいのだと印象付ける。異世界は素晴らしいものだと。
結局、全てがまやかし。
ありもしない、最果ての楽園。
知りたくなくて、見たくなくて、塞ぎ込んだ。
「ふざけないで……」
死後に幸せにするなんて、とんだ悪夢だ。生きている間に幸せにしろ。
僕は死んだ、自分で死を選んだ。
苦痛しか与えられない世界を恨んで、それでも納得して、死んだ。
望まれて産み落とされた筈なのに、誰もが目を逸らして無視した。
家族は、僕に興味を持たなかった。優秀な兄がいたから、そちらにばかり世話を焼いていた。僕はただのついでだ、いてもいなくても良い、ただのおまけ。子供である僕を、構ってはくれなかった。
頭が良くて、大人である君になら分かるだろう。
死者は、ただ眠っていたいだけ。
虚無こそが、楽園なのだと。
「ふざけないで……!」
「ふざけてなどいない。君は自由だ、この世界でならば失った青春を取り戻せる」
「そんなものいらない! 僕は生きるのが嫌で死んだんだ、どうして目覚めさせたんだよ!?」
「面倒だな……」
女は舌打ちし、不満を漏らす。
面倒なのはこちらだ、人が嫌で、世界が嫌で逃げ出したのに、異世界に呼び戻されるなど。
「あー……ごほん。ようこそ高村響くん! 君は救世主として産み落とされたのよ、もっと喜ぶといいわ! その生はあちらでは花を咲かすことは出来なかったけれど、ここでなら満開に咲き誇るわ! それはそれは綺麗な花をね!」
あからさまに態度を変え、諸手を挙げて歓迎した。
「友達だってたくさん出来るわ、彼女だって選び放題! 囚われのお姫様を助けたり、奴隷の女を解放してあげたりして、モテまくりの人生を送ることだって不可能じゃない! ライバルが必要ならすぐに呼ぶわ、自殺者なんて溢れているもの!」
「やめてよ! そんなものいらないって言ってるでしょ!」
真っ赤な口紅を塗った女は、耳元まで口を裂いて高笑う。
それが嫌で、目と耳を塞いだ。
だが空気を伝い、肌を伝い、骨を伝って伝導する。
「君と同じ日本人が良い? でもゴメンね、2016年には男女合わせて2万1897人もいたのよ、今年も事故死率を上回るでしょうね。先進国の中でも自殺率は上位よ、スゴイわねえ。選り取り見取りではあるけれど、ポイポイと呼ぶワケにもいかないの、ご希望に沿う人間を送れるかは私にも分からないなあ」
「やめて……!」
「そうそう、魔法を与えるのを忘れてたわ! 私ったらうっかりさん、でもそういう所が可愛いわよね! あらいやだ名前も言い忘れてたわ、ドゥーム・バルバリッシュよ、覚えなくていいけれど」
気味の悪い猫なで声が耳朶を打つ。
瞬間、瞼越しに閃光が炸裂した。
「啼け、感激の半冠」
何事かと薄眼を開き、眩しさを放つ正体を探した。
ドゥームと名乗る女の手には、七色に輝く幾何学模様の魔法陣が揺らめいていた。
それを僕に翳し、からだが光に包まれる。
ギフト──白光が支配する間際、ふと、そんなことを思った。
──慟哭の渦に塞がれし
──其は、溶炉を導く土人形
──蠕動せよ、無根の謬
どくん、と鼓動が早まる。
途端、視界が揺らぎ、平衡感覚を失い、冷たい地面へ倒れ込んだ。
気持ち悪い、気持ち悪い、中身が掻き回されて、強姦されて、ぐちゃぐちゃに、神経を犯されているようだ。死に際にも体感した、脳が裏返るような、酷く不愉快な感覚。
吐け、掃け、全てを剥いてしまえ。でもだめだ、それでは現実から逃げられない。だから耐えろ、誰にも悟られるな、弱い自分を見せるな。自分が自分でいなくなる、旅立つ為の儀式なのだから。
「さあ……気分はどう?」
胃には何も入っていなかった為、胆汁が混ざった黄色と緑の胃液を吐き出した。粘着性を持ったソレを口から剥がし、ふらつきながら自分の状態を確認する。
気分は最悪だが、第一声は別のものとなる。
「何……これ?」
「お決まりの魔法よ、難しく考えなくていいわ! 君だけに与えるリップサー……ごほん、シークレットサービス!」
白い鎧が目に入る。
綺麗で綺麗で……不愉快な、汚れ一つない月白の鎧を纏っていた。
「魔法……この鎧が?」
「お気に召さないかしら、そんなことは無いわよね? そこらのモンスター相手なら無双できるわ、傷一つ付かないでね! 発動したいならさっきの言霊を唱えなさい、すぐに湧き出てくるから……その時は今の服でいることをお勧めするわ、相性が良いから!」
気持ち悪さが収まってくると、清涼感が襲ってきた。
体が、思考が、感覚が、研ぎ澄まされていく。
「モンスター……ここは、ゲームの世界? スキルとかステータスはあるの?」
「くつくつくつ、ここは普通の世界よ、ちょっぴり危険な普通の異世界! そんな馬鹿げたモノあるワケないでしょ、人を数値化することなんて不可能よ!」
ドゥームはさぞ楽しそうに笑う。
いらない補足を加えるのには呆れたが、苛立ちは不思議と鳴りを潜めた。、
「ああそうだ、君がいた世界には、ゲームの世界でもないのにステータスなんてものがある、ふざけた小説もあったかしら? くつくつ、神に逆らうつもりなのかしらね? 技術的特異点を超えたとしても不可能よ、分かるのは、価値があるかどうかだけ」
「価値……」
生まれた価値。
ここにいる価値。
それは何だろう。
「高村くんには価値があるわ、ここにいることがその証拠。主人公としての資格があるの、勇者としての力があるの、生を与える価値があるの。あんな若さで死んだのは悲しいでしょう、だから生きなさい」
「力……」
力を込めて、拳を握る。
誰かのものより貧弱な、小さな拳だ。
それでも今は、鋼鉄の鎧が……力がある。
「聞きたいことがあるんだけど」
「何かな? どんな些細な事でも聞くが良いわ!」
小さく舌打ちしたのを聞き逃さなかったが、ここはあえて無視する。
「これ以外に魔法を使うことは出来ないの? 炎とか雷とか、他にも……そうだ、盗みとか」
「普通の人間が魔力なんてもの持ってるワケないじゃない! それとも君は超能力者だったかしら? 頑張れば人体発火くらいは起こせるかもね」
「鎧だけ、か……」
「そうそう、この世界には魔法を使える住人が多くいるわ。魔を討つ為の魔法を持った人間が」
「へー……」
「あら興味無い? 君は英雄よ、勇者なのよ? 未来の仲間になるかもしれないのに」
「自由に生きていいんでしょ? 冒険の旅に出るかどうかは自分で決める」
「私としては、魔王討伐をおススメするけどね。強制はしないから、好きに生きるといいわ」
「魔王……?」
「そう、魔王。興味ある?」
ニヤリと嗤う、その姿は魔女。
「別に……」
「あら、残念。君の力は強力なものだから、皆が付き従うというのに」
「従う……?」
「主人公だからに決まってるじゃない! 男は妬み、女は濡れるわ! 高村君は知ってるかな、女っていうのはね、例え見せかけのものだったとしても、強さを示す男に惚れるのよ!」
下品な魔女はくつくつと高笑う。
不愉快で不愉快で、ふつふつと感情が湧いてくる。
「民は平伏し、騎士は嫉妬するわよ! だって主人公なんだもの!」
ぎち、と音を立て、歯が噛み合う。
細胞が顫動し、肌がざわめく。
ふざけるな──誰かが叫ぶ。
「──ッ!?」
衝動のまま、飛び掛かった。
振り下ろした小さな拳が、嗤い続けるドゥームを歪める。
口紅と同じ液体が溢れたが、知ったことか、侮辱されたのだ、正当な罰だ。
足りない。
もっと、罰を与えなければ。
「ふざけないで……!」
振りかぶる瞬間、言葉が追い付いた。
そうだ、正しいのは僕だ。
理不尽な目に会った、僕の行動は正しいんだ。
「ぐっ……こちらの言葉だ!」
ドゥームが声をあげると、たちまちに体が硬直する。
指一本動かせず、呼吸すらままならない。
完全な、お人形。
「私に逆らうとはいい度胸だ。君たちの体は頑丈に出来ているが、脳を破壊されればもう一度死ぬ。このまま殺してやろうか?」
切れ長の瞳で僕を貫く。
怒りを表す言葉とは裏腹の、無感情な瞳で。
「だが新たな贄を案内するのも面倒だ、今回は見逃してやる。苦しい思いをしたくないのなら、私の話を黙って聞け」
「がはっ……! はっ……はぁっ……!」
目を伏せた瞬間、体の自由が取り戻る。
空気を求め、地を這い、無様にもがき苦しんだ。
「まったく、何が気に入らないというのだ? 大人気のうぇぶ小説とやらには、意気揚々と旅立つ主人公ばかりいたというのに。堕とされた人間はどいつもこいつも……」
ドゥームの愚痴が続く中、白光の鎧が音を立てて崩れていく。体に吸い込まれるように消えていき、見慣れた学生服が顔を出した。
「異界の服を見せるだけで民衆は歓喜するのだぞ? 勇者がこの地に現れた、とな。持て囃されるのに悪い気はしないだろう?」
「ふざけないで……」
「何?」
「ふざけないで!!」
掠れた声で、叫んだ。
「そんなことして満たされるワケないよ! 全部仮初のモノなんだ、ただの英雄としか見てくれてない、その人自身を見てくれてない! 平伏す? 嫉妬する? 持て囃す? 全部嘘だよ、空しいだけだよ!」
ありのまま、叫んだ。
「小説だって同じだよ! 所詮は話を動かすキャラクターでしかない、駒でしかない! 知識やチートで生き抜くだって? 出来るワケないよそんなこと! 都合良く話が回るワケないんだよ!」
一度は嵌り込み、二度と目にしなかった架空の世界。
誰かが書き連ねる物語を動かすだけの舞台装置。
僕もそれの一つに組み込まれてしまうのか。
「馬鹿な現地人なんているワケないでしょ!? 優しいお姫様なんているワケないでしょ!? 全部嘘だよ、頭の悪い御伽噺だよ!」
感情の堰が崩壊し、熱い液体が流れだした。
「だから!! 放っておいてよ!!」
止めどなく溢れる涙。
この世界に彼はいない。
この世界に安らぎは無い。
この世界からいなくなりたい。
誰にも、何にも、見られたくなかった。
「ふん、言われなくとも消えるさ。だが最後の案内を聞け。洞窟を抜けて西へ向かえ、小さな村がある。太陽の位置を見ればおおよそ分かるだろう。念のため地図とコンパスを渡しておこう、この世界では希少なものだ、売れば大金が手に入る」
嗚咽を漏らす僕を無視して、早口にチュートリアルを再開する。
渡すと言いながら、丸めた羊皮紙と装飾されたコンパスを放り投げた。ゴトッと重い音が反響する。
正直、そんなものはいらなかった。
ただ、いなくなりたいだけで。
「ああそうだ……私に手を出せたのは君が初めてだな。久しぶりの痛みも、存外悪くないものだ。勲章の礼として、ちーとを与えよう」
塞ぎ込んだ僕に対し、遠くから手を翳す。
胎動。
体温が少しだけ、上がった気がした。
「閉じた殻を開け、迷える者を導け。それが君、高村響の新たなる生だ」
それだけ言うと、ドゥーム・バルバリッシュは闇へ消えた。
慟哭する僕を残して。
孤独な僕を残して。
許されるのなら、君に会いたい。
でも、この世界に君はいない。
楽園は、どこにもない。
それが悲しくて、声を潜めて泣いた。
存在を証明しないように。
体は正直だ、酷い空腹感が襲ってきた。
いつまでも洞窟にいるわけにはいかないので、ふらつきながら、出口を求めた。
「寒い……」
ずっとここにいて、餓死を選んでも良かった。
それでも、一条の光を求めた。
薄暗い中で、孤独に死ぬのは嫌だったのかもしれない。せめてもう一度、燦燦と輝く太陽を拝みたかったのかもしれない。
「寒い……」
渡された地図とコンパスをポケットへ捻じ込み、重い足を引きずって歩いた。風を頼りに、逃げ出した世界を求めた。
反響するのは足音のみ。
誰もいないことが、怖かった。
あの魔女と落ち着いて話をするべきだ、と後悔の念に苛まれていたが、あれで良かったのだ、間違ってはいなかったのだと思考して、手を出した非を拒絶した。
どれだけ歩いただろうか、眩しい、煌く光に包まれた。
「あったかい……」
見渡す限りの平原。緑の香りが鼻腔をくすぐる。
太陽が真上にあることを認めると、何故だか安堵した。この世界でも、こんな僕を、平等に照らしてくれるから。
睨むように、雲一つない空を見上げた。
湧いた感情は、怒りでもなく、嘆きでもなく。
言語では表せない、不思議な感情。
「僕は……」
ただ、空を見上げる僕がいた。
いつの日か、友達と見上げた空が、そこにある気がして。
無情の空に咲く華を、探していた。
気が付くと、腰を下ろして座っていた。
どれだけそうしていただろうか。膝を抱きかかえ、熱を逃がさないように、体を抱きしめながら。
「あっ、あのっ……」
不意に、か細い声が聞こえた。
いつの間にか、僕の隣に少女が座っていた。見たことも無い民族衣装を着込み、同じ姿勢で空を見上げる、一人の少女が。
「な、何を……見てるんですかっ?」
「えっと……空、かな……」
突然のことに若干戸惑いながらも、質問に答えた。少女は「へー」と短く返し、顎を上げて空を見続けた。萌葱色の短い髪を、そよ風に靡かせながら。
緑の香りに混ざって、甘い香りが届いてくる。
なんとなく、感情が落ち着いていくのが分かった。
結局、僕が考えていたことは小さなことだったんだ。取るに足らない心配事だ。ここには太陽があって、空があって、緑があって、誰かがいる。それだけでいいじゃないか。過去を忘れて、自由に生きてもいいじゃないか。この世界の住人は、誰も僕の過去を知らないんだ、一からやり直せるさ。胸には複雑な感情が入り乱れているけれど、それでも、体は生きようと泣き叫んでいる。
この空を、君も見ているだろうか。
隣にいないのが、少しだけ寂しいけれど。
「な、何色に……見えますか?」
「色? 青、かな」
「へー……同じ、です」
同い年くらいだろうか、少女は不可解な問いを投げかける。ありのままを伝えると、くすっ、と微笑んだ。何が可笑しいのか分からなかったが、つられて笑った。
笑えることが、嬉しかった。
笑い方を忘れていないことが、嬉しかった。
「私は……イーフェイって、いいます。君は?」
「へ?」
「名前を……教えて、欲しいんですっ」
「えと、僕は高村響。響でいいよ」
「へー……ヒビキさん、は、どこから来たの? バンディート村?」
「ばん……何?」
「あの、その……近くの村、ですっ。ここに来るの、多くがそこの……人、だから」
「そうなんだ。イーフェイちゃんもそこの人?」
「違い、ますっ。もっと、遠くから……来ました」
「遠く? 何の用で?」
「誰かを探して……もう見つからないって、分かってたけど。で、でも……君が、いたんです」
そう言うと、イーフェイははにかむ笑顔を向けた。
静かに、それでも力強く咲いた華。
「僕がここにいて……良かったって、思う?」
言葉が、自然と零れた。
誰かに口にした、存在証明。
華が散らぬうちに聞かなければいけないと、焦りながら。
「も、もちろん、ですっ。あ、あのっ……ヒビキさんは……私がいて、良かった?」
咲いて、咲いて、咲き誇って。
満開の華の祝福を、最悪な女神に感謝した。
「うん……ありがとう……」
「へへ。お礼を言われるなんて……思わなかった、ですっ」
ここで会話は途切れ、暫くの間、二人で空を見上げた。
かちん、かちん、と歯車が噛み合う音を聞きながら。
狂った時計が刻む時間を共有して。
「あっ」
突然、腹の虫が顔を出した。
「ヒビキさん……お腹減って、ますかっ?」
「えっと……うん、まあ」
誤魔化そうかとも考えたが、ハッキリと聞かれたらしい。羞恥心に顔が火照るのを感じて、イーフェイから目を逸らした。
「ごめん、なさいっ……何も、持ってなくて……」
「ううん、いいんだ、大丈夫だから。それと、敬語もいらないよ」
「ご、ごめんなさい……」
怒ってるわけじゃないのに、謝られてしまった。ぷるぷると震える姿は、まるで小動物。こちらも謝ると謝り返された為、僕が引き下がる形で終わらせた。
しかし、どうしようか。お金なんて持ってないし、頼りになる人もいない。この空腹を、どうやって凌げば良いのだろう。スキルなんてものは与えられていないし、平原には果物も見当たらない。
ドゥームの言う通り、まずは西へ向かうべきか。地図とコンパスを取り出そうとした時、イーフェイが声をあげた。
「あっ、あのっ……!」
「へ?」
「い……一緒、にっ……」
もごもごと口ごもりながら、何かを提案する。
「えと、一緒に家まで帰るってこと?」
なんとなく、そう思った。
僕がこの場を離れれば、イーフェイは一人になる。取り残されるのは嫌だよね、と思ったから。
「え……」
「あれ、違った?」
不安そうな目を浮かべる少女を見て、僕は間違ったのか、と動揺する。
いつも提案していたのは僕だっから、ふと、そう思ったのだが。
「そ、そうっ。そうっ、ですっ」
かぶりを振りながら頷いて、僕の言葉に同意した。
見たことも無い影が、少女と重なる。それは多分、いつかの自分だ。力も無く、弱いままの僕。
「家まで送るよ。どこにあるの?」
立ち上がりながら聞くと、イーフェイはもじもじしながら、おそらく、北の方角を指さした。
「分かった。じゃあ、行こっか」
「ふぇ?」
少女はキョトン、と目を丸くする。
「家まで、だよね? 大丈夫だよ、お腹はあんまり減ってないから」
「ふぇぇ……」
聞いたことも無い声をだして、身を強張らせる。
まさか照れてるのでは、と浅はかな考えが頭をよぎったが、出会って間もない人間に自宅を知られるのは怖いことだ、と反省する。いや、それなら一緒に行くという提案は何だったのだろう。
「あっ、のっ……そ、そのっ……手……」
「手?」
自分の手に目をやると、イーフェイの茎のように細い手を掴んでいた。
無意識に、掴んでしまっていたようだ。
──本当に行くの?
「うわっ!? ゴメン、勝手に」
「うっ、ううんっ……だい、じょうぶ、ですっ……」
すぐさま手を離すと、泣きそう、というより泣くぞ、と訴える顔を左右に震わせた。
「じゃあ……行こっか」
「はっ……はいっ……」
イーフェイが先に立って歩き出す。
小さな影法師を追って、僕も歩みを進めた。
「もうちょっと……ゆっくり……」
「あ、ごめん」
背の低い僕だったが、いつの間にか少女を追い越していたようだ。
「早く……歩か、ないでっ」
「ごめん……これくらい?」
足並みを揃えて、ゆっくりと。
「うん……これくらい……」
嬉しそうに、微笑んだ。
そうだ、焦る必要なんてない。ゆっくりと生きていこう。やりたいことも、やるべきことも、ゆっくりと探して行こう。過去との折り合いも、ゆっくりと付けていこう。
生きているから。
この空は、同じ色だから。
「ひぁっ!?」
感傷に浸っていると、何とも間抜けな声が聞こえた。
「だ、大丈夫?」
「へっ……へいきっ、ですっ」
石か何かに躓いたのか、イーフェイが前のめりに転んでいた。手を差し伸べて助け起こすと、鼻を真っ赤にした顔には涙らしき筋が流れた。
「あ、傷が出来てる。絆創膏あったかな……」
言いながら、あらゆるポケットをまさぐる。どこかにあるという確信を抱いていた。いつも傷だらけの彼の為に、肌身離さず持っていたから。
「あった。イーフェイちゃん、傷を見せて」
「へいきっ、ですっ」
両手で顔を隠していたが、耳まで真っ赤に染まっていた。転んだことがショックなのだろうか。
「でも、ばい菌とか入ったら危ないよ」
「へいきっ」
「でも、破傷風とかになると一大事だよ」
「うー……」
低い唸り声をあげ、渋々といった様子で手を開く。
整った顔を真っ赤にした、小さな猫がそこにいた。
「はい、動かないでね……」
まずはこびりついた土を落とす。先ほど見た時はもう少しだけ大きかった気がするが、多分、見間違いだろう。
少女の背丈は僕と同じくらいで、自然に真っ赤な目と僕の目が合った。つぶらな瞳は忙しく瞬きし、口元は開けばいいのか閉じればいいのか、困惑を漂わせて震えていた。
「うん、おっけー。帰ったら、すぐに水で洗おうね」
絆創膏を貼り終わる頃には、物凄い状態になっていた。震えは全身にまで広がり、足も小刻みに痙攣している。何と言ってもその顔だ、人はここまで赤面できるのかと問いたいほどの、まさに火を噴くような紅潮ぶり。こちらまで赤さが移るのを感じながら、手早く終わらせて顔を離す。
「ひゃ、ひゃい……」
ぐにゃぐにゃと揺れながら、呆然自失といった様子で反応する。心ここにあらず。
「大丈夫?」
「ひゃい……」
ダメっぽい。
とても初心な少女なのだろう、人に慣れていないことがよく分かる。なら、どうして僕に声を掛けたのだろう、と邪推したが、今は置いておく。
「おんぶ、しよっか?」
「ひゃい……」
「じゃあ、乗って」
「ひゃい……ひゃぁっ!?」
僕の肩に手を掛けた瞬間、また小さな悲鳴が聞こえた。
「大丈夫だよ、きっと僕でも支えられるから。山城君みたいに力はないけど、僕にだって……」
屈んだまま、後ろにいるであろうイーフェイに伝える。空腹感はピークを迎えていたが、多分、大丈夫。家までどれほどの距離があるかは分からないが、根拠のない確信を抱いていた。
「だ、だい、じょうぶっ、だからっ……」
「そう?」
少し意地悪しすぎたかな、と思考が巡る。僕は小さいから、きっと潰れてしまうと彼女は思ったのだろう。立ち上がって振り向くと、少女はまたもや顔を手で隠していた。
「えっと、大丈夫?」
「は、いっ……」
精魂を使い果たしました、とでも言うように、消え入りそうなほどにか細い声。ぐったりと俯いて、耳たぶまで真っ赤に染め上げて。
「うー……」
イーフェイはよろよろと、顔を隠したまま歩き出した。
僕も後を追って、今度こそ追い抜かないように、ゆっくりと歩を進めた。
常識は音を立てて崩れ去っていったが、それでも、この空間は確かにある、認知できる。
再びの人生。
絶望の過去と物足りなさを覚えながらも、僕は歩き出した。
開いた穴を埋めるように、手を繋いだのはどちらからだっただろう。
一歩、また一歩。
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俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
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