【奨励賞・受賞】彼氏がイケメンなのは絶対ヒミツ

第99話 念のための呼び出し

黒く焦げた瓦礫の山と化した扇の別荘はまだ煙も上がっている状態で、周囲には消防車にパトカー、救急車やヘリまで出動。
周囲には建物がない海沿いの静かな場所にもかかわらず、かなりの数の野次馬が報道画面に映り込んでいる。

「報道陣というのはさまざまな場所に住む現地スタッフや特派員を抱えているし、最近じゃ個人のSNSなんかでも情報を収集してるから駆けつけるのが早いのよ。報道陣だけじゃなく、野次馬もね」

影薄先生は呆れた様子でタブレットの電源を落とすと、
「念のためにあなたたちを学校に呼び出しておいてよかったわ」
安堵の息を吐いた。

「…お前…、まさかこうなることを知ってて…！」

影薄先生に詰め寄ろうとした柚吏の前に割って入り、腕を力強く掴んで引き留めたのは“葉擦れの術”を応用したマスクを着用した皇帝。

そして、
「おやめなさい。影ちゃんに詰め寄ったりなんかしたら、シルバーネックレスを着けている意味がないじゃない。一瞬で自我の柚吏だとバレるわよ」
耳にキスしているんじゃないかと思うほど唇を寄せて柚吏に忠告した。

そうしないと地獄耳すぎる影薄先生に聞かれるかもしれないからなんだろうけど、これはさすがに嫉妬してしまう…。

皇帝はマスクを外しながら
「あら嫌だ、アタクシったらマスクを着けたままだったわ」
わざとらしく言うと、
「馬戸柚吏の手は本当に今日もしなやかだこと。思わず握り締めてしまったわ」
高笑い。

「さてさて、皆さんが影ちゃんからの罰として土日も返上で掃除に勤しんでいると聞いて、ほほほ、差し入れを持ってきましたのよ」

サラリと話を逸らした皇帝はにんやり笑うと、きのう紗里にプレゼントしたのと同じ人気店のドーナツ箱を誰かの机の上へ置いた。