28 / 49
CHAPTER.4 旧態依然な灰緑(キュウタイイゼンナハイミドリ)【天体衝突3ヶ月前(冬)】
§ 4ー4 12月19日 暗がりの部屋
しおりを挟む--神奈川県横浜・某アパート一室--
暗い部屋。自分の部屋がこんなにも暗いと感じるのは、世の中のせいだろうか? いや、高校時代の野球部のコーチに、最後の地方大会の決勝で自分が9回のチャンスに打てずに負けた時に言われた言葉を思い出す。
「結果を受け止めるばい! 誰のせいにもするんじゃなか! 自分のことは自分自身に責任があるたい。今後の人生に、今日があって良かったと思える生き方をすればよかたい!」
そう。だから、この部屋の暗さは自分自身にきっとあるはずだ。そんなことは初めから分かっていた。だけど……
昨晩、母からの着信に出なかった。留守番電話には『元気しとるか? 無理せんでええんだぞ? 胸を張って帰ってこい」と残されていた。帰るにしても、胸を張ることは出来ないよ。腰を落として座ったベッドで、頭を抱えて俯く。
暗がりに僅かに灯るTVの明かり。【緊急事態宣言】のテロップと、市民と警察官が取っ組み合っている映像が流れている。SNSでも、感情剥き出しの画像や動画が溢れていた。飛び降りや首吊りなどのセンセーショナルなものも、今では特に珍しくない。
喫茶ル・シャ・ブランを辞めて1ヶ月。諦め悪く就職活動を続けてみたが『それどころではない』と全く取り合ってもらえなかった。それが十数社と続くと、さすがに心が折れてしまった。
大学は卒論も提出し卒業することには問題はないが、パンドラによる被害を考えると、そんなものに意味があるのかと疑念を抱いてしまう。
彩と最後に会ったのはル・シャ・ブランを辞めた次の日。自分が情けなくて、格好悪くて、それでも意地を張って「就職が決まるまでは忙しくなるから会えない」と強がった。メッセージでのやりとりも簡素にすませるように意識した。そうしないと、醜い思いの欠片が文体に現れてしまうから。
やり場のない、どうしようもない、どう考えても行動しても上手くいかない現状に、自分の弱さがふいに表現していることに気づき自分自身に幻滅する。目をつぶり、深い溜息をするのは何度目だろう。
TVに映し出された黒き魔女パンドラ。
「お前は何なんだよ……。どうして地球に近づく……」
返ってくるはずもない問いかけ。部屋の片隅に置いてある埃を被ったグローブが目につく。颯太とのキャッチボールをした思い出が蘇る。
明るい日差しの元、楽しむためだけのボールと言葉のキャッチボール。今より純粋だった彩への恋心。遠い昔に感じたが確かにあったそのリアルが、雲間から差し込む木漏れ日のように心が温もる。
ポタッ……ポタッ……
顔の真下のカーペットに丸い染みができた。なんだ? と疑問の後に自分が涙を流していたことに驚く。そして、気づいてしまった。
それが、真っ直ぐで、自由で、自分らしく過ごした眩しい季節への卒業の涙であると。
0
あなたにおすすめの小説
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる