【奨励賞・受賞】彼氏がイケメンなのは絶対ヒミツ

竹柏凪紗

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第61話 封じ込められた柚吏

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目を覚ましたのは、完全に普段の柚吏。

「あ…すみません。僕…」

ゆっくりと体を起こした柚吏は、やわらかい物言いと消極的で控えめな態度で謝る。
そんな柚吏に自我の柚吏が感じられる部分はどこにもない。

…でも、呪術にっかったフリも上手かったよね。

今回も普段の柚吏を演じているだけかもよ?
そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、虚しくなった。

「あ、末明さんのおじぃ様。自我の柚吏が変なことを言ってご迷惑をおかけしてしまってすみません」
普段の柚吏も自我の柚吏と同じく、封じ込められている間も意識はあるようだ。

おじぃちゃんにそんなふうに謝って、
「末明さん、早く教室に戻りましょう。警察が来ちゃいます」
促してくる。

「末明、なにをボーっとしとる?さっさと教室へ行かんか!」

おじぃちゃんから怒鳴るように急かされ、
「行きましょう」
柚吏があらためて急かしてきた。

でも、思うように気持ちが切り替えられない。

急いでいても勝手に手をつなぐことなんてしない柚吏…。

「末明、いい加減にせぇ!こいつとはまだ、出会って数日じゃろうが。そんな短期間で芽生えたような感情、すぐにやわらぐ。お前はこいつにほだされただけじゃ。こいつの目的は明白。自分が封じ込められないように末明を惑わそうとしただけじゃ。騙されるな」

「…そうだよね…」

そう返事をしてみても、柚吏のあとをついて無理やり歩きはじめても…。
やっぱり、ダメ。
気持ちはもちろん、表面的な気分すら切り替えられない。

こんなとき、自分自身にも呪術をかけることができたらどんなにラクだろう…。

本当に柚吏は、封じ込められないように私を惑わそうとしただけ?

そりゃあ、おじぃちゃんが言うように柚吏には許婚いいなづけがいる。
それなのに私の誤解を解こうとしたり、来年の花火に行こうと誘ったりするのはおかしいこと。
頭のどこかではそういう気持ちも確かにあるのだけれど…。
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