もう恋なんてしない

第54話 すべては自主退社させるための作戦

愛おしそうに沙那を見つめた由衣が耳にキスをしようとしたとき。

「なにやってんの？」
相師が瞬時に由衣の腕を掴んで笑顔で聞いた。

「…え？」

腕を掴まれたことと驚きで軽くフラついた由衣を軽く睨みながら相師は続ける。

「大好きが執着とか憎しみに変わるってことはよくあるけど、そういうのうまくはいかないと思うよ。しかも香村さんの近くにいる誰かを悪者に仕立て上げて孤立させる手口、これまでといっしょじゃん？会社でそうことを繰り返されると困るんだよね」

沙那は耳を疑った。

どういうこと？
驚いて相師のほうを見ると、ふと目が合って戸惑う。

もっと驚いた顔をしたのは由衣。

「それから香村さんに告白して受け入れてもらえないからって会社で犯そうとしたりしたらダメでしょ？」

耳元で囁いた相師を
「…なっ…！」
鬼の形相で睨む。

そして
「飛鷹、あんた、昨日あのまま帰れば誰にも言わないって言ったじゃん！」
苛立ちと馬鹿にされたような感覚に陥って我慢できなくなった由衣が怒鳴った。

まわりにいた女子たちの視線が一気に集中し、会社のエントランスにいたことを自覚。
青ざめたまま由衣は外へと飛び出してしまった。

一瞬は静まり返ったエントランスがうるさいくらいざわつきはじめたとき
「さぁ、みんな仕事してね～！」
相師が笑顔で言って皆を散らす。

「お前…これ、いつ考えたの？」
3人だけになったエントランスで呆れたように聞いたのは飛鷹。

「…え？」
「とぼけるな。これ、川崎由衣を自主退社させるための作戦だろ？」