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始まり的な
会長、教壇を降りる。
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「あっという間に昼だな。給食は配給所まで取りに行け、子供たちについていけば分かるだろう」
「はい」
鐘の音がなるとメガネが授業を終わらせた。鐘の音というのは勿論校内スピーカーだなんて最新の設備であるはずもなく、島に一つだけ存在している教会に備え付けられているもので今のはつまり正午を示す6時課の──最早何も考えまい。
「お姉さん、マリンと一緒に行こっ!」
「はい」
あぁマリンちゃんは可愛いなぁ。その褐色の肌、くりくりした瞳、ショートの髪、それら全てが少女の天真爛漫さを一際際立たせ尚且つ清楚さを醸し出して──私は百合っ気を帯びた。
「中尉さんは行かないのー?」
「先に午後の教材を準備してくる。それと、何遍も言った筈だ、ここでは先生と呼べ」
「はーい、先生!」
おぉヒヤッとしたぜ、このメガネに取られるかと。
「配給所はこっちだよ!」
「はい」
マリンちゃんに手を引かれるがまま教室を飛び出す。勿論彼女だけではなく他の生徒も同様、私の近くをうろちょろしたり疑問を投げかけたりしてきているのだけれど、聞いて、考えて、答える、という順序が怠くなっていたので、取り合えず「はい」とだけ答えて耳を塞いだ。今は只、この少女だけを独占したい。
「アハトだー!」
誰かが叫んだ。
「おう」
「一緒にご飯食べよー!」
うん? アハト? 誰だっけ?
いや考えるな、ありのままを受け入れていればいいんだ、それがここで生き抜くための秘訣なんだ、余計な思考を巡らせては──
「…………あの、アハト・カヴェナンター曹長さんで間違いないでしょうか?」
私は少しばかりの理性を取り戻した。
「そうだが……何の用だ」
「少しばかり、お付き合い頂けませんか?」
「えっ!? お姉さん、アハトと付き合うのー!?」
「なっ!? 何を言ってるんだマリン!?」
ふざけてんじゃねえよさっさと答えろ右曲がりの糞童貞野郎。
「うふふ、そんなんじゃありませんよ」
「ほんとっ!?」
「本当本当。マリンちゃんは先に行っていて下さい、すぐに終わりますから」
「分かったー!」
よっし。
「では曹長さん、二人っきりでお話がしたいのですけれども」
「断る」
「…………穏便に、お話がしたいのですけれども?」
「…………卑怯なッ!」
よっし。
取り合えず情報源を確保。あのメガネは聞くだけ無駄、むしろこっちが疑われる。メガネが私の正体を知らないというのなら、アハトは沈黙を貫いていてくれたのだろうし、今は信用を置いてもまぁ──難しく考えるのは止めた。
「で、何の用だ」
辿り着いたのは昨日の海岸。
そよ風に潮の香りが漂い、燦燦と輝く日光を反射した海はそれはもう──情景を描写するのは止めた。
「…………一発やらせろ」
愛想笑いは崩さず、囁いた。
「あ?」
「一発やらせろって言ってんだよ童貞野郎があああああ!!」
「!?」
うん。
なんだかもう、色々と限界だった。
「ガッチャ!」
「うぉっ!?」
私は欲望のまま、男の軍服を剥いだ。
「ぐふふふふ、綺麗なピンク色の乳首をしているのですね♪」
「やめろッ! 服を返せ!」
「反抗するのですかぁ? いけませんよぉ……Bestellen!」
「!?」
私は男の軍服を燃やした。
「それがてめぇの力か! やっぱり危険だ、すぐに報告──」
「まぁまぁまぁまぁ」
私は男に詰め寄る。
「ほほお、流石は軍人さんですね。胸板は強靭、腹筋はシックスパック。それであっても、どこか柔らかさを保っている♪」
「触るなッ!」
私は男の体をまさぐる。
「おやぁ? これは何ですかぁ? 私との痴態を想像して、おっきしたのですかぁ?」
「!?」
「良いと思っているのですかぁ? 教師との不純異性交遊は褒められるものではありませんよぉ?」
私はナニを握る。
「んなわけあるか! 平たい顔の異世界人なんかに!」
「…………」
私の体が停止した。
が、すぐに再起動。
「…………何が異世界だオラァ! 授業で英語だとか因数分解だとか教える異世界がどこにあるんだオラァ!」
「ぐっ……!? がっ……!?」
私は男の首を締め上げる。
「蜥蜴男がいるのによぉ! 馬鹿デカイ鳥がいるのによぉ! 普通に文明が遅れた異世界だと思ってたのによぉ! どうして中等教育してんだよオラァ!」
私はこれまでの鬱憤を男に向けて放った。
「異世界人のこと黙ってるんだろ!? なんで異世界の言葉教えてんだよオラァ!」
「はな……せ……ッ!」
私は離さない。
「そもそもおかしいと思ってたんだよ! どうして日本語話してんだお前らはぁ!?」
「ぐ……ッ!」
男の顔から血の気が引いていく。
「普通はアレだろ!? 指輪だとかふざけた方法でテレパシー送るんじゃねえのかよ!? そんなもんつけてねえぞ説明しろオラァ!」
「…………ッ」
男の反応が弱くなった。
「はぁ……はぁ……すみません、つい」
「…………」
へんじがない、ただのしかばねのようだ──そうじゃなくて。
「起きろてめぇぇぇぇぇ!」
「…………!?」
私はビンタをかました。
「で、どういうことなの?」
「…………言えない」
「じゃあ、何なら言えるの?」
「…………言えない」
私は大きな溜息を吐いた。
「えぇと……じゃあ、はいかいいえで答えて下さい」
私はこの男にもいろいろあることを思い出した。
「断る」
「拒否権があるとでも?」
「…………」
「それは肯定ととりますね」
私は銃撃の構えを解いた。
「あなたは何故日本語を喋れるの? どこかで学んだの?」
「……いや」
はいかいいえで答えろって言っただろてめぇ!
う~ん、しかしこれはどういうこと? 普通に流暢な日本語を喋っているようにしか聞こえないのだけれど? 異世界という非現実に足を踏み入れた時点で考えるだけ無駄だということは分かっているのだけれど、どうにも腑に落ちない。
あ、そうか。前にも転移してきた人がいるんだった。そいつらがこの世界に広めでもしたのだろう。
それはともかく。
「あなたも英語を学びましたか?」
「……少し」
だから、はいかいいえで答えろって言ってんだろ右曲がりの低能野郎が!
しかしこれは……どういうこと?
「うん? あの中尉さんは学ばせる立場にいるのに、あなたは少ししか学んでいない?」
「……まあ」
最早突っ込むまい。
うーんと? あのメガネは中尉でこの童貞は曹長。将校と下士官では学習状況が違うのだろうか?
「読めはするのですか?」
「……多少」
「この世界というか、あなたの国にも言語はありますか?」
「……ある」
それは当然か。
「プトラオム王国でしたっけ。識字率はいかほどで?」
「……それほどでもない」
はいかいいえを求めるのも諦めた。
「…………」
長考。
識字率はそれほど高くないのに英語を教えている? それはこの島だけなのだろうか? まあ、所詮はアルファベット26文字の組み合わせで、あの世界での国際公用語の地位を獲得できる程に、それなりに文法やらが分かりやすいものなのだけれど。
確かなのは、この島における識字率はほぼ100%。何故なら、勿論教育の現場をこの目で見たこともあるのだけれど、昨日今日と出歩いて島を見学した際、店の看板やらが普通に文字看板であったことから伺える。識字率が低いならそんなことは出来ない。そこがどのような店で、何を売っているのかが分からないから。ちなみにそれらは、見たこともない記号で表されていた。多分、それがこの国における独自の言語なのだろうけれど。
「…………?」
駄目だ分からない。何がかというと、英語を教えている理由が。そんなもの教えたところで使う機会なんてないだろうに、何故子供に教育しているのだろう? それも異世界の言葉だということは黙って。異世界という事実を知らないのなら、それはどこか別国の言語だとして認識してしまうのでは?
うん。
うん、分からん。
しかしなんというか、この男に問いただすのも怠くなってきた。ここはいっそリリアだったりホルツだったりに詰め寄るか。
「分かりました、ありがとうございます。では私はこれで」
「なっ!?」
「おやぁ? 筆下ろしして欲しいのですかぁ?」
「そんなんじゃない! 服を元に戻せ!」
アハトは黒焦げになった軍服を指さして訴える。
「戻し方なんて分かりません」
「はぁ!?」
「いいですかぁ? 一度壊れたものは二度と元に戻らないのですよ? 良い教訓になりましたねぇ」
「てめぇ……! 知ったかぶりはいい加減にしろ!」
「ほほう?」
明らかな怒りを纏うアハト。
うんうんそれもいいよ、屈服させる手っ取り早い方法は快楽責めだけじゃなく、肉体の損傷なのだから。まぁ、鬱憤が溜まっているのももちろんあるのだけれど。取り合えず指先に魔力とやらを集中させる。
「……ッ!」
覇気にでも気付いたのか、アハトは身構え……距離を取る。
ふざけんじゃねぇよオイ! 誰が逃げていいっつったおいオラァ!
「ここで何をしている貴様! いただきますが出来んだろうが!」
割って入る鋭い声。聞こえてきた後方を確認すると、小走りに駆け寄ってくるメガネ、もといシルヴィアの姿が。
いただきますって……みんな揃ってから食事するの? どれだけ几帳面というか。
「…………本当に何をしているカヴェナンター曹長。貴様まさか──」
シルヴィアの足が止まり、その顔は赤みを増し、肩はプルプル震えていく。視線の先には半裸の男。
あぁ、傍からこの状況を見れば……私を襲おうとしている軍人の姿に見えるのか?
「いえ! 私は何も!」
「本当か? 我が隊からわいせつ罪で逮捕者が出たとあらば王国軍人の恥さらし処では済まされんぞ。しかも相手が疑いはあれど区長の娘、一族全員皆殺しされても文句は言えん」
わーおおっかない。
「確認するぞトーカ。貴様は何もされていないのだな?」
「あ、はい」
「誓ってか?」
「はい」
心配する声音で聞かれてしまった。なんだ、底では結構優しい人なのだろうか。
「ではカヴェナンター曹長……貴様は何もしていないのだなッ!?」
「は!」
「誓ってかッ!?」
「は!」
わーおおっかない。
「…………では行くぞ。子供たちが待っている」
「あ、はい」
アハトは置き去りに、私はメガネに手を引かれ、浜辺をゆっくり進んでいく。
うん? これはこれでチャンスなのでは?
「あの、メガ……ええと、センチネル中尉」
「何だ?」
「英語を教えるのは何のためでしたっけ?」
どうだ!?
「貴様、本当は襲われたのではないか? 回路が焼き切れでもしたのか?」
ダメか!?
「単純だろうが。ここは文化を保存する為に存在する区画の一つだぞ」
お?
「異世界人は心底嫌いだがな。だが、奴らの知識や価値観は後世に伝えねばならぬ資産でもある」
うん。
うん?
「社会主義という概念は気に入っている。誰もが幸せに、平和に暮らせる最果ての理想。貴様もそうだろう、貧富の差が無いのだぞ? まぁ、綺麗事だということも分かっているがな」
「…………」
うーん? 文化? 保存? ちょっと待って、初めて聞いたのだけれど。
いやそれよりも、ここは社会主義国家なのだっけ? あまり良いイメージがないのだけれど。
ええと、ここはプトラオム王国の領地で、王国なのだから当然国王がいて、国王というのはつまり神に等しいわけで、それが統治しているのだから、君主主義な筈なのでは?
まさかこのメガネ、自由惑〇同盟の一員か?
「知らないわけ無いだろうが、ただ文化を保存しているだけではない。過去の大戦を終結させたベリアル・マキーナ、あれを解析しうる科学者を育成する機関でもある」
「…………」
あぁそうか、考え方によっては社会主義だと受け取ることも出来なくはない……のか? 王とはいえ人間、それが戒律やら何やらを決定しているのだから、そこには人情というか倫理の尺度を人においてしまうわけで。何が言いたいかというと、時と場合によって正しいことが変更され得るということで。というか日本みたいなわけで。
「…………ん? 疑いが晴れていない貴様に話してはいけないことだった。まあいいだろう、ここにあるのは動きもしないガラクタだからな。早く行くぞ、スープが冷めてしまう」
「あ、はい」
まぁ、いいか。
この人も意外と優しいみたいだし。この島は平和なのだし。取り合えず、午後の授業に保健体育があるかどうかを確認しておこう。
「はい」
鐘の音がなるとメガネが授業を終わらせた。鐘の音というのは勿論校内スピーカーだなんて最新の設備であるはずもなく、島に一つだけ存在している教会に備え付けられているもので今のはつまり正午を示す6時課の──最早何も考えまい。
「お姉さん、マリンと一緒に行こっ!」
「はい」
あぁマリンちゃんは可愛いなぁ。その褐色の肌、くりくりした瞳、ショートの髪、それら全てが少女の天真爛漫さを一際際立たせ尚且つ清楚さを醸し出して──私は百合っ気を帯びた。
「中尉さんは行かないのー?」
「先に午後の教材を準備してくる。それと、何遍も言った筈だ、ここでは先生と呼べ」
「はーい、先生!」
おぉヒヤッとしたぜ、このメガネに取られるかと。
「配給所はこっちだよ!」
「はい」
マリンちゃんに手を引かれるがまま教室を飛び出す。勿論彼女だけではなく他の生徒も同様、私の近くをうろちょろしたり疑問を投げかけたりしてきているのだけれど、聞いて、考えて、答える、という順序が怠くなっていたので、取り合えず「はい」とだけ答えて耳を塞いだ。今は只、この少女だけを独占したい。
「アハトだー!」
誰かが叫んだ。
「おう」
「一緒にご飯食べよー!」
うん? アハト? 誰だっけ?
いや考えるな、ありのままを受け入れていればいいんだ、それがここで生き抜くための秘訣なんだ、余計な思考を巡らせては──
「…………あの、アハト・カヴェナンター曹長さんで間違いないでしょうか?」
私は少しばかりの理性を取り戻した。
「そうだが……何の用だ」
「少しばかり、お付き合い頂けませんか?」
「えっ!? お姉さん、アハトと付き合うのー!?」
「なっ!? 何を言ってるんだマリン!?」
ふざけてんじゃねえよさっさと答えろ右曲がりの糞童貞野郎。
「うふふ、そんなんじゃありませんよ」
「ほんとっ!?」
「本当本当。マリンちゃんは先に行っていて下さい、すぐに終わりますから」
「分かったー!」
よっし。
「では曹長さん、二人っきりでお話がしたいのですけれども」
「断る」
「…………穏便に、お話がしたいのですけれども?」
「…………卑怯なッ!」
よっし。
取り合えず情報源を確保。あのメガネは聞くだけ無駄、むしろこっちが疑われる。メガネが私の正体を知らないというのなら、アハトは沈黙を貫いていてくれたのだろうし、今は信用を置いてもまぁ──難しく考えるのは止めた。
「で、何の用だ」
辿り着いたのは昨日の海岸。
そよ風に潮の香りが漂い、燦燦と輝く日光を反射した海はそれはもう──情景を描写するのは止めた。
「…………一発やらせろ」
愛想笑いは崩さず、囁いた。
「あ?」
「一発やらせろって言ってんだよ童貞野郎があああああ!!」
「!?」
うん。
なんだかもう、色々と限界だった。
「ガッチャ!」
「うぉっ!?」
私は欲望のまま、男の軍服を剥いだ。
「ぐふふふふ、綺麗なピンク色の乳首をしているのですね♪」
「やめろッ! 服を返せ!」
「反抗するのですかぁ? いけませんよぉ……Bestellen!」
「!?」
私は男の軍服を燃やした。
「それがてめぇの力か! やっぱり危険だ、すぐに報告──」
「まぁまぁまぁまぁ」
私は男に詰め寄る。
「ほほお、流石は軍人さんですね。胸板は強靭、腹筋はシックスパック。それであっても、どこか柔らかさを保っている♪」
「触るなッ!」
私は男の体をまさぐる。
「おやぁ? これは何ですかぁ? 私との痴態を想像して、おっきしたのですかぁ?」
「!?」
「良いと思っているのですかぁ? 教師との不純異性交遊は褒められるものではありませんよぉ?」
私はナニを握る。
「んなわけあるか! 平たい顔の異世界人なんかに!」
「…………」
私の体が停止した。
が、すぐに再起動。
「…………何が異世界だオラァ! 授業で英語だとか因数分解だとか教える異世界がどこにあるんだオラァ!」
「ぐっ……!? がっ……!?」
私は男の首を締め上げる。
「蜥蜴男がいるのによぉ! 馬鹿デカイ鳥がいるのによぉ! 普通に文明が遅れた異世界だと思ってたのによぉ! どうして中等教育してんだよオラァ!」
私はこれまでの鬱憤を男に向けて放った。
「異世界人のこと黙ってるんだろ!? なんで異世界の言葉教えてんだよオラァ!」
「はな……せ……ッ!」
私は離さない。
「そもそもおかしいと思ってたんだよ! どうして日本語話してんだお前らはぁ!?」
「ぐ……ッ!」
男の顔から血の気が引いていく。
「普通はアレだろ!? 指輪だとかふざけた方法でテレパシー送るんじゃねえのかよ!? そんなもんつけてねえぞ説明しろオラァ!」
「…………ッ」
男の反応が弱くなった。
「はぁ……はぁ……すみません、つい」
「…………」
へんじがない、ただのしかばねのようだ──そうじゃなくて。
「起きろてめぇぇぇぇぇ!」
「…………!?」
私はビンタをかました。
「で、どういうことなの?」
「…………言えない」
「じゃあ、何なら言えるの?」
「…………言えない」
私は大きな溜息を吐いた。
「えぇと……じゃあ、はいかいいえで答えて下さい」
私はこの男にもいろいろあることを思い出した。
「断る」
「拒否権があるとでも?」
「…………」
「それは肯定ととりますね」
私は銃撃の構えを解いた。
「あなたは何故日本語を喋れるの? どこかで学んだの?」
「……いや」
はいかいいえで答えろって言っただろてめぇ!
う~ん、しかしこれはどういうこと? 普通に流暢な日本語を喋っているようにしか聞こえないのだけれど? 異世界という非現実に足を踏み入れた時点で考えるだけ無駄だということは分かっているのだけれど、どうにも腑に落ちない。
あ、そうか。前にも転移してきた人がいるんだった。そいつらがこの世界に広めでもしたのだろう。
それはともかく。
「あなたも英語を学びましたか?」
「……少し」
だから、はいかいいえで答えろって言ってんだろ右曲がりの低能野郎が!
しかしこれは……どういうこと?
「うん? あの中尉さんは学ばせる立場にいるのに、あなたは少ししか学んでいない?」
「……まあ」
最早突っ込むまい。
うーんと? あのメガネは中尉でこの童貞は曹長。将校と下士官では学習状況が違うのだろうか?
「読めはするのですか?」
「……多少」
「この世界というか、あなたの国にも言語はありますか?」
「……ある」
それは当然か。
「プトラオム王国でしたっけ。識字率はいかほどで?」
「……それほどでもない」
はいかいいえを求めるのも諦めた。
「…………」
長考。
識字率はそれほど高くないのに英語を教えている? それはこの島だけなのだろうか? まあ、所詮はアルファベット26文字の組み合わせで、あの世界での国際公用語の地位を獲得できる程に、それなりに文法やらが分かりやすいものなのだけれど。
確かなのは、この島における識字率はほぼ100%。何故なら、勿論教育の現場をこの目で見たこともあるのだけれど、昨日今日と出歩いて島を見学した際、店の看板やらが普通に文字看板であったことから伺える。識字率が低いならそんなことは出来ない。そこがどのような店で、何を売っているのかが分からないから。ちなみにそれらは、見たこともない記号で表されていた。多分、それがこの国における独自の言語なのだろうけれど。
「…………?」
駄目だ分からない。何がかというと、英語を教えている理由が。そんなもの教えたところで使う機会なんてないだろうに、何故子供に教育しているのだろう? それも異世界の言葉だということは黙って。異世界という事実を知らないのなら、それはどこか別国の言語だとして認識してしまうのでは?
うん。
うん、分からん。
しかしなんというか、この男に問いただすのも怠くなってきた。ここはいっそリリアだったりホルツだったりに詰め寄るか。
「分かりました、ありがとうございます。では私はこれで」
「なっ!?」
「おやぁ? 筆下ろしして欲しいのですかぁ?」
「そんなんじゃない! 服を元に戻せ!」
アハトは黒焦げになった軍服を指さして訴える。
「戻し方なんて分かりません」
「はぁ!?」
「いいですかぁ? 一度壊れたものは二度と元に戻らないのですよ? 良い教訓になりましたねぇ」
「てめぇ……! 知ったかぶりはいい加減にしろ!」
「ほほう?」
明らかな怒りを纏うアハト。
うんうんそれもいいよ、屈服させる手っ取り早い方法は快楽責めだけじゃなく、肉体の損傷なのだから。まぁ、鬱憤が溜まっているのももちろんあるのだけれど。取り合えず指先に魔力とやらを集中させる。
「……ッ!」
覇気にでも気付いたのか、アハトは身構え……距離を取る。
ふざけんじゃねぇよオイ! 誰が逃げていいっつったおいオラァ!
「ここで何をしている貴様! いただきますが出来んだろうが!」
割って入る鋭い声。聞こえてきた後方を確認すると、小走りに駆け寄ってくるメガネ、もといシルヴィアの姿が。
いただきますって……みんな揃ってから食事するの? どれだけ几帳面というか。
「…………本当に何をしているカヴェナンター曹長。貴様まさか──」
シルヴィアの足が止まり、その顔は赤みを増し、肩はプルプル震えていく。視線の先には半裸の男。
あぁ、傍からこの状況を見れば……私を襲おうとしている軍人の姿に見えるのか?
「いえ! 私は何も!」
「本当か? 我が隊からわいせつ罪で逮捕者が出たとあらば王国軍人の恥さらし処では済まされんぞ。しかも相手が疑いはあれど区長の娘、一族全員皆殺しされても文句は言えん」
わーおおっかない。
「確認するぞトーカ。貴様は何もされていないのだな?」
「あ、はい」
「誓ってか?」
「はい」
心配する声音で聞かれてしまった。なんだ、底では結構優しい人なのだろうか。
「ではカヴェナンター曹長……貴様は何もしていないのだなッ!?」
「は!」
「誓ってかッ!?」
「は!」
わーおおっかない。
「…………では行くぞ。子供たちが待っている」
「あ、はい」
アハトは置き去りに、私はメガネに手を引かれ、浜辺をゆっくり進んでいく。
うん? これはこれでチャンスなのでは?
「あの、メガ……ええと、センチネル中尉」
「何だ?」
「英語を教えるのは何のためでしたっけ?」
どうだ!?
「貴様、本当は襲われたのではないか? 回路が焼き切れでもしたのか?」
ダメか!?
「単純だろうが。ここは文化を保存する為に存在する区画の一つだぞ」
お?
「異世界人は心底嫌いだがな。だが、奴らの知識や価値観は後世に伝えねばならぬ資産でもある」
うん。
うん?
「社会主義という概念は気に入っている。誰もが幸せに、平和に暮らせる最果ての理想。貴様もそうだろう、貧富の差が無いのだぞ? まぁ、綺麗事だということも分かっているがな」
「…………」
うーん? 文化? 保存? ちょっと待って、初めて聞いたのだけれど。
いやそれよりも、ここは社会主義国家なのだっけ? あまり良いイメージがないのだけれど。
ええと、ここはプトラオム王国の領地で、王国なのだから当然国王がいて、国王というのはつまり神に等しいわけで、それが統治しているのだから、君主主義な筈なのでは?
まさかこのメガネ、自由惑〇同盟の一員か?
「知らないわけ無いだろうが、ただ文化を保存しているだけではない。過去の大戦を終結させたベリアル・マキーナ、あれを解析しうる科学者を育成する機関でもある」
「…………」
あぁそうか、考え方によっては社会主義だと受け取ることも出来なくはない……のか? 王とはいえ人間、それが戒律やら何やらを決定しているのだから、そこには人情というか倫理の尺度を人においてしまうわけで。何が言いたいかというと、時と場合によって正しいことが変更され得るということで。というか日本みたいなわけで。
「…………ん? 疑いが晴れていない貴様に話してはいけないことだった。まあいいだろう、ここにあるのは動きもしないガラクタだからな。早く行くぞ、スープが冷めてしまう」
「あ、はい」
まぁ、いいか。
この人も意外と優しいみたいだし。この島は平和なのだし。取り合えず、午後の授業に保健体育があるかどうかを確認しておこう。
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