もう恋なんてしない

第47話 シイタケの約束（一部修正）

「そ、そんなわけないだろう。あ、あれは相師に譲ってやっただけだ。あいつはシイタケが大好きだからな」

普段と変わらない無表情な飛鷹のなかに焦りと恥ずかしさを見つけた沙那はそっと気づかないフリ。

「そうだったんですね。確かに上原さん、シイタケ好きそうな顔してますもんね？」

話を合わせようとするも
「シイタケが好きそうな顔ってどんなだ？」
突っ込まれて焦る。

「…えっと…。な、なんでしょうね？なんだろう…。洗練された感じというか…」
もう、適当に答えるしかない。

「そうか。シイタケ好きのイメージは洗練されている感じなのか？」

「あ、いや、まぁそこはどうでもいいんですけど。もし苦手なら食べただけでこれまでの常識を覆すようなシイタケがあるので、いっしょに食べに行かないかと思いまして」

「…ん？山へでも行くつもりなのか？」
「まさか！虫が苦手なので、山へ行くのは私のほうが無理です」

「ほう、虫が苦手？」
「はい。昔から。…なので、おいしいシイタケを食べることができるのは工場ですね」

「なるほど、安心しろ。俺も無視はあまり好きではない」
「…安心？」

「それよりもそのシイタケというのは飲食店ではなく、工場で食べるのか？」

「はい。工場というか、シイタケファームっていう会社なんですけど、おがくずと栄養を混ぜた人工の菌床でシイタケを作る方法“菌床栽培きんしょうさいばい”をやっているところがあるんです。それはもう肉厚で、独特の嫌なニオイや風味もないからいいかな？と」

「なるほど」
平然と頷きながら唯一の嫌いな食べ物を克服するチャンスがきたことが少し嬉しい飛鷹。

「興味はあるから今週末にでも案内してもらおうか。断じてシイタケが嫌いなわけではないがな」

「はい。もちろんです。じゃあ明日にでも予約を入れておきますね」
沙那は飛鷹との約束にウキウキしながらそう言った。

まさかこのシイタケファームがのちにホストたちの行方不明にかかわってくるなど考えもせず…