【奨励賞・受賞】彼氏がイケメンなのは絶対ヒミツ

竹柏凪紗

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第34話 楽しい時間

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扇は離れにあるキッチンから調理器具を取り出すと、
「末明ちゃんは何が食べたい?」
楽しそうに聞く。

「私は…、なんだろ?肉じゃが…、とか?」
答えた瞬間、扇が固まった。

「…末明ちゃんも味染み込ませる系とか、一体いつまで居座る気?」
「…あ、ごめん。そういう意味じゃなかったんだけど…」

「別にいいじゃん。どうせ扇もヒマだろ?」
「柚吏に言われたくない」

「あ、そういや今日って、河川敷で花火ある日じゃなかった?」
そう言って、ハッとする。

「そういえば今日、紗里と約束してた…」

うわぁ…、どうしよう。
帰らなきゃだ。
せっかく2人がこんなふうに誘ってくれたのに申し訳ないな。

後ろ髪を引かれる思いで、
「ごめん、私…」
帰ろうとした末明を扇が引き止めた。

「だったらさ、紗里ちゃんも誘って花火もいっしょに行くとか、どう?」

「え…?でも紗里は柚吏の自我が封じ込められてないことも、扇くんが自我を抑え込んで生活してるってことも知らないんだよ?」
「うん。それがバレるのは困るから、もちろん俺らは自我を封じ込めた状態を装って行くことにはなるんだけど」

「あ~、なるほど。それは面白そうだな」
柚吏が同意して、
「だったら決まり!食事の支度を済ませて、それから花火へ行こう!そうすれば帰ってきた頃には、おでんと肉じゃがにも味、沁みてるでしょ?」
「うん、そうかも?」
なんて返しながら、ターゲットたちとこんなにも親しくなっていいのかと不安になってくる。

紗里に電話をかけながらも、そんな不安は広がっていくばかり。

これって、普通に友だちじゃん?
普通の高校生たちが過ごしている楽しい時間。

こんな時間を共有してて、いざ何かあったとき、柚吏の自我を封じ込めることってできるんだろうか?

不安なのに
「末明ちゃんも手伝って」
扇に声をかけられ、
「あ、待って。紗里、いまつながった」
この時間を楽しもうとしている自分にびっくりした。
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